可愛いけれど、恥ずかしい
皆さんが寝静まった頃、私はマスターさんに呼び出されていた。
「あら、よく似合っているわね。
ミーシャに任せて良かった」
「そう、ですね……」
嬉しそうに話すマスターさんと短いスカートを気にしながら歩く私。
昨日はマスターさんが話している時に寝落ちしてしまい、色々と迷惑をかけたのは言うまでもない。
とはいえ……、
「あの、本当にこれを……?」
「当然よ?
いつもなら懲罰室で逆さ吊りだけど、今回はこれくらいで許してあげる」
マスターさんは本気とも冗談とも取れるような言い方で私に告げ、視線で椅子に座るよう私に促す。
「失礼します」
本来なら目上の人が先に座るのを待つべきだが、目上の人に促された時は例外だ。
私は一礼してから着席し、マスターさんは私を観察してから席に座る。
王宮では間違っているとセリアお姉様のナイフが顔すれすれで飛んできたものだが、マスターさんは特に何かする様子はなかった。
「それで、今日の出来事を聞かせて貰えないかしら?」
今日のアリスは宿での仕事はお休みにして貰い、代わりに私の世話をすることになっていた。
その為、私を通じて今日の評価を行うらしい。
「は、はい!
実は──」
私がやたらと短く、露出の多い衣装を着ることになったのは容赦ないマスターさんと。
悪ノリした友人の所為だと内心恨みながら、努めて笑顔で話し始めた。
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──翌朝。
目が覚めた時には既に朝日が昇り、室内を明るく照らしていた。
私が寝ていたのは私が知っているような硬い床ではなく、変わった感触の床……、正直よく分からない。
お礼を言った後の記憶もないことから私はただ、呆然と天井を見上げる。
「……ミリアナ、ミーリーアーナッ!!」
「ふぇ……?」
聞き覚えのある声が部屋中に響き渡り、声の主は力任せに私の毛布を剥ぎ取ってすぐに組み伏せる。
寝起きで意識がはっきりしてないこともあり、ぼんやりとされるがままになっていた。
「朝よ、朝!
起きるのが遅いのは相変わらずね!」
「そ、そう言わへても……」
早寝早起きを徹底しているアリスは既に着替えており、幼少期から変わっていないだけでも思わず微笑んでしまう。
小さい頃に王女と貴族、という身分の差を気にせずに友達と接してくれた唯一の友達。
いつのまにか王宮に彼女が来ることはなくなってしまったが、こうして再会できたのは奇跡と言っても過言ではない。
「全く……、ミリアナのことだから迷子になったと思うけど。
ここは護衛無しで王族が歩くようなところじゃない、ってのは分かっているんでしょうね?」
「えへへ……?」
アリスは私を組み伏せたまま窘めるように問いかけ、私は笑みを浮かべながら首を傾げる。
相変わらず、良い意味で凄くお姉さんというか……、お母さんらしい。
アリーさんも結構面倒見の良い人だけど、アリスはそれを遥かに上回るぐらいのお節介焼きだ。
「すーぐそうやって誤魔化すんだから……
ま、王族がお忍びで来ることは良くあるから心配しなくても平気よ?」
「……え?」
オウゾクガ、オシノビ。
どういうことかは理解しているものの、二人の姉と再会することだけは絶対に避けたい。
特に、セリアお姉様の方は絶対に。
「あれ、一緒じゃないの?」
「ま、まぁ、色々と……」
アリスの疑問に上手く答えられず、また誤魔化そうとしてしまう。
セリアお姉様に連絡されたら困るし、キャメルお姉様はセリアお姉様に連絡しないと限らない。
私は頬を掻いてアリスの勘違いが起こることを祈り、そっと首を傾げた。
「──色々ありそう、ってことは分かったわ。
大丈夫、セリアさん達には言わないから」
「ありがとうございます、アリス……!」
私の表情から察してくれたのだろう、アリスは納得して周囲に誰もいない事を確認する。
ちょっとした折に誰の口から漏れてしまうか分からない以上、それくらいは事前にすべきだったと顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。
「家出だもの、バラしたら可哀想だし?」
「そ、そうですね!
アリスなら分かると思いますが……」
「そうねぇ。
ミリアナのお姉さん達、結構気難しい人だもん」
懐かしい、とアリスは思い出しながら頷く。
小さい頃のアリスは豪快で大雑把なセリアお姉様とはまだ相性は良いが、神経質なキャメルお姉様とはかなり相性が悪そうだった。
私が知っている限りでは、王宮に招かれたアリスは階級差を加味しても基本的に分け隔てなく挨拶するが、キャメルお姉様には絶対に挨拶しないくらいに嫌っていた。
「うん……
でも、アリスと会えて良かったです」
「そうね、ミリアナ。
あんたと会えるとは思えなかったわ」
アリスは恥ずかしそうにそっぽを向き、さりげなく私の頬に人差し指を当てて。
「相変わらず、ミリアナはミリアナね」
アリスは大人っぽい笑みを浮かべ、私の頬に当てていた指を引っ込めると私の手を引いて歩き出す。
どのような経験を積んで、どんな人生を送ってきたのか。
目の前に立つアリスが、私の知っているアリスと何か違うように見えていた。
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「あの、アリス……?」
「ん〜?」
アリスに連れられて街を歩く中、素早く色々な店を巡るアリスについていくのが精一杯で話しかけられたのがお昼ごはんの時になってしまった。
俊和さんや神父さんは私に合わせてくれたが、アリスはついてこれないなら置いていくとばかりに一軒一軒の所要時間がとにかく短い。
「今日は取り敢えず、私のお気に入りの店を紹介するわ。
宿で働くにしても、トライクルータのことは人一倍知っておかないと話にならないのよ?」
「あ……」
言われてみればそうだった。
旅館のような場所にはどの観光名所よりも観光客が多く訪れ、誰もが目的を持ってトライクルータに来ている訳ではない。
私のようなトライクルータの地理に疎い人の付き人、又はその人に合ったお店の紹介なども大切な仕事だ。
「あの宿はトライクルータの一番人気だから、やることも必要な知識も他のところに比べて多いわ。
──その為にも、まずは形から入らないと」
「形、から……?」
アリスがあるブティックの看板を視認した途端、アリスの意図を理解しようとしている私を置いて突入していった。
大人びたように見えても、偶に猪突猛進してしまう悪い癖は治っていなかったらしい。
「あそこでは制服は基本的に指定なんだけど、マスターに頼み込んで私が決めて良いことになったの!!
ちょ〜っと、待ってて?」
「はぁ……」
高そうな服を乱雑に漁りながら店の奥から手を振るアリスと店長さんに見られないことを祈る私。
アリスが商品を傷つけないことを願いつつ、触らずとも見ただけで良い材料と腕の良い製作者の手によって出来たモノと分かる。
材料の産地は色々だが、どれも量が少なく希少なものと以前にセリアお姉様の言っていたものばかり使われていた。
「店長、あれってまだ入荷してないの!?」
私がセリアお姉様の言葉を思い出しながら一着ずつ見ていた時、憤然とした様子でアリスは関係者以外立ち入り禁止と書かれた部屋に入っていった。
「あの服?
入荷はしてるけど……、本気?」
「ホ・ン・キ。
ミリアナにぜ〜ったい、似合うと思うわ!」
「大変ねぇ……」
私は気付かれないように物音を立てず、そっとアリスが入っていった部屋に近づくと部屋の傍で聞き耳を立てる。
何やら話し合っているようだが、詳しくは分からずじまいだった。
「それじゃ、着せてみるから〜!」
「あわ……!?」
アリスの手で関係者以外立入禁止の部屋の扉が開けられそうな予感がして、慌てて扉から離れようとした瞬間、
「──立ち聞き?
ま、お仕置きも兼ねて……、そりゃあ!」
「ひゃめへぇええ……!?」
アリスに無理矢理試着室に連れ込まれ、目にも止まらぬ速さで私の服を脱がし、着せ替えていく。
全力の私の抵抗もアリスは難なくいなし、私の身体の主導権が戻ってきたのは着替えが済んだ後だった。
「はい、一丁上がり!」
「こ、これが、私……!?」
宿の制服のようなロングスカートではなく、ゴシック調のミニスカートと黒のニーソックス、変わった形のラウンドトゥ・パンプスにカフスと私の知っている使用人とは全く違う、可愛くて少し露出の多いモノ。
アリーさんなら似合うと思うが、私には厳しい。
一時的なら、まだ許せるくらいの恥ずかしさだ。
「よし、今日からミリアナの制服はそれね!
異議は認められません!!」
「アリス……ッ!?」
──こうして、アリスのチョイスで他の使用人の方よりも露出の多い格好が制服となったのでした。




