商会ギルド
「皆様、お集まり頂き誠に感謝申し上げます」
銀縁眼鏡を掛けた細身の男は、円卓に座る三十名以上の人間に資料を配布する。
「さて、本日の議題である税についてですが、商会ギルドとしては、税の徴収が滞っている村が存在している事実を見逃す訳にはいきません」
男の言葉に皆が騒ぎ出し、疑心暗鬼の眼差しで互いを見始めた。
その状況の中で、ユーグリス村の村長が目の前に座っていた領主を務める女性に怒鳴りつける。
「どうせ貴様の村だろうが!」
「違うわ!
老害の癖に、いちいちケチをつけるのはやめてくれない?」
「何だと!?
若造がほざくな……!!」
争いがヒートアップして殴り合いに発展しかけたとき、銀縁眼鏡の男は二人の間に体を潜り込ませた。
「お二人は自分が土地を治めている人間でしょう。
その土地の代表者として、揉め事は控えて下さい」
「「分かりました…………」」
男が二人に触れると、二人は嘘のように大人しくなって各々の椅子に座った。
周りの人間は少し驚き、商会ギルドの威光だと勘違いしているようで誰も問題視はしなかった。
それを見ていた俊和は、早速行動に移る。
「あれは精神干渉系の魔法ですね………。
村長以上の役職を持つ参加者達の会議で使用するといかなる場合でも罰せられる魔法を使用し、周囲に気付かせないとは」
だが、罰せられる魔法を使用して、無事で済む訳がない。
証拠として保存する為の水晶を取り出し、窓から商会ギルド内部がぎりぎり見える所に置いた。
「これで平気だと良いですが………、やはり、無謀でしたか」
俊和が水晶を置いてから数分も経たずに水晶が割れ、警報が鳴り響く。
「全員、外には出ないで下さい!」
銀縁眼鏡の男が注意喚起をしているようだが、警報が鳴る非常事態の中では誰も聞く耳を持たなかった。
「馬鹿が多くて助かります」
我先に、と移動する村長や領主達に紛れて俊和もその場を後にした。
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俊和が家に着いてから保存庫の扉を開けると、今朝までは長期保存が可能な食品が詰まっていた保存庫は空になっていた。
「まさか、ミリアナ一人で…………?」
俊和が珍しく動揺していると、眠そうにミリアナが布団から這い出てきた。
「俊和さん、今は何時ですか〜?」
「早く寝なさい」
「はい、寝ます〜」
俊和に言われてすぐにミリアナは布団に潜り、穏やかな寝息を立て始めた。
俊和はミリアナが寝たことを確認し、明日の予定を変更する為に情報を整理することにする。
「食料が枯渇するとは思いませんでしたが、仕方ありません。
今日の商会ギルドの会議で揉めたユーグリス村に卸すパンの値段は確実に上がるでしょうし、遠出することにしましょう」
ユーグリス村から近い村にもパンは売られている。
だが、パンは俊和が良く行く街が一番美味しいと評判であり、ミリアナが好きそうな店もあるので行ってみても良いかもしれないと考えた。
「明日の予定は大丈夫ですが………」
自分の立てた予定に納得した俊和は手帳に明日の予定をメモし、自分の夕食は諦めることにした。