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第一話 大通りにて

本編のはじまりはじまり~




 この世界に生まれてきてからもう五年がたった。

俺は商会長の息子の次男としてシグニアという名を両親からもらい、両親はもちろん、一人のおばさんメイドと二人の兄弟にも囲まれて、幸せで有意義な生活を送っていた。

 ……しかしこれがとんでもなく退屈なのだ。

 本を読んで魔法をあらかた覚えても、家では危険すぎて使えない。いくらチートのおかげで魔力操作が上手でも被害は出てしまうわけだ。今はバレずに遊ぶ方法の準備をしているが、その準備が終わるまでにまだ時間がかかる。五歳なんて幼さじゃあ犯罪蔓延る中世の世の中を遊ぶことが普通は出来ないのだ。なまじやろうと思えば遊べるくらいには力を持っているので、フラストレーションが物凄く溜まる。


 唯一の楽しみは、週に一回の家族との買い物だ。


「うっわー!」


 俺は異世界の中世風の景色を眺めながら、年相応の楽し気な表情を浮かべていた。

 屋根と木箱によって出来た露店や、木造で建てられた店が立ち並び、通りにはいろいろな服を着た人や鎧を着た人が歩いている。しっかりとした造りの物から、使い古されたものまで、いろいろな着物がその役目をはたしている。

 想像していた糞尿の臭いは思った程せず、ほとんど食べ物の匂いにかき消されている。下水道が作られていなければここまで楽しめなかっただろう。


「はっはっは、シグは何回ここにきても楽しそうにするね」


 父さん…キシルグアが微笑まし気に俺を見ながら言った。


「うん! だって家の中で商売の勉強ばっかさせられてさ、全然外に出られないんだもん。それにこの街は活気があふれてて見ていて楽しいよ」


 見てる分にはね。これに混ざるのは好きじゃない。人混みとかマジ勘弁。


 この商店街には近場の住民がよく来るので人が多い。あそこの肉屋では小さな店にも関わらず六人程の人が買い物をしている。その内喧嘩が起こりそうだ。


「だからさぁ、買い物するときに問題を出すのはやめてほしいな~」


 父さんは買い物をしている時、たまに不意打ち気味にクイズを出してくる。それは周りを観察していなければ解けない問題ばかりで、どんなに楽しくても気が抜けない。


「でも買い物に行っているからこそ周りに気を配ったほうがいいからね。市場の出し物の傾向とか物の値とか調べれるから。それに商いは商人じゃなくても人として社会の中で生きていけば絶対に必要になる。覚えておいて損はないよそれにシグは周りを見るのに飽きたらすぐうつむき始めるじゃないか。地面を眺めるより値札を眺めた方がユウイギだよ」


「そうだけどさ~、はぁ~めんどくさいなぁ」


「ははは、それじゃあ早速問題だ。さっきの八百屋さんでセシオ(梨のような見た目のリンゴもどき)が売られていただろ? セシオは先日では10キルトで売られていたね、それが今はどこまで値下がりしているかな? 理由も一緒にね」


俺は俯いて考えようとし、それでは危険だと思い直し前を向きながら考える。


「ん~と、確か5キルトだったかな。……理由は最近出てきた魔農家がアカストで頑張っていて最近豊作だから」


「うん、正解だ。ちゃんと周りを見てるじゃないか」


「そりゃあお父さんに……怒られたくないから? でも怒らないよね。なんでだろう」


「シグが自分で勉強になると思ってるからじゃないかな?」


「…そうかもしれない」


 さすが父親。息子の事はお見通しですな。


 アカストは農業が盛んな共和国で、魔農家は農園を営む魔術師や魔法使いの事だ。

 ちなみにこの大陸の硬貨は(※携帯の人は読みにくいかも、ごめんね)


 小銅貨  5キルト      五十円

 銅貨   10キルト       百円

 大銅貨  50キルト      五百円

 小銀貨  100キルト      千円

 銀貨   500キルト     五千円

 大銀貨  1000キルト     一万円

 小金貨  5000キルト     五万円

 金貨   10000キルト    十万円

 大金貨  100000キルト    百万円 

 小白金貨 1000000キルト  一千万円

 白金貨  10000000キルト   一億円

 大白金貨 100000000キルト  十億円


 となっている。

 下二つは商会の取引とか国庫の保管の際ぐらいにしか使われないが。


「きゃ~~!」


 妹…ティアナも俺と同じようにはしゃぎ、走りまわっている。

しかしティアは走った挙句通行人にぶつかりそうになったので、俺はそれを注意する。今の人は和やかに微笑んでくれたが、すべての人が許すわけではない。自分に価値があると思っている人は得てして狭量だ。


「あぁちょっとティア、ダメだよ。急に走っちゃダメ、ダリル兄さんと手をつないで」


 また走り出そうとしたので、はぐれないよう手をつなぐよう言う。


「さらっと僕に押し付けるね。まぁいいけど」


 ダリル兄さんはNo! と言えない日本人気質なので押し付けとけば大体引き受けてくれる。がんばれ兄さん。しかしティアはかわいいなぁ、でも十代後半になったら家族と会話したがらなかったり部屋が汚くなったりするんだろうなぁ。


「ははは、ティアはかわいいね。ねぇダリル。セシオが5キルトも値下がりしているけどこれがどれだけ珍しい事かは分かるかい?」


と、父さんは母さんに抱きついたティアを見て落ち込んだ兄さんに視線をずらしながら言った。

 俺はそれを仲睦まじいなぁ、と思いながら見ていた。





 シャーマンが被りそうな仮面やよく分からない置物が置かれているアカスト産の土産店で、俺は何かいいものが無いかと探していた。すると、母さん…シンシアが俺の手元を見ながら話しかけてきた。


「あら? シグ、何を持っているの? ハンカチかしら、それにしては大きいわね」


 俺が今手に取っているのはナプキンのような物だ。店主に聞いたところ、これはスカーフという物で、口や首に巻いたりして使う装飾品だ。

 多分これは前世で言うところの『スカーフ』だろう。今回の買い物では、バレずに遊ぶための顔を隠すものを買うつもりだったので、こういったものを探していたのだ。


「んー? なんかすかーふって言う装飾品らしいよ?」


「へぇ、どうやって使うのかしら。あんまり形が…装飾品むけではなさそうだけど」


 俺らが住んでいる国では装飾品と言えば首輪や指輪なので、四角い布は装飾品に見えないのだろう。母さんが布地が…、と微妙な顔で呟いたことから見た目もさほどこちらに受けないようだ。


「首とか顔に巻くらしいよ……こうやって」


 そういって軽く顔の下半分に巻いてみる。


「あぁ! なるほどね。そうやって身に着けるといいわね」


「そう? んー、じゃあ買おうかな。一回けちゃったし。すいませーん、これくださーい」


 母さんの前で堂々と買えば買うことについては怪しまれないだろ。ここで母さんが来たのはラッキーだったな。ふふふ、遊びに行けるようになるまであとちょっとだ。

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