アリーのハンバーグランチ
定食屋で見かけそうな鉄製のプレートの上に威圧感を醸し出すデフォルメされた熊の顔を模したハンバーグに揚げたてのフライドポテト、彩りを豊かにする為の人参とブロッコリーが添えられている。
──皮肉にも、今まで食べて中で一番美味しそうだ。
普通は置かれている筈のハンバーグ用のソースがないのは使わないから気にしないが、問題は別にある。
『……ボク、ハンバーグだけ食べると言った筈だけど』
こっそり、バレないように。
神父の隙をついて付け合わせの野菜をフォークで退けようとし、
「勿論付け合わせも含めた全部、だろう?」
それを見逃さないクソ神父は退けさせまいとボクの腕を掴む。
……実に、面倒臭くなってきた。
『ふざけんなクソ神父!
よりにもよって、に、人参とか………』
わなわなと震えながら人参を睨み、前にクソ神父に無理矢理食べさせられた感覚が自然と思い浮かぶ。
あの食感、味、匂い。
野菜はどうしても苦手である。
「僕があ〜ん、してあげようか?」
『お前にされるくらいなら自分で食べる……!』
「つれないなぁ」
くだらない提案を却下されて溜息を吐くクソ神父を殺意を込めて睨み、拒否反応として流れる涙を拭いながら苦手な野菜を噛まずに飲み込んでいく。
これだから野菜なんか食べたくない。
「アリー、しっかりと噛まなきゃダメだろう」
『おまへはボフのおほうはんか』
「女の子が食べながら喋らないように」
『んぐむぐ』
食事マナーに厳しいクソ神父にナプキンで肉汁を拭かれ、不快感を隠すことなく神父のつま先目掛けてヒールで蹴ろうとした瞬間、流れるようにクソ神父は食器を洗いに立ち上がって失敗に終わる。
『──ハンバーグは、美味い』
肝心のハンバーグはお子様ランチのような形で無ければ尚良かったのだが、味は良いので気にしない。
フライドポテトはまぁ、普通。
野菜さえ無ければ100点中85点くらいだ。
「野菜も美味しく食べられると良いんだけどね」
『絶対に嫌だ』
クソ神父の小言に食べ終わったプレートとフォークを殺すつもりでぶん投げ、クソ神父は涼しい顔で受け止めると水晶や魔法を使わずに洗剤で洗い始める。
普通なら金があれば水晶などを使って綺麗にするのだが、クソ神父は絶対に手洗いを辞めない。
ボクが前に苦言を口にした時は、
『水晶よりも自分で洗う方が好きだからね。
心が洗われるというか、清々しい気分になるんだよ』
などと返り血を浴びて血塗れのまま笑顔でほざいていた。
これには流石にボクでも呆れてしまう。
(──相変わらず、頭沸いてるよな)
抜群の身体能力と主夫技能、神父としての祓魔やボクとの相性は問題ないどころか完璧と言っても良いだろう。
だが、実に不快なことに幼女趣味とお節介を持ち合わせているのは玉に瑕だ。
「さて、ティルウィングの朝食も済んだことだし。
ミリアナちゃんが起きる前に情報を整理しようか」
食器洗いを終えたクソ神父はゆっくりと椅子に掛け、ボクはクソ神父のことを頭の隅に追いやる。
今はそんなくだらないことより、あの女のことだろう。
「実際、記憶は少しは思い出した気がする。
成果としては悪くないんじゃないかな」
クソ神父は申し訳なさそうに頬を掻き、あまり進展しない記憶探しについて詫びた。
とはいえ、
『でも、あのクソアマが来た時点で面倒だろ』
「そうだね。
僕以外に戦える人間が居ない以上、彼女以外の襲撃も警戒する必要があると思うよ」
アイツと本気でやり合う時の想定をする必要が出てきた苦痛は筆舌に尽くしがたい。
間違いなくこの村が地図上から消えることになるだろうが、アイツが排除に動いた場合はそれでも最小の被害と言える。
ただ、その場合は俊和やミリアナの心象は絶望的だ。
『彼女以外?』
クソ神父がユーグリス村で相対した敵はアイツだけだと思っていたが、いつ頃戦闘になったのだろうか。
探知機能の類をボクが有してない為、ボクが気付かなくてもクソ神父は気配とかで気付いたのかもしれない。
「例えば、クリン・ハーメストとかさ」
──例を挙げるならもう少しマシな奴にしろ。
あのマッドサイエンティストの気持ち悪い笑みを思い出して寒気を感じ、吐き捨てるように断言する。
『クリンは流石に死んだだろ』
「物事に絶対はないように、人の生死も検死程度では分からない。
一般人ならともかく、ああいう奴等はね」
『お前が言うなよ』
殺しても絶対に死なない筆頭みたいなクソ神父と一緒にされては流石に可愛そうとは思う。
少なくともボクは嫌だ。
「手厳しいなぁ、ティルウィングは。
僕はそこまで万能ではないのに」
『そうだね、幼女趣味と野菜を無理矢理食べさせようとするからね』
日頃の不満を口にするチャンスが到来し、満面の笑みを浮かべながら視線に殺気を込めてクソ神父を睨む。
許されざる蛮行をしておいて、ただで済むとは思うな。
「根に持ってたか………」
そんなボクを見て悲しそうにするクソ神父。
実に白々しい演技で尚腹が立ってくる。
『当然だろ。
幼女趣味はともかく、野菜を無理矢理食べさせられた時は凄く腹が立つ』
「幼女趣味は良いのかい?」
『まだ野菜よりはマシなだけだから勘違いすんな』
容赦なくクソ神父の足を蹴ろうにも足が届かず、悔し紛れに椅子の脚を蹴ってジト目でクソ神父を見つめる。
片方、若しくは両方が真面目な話をしようにも、大体こうなってしまうのは運命なのかもしれない。
「………」
『………』
無言で互いに呆れながら見つめ合う二人。
特に意味もなく、時間はゆっくりと過ぎていった。




