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ここの部分がかなり適当に書かれています。
物語本編に関係のない部分なのですが、ここだけ本当ならかなりの修正がいると思います。
ただ数年前の作品で、直すに直せないので、そのままにしています。
これ以降このような部分はないので、流して読んで頂けると幸いです。
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「お待たせ。アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」
澤村は三人分のグラスを用意し、居間の机に置いた。グラスはほんのりと汗をかいていた。シキとサクは机を挟んで向かい合うようにして座っていた。シキの手元には金属バットがあり、そのお陰で彼女の妹、サクは彼女に手が出せないでいた。
「で、どういうことなんだろう?」と澤村はサクにグラスを渡して聞いた。
「お前には関係のないことだ」とサクはグラスをひったくるようにし、それに口を付けてから言った。そこには先程まで見られていた敬語や、作ったような丁寧さは感じられなかった。どうやらこれが、彼女の自然体の喋り方ならしい。シキと違い、酷くぶっきらぼうで、がさつさが感じられた。
「関係ないって」と澤村は言った。「確かに俺は君たち家族の話からすれば、枠の外の人間なのかもしれない。だけど今、シキは俺の家に住んでいて、君はシキを俺の家で首を絞めたわけだ。この家の中でそういう事をして欲しくないし、この家の住人にそういう事をされるのも困る」
「理由を言えば納得でもするのか」とサクは言った。「言ったらコイツの首を絞めて殺してもいいのか」
「わからない。でもとにかく知ってもいいはずだ」
少し考えてから、サクは言った。
「コイツは死ななければならない」
※
「死ななければいけない、ってどういう事?」と澤村は聞いた。
「シキの体には、特殊なエネルギーが埋め込まれている」
「特殊なエネルギー?」唐突に告げられた事に、澤村は聞き返さずにはいられなかった。
「詳しく説明する必要はないものだ。ただそれは軍事的に利用される事を目的とされた物であり、取り出せば莫大なエネルギーを生み出す事になる」
「意味がわからないんだけど、取り出すとか取り出さないとかって?」
「あたしとシキはサイボーグだ。十一歳の時に死にかけたところを、とある人間に改造された」とサクは至って真面目な顔で言った。突拍子もない事に、澤村はシキを見たが、彼女は気まずそうに俯き、澤村と目を合わせようとしなかった。嘘をついている様子でも、二人で共闘して澤村を騙そうとしているわけでもないという事が澤村にはわかった。
サクは至って真面目な表情で、にわかには信じられない話を始めた。
それは澤村にとってまったくぴんとこない話のように思えた。まるで誰かが中学生の時に考えるような空想の設定を述べているかのような話だった(そしてそれは実際のところ、この物語の枠を考えている人間が、中学の時に考えた話を少しだけアレンジメントした物でしかなかった。サイボーグなどについては、この物語においての象徴性などを持たなかった)。
彼女達の家族は、彼女達が十一歳の時に、車を運転していて崖から落ちて死んでしまったらしい。その時の事は覚えていない、と彼女は語った。実際のところ、その事故以前の事を、彼女達はまったく記憶として持っていないのだ。
ちょうどその崖から落ちた場所の近くには、ある一人の人間嫌いの老人が人里離れて暮らしていた。彼はその音を聞きつけ、事故現場へと向かった。車は酷く高い場所から落ちてその原型を止めていなかった。おおよそ枠という枠が粉々になっていた。これはもう誰も生きていないだろうな、とその老人は思った。老人の予想通り、運転席と助手席に座っていた、男女は即死していた。しかし後部座席には、まだかすかに息をしている双子の姉妹(シキとサクの事だ)がいた。片方は内蔵が見えていた。老人は慌ててその二人を車から引きずり出すと、自身の研究室へと連れて行った。
老人は世界的に知名度のあった研究者だった。ある特殊なエネルギーを利用する事に精通しており、しかし彼はどうしてもそのエネルギーを使う事を拒んだのだった。エネルギーは軍事的に利用されるのがわかりきっていたからだ。
そして彼はそのエネルギーを使って、彼女達に延命措置を行った。人工臓器を使って彼女達の生命を延命させる必要があった。しかしその人工臓器には、その老人の研究しているエネルギーを使わなければならなかった。一方の方は傷が浅く、なんとかなりそうではあったが、もう片方はそのエネルギーを作らなければならなかった。そしてそれを使ったのがシキだった。二人はなんとか生きる事が出来た。しかし、二人はすべての記憶を失っていた。そこで博士が研究していた物を試しで使ってみたから、試作一号機、試作二号機と名付けた。それを略したものとして、シキ、サクという名前がつけられた。
三人はそこで暮らした。シキもサクも何も覚えていない状態だった為、その研究者がすべてを教えなければならなかった。二人は研究者の事を博士と呼んだ。とても幸せで平穏な時間だった。
しかし、その特殊なエネルギーを使いたいという人間はいた。博士の家を襲撃したのもそんな物だった。博士は殺されてしまった。
「その時、博士はあたしに、シキの体にはその危険性があるという事を教えて貰った。あたしはどうしても壊さなければいけないと頼まれている。シキが悪用される前に壊さなければいけない。シキは襲撃以来もう何年も会っていなかった」
会っていなかったのにそんな近くに住んでいたのか、と澤村は思った。
「でも、ちょっと待って。なら、あの両親の話っていうのは何?」
「はぁ」とサクは見下すようにため息をついた。「あんな物は作り話に決まっているだろう。シキに会うための」
「つまり全部嘘」と澤村は言った。それを信じた時間とはなんだったのだろう。闇の中に飲み込まれてしまった。全て嘘だ。
「どうしたんですか?」と隣に座っていたシキが聞いた。彼女はそれでも澤村と目を合わせようとしなかった。気まずそうに。澤村も一体どうすればいいのかわからず、サクへと視線を向けた。
「なぁ、シキの中から、そのエネルギーのようなものを取り出す事は出来ないのか?」
「出来ない。エネルギーがシキであり、シキこそ、そのエネルギーなんだ。不可分だ」
「悪用されないようにすればいいだけじゃないのか?」
「それで簡単だったらいいのだが。シキを狙っているのは何も具体的な一つの集団だけというわけじゃない。そして、悪用されれば良い事にはならない。だから、一刻も早くその可能性を取り除かなければならない」とサクはきっぱりと言い、シキを睨みつける。
「私は、死にたくない」
「あたしはシキの事を思ってる。だからこそこうしている」
「サクちゃんは全然私の事を思っていない!」
とシキは声をあげた。
「私は死にたくない」
いったいどうすればこれは終わるのだろう。言い合いながらいつのまにか、サクも泣いていた。二人の言い合いはお互いが自分の愚痴を言い合う事にまで発展していた。
「あたしだって殺したくなんてないけど、でもシキの為に仕方なくやってるんでしょ。あたしだってこうなってから、毎日毎日お腹空くような思いをしないといけなくなってるんだから、意味がわからない!お金ないしお腹すくし淋しいし寒いし。それもこれもシキの事が終わったら全部なくなるんだと思って我慢してて、そんでやっと見つけたと思ったら、なんかこんな見るからにお金持ってなさそうな男だけど、とにかく男と同棲してるし」
「私だって自分がなんでこんなんなんだろって思う事あるよこんな辛い思いをするのなら花や草に生まれたかったとか思うし私だってこないだまでお腹空いて空いて仕方がなかったし仕方がなさすぎて道行く人殴って殺してお金奪ってやろうって思ってたくらいだしサクちゃんいなくて寂しかったし」
お腹がなって、サクはぼろぼろと泣き出していた。
そのうち二人は抱き合って泣いていた。それを見ていると、一体これはなんなのだろうと言う気持ちになってきた。先程までのシリアスとはなんだったのだろうか。もうどうでもよくなってきた。文章もどうでも良くなってきた。それでも澤村はお腹がすいたので、食事を作った。「とりあえず、チャーハン作るけど食べる人」と聞くと二人共泣きながら手を上げた。
「なにこれ超うま」とチャーハンを食べてからサクは言った。「じゃあシキ、考えておいて。出来れば早めに」
「またね、サクちゃん」とシキは自分に都合の良いところだけを選んで言った。
「うん、じゃあまた。澤村もありがとう、ご飯おいしかった」
「ああうん、もし腹減ったならまた来いよ」
「え、いいの」
「唐突にシキを襲わないなら」
「反省した。とりあえずシキに了解とってから襲う事にする」
「絶対しない。でもサクちゃんに会えて良かった」
「あたしも良かった」そう言ってサクは帰って行った。
「あいつ、何をしにきたんだ?」と澤村は言った。
「さぁ」とシキは言った。サイボーグとかもうどうでも良くなっていた。