表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

13




 澤村が次の朝目覚めた時、ベッドの中にシキはもういなくなっていた。彼女は行ってしまったのだという事が澤村にはわかった。それは眠っている間に失われてしまったのだった。澤村はシキがもう戻ってこないのだとわかると、一人で朝食をとって、アルバイトの時間までテレビを見て過ごした。


 その日の夜、アルバイトを終え家に戻ると、家の玄関に見知った顔がいた。しかしそれは間もなくシキではなく、サクだと言う事を知った。彼女は澤村を見ると、力なく立ち上がった。その顔からはおおよそ力という力が無くなっていた。


「シキを埋葬してきた」とサクは言った。


「そうか」と澤村は言った。それはある程度覚悟していた事であり、痛みはなかった。「お疲れ様」


「澤村、ごめん」とサクは言った。


「謝る事でもないと思う」と澤村は言った。「多分、誰も悪くない」


「うん」と彼女は言った。「今日は帰る」





 澤村は家に入ると、風呂にも入らず、ベッドへと向かった。


 何もかもがどうでも良い、と思えてしまっていた。もう眠ってしまいたかった。しかし、澤村はどうしても眠る事が出来なかった。そしてまた、電気を消す事も出来なかった。情けない、と澤村は思った。


 それが自分にとっての胸の痛みのせいだという事が、彼にはわかった。それはシキの不在だった。シキがいない事によって、彼は酷い痛みを感じさせられていた。彼の魂は痛みによって締め付けられている。


 以前はこんな時は、いつも孤島の事を考えていた。孤島の事を考え、辛さを紛らわせる。そうすれば、眠れるハズだった。今は孤島の為の期間なのだ。だから、何が起こったところで、俺は孤島に行くためであるならば、そのすべてに耐える事ができる、ハズだった。


 それが今は、彼は孤島の事を考える事が出来なかった。寂しさは切実な痛みとなり、澤村を襲う。彼は痛み以外考えられなくなる。感情が澤村を襲った。


 澤村はシキの言っていた事を思い出した。


 本当に辛くて、感情と感覚がくっつく。今がそうだ。俺は痛切な痛みを感じているのだ。それが体を支配しているのだ。孤島などを考えられる余裕などない。


 シキ、と澤村は思った。彼にはシキが必要だった。どうしようもなく、彼はシキを欲していた。


 ふと彼は、シキとの生活こそが、自分の求めていた孤島なのだと言う事に気づいた。そうだ、あの生活こそが、俺の求めていたものだった。彼が思想として持つ孤島よりも、よりはっきりとした、正しい孤島だったというのに。あの夜家に帰りたくなかったのは、つまるところそういう事だったのだ。そうだというのに、いったい俺はどうして、あんなに簡単に、孤島の実現を求めるあまり、現実の幸せを素直に享受する事なく、簡単に捨ててしまったのだろうか。


 澤村は自分の考えていた孤島の事を信じられなくなっていた。孤島なんて、自分の妄想でしかない事を思い知らされていた。


 彼を乗せない船は彼の部屋を離れて、孤島へと向かう海へと離れていく。孤島自体も彼を離れていき、やがて見えなくなり、そのまま戻ってこなかった。彼は眠る事が出来なかった。


 澤村の孤島は崩壊していた。孤島はもう力を持っていなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ