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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
1・ユーグリス村
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初めての農作業

プランBの概要を説明し、俊和はミリアナに鍬を持たせる。

ミリアナは鍬を持つと、産まれたての子鹿のように足を震わせながら頑張って振り上げた。


「えいっ!」


気合いを入れて振り下ろすと、さくっと表面の土が砕けたような音がした。


「ミリアナ、全然力が足りませんよ」


「これでも、うっ、頑張って、重たい……!」


ミリアナは頑張って畑を耕そうとするが、一向に進む気配がない。

ミリアナが疲れて休もうとすると、


「昨日私に言ったことを忘れましたか?

この程度では、驚くどころか呆れて溜息を吐きそうです」


俊和が馬鹿にするのでその都度気力を振り絞って畑を耕し続けた。

正午に近くなった頃、ミリアナの手によって、やっと畑の面積の百分の一程度が耕された。


「やっと、畑を耕すことができました……」


ミリアナが覚束ない足取りで俊和の元に歩いて行くと、


「きゃああああ! 来ないで‼︎」


俊和の近くにいたミミズがミリアナのズボンをよじ登り、ミリアナが悲鳴を上げる。


(なるほど。ミリアナはミミズが苦手、と…………)


すかさず俊和は手帳にメモし、今後の計画について検討する。


(それなら、あのミミズを使うか。

畑の土の肥料にもなるし、何よりもあれを使えば面白いことになりそうだ)


ミミズを置く位置と、肥料が足りていない部分を計算し、畑の中央にすることに決めた。

決定の第一の理由は、インパクトだ。


幸いなことに、ミリアナに明日は畑の中央を耕すように指示してある。

この土地の土は作物が植えられている中心の土から栄養を吸収するようで、中央に植えた作物は肥料の為に利用するしかない。


「肥料を与えられ、面白いとは。

まさに一石二鳥ですね」


「俊和さん!

早くミミズをどっかにやって下さい〜!!」


俊和が明日の計画について検討している間に、ミミズはミリアナの胸元辺りにまでよじ登っていたらしい。

ミミズは嫌いだが、触る勇気もない。

なので、俊和に泣きついてきたのだろう。

仕方なく、ミリアナの胸元にいたミミズを摘んで適当に投げると、ミリアナは小さく安堵の溜息を吐いた。


(明日はミリアナにとって今日よりもっと恐ろしいことがありますが、頑張って欲しいものです)


「俊和さん、お昼にしませんか?」


「そんな時間ですか。

じゃあ、サンドイッチを食べましょう」


食事前の挨拶を済ませ、ミリアナはサンドイッチに即座にかぶりついた。


「美味しいです!

中身はラックンの卵とサッシーの葉、メーブルのハムですか?」


「正解です。

メーブルのハムは保存に便利ですが、メーブル本体の悪臭が含まれてしまうことが欠点として挙げられます。

そこに臭みが取れ、脂肪分解酵素を多く含んでいるサッシーの葉を入れることで、体に優しいサンドイッチに仕上がる訳です」


「あの、何故ラックンの卵なのですか?」


「ラックンの卵はカルシウムが豊富ですからね。

ストレスが溜まることを見越して挟んでみました。

それに、メーブルの肉の疲労回復効果を高める働きがあるのでミリアナが農作業後には美味しく感じられるのではないかと」


余談だが、ラックンという鳥はサッシーと呼ばれる植物の種子のみを食べることで、サッシーの種子に豊富に含まれるカルシウムを大量に体内に蓄積してから卵を産む。


その卵が家畜用のラックンの場合は雛が孵ることはなく、カルシウムが豊富な食用卵として出荷される。

ラックン自身の肉は毒を持ち、食べる人間は殆どいないが、自殺用として闇市場で売られているという。


しかし、稀に野生で青い羽ではなくアルビノのラックンが産まれることがあり、そのラックンは高級食材として食されることが多い。


「へえ〜!

勉強になります」


「大したことはありませんよ。

幼い子供でも知ってるような一般常識です」


俊和は平然と言い、ミリアナは恥ずかしさで顔を伏せた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



閑話休題。

俊和が水筒に入れたダージリンを飲み終えると、作業再開の意味としてミリアナに鍬を持たせようとした。


「うわっ!」


「ミリアナ………」


だが、ミリアナが鍬を持ち損なって鍬が下に落ちる。

もう一度ミリアナの手に持たせると、ミリアナは何とか落とすことなく持つことができた。


(か弱い女性が人気だとは言いますが、ここまで体力がないのでは………)


必死の表情で畑を耕すミリアナに、俊和は呆れて読書をする気もなくなっていたので五時まで寝ることにした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「俊和さん、俊和さん!

起きて下さい!!」


ミリアナが俊和の体を揺さぶると、俊和は目を覚ました。


「確か、今は五時近くといったところでしょうか」


「寝起きで時間が分かるって……、凄いですね」


ミリアナが時計を確認して間違いなく言い当てた俊和を、驚きの表情で見つめた。


「訓練すれば出来るようになります。

それよりも、ミリアナは疲れているでしょうから今日は先に家に帰っていて下さい」


「俊和さんはこの後は何をするのですか?」


「少し、気になったことがありまして」


俊和は、朝の四時頃に見かけた見慣れない男達のことを調べようとしていた。

俊和としては何が起こるか分からない場所にミリアナを連れて行く気になれない。


「分かりました。先に家に帰っていますね」


「ミリアナ、帰ったら食事は適当に食べて下さい。

風呂は昨日と同じく。

遅くなるので、布団を敷いて先に寝ているように」


俊和がミリアナにしっかりと言わないと、俊和が帰るまで夕食も食べずに俊和の帰りを待っているだろう。

これは、初めての農作業で疲れたミリアナへの俊和なりの配慮である。


「分かりました!」


ミリアナは元気よく返事をして、重い足取りで家に帰っていった。

俊和はミリアナが家に帰っていったのを確認し、小さな煤けた箱を慎重に開ける。


「やはり………、肥料としては優秀ですが、あまり良い見た目をしていないのは残念です」


煤けた箱の中には、九つの頭を持つとても小さなミミズがいた。

俊和はそのミミズを畑の中央に埋め、餌として一緒に砕いた林檎を埋める。


「これで、完成ですね」


ミミズの世話には大した手間ではないことが利点である。

第一の目的が終了し、俊和は今朝見かけた集団が消え去っていった方向に向かって歩き出した。


「だいたい南東エリアですかね………、ということは、商会ギルドでしょうか」


俊和がユーグリス村で生活をしていた時、商会ギルドがお忍びで密談をしているといった噂が流れたことがある。

その時の俊和は鼻で笑ったが、今回はその噂が現実になっている可能性が極めて高いと俊和自身の勘が告げていた。


暫く歩いて南東エリアの端に、俊和が住んでいた時には見たこともない立派な会議所のような建物が存在した。


「なるほど。ここの土地を商会ギルドに売って、村長の懐が温かくなった、ということでしょうか」


村長の成金も、それなら頷ける。

基本的に土地の売買権は、村長に一任される。

だが、俊和は買い手に不満があった。


「大して人の住まない地域を売り払った先が商会ギルドとは。

実に嘆かわしいことです」


欺瞞と不正に満ちた商会ギルドがユーグリス村に立てば、後々自分達に悪影響を及ぼす。

それを散々村長には言ったが、俊和が仕事の都合でいない間に村長が独断で判断したのだろう。


村長の奥さんは、危険要素を出来るだけ排除しようとする人だ。

彼女が同意することは、あり得ない筈。

俊和は足音を立てることなく商会ギルドの壁に近づき、換気の目的に開けてあるのだろう、小窓から中の様子を窺った。

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