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第十二章 斯くして魔王は魔法にかかる

ふー。

アルマは侍女達の質問攻めからやっと解き放たれて枕に溜息を押し付けた。

ドレスの皺は気にしなかった。

何だか心にぽっかりと穴が空いたような寂寥感が胸を締め付ける。


「…彩に会いたいな。」


まだ半日と離れていないのに、既に帰りたくなっている自分に驚く。

会おうと思えばすぐに会えたのに、今は少しだけ遠くにいる。

このところ毎日会っていたので、その不自由さに少しは寂しさはあると思っていたが…ここまでとは。


「今頃、テストを頑張ってるんだろうなあ。あんまり、焦っている様子は想像できないけどね。

少しはアイツも寂しいとか思うかしら。」


今朝の時点でアルマの魅了チャームが消えて、「アルマがいた」という痕跡すら無くなっているだろう。

彩にはキチンと話をしてきた方が良かっただろうか?もしかして、今頃混乱しているかもしれない。

彩ならばこの事情くらいはすぐに把握するはずである。

アルマは自分の手落ちに心配が募ってきたが『きっと大丈夫』と自分を落ち着かせる。

しかし、まずはこちらでの戦いが先である。なんとしても母親の、引いては父親の許可を得なくてはならない。


ふん!


淑女にあるまじく鼻息を荒くする。勝ち取らねば!乙女の勝利を!



朝からどうもおかしい。

彩は由乃や櫻子に『アルマはどうしたのか?』と聞いたが、『それは誰?』とでもいうような返事が返ってくる。

彩は必要以上には彼女達に質問はしなかった。

二人の様子を見るに記憶から抜け落ちているようだ。

どうみても魔術の類に違いなかった。

自分以外に彼女らの事を覚えていないというヘンテコな世界に迷い込んだ錯覚にすら思える。

それでもテストライアスロン最終日は情け容赦なく過ぎていく。テストには集中するが、ふとイライラしている自分に気付く。

全ての教科のテストを終えて、こうして心躍る図書室で夏期講習最後の読書を楽しんでいる間でさえ、視線は文字を追わず図書室の入り口を行ったり来たりする。理由は分かっている。

何故、アルマは自分に何も言わずにいなくなってしまったのだろう?

『下僕にする』だとか、『霊魔界に連れて行く』だとか言っていた割にはあっさりと消えていなくなってしまう。

ポケットにしまってあるお気に入りのキャンディー棒はアルマ用の物を用意してしまっている自分に何だか腹が立ってきた。

居たら、居たで煩いが、居なければ居ないで寂しく感じてしまう。


「なんで何も言わないでいなくなるんだ?」


彩はモヤモヤする頭を本の中へ没頭させようとするがなかなか上手く行かず、パタンと本を閉じて目を閉じた。


(ダメだ…イライラする。)



午後のお茶の時間にはアルマの方からドロレスへ伺いを立てた。

離の四阿あずまやを指定したので、近しく話が出来るに違いない。

少し早めにお茶の用意をさせて、一人でドロレスを待つ。

彩は今頃テストが終わって、図書室のリクライニングチェアで本を読んでいるのだろうか?

少しは自分の事を考えてくれているだろうか?…少しは寂しがってくれたりしているだろうか?


「あらあら、いつからうちの娘はそんな顔で殿方の事を想うようになったのかしら?」

「ぐはっ。」


あらぬ音を立ててアルマは入り口を見るとドロレスが悠然と四阿あずまやに入ってくるところであった。

図星を付かれて、顔を真っ赤にしてしまう。


「お父様も喜んでいらっしゃいましたよ。いきなり二十九位階とは、三百人抜きは史上初なのではないかしら?

…で、どんな方なの?

貴女の心を掴んで離さないのは?さあ、お母様にお話して見なさい。

私にとっても息子になるのだから…人間界の仕来りはよく分からないから勉強しなくてはね。」

「お母様も気が早い…まだそういうのは。彩は、鈴宮 彩さんは人間の高校生、つまり学生で本が大好きなのよ。それでね、とっても綺麗な目をしているの…。」


アルマは滔々と彩の話をドロレスに話して聞かせた。

契約の詳細については、細かくなり過ぎないように、やんわりとぼやかして躱す。


「そう…まだ人間界でやりたい事が。確かに貴女の言うようにこちらの仕来りだからといって連れ去るような真似は感心しませんね。

まして、貴女と契約してもキチンと意思を持っているというほどの方…見る目があったようですね、アルマ。」


隣で静かに話を聞いていたドロレスは突然アルマの頭を撫でた。


「子供だ、子供だと思っていてもすぐに大きくなってしまうのですね。」


ドロレスは僅かに涙ぐんでいるようにも見えた。


「それで貴女はどうしたいのですか?」

「私は彼の近くで、彼が卒業するまでの間、そして…やらなくてはならない事をし終えたと思うまで、一緒に過ごして行きたいと思います。勿論、出来るだけ早く一度はこちらへ二人で戻ってご挨拶をさせていただくつもりです。」

「ふぅむ。お父様はまた反対なさるわね。」

「でも、離れて暮らすなんて堪えられません。今もリンクは感じますし、彩が生きていると言う事は分かります。

でも、ちゃんと笑っていられてるのかな?とか、お腹空いてないかな?とか…いろいろ気になってしまって…。」

「今のアルマは色んな意味で、お父様のご不況は買いそうですが、お話はしてみましょう…でもアルマ、契約したとは言え正式な婚儀も済んでいないのですから節度ある行動を取るように。」

「はい。勿論ですわ、お母様。」


どこがどう不味いのかアルマには分からなかったが、何となく彩の事を父親の前で褒め過ぎないようにしようと心に決めた。

最後の難関たるクール大公の了承は残るが先ずはドロレスは味方をしてくれるようだ。

この母に任せておけば、まぁ大丈夫だと思う。

事前の調べによれば夏休みはあと三週間程続くので、その間に正式な手続きを済ませれば大丈夫なはずである。

そう言えば今日で夏期講習が終わり、明日で彩は帰ってしまう。そこからしばらくは会えないのだ。

こっそりと会いに行くくらいは出来るはずだ。それくらい、契約しているのだから、許されるはずだと自分に言い聞かせる。

今から何を着ていこうか楽しみになってしまう。


今日も晴天。

昨日でテストライアスロンを無事に終え、学年首位の座を守り抜いた。櫻子も二位をキープしている。

荷物をまとめ終えた彩は二年生のバスに荷物を載せると出発までの間、少し寮の周りを散歩してみた。


(何となく、だ。別に誰かを探している訳で断じてない。)


彩は自分自身に言い訳をしながら歩みを進める。

今朝もアルマの姿は見えなかった。最終日なのだから、顔くらい見せると思ったのだが薄情な奴だ。


「あら、私に会えなかったのがそんなに寂しかったの?」


聞きたかった声に振り返ると淡い翠のドレスに身を包んだ大人のアルマがそこにいた。

彩は駆け寄ろうとして、少しやり返してやろうと思い留まる。


「初めましてかな?僕は前にあなたに何処かでお会いしましたか?」

「彩、何言ってるの…私よ。アルマだよ…忘れちゃったの?魅了チャームは貴方には効かないはず…。」

「ごめんない。確かに僕は鈴宮彩と言いますが、貴女の事は記憶にはありません。」


世界が凍る。彩りの鮮やかな人間界の世界が一瞬のうちに色を失い、モノクロームに歪む。

彩の一言でアルマの頭が真っ白になってしまう。

立ち竦むアルマは手で悲鳴を抑えるのに必死だった。膝が震える。

世界はこんなに残酷だっただろうか?

自分だけが勝手に好きで、こんなに想っていたのだろうか?

こんなに簡単に忘れられてしまうだなんて、確かに自分の事を忘れるように広範囲に魅了チャームを使ったのは事実だ。

でも、彩だけは例外にしていたはずだ。それに少し影響があったとしても二人の間にある特別な絆があれば大丈夫と信じていた。

また、身勝手に一人で彩の気持ちを書き変えてしまったのだろうか?

もし、そうだとしても自分の事をありのままで受け入れてくれた彩がいたのは事実だ。

こんな身勝手な自分を赦してくれた彩はいたのだ。

彩が思い出してくれるまで待とう。

自分の責任でこうなったのら、幾らでも思い出してくれるまで待とう。そう心に誓った。

思い出してくれなくても、また好きになってもらうまで、待とう。

アルマは頭の中で改めて誓う。

でも、頭では分かっていても悲しみは、心は止まらなかった。

大粒の涙がぽろぽろ…ぼろぼろと零れ落ちてくる。


「え!あ!ちょ、アルマ?…泣くことないだろ。」

「。・゜・(ノ∀`)・゜・。」

「ちゃんと、覚えてるよ。みんな忘れちゃったみたいだけど。僕はちゃんと大切なアルマの事は忘れてないよ。おかえり、アルマ。」

「彩のバカ〜!」


彩の演技に気づいたアルマが胸に飛び込んで来る。


「ホントに忘れられちゃったかと思ったんだから〜、彩の意地悪ぅ〜。(。ŏ﹏ŏ)」

「何も泣くことはないだろ?そっちだって何も言わずにいなくなったんだから。」


彩はアルマをきつく抱きしめた。

何かの華の香りがした。綺麗な黄色の花を思い出したが、何故か名前は思い出せなかった。

スンスンと泣くアルマの頭をポンポンと撫でて宥める。


「ごめんね。後で…そう言えば伝えてなかったなと思い出したの。だって、私の中には彩とのリンクがあるから安心しちゃって。」

「僕は人間だからそういうのは分からないんだけど…ん、そう言えばアルマのことばかり考えていたけど?」

「そうなの?やっぱり寂しかった?

そう言えばさっき『ちゃんと忘れてない』って言ってた時に枕詞で何か言ってたよね?そこのとこ、もう一回。わりと重要なとこよ、そこ。」


彩は勢い余って言ってしまった一言を思い出しながら、言質を与えてしまった事に天を仰ぐ。


「えーっと、妹のように大切なアルマ…娘のように大切なアルマ?」

「何か、微妙にランクが下がってる気がするぅ〜。」


泣き止むまでは思った彩であったが、既に泣き止んでいると思われるアルマは頑として離れなかった。


「そのうち、嘘泣きって認定するよ。」

「うー、仕方ないわね。」


アルマはすっかり泣き止んだ顔で、彩を睨む。


「アルマはこれから、どうするの?ここら辺が家ってわけじゃないんでしょ?」

「それについてはまぁ色々あるんだけど…しばらくはお別れかなぁ。こっちにも事情というか、都合みたいのがあってね。ごめんね、約束は出来ないけど、そのうち会えるはずよ。

彩がどうしても会いたいって強く願ったらね。」

「何だか、夏のお化けみたいだな。」

「失礼ね、綺麗な足はついてるわよ。」


アルマは意味深にスカートを少し上に捲り上げる。

真っ白な脹脛が顕になる。

膝が見えるまでゆっくりとすり上げて、彩の視線を釘付けにしたことに満足したアルマはストンとスカートを落とす。


「彩のエッチ!」

「な!不可抗力というか、そういうつもりじゃないってば。」

「ほうほう、ではどういうつもりだったのか聞いて見ようかな?(^o^)」


二人はひとしきり笑い合うと、バスの時間を気にしながら散歩を楽しんだ。


「えー、これも難しいかなぁ?

ぢゃー、彩の部屋の窓に私宛の手紙をおいてくれれば、梟とか鴉が運んでくれるようにするから、それなら彩はなんにもしなくても大丈夫でしょ?」


簡単な術式だからとアルマが教え始めた手紙の送り方は彩にとってはチンプンカンプンで、何処に届くか全く分からない方法に思えた。

魔術式を書いて、その上に手紙を置くと移動するというのだ。アストラル界がどうの、次元の壁を通り抜けるなどと原理を聞いたがさっぱり分からなかった。

彩としては、例えばアルマの親御さん宛にアルマ当ての手紙が届けてしまう光景を想像して身震いをする。

あり得ない。

変な内容を書く気はないが、他の人に読まれるとなると気恥ずかしくなる。

最終的にはアルマが手配する鳥宅急便で手を打つことになったというわけである。

人間界にはスマホという便利な近代魔術が存在するが、その辺は黙っておく。何だか色んな意味で練習台にさせられそうな気がする。


「ちゃんと、毎日お手紙してよね〜。」

「気が向いたらね。」


別れ際に木陰から手を振るアルマを何度も振り返りながら彩は帰途に着いた。

彩の短い夏が終わった。

可愛い小悪魔ならぬ吸血鬼姫に契約させられてしまい、そして別れて終わってしまった。

しばらくは手紙のやり取りがあるのかもしれないが、ひと夏の思い出って事で終わってしまうのだろうとどこかで諦めにも似た感情を押し殺した。

彩は寂寥感を胸にバスに揺られるに任せた。

もう逢えないかもしれないアルマを思い出しながら。



【終章という名の序章】

9月になったといってもまだまだ残暑が居座っていて、とても『秋!』とは言えない天候が続いている。

真新しい制服を着こなした女生徒を前に、それでも理事長の鷹司宗太郎は背筋に冷たいものを感じていた。

まるで真冬の冷気が背中を舐めているかのようだ。

余裕のある教育者然とした笑顔を貼りつけているが、会話は季節の話ばかりで中身などないものばかりだった。

自分でも何を話しているのか、分からない。

迎えに来る生徒会副会長を待つ間の時間潰しだ。

目の前の少女は年相応のはにかむような笑みを溢しつつ、冷徹な瞳が全く笑っていない事を自分で気がついているだろうか?

生命の危険があると自覚した方が今感じている感覚を理解しやすいかもしれない。

少女の目の前で生物としての存在価値を値踏みされているような気分だ。

まるで神が気まぐれに恐竜を絶滅させたように、少女も自分はおろか人類に価値がないと判断したら、瞬き一つで人間種全体を消し去ってしまうかもしれない。

そんな妄想に取り憑かれた理事長は革張りの応接ソファで身じろぎしつつ、上辺の会話を続けてきた。


コンコン。


教会の福音の鐘のごとく、理事長の耳に救済の音色が届く。

分からないように安堵の溜息を漏らしつつ、中へ入るよう伝えた。

愛らしい、それこそ目に入れても痛くない愛娘にして、生徒会副会長の鷹司櫻子が完璧な一礼と共に入室して来る。


「副会長。こちらが今日から我が校で留学生として学ぶ事になったアルマディータ=クールさんだ。」


座ったままの理事長の紹介に、アルマはスッと立ち上がる。

左右の手で制服のプリーツスカートの襞をつまみ、中世欧州の貴族令嬢のように少し腰を落として会釈する。


「初めまして、アルマディータです。長いのでアルマとお呼び下さい。」


堪能な日本語のアクセントとその仕草に櫻子はどこか憶えがあるように思えたが、気のせいだろうとにこやかに挨拶を返す。


「初めまして、鷹司櫻子と申します。分からない事があれば何でも相談してくださいね。」


弓道の嗜みのせいか、立ち居振る舞いには凛とした気品を感じさせる。


「では早速、教室へご案内して。」


宗太郎も立ち上がると応対を早く終わらせるかのように櫻子を促す。

そんな部屋を出る二人の姿を見送りながら、声をかけた。


「あぁ、鷹司副会長。」


公私混同しない理事長は学校ではこういう呼び名で櫻子を呼んでいた。


「はい、何でしょう。理事長。」


櫻子も同じく学校では父親を『理事長』と呼んでいた。


「彼女は宮様からのご紹介だ…変な虫がつかないようにくれぐれも気をつけて欲しいとの事だ。」


あえて平静な声を装って伝える。

詳しい事は語らない。伝えられてもいないので説明のしようがないが、気をつけるに越したことはない。

憶測で語らないだけの分別を宗太郎は持っていた。


「はい、分かりました。失礼のないように致します。」


櫻子も細かな事は聞かずに会釈して、部屋を出た。

後ろ手にドアを閉めて、待っていたアルマを振り返る。

綺麗な人…それが櫻子の感想だった。

どことなく人間離れしているようにも思える。それでいて何処かであった事があるような気もする。


「こちらです。」

「同い年ですし、もっと気安くお話ししてくださって良いのですよ。櫻子さん。」


花が咲くように微笑むアルマに、一瞬見とれながら櫻子も微笑み返す。


「ありがとう。アルマさん…何処かでお会いしたことがあるかしら?初めてお会いした気がしませんね♪」


私もそこそこだと思うんだけどな。櫻子はにっこりと微笑むアルマの胸元に目を落として、少しだけ羨む。

自分だって成長期なのだと言い聞かせて、今後の発展に期待する事にする。

弓道で体幹を鍛えている櫻子の立ち居振る舞いは育ちの良さと相まって清廉さが際立つ。

勿論、男子勢には人気がある方だと思う。

弓道の県大会出場時の新聞の切り抜きをブロマイドのようにしている男子もいるくらいである。

二年のこの時期の編入は珍しい。特に金髪蒼眼で可憐なアルマは話題の的になる事だろう。

男子が荒れないと良いなあ、と櫻子は副会長らしく心配をしていると教室の前に着く。


軽くドアをノックして教室に入る。

ホームルームが始まっていて担任の雛菊先生がニコニコしながらこちらに小さく手を振っている。

因みに苗字が雛で、名が菊である。

すぐに大きな電子黒板の前でタブレットを操作してアルマの顔と名前が電子黒板に写し出される。

担任の雛先生は身長百六十センチそこそこと小柄な女性だがフルコンタクト空手の猛者であり、舐めた男子学生(一部、同僚教諭もいるらしいが)を何人か血祭りにあっている。

密やかに「鬼菊」と陰口を言われているがどこまでが真実なのかは誰も口を割らないので闇の中である。

女子生との間では頼りになって可愛いマスコット的な存在で「雛ちゃん」と呼ばれている。

因みに担当は体育ではなく、歴史。

空手は趣味らしい。その成果か華の独身生活を継続謳歌中(本人談)である。


「では、今日からクラスに編入してくるクールさんです。日本語は堪能らしいから安心してね。では、自己紹介を。」


雛先生に促されて壇上にアルマが上がる。

男子共の溜息より、女子の溜息の方が多いように思うのは気のせいだろうか?

櫻子としては一番後ろ、窓際から二番目の男子…多分、この夏一番近しくなった鈴宮彩が空席を通り越して校庭をぼんやり眺めているのを目の端に留めた。

自分があの席に座っていたら彩の視界の中にいられるのだろうか?などと考えてしまう。

櫻子の中では夏期講習合宿を通じて印象が珍しく大きく変わった男子である。

前から気になってはいたのだが、この夏は勇気を出して少しだけ話をすることができた。

心の中の乙女な櫻子は人知れずガッツポーズ。

『頑張った、私!』と褒める。

アルマの自己紹介を聞き流してしまうほど彩に見とれている自分にはっとしながら彩の隣の席に着く。

顔が赤くなっていないか少しドキドキする。


「話せば長くなりますので色々割愛しますが、私…鈴宮彩くんの遠い親戚になりますので、彩・・・鈴宮くんと同様に宜しくお願いしますね。」


制服のプリーツスカートの襞をちょこんと持ち上げ挨拶をする。

彩が回りからの殺気を感じて黒板の方を向きアルマを見て目を丸くするのと、全体の視線が集まるのはほぼ同時であった。


『なぁにぃ〜!』


意味は全く異なるのだがクラス全員の一致した叫びが渦巻く。

一方は「なんだと〜」という疑問の声。

もう一方は「何でここにいる!」の意味だったが奇妙な和音が教室も埋めていた。

櫻子としてもそんな事は聞かされていない。

やがて、雛先生に促されたアルマは何気ない様子で一番後ろの窓際、そして彩の隣のその席に腰を下ろした。

艶やかな笑顔で一言。


「お久しぶりです、彩。よろしくお願いしますわね。」


そして、口の動きだけで何かを付け加えた。

その最後の一言は口の動きだけだったが彩には何故だが分かってしまう。


『……しっかり働け!私の魔王!。』


目眩がして、天を仰ぐ。


鈴宮 彩。十七歳。

高校2年生…将来の職業、下僕(仮)。


(完)

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