第四話 遊ぶ手段
情報ギルドに登録してから一週間が経った。今日はバレずに遊ぶ方法を使って街で遊ぶ…正直言うと遊ぶどころではないだろうが、そのつもりだ。
この五年で遠見の魔法を応用した五感を飛ばす魔法や、気体を固めて刃のようにする魔法を作ったりと、たくさんの魔法を作ったので、俺に出来ないことはないのではと錯覚できるほどにいろいろな事が出来るようになった。この世界の錬金術の様に物質の形や強度を変えることもできる。
まずバレずに遊ぶ手段だが、それは人形を操って自分の代わりに町に行く、というものだ。町に行く人形は木の枝や土、石、森に棲んでいた狼の毛皮を組み合わせて作った成人男性型の物だ。ここから全速力で[飛行の魔法]で空を飛んで一週間ほどの所の[魔の森]という所の中部に隠してある。見た目は[姿替えの魔法]で誤魔化すことが出来、声は[発声の魔法]で何とかなる。肌を直接触れれば怪しまれるだろうが、そんな機会はそうそうないだろう。
魔法の名前がダサいって? ネーミングセンスがねぇんだよ察しろください。
今後はこの人形を使って魔の森の隣にある[迷宮国タグメト]に行こうと思う。[テレポート]があるから遠いところでも問題はない。
テレポートは予め作ってある目印へ転移する魔法で、目印はいまのところ自分の部屋、魔の森の奥らへん、人形の懐、にある。人形の懐というのはお腹の中ということだ。
目印の作り方については割愛するが、テレポートについて説明させてもらう。自分が思う場所へ転移するのだが転移先の座標が自分で見ているか、目印がないと分からないので、目印を使っている。しかし自分でもどうやってテレポートしているのか原理が分からないので、魔力効率が悪い。なのであまり頻繁に使うことが出来ない。現象の原理が分かっている方が魔法の魔術式の無駄を省けるので、魔力消費が少なくなるのだ。酸素と炭素を化合させつつ温度を上げる、という魔法と、単純に熱を上げずに化合だけやる魔法では、効率が少し違う。
それとこの前スカーフを買った理由だが、人の肌を幻覚とはいえ作るのが大変だったので、よく人に見られるであろう顔を隠す道具が欲しかったわけだ。幻覚を維持するのは魔術式の工夫で簡単にはなったが、町に行くたびに人の肌を再現するのが面倒だ。
ちなみに体毛は森にいた黒狼の毛皮を加工して作れたのだが、光の反射が再現できなかったので目に光がない。いわゆるレイプ目である。正直自分で作っていても怖かったので目を隠せる帽子が欲しい。が、帽子は高いので親にねだるのは申し訳ないので、人形を使って自腹で買おうと思う。とりあえず今は外套のフードをかぶって隠している。
服に関しては森に落ちていた死体から剥ぎ取って、浄化と消臭を魔法でして着ている。
この人形は俺のなけなしの知識の集大成なので、皮膚の下がハニカム構造になっていたり、体の内側に魔術式が刻まれていたりと、色々と工夫されている。土魔法と錬金術モドキで圧縮されているのでそこそこ丈夫だ。武器が仕込まれているので戦闘もばっちりこなせる、冒険者としてもやっていける。
そう、俺はこの人形を使っていち早く冒険者登録しようとしているのだ。真っ当な冒険者になるには成人…十二歳にならなければならない。あと七年も待つなんて冗談じゃない。それにここいらでいっちょバシッと戦果を上げれば俺本体が冒険者になった時に融通が利くんじゃないかと考えたわけだ。それに俺の暇もつぶれるので一石二鳥だ。
最近は妹と歌を歌いながら柔軟などをしてるが、ずっと反復作業するのは退屈で飽きる。戦闘の手引きに書かれていることをやろうとも思っていたのだが、足運びや体幹の鍛え方ぐらいしか(剣の素振りの仕方も載っていたが俺は剣を振るう気はない、せいぜい鉄棒だ)有用なのがなかったのですぐに一日分のトレーニングは終わってしまう。
途中魔の森の木の根元にテレポートの目印を一つ埋めながらも魔の森を抜けた。そのまま町の外壁沿いに走っていくと関所が見えてきた。魔の森は危険な魔物が多く人通りが少ないので、走りながら体を動かす練習ができた。人目があれば腕や首をぐるんぐるん回していれば怪しまれてしまうだろう。地味に地を走るのも練習になる。
その後もしばらく走っていくと、入口の上に「ようこそタクトへ」と書かれた関所に着いた。並んでいる人がいないので、すぐに自分の番になった。
おっと、フードをかぶってたら怪しまれるからな、今はとっとくか。
関所は外壁が部分的に内側に厚くなっている所の中にあり、壁の中に埋まるような形でカウンターと門番がいる。中には木の扉や予備らしき武具がある。門らしきものが見当たらないので周りを見てみると、天井に丸太の断面が横に一直線に並んでいるのが見えた。おそらくアレを降ろすことで門になるのだろう。
カウンターに向かっている門番は鎧は来ているものの、兜はつけておらず椅子を斜めにずらしだらしなく座っている。後ろの方にも一人門番がいるが、そちらは人類は全員筋トレをやっていて当然、とばかりの表情をしながら重そうな石を持ってスクワットをしている。カウンターに座っている人は三十代後半といった感じがするが、スクワットをしている方はまだ若そうで、二十代前半に見える。
そこでカウンターの傍にいる門番が、周りを見てばかりで一向に歩かない俺に話しかけてくる。
「ん、ギルドカードを」
ずいぶんと淡泊な言い方だ。
「どうも、実は俺は旅人をしているのですが旅の途中でギルドカードを無くしまして、通行料はいくらでしょうか」
と言いながら、俺は治らない傷がない右手首を見せる。
これは自分が犯罪を犯したことが無いという証明だ。犯罪を犯した者はここに横線を焼き刻まれる。回数と罪の重さによって数と大きさが変わる。
それとギルドカードがないというのはそれほど不自然な事ではないはずだ。無くしてしまう事もあるし、旅人ならなおさらだ。
「んー? ギルドカードねぇのか。それじゃあ500セクトかそれと同じぐらいの奴をだしてくれ。…あとこの書類にもいろいろと書いてくれ」
と言いながら門番は紙を渡してくる。因みにこの世界ではテクモナという木があり、その葉を加工すると紙のようになるのでそれが安価で多く出回っている。逆に羊皮紙がろくに存在していない。
500セクトか、少し高い気がするがまぁいいか。けど、今は森の魔獣売って金にするつもりだったから小金貨一枚しか持ってないんだよな。まぁ、お釣りが多すぎて変な感じするけど別にいいよな。
書類のほうは名前、出身地、この街に来た目的、を書く欄がある。
名前・ユヅキ
出身地・アカスト
目的・観光と買い物
「どうぞ」
書類と小金貨を同時に出す。
「ん? 小金貨か、すげぇな。………大丈夫そうだな。ギルドカード再発行はどこでするんだ?」
お釣りの大銀貨4枚を出しながら門番が聞いてくる。
「冒険者ギルドでするつもりです。場所はどこですか?」
「このまままっすぐ行って右手側だ。他に質問はないな? それじゃ」
あの門番手際が良かったな。質問が少なくて楽だったぜ。もっといっぱい質問してくるかと思ってた。有能ですな。…あれ? 門番だからいっぱい質問したほうがいいのか。
門番に聞いた通りに道を歩きながら俺はそんな他愛もないことを考えていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
俺は先ほどここを通った礼儀正しい青年を訝しんでいた。
ん~あの男は冒険者ギルドに報告したほうがいいな。…よし、書類まとめんのはめんどくせぇから後輩にやらせよう。
「おいお前、さっきの男、書類にまとめて冒険者ギルドんとこに報告してこい」
「え? …あぁはい。…あれ? 先ほどの礼儀正しい青年のことですか?」
と言って後輩は重そうな石を降ろす。こいつの行動はちょっと俺には理解できないが悪い奴ではないし俺の命令もよく聞く。仕事が押し付けやすい良い後輩だ。
「そうだよ、怪しさ満点だったからな。ここは俺が見とくから頼んだ」
「そうですか? 礼儀正しくて特に変なところはありませんでしたが…強いて言えば武器を持っていないって所ですかね」
「分かってんじゃねぇか」
彼の疑問にそう答えると、意味が分からないのか首をひねる後輩。
…こいつ、ちょっと頭足らねぇな。さすが、ここの門番にさせられるだけはある。
「いいか? ここは魔の森に向かうやつと帰ってくる奴しかいねぇ。そのおかげで人があまり通らなくて楽だが…つまり、あいつは武器を持たずに魔の森なんつぅ危険地帯を通ってきたわけだ。凄腕魔術師なら魔の森を抜けれるかも知れんが、魔術師なんてもんは大抵旅人なんて酔狂なマネはしねぇ。賃金が良い仕事があるからな。…それにギルドカードを持ってないってのも怪しいが、銀貨一枚の通行料を小金貨なんて大金で払ったんだ。こんなのどうぞ怪しんでくださいって言ってるようなもんだ」
俺は後輩に先ほどの青年の怪しい所を説明しながら、自分自身でも他に何か見るべきところが無いか探していた。
「でもそれじゃあなんですぐに問い詰めなかったんですか? 怪しいなら本人に聞けばいいでしょう」
「もし相手が一人で魔の森を抜けれるような凄腕魔術師、もしくは魔族だったらどうすんだ。お前と二人仲良く空へ旅立つか? さすがにそりゃねぇかも知れんが何かしらの面倒ごとは起こるだろう。それに最近は魔族が活発になってるって聞くし、こうゆう危ない案件は俺たちみたいな一介の門番じゃなくてギルドとか大きい所に片づけてもらった方がいいんだよ」
「……なるほど…わかりました。それでは書類を書いてきます」
はぁ…こんぐらいのことは自分で気づいてほしいんだがなぁ。まぁ最初は俺もこんなんだったし、長く勤めてりゃ成長するか。
「あっ、おいお前。別に俺はあいつを悪もんだって言ったわけじゃねぇからな。単純に[怪しい]って感じただけだから、身分を隠してるだけかもしれん。だから書類に悪い事ばっか書くなよ」
そこで俺は一つ見落としていたことがあったので、そこを後輩に伝えておく。
「…はい! わかりました」
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友達に泥人形うんぬんの所を話したら「やり方が奇抜すぎる」と言われました。