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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
3・水上都市ウェストフェリス
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ウェストフェリスについての勉強

ホテルに到着した俊和はノートとペンをミリアナに手渡す。


「まず、ウェストフェリスについて知っていることを書いて下さい」

「何でも良いですか?」

「ええ、出来れば詳しく書くようにして下さい」


これは、ミリアナの記憶力と興味関心などを調べる為のものである。


(出来れば教える時間が少なく済むと良いですが…………………………、無理そうです)


単語を三つ書いてから苦しげに唸るミリアナを見て俊和は諦めの溜息を吐いた。




ノートを回収した俊和は内容を確認してからミリアナに返却し、ホワイトボードを壁のフックに立て掛けた。


「さて、授業を始めましょうか。黒板はホワイトボードで代用します」


俊和はホワイトボードに世界地図をコピーした用紙を貼り、ウェストフェリスを赤い丸で示した。


「ここがウェストフェリスです。アステンブリングのあるカームルク大陸から離れた島国ですが、観光客を合わせれば都市二つ以上の人口と言われる程、観光を主軸とした国作りがされています」


「だから、あんなに人が多いのですね………………」


ミリアナはイルフィンザールを超えるのではないかと思える観光客を見たが、俊和はミリアナの疲れ切った顔を鼻で笑う。


「あれで疲れたのならウェストフェリスの女王の屋敷に行くまでに疲れ果てないよう、今からでも運動しましょう」

「嫌です! 私は運動音痴だし、お馬鹿だから勉強をした方が良いですよ‼︎」


ミリアナは抗議しながら墓穴を掘っていたことに気づいていない。


「運動音痴なら、この機会を利用して少しでも改善するべきだと思いますが」

「………………………」


ミリアナは押し黙り、俊和が話を戻す。


「観光業が盛んということは、飲食店、土産物店などが他国よりも発展していると言えます。ウェストフェリスの主な輸出品は知っていますか?」


「確か…………、清朝石です」


「そうですね。海に面しているウェストフェリスのみ採掘することができる天然鉱石、清朝石と観光の二つのどちらかが欠けていれば、ウェストフェリスはどこかの国の属国となっていたでしょう」


「その通りです、俊和様。正確には清朝石が五割、観光業で四割、その他の一割となっています」

「だ、誰ですか⁉︎」

ミリアナが気づいた時にはいつの間にか部屋の中にいた女性は、俊和に手紙を渡す。


「…………………なるほど。今すぐ来て欲しい、と」

「はい、至急の用件です」


女性は頷いて、俊和に頭を下げてから退出した。




俊和は女性が退出した後、荷物を纏め始めた俊和を見習ってミリアナもすぐにクローゼットに収納した衣服を片付ける。


「私も行くべきですよね?」

「そうですね。宿泊費を浪費する訳にはいきません」


荷物を纏め終えた俊和とミリアナは、荷物を持って外に出ようとドアを開けた時、何かが激突して床に倒れる音が聞こえた。


「え、まさか…………」


ミリアナの目線の先には、鮮烈な赤い髪と豪奢な赤いドレスの少女が鼻を押さえて涙目になり、茶髪ロングのメイド姿の女性が微笑を浮かべていた。


「クイネ=メーデリンカさんと背後にいらっしゃるのは、イリスさんでしたか」

「お久しぶりです、俊和さん。いつ見てもお変わりありませんこと。ほら、クイネ様も涙を拭いて下さい」


イリスは俊和に頭を下げ、クイネにハンカチを渡して優しく起こす。


「そ、そうね。(わたくし)としたことが、冷静さを失って醜態を晒してしまったわ」

「どうしてクイネ様はこの部屋に?」


俊和が尋ねると、クイネは上から目線で話し出す。


「貴方達が清朝石が必要だと聞きました。ユーグリス村の為にも、ウェストフェリスの女王決定戦で(わたくし)、クイネ=メーデリンカが優勝して清朝石を譲ってあげますわ。どんなにミリアナが頑張ろうと無駄。ミリアナが出場して、無様に泣く羽目にならなくて良かったわね。光栄に思いなさい」


鼻血で見るからに痛々しいが、クイネはプライドを優先して微笑を浮かべた。

だが、ミリアナは嫌悪感と怒りが籠った口調でクイネに頭を下げた。


「私は貴方の力には頼りたくないので。失礼します」


ミリアナは怒りに任せてクイネを押し退け、ホテルの外に駆け出した。




ミリアナがクイネを押し退けた後、クイネは呆然としていた。


「な、何故あのような態度を(わたくし)に…………………⁉︎」

「当然です。クイネ様がミリアナ様への仕打ちを考えれば、仕方のないことではないでしょうか」


イリスは自分の主が情けなくて仕方がなかった。

俊和のような完璧な人間ではないが、クイネはイリスが専属メイドになってから大分マシになった。

他人への気配りができ、無駄に怒ることも少なくなってきている。


だが、クイネのミリアナへの態度は依然として変わらなかった。

玩具のように扱い、努力を嘲笑う。

クイネの言動はミリアナに対する無意識の嫉妬なのかもしれない、とイリスは考えている。

それが正しいのかは、未だ分かってはいない。


「すみませんが、私はミリアナを探しますので。失礼します」


俊和はクイネとイリスに頭を下げ、ホテルの外に出てミリアナを探し始めた。




「悪いこと、しちゃいました……………」


ミリアナは適当にウェストフェリスを歩き、ベンチに座って溜息を吐く。

イリスの態度はいつものことだから気にしなければ良いのに、いつも世話になっている俊和の為に自分の手で勝ち取ろうと考えていた自分はそれを許さなかった。


だが、クイネを押し退けてしまったことが今、一番後悔している点だ。

不敬罪、暴行罪として自分が罰せられるのは良い。

だが、俊和に責任を負わせることだけは絶対に避けたい。


「どうすれば…………………」

「大丈夫ですよ。全部から、逃げてしまえば」

「ひゃあ!」


いつの間にか隣に座っていた少女に耳もとで囁かれ、ミリアナは少女の吐息がくすぐったく感じた。


「逃げることは罪ではありません。人は、罪を犯したと感じた時にその罪から逃れようとあらゆる手段を模索します。ですから、貴女の葛藤も正しい」

「えっと、貴女は誰ですか?」


説法を始めた少女は、ミリアナの問いに笑顔で答えた。

「私は、リーシェ=ネオルダム。ただの女の子です」

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