世界について
それと家族についても話しておこう。
俺の父はキシルグア・イングラムという、見た目に似合わぬかっこいい名前をしている。[イングラム商会]というそこそこの大きさの商会の会長をしており、名誉爵という異世界特有の爵位を持っている。歳は見たところ二十代後半だ。……異世界転生者の親は貴族でなければならない法則でもあるのだろうか。
のちに知るが、この世界では貴族の爵位は公、侯、伯、子、男、名誉、となっており、名誉爵と言うのは、功績を称えた一代限りの爵位だ。だから俺はイングラムという姓を名乗れない。彼が死んだら商会の名は変えるのだろうか。
母はシンディという名で、元は父が若いころ勤めていた商会の受付嬢だったらしい。二人で惚気ているのを聞いたことがある。貴族の奥さんなので貴族なのかと思ったが、仕草や会話を聞くに平民らしい。パッと見二十歳だが、行動から考えるにもう少し年を食っていそうだ。
それと俺には三つ離れた兄がおり、名をダリルという。まだ幼いのでよくわからないが、父に顔が似ている気がする。髪や目の色が父と同じせいかもしれない。
家族以外にもこの家にはシーラというメイドさんがいる。ダリルが生まれたときに雇ったらしく、行動を見る限りでは子育ての手伝いと、我が家(商館ではない)の家事をしているようだ。歳は五十台頃だと思う。皆外人顔なので、顔から歳が図りにくいのだ。
それと最後になったが自分の紹介をしよう。俺の今世の名はシグニア、前世は黒柳佑月。性別はもちろん男だ。転生したら女でした、なんてこともなくちゃんと漢の象徴がついている。髪は茶髪で目の色は青だ。この世界に鏡はないので、自分の姿を見るのにも魔法が必要だったので、ちょっと驚いた。
女性は化粧を顔を見ずにやっているのだろうか。……あぁ、水面を見るのか。
ちょっと脱線したが、俺の家族はこんな感じだ。とりあえず現状の説明は終わったので、今後の方針を説明しておこうと思う。とりあえずは今後の課題は言語の習得だ。今は言葉の端々が分かるがそれだと少し不便で、意味を読み間違えることもある。最近は歩けるようにもなって、親とコミュニケィションが取りやすいので、絵本の朗読の催促でもやってみようと思う。
ただ、メイドさんに頼むのはやめておこう、訛りがひどいからな。
あれからまた一年がたち、俺に妹が生まれた。名はティアナだ。
世の中には義妹こそ最強という考えをお持ちの方もいるだろうが、俺は家族に恋心とかは無い……と思う。前世では女子らしさが微塵もないお姉ちゃんしかいなかったので、妹は初めて持つ。この子がかわいかったらドキドキとかしてしまうかもしれない。俺は二次元にすら好きな娘がいない男なのでたぶん無いだろうが。
俺はこの一年の間で言語もある程度覚えた。赤ん坊の頭すげぇ、と言いたいところだがそこまで恩恵を感じなかった。これぐらいだったら前世でも集中したらできた気がする。
前世じゃあハ●ー・ポッターの登場人物とか苗字ごと覚えてたからな。シェー●ス・フィ●ガンとか。ただの勘違いで本当は赤ん坊の脳のおかげかもしれないが。
この一年はこれぐらいの変化しかなかった。今後はとりあえず言語の習得をさらにしていきながら、書庫の本を読み漁っていこうと思う。
あれから三年がたった。
俺も五歳になったわけだ、前世……高校生のころと比べるとまだまだ心もとない身体だが、それでもこの世界に来た頃よりはましになった。ダリル兄さんは大きくなって、さらに父さんに似てきた。
絶対に太るんじゃないぞ兄さん。人は太っただけでかなり醜くなるからな。
ここ三年で自分の住んでる大陸や町、大陸に住んでる亜人について詳しくなったので説明しておこう。
亜人とは獣人種、森人種、山人種の総称で、それぞれが身体的に人間とは違ったところがある。
セリオンは一般的に獣人と呼ばれ、耳や尻尾が獣のそれで身体能力や運動神経が優れている人種だ。ラノベによく出る奴と似ている。ただラノベとは違い、この世界の獣人は動物の姿に変身することが出来る。かなりかっこいい。その代わりに魔法が使えないらしく、人間に比べて生活水準が低かったらしい。
エルフは魔の森のタグメトと呼ばれる国の方面に住んでいて、二つの村に分かれている。一つは森の奥に住んでいる「苔」と呼ばれる人たち、もう一つは森の浅い所に住んでいる「枯葉」と呼ばれる人たちだ。
苔の方は金髪の白人だが、枯葉の方は黒髪で黒ずんだ肌をしている。オタク風に言うならダークエルフだ。
エルフは総じて寿命が長く、200年ほど生き続けることが出来る長命な種だ。しかしその代償か、彼らも獣人と同じく魔法が使えないらしい。噂では、苔の人たちは龍神を信仰しており、その巫女のみが魔法を使えるらしい。何故噂かというと、枯葉達は人間と交流しているが苔達は滅多に交流せず、あまり文化について知られていないからだ。
ドワーフは魔の森を少し進んだ所にある鉱山に住んでおり、金属細工や土木作業が得意な人種だ。よくあるようにずんぐりむっくりとした体形をしており、寿命が人間に比べて少し長く、力も強い。しかし例によって、他の亜人と同じように魔法は使えない。彼らは人間の間でもさほど差別されずに、腕のいい鍛治屋として知られている。
肝心のこの大陸事態だが、この大陸は海と[魔の森]に囲まれた土地であり、前世と比べるとかなり狭い。大体ロシアぐらいの大きさだ。狭いと言っても魔の森の向こう側だってあるわけなので、現在判明している土地の面積が狭いという事だ。
その中で俺らが住んでいる国は[宗教国セルキルト]という国だ。宗教国という冠の通り、この国ではキルト教が深く信仰されている。セルが共同体でキルトが唯一神という意味だ。
宗教と言ってもラノベによくある欲丸出しの醜い悪組織ではなく、結構しっかりとしている。というよりも十数年前の改革で真面になった。
前世で言うところのプロテスタント側の教えが「人間には悪い所も良い所もあります、悪い行いは我々が導き、良い行いに変えていきましょう」という物だ。改革を果たした彼らはその教えの通りの行動をした。
人の悪い所は端的に言ってしまえば欲深なところだ。欲の代名詞と言えば金であり、その欲を導くために彼らは銀行をこの世界で初めて始めたのだ。教会で金を預かりそれを同じ教会、もしくは別の教会で卸す。そういった事を始めたのだ。それ以外にもキリトと呼ばれる貨幣を新しく国内に発行し、さらに経済を導きやすくした。
銀行と言っても前世のとは少し違い、預けるときも受け取るときも金を払う仕組みになっている。そうしないと銀行が潰れてしまうようだ。情報を伝えるのに前世と比べて多く金が掛かるのかもしれない。
ともあれ銀行という画期的な方法でこの国はさらに発展し、魔道具や獣人養殖によって力をつけていた他国に追いついたわけだ。
俺らが住んでいるのは[シセニア]という商いが盛んな街だ。周りに[迷宮国タグメト][魔導国セハリア][共和国アカスト]があり、商いがしやすく、自然と人が集まり街ができたらしい。
タグメトは歴史ある迷宮に住み着いた魔物を倒し、その素材によって繁栄してきた国だ。他の国に比べると国土が迷宮の分を引くと小さく、経済の発展が芳しくなく生活水準も低いが、魔物の素材が他の土地に比べて比較的楽に取れるので、そこそこの力を持っている。
セハリアはこの前の本にも出てきたシグフィリア博士の出身国で、魔道具が一番最初に開発された国だ。魔道具は開発初期は兵器の活用法しか求められておらず、そのおかげでかなりの武力を手に入れることが出来、それによって国土を増やしていった。大陸戦争が終わった今では、生活を豊かにする魔道具を主に開発している。
それと「ナイリアム学校」通称大陸学校という物が大陸同盟が締結された後建設された。この学校は他国からも留学できるようになっており、むしろ他国の貴族や有力者を呼び寄せるのが目的となっている。それによってこの国は、世界的にも注目されている。
アカストは魔の森との隣接面が最も多く、それ故に獣人と接触も多かった。昔は獣人とも仲良くしていたが、大陸戦争が激しくなると共に、貴重な戦力として考えられ、いつしか狩って奴隷にしようという思考になっていった。その考えが今でも続いており、魔の森からは全滅したのか隠れたのかわからないが獲物が取れなくなってしまったので、養殖をするようになった。繁殖された獣人は労働力や貴族の私兵などにされ、働かされている。それは今では大陸全体に広まっており、貿易もされている。古来から労働力はあってもあっても足りない物だったので、強靭な躰を持つ獣人は需要が高かった。
それと元々大規模農業を主にしていたこの国では、魔道具の恩恵が得やすく、魔道具の開発が進むと共に、どんどん発展していった。今では力が発展しにくい共和国制でありながらも、しっかりと他の国と渡り合っている。
それと近年分かったことだがこの大陸以外、より詳しく言うと魔の森の向こうにも人が住んでいるらしく、噂では魔法が得意でありながら身体能力も高いらしい。それらは魔族と呼ばれていて、現在は友好関係を結べるように動いているようだ。
やっと説明終わり!書くほうもちかれた…