ティフィの屋敷
屋敷に到着した俊和は、出迎えに来たティフィの顔を見てから溜息を吐いて、微笑を浮かべた。
「お久しぶりです。無駄な厚化粧は大変そうですね。加齢はどうも女性をメイク上手にしているような気がします」
俊和と会う為に厚化粧をしたティフィは一瞬で見透かされ、不機嫌そうに屋敷に入ってドアを閉めた。
「加減、しませんでしたね」
「必要性がありませんから。恐らく、体重は以前より十キロは増えているでしょう。脂質の摂り過ぎです」
辺りを見回していた俊和はズボンのポケットから取り出した白手袋をはめ、路上に落ちていた小さな石を拾う。
「そこまで、分かる物なんですか⁉︎」
「妊婦の方でも失礼でなければぴったりと体重を当てることができると思います。まあ、未検証ですが」
「じゃあ、私の体重も?」
「言った方が良いなら言いますが」
「すみません、言わないで下さい」
ジャストで答えそうな俊和に謝罪し、ミリアナはノックをしてからティフィの屋敷に入った。
ミリアナがドアを開けると、ティフィが椅子に座って俊和に頭を下げていた。
「俊和に頼…………………」
「お断りします」
「……………………」
まさか断られるとは思わなかったティフィはわざとらしい咳払いをしていつもの調子に戻った。
「理由を聞かせよ」
「貴女が嫌いなんですよ。清朝石が他の土地で採掘できないことが残念至極」
「もしや、清朝石を必要としているのか?」
「そうでなければ貴女の治める土地になど行きたくはありません」
「なら、渡す気にはなれんな」
俊和は嫌悪感を籠めて吐き棄て、ティフィが睨む。
「と、俊和さん…………………」
ミリアナが二人の剣呑な空気に呑まれて泣きそうになっていた。
「ティフィ様、ちょっと失礼」
茶髪の女性はティフィを手早く気絶させ、ソファに横に寝かせてから微笑む。
「俊和様には申し訳ありませんが、不肖この私がティフィ様の代わりに説明します。スクリーンをご覧下さい」
茶髪の女性はリモコンを操作してウェストフェリスの地図を表示した。
「今いるのがウェストフェリスの東エリアと呼ばれる地域となります。大会は東エリアですが、清朝石の保管場所は北エリアと呼ばれる極寒の地域です。ミリアナさんは理由をご存知ですか?」
「えっと…………」
「無駄な意地は張らないように」
「分かりません…………」
考えるチャンスを一切与えなかった俊和を睨むが、俊和はディスプレイを一度見てから思案顔でメモにミリアナが知らない言語で書いていた。
「では、ヒントを」
茶髪の女性は北エリアを拡大表示すると、ミリアナは清朝石の保管場所と採掘場所の違いに気がつく。
「もしかして、温度差が関係している?」
「正解です。大会がある東エリアではなく採掘できる北エリアに保管場所を設けなくてはならない。それには、清朝石の性質が関係しているからです」
茶髪の女性の説明に、メモを終えた俊和が付け加える。
「清朝石は外の空気に触れるだけで砕けてしまうとても温度差に敏感な鉱石。その為にはドライアイスなどで冷やしながら空気に触れないように運び出す必要があり、基本的には持ち運びは容易ではありません」
「じゃあ、ユーグリス村に運ぶ時は…………………」
ミリアナは巨大な清朝石を運んでいる自分を想像し、震えが止まらなかった。
「人力です。ミリアナ、頑張って下さい」
「やっぱり⁉︎ 俊和さんは⁉︎」
「一人で歩いて帰るので心配しなくて大丈夫です」
「お願いでじゅから助げでぐだざい!!」
ミリアナは泣きながら俊和に懇願して俊和は呆れたように溜息を吐いた。
「冗談です。泣かないで下さい、ズボンが汚れます」
「酷ッ! 女の子の涙とズボン、どっちが大切何ですか⁉︎」
「時と場合によりますね。今の涙は不要と判断したまでです」
しれっと言った俊和に何を言っても無駄だと理解し、ミリアナは黙って涙を拭いた。
「すみません、連れが迷惑をかけました」
「は、はあ……………」
茶髪の女性は釈然としない思いで頷いた時、ドアが乱暴に開けられ、採掘員と思わしき男が息を切らして駆け込んだ。
「清朝石が、清朝石が‼︎」
「清朝石がどうかしましたか?」
「鉱山ごと砕け散ってやがる! 大会用の清朝石は盗まれたし、どうなってんだよ⁉︎」
採掘員は顔を顰めて床を叩き、俊和が電話をかける。
「もしもし、柳沢です。…………………………ええ、そうですか。失礼します」
「誰に電話をしていたんですか?」
「ウェストフェリス北エリア管轄のニカさんです。彼も同じ事を言っていたので間違いは無いでしょう」
俊和は携帯をしまう前に殺気がした方向に白系統の水晶を放り投げ、水晶魔法の効果で迷彩柄の服を着た男達全員が気絶した。
「き、貴様ァ‼︎」
俊和は続けて指揮官と思わしき男に回し蹴りで男の銃を叩き落とし、腕を捻り上げて壁に投げ飛ばす。
「誰の差し金ですか?」
「誰が言うか!貴様のような輩に…………………!」
「金ならありますが、それで手を打ってはくれませんか?」
「…………………」
俊和が水晶から取り出したのは、八千万リグス。
思っていた以上の金額に呆然としていた男だったが、金額に納得したようで、ぽつりぽつりと話し始めた。
「分かった。幻狐の指示でここを襲え、って指示があったんだ」
「幻狐?」
「知らねぇよ。下請けは金さえ貰えりゃ、上のことなんか命令以外は気にしないからな」
男の言うことは正論だと俊和は理解していた。
幻狐という組織は初耳で、実情を本人が知らないと言っている以上、追求しても時間の無駄だ。
「もう大丈夫です、帰って頂いて結構ですよ」
俊和は金を男に渡し、男を見送りながら手から白と黒の水晶を取り出して放り投げる。
「すみません、貴方の行き先はこちらでしたね」
「何を言って………………、うげっ⁉︎」
男の傍で水晶が割れて水晶魔法が発動し、光が男が呑み込むのを待ってから俊和は金を回収した。
「これで金も回収できましたし、犯人逮捕も済みました。後は商会ギルドに任せておきます」
「俊和さんがすぐにお金を渡した理由って、まさか……………⁉︎」
「そう、馬鹿な犯人を油断させて情報を得る為です。水晶魔法を調節して人間のみを運ぶので金はその場に留まる、ということになりますね」
俊和は嬉しそうに金を水晶にしまい、男から得た情報を手帳にメモをする。
(俊和さんを敵に回したら……………嫌ですね、いろんな意味で)
そんな俊和に恐怖と呆れ果てたミリアナだった。




