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澤村にとっての孤島はもう既に完璧な物ではなかった。
澤村の思い描く孤島には、既にヒビが入っていた。そのヒビは昨日今日出来た物ではなく、彼は自身の孤島について、もう何年も前から不信感を持っていた。孤島は彼が細かく見ようと思えば思うほど、孤島にはヒビが出てくるのだった。
時々彼は孤島に疑問を投げかける事があった。例えば、孤島なんて物は本当にあるのだろうか、たとえ本当にあったとしても、自分はそこにたどり着く事など出来るのだろうか。
幾度も出てきた考えに、彼は時々どうしても目を瞑らなければならないことがあった。孤島は彼が作り出した物でしかなく、言ってみれば嘘でしかない。細かい場所をみようとすると、どうしても論理的なほころびが出てくる。嘘を一つつく為にはまた別の嘘を何個もつかなければならず、その嘘を更につくためには彼はまた嘘をつかなければならなかった。
もし自分が、孤島がないという事を受け入れてしまったとしたら。それは彼にとって考えるだけでもぞっとするものだった。今まで自分は孤島の力を信じてきた。辛い事があっても耐える事が出来たのは、それは孤島という存在があり、孤島に自分が行けると思ってきたからだ。しかし今、俺が孤島の枠を捨ててしまったとしたら。孤島を信じてきた事で犠牲にしてきた時間と、その自分はどうなってしまうのだろうか。自分が間違った物を信望させられて、自分がまったく無意味な物を無意味に過ごしてきた事。
彼は孤島という場所に向かう塔を建造し続けているような物だった(その考えでは、孤島はなぜか天井にあった)。しかしその塔にはいつもどこかにヒビが入っていて、いつも崩壊の危機がつきまとっていた。もし塔が崩壊して崩れてしまったとしたら、彼はもう立ち直る事は出来ないだろう。しかしそのヒビは塔の建設当時から始まっているもので、土台から間違っていたのかもしれない。具体的に意識した時には塔は既に高くなっていて、少しづつ傾きを見せていて、取り返しのつかない事になっていた。澤村はそれに気づきながらも、見ないフリをしながら塔の建造を続けてきた。塔を修復する事で、騙し騙しその傾きを修正するように。高くなり続けた塔はその重みを増していき、頂上の傾きをなんとか倒れないようにと維持しながら積み上げていく事は、今まで以上により大きな力を要した。
しかしどんなに力を尽くして倒れない工夫を施したところで、中心部の壊れかけている以上、無駄でしかない。
つまり彼の孤島は内部から崩壊しかけていた。それを必死で食い止めながら彼は未完成の塔を、天空に向けて建設し続けていた。それが崩れてしまったら俺には何が残るだろう、という考えを意識的に見ないようにしながら。