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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
3・水上都市ウェストフェリス
16/44

湖の調査

翌朝の午前三時。

俊和はすぐに起床し、着替えて湖に向かった。


「湖の色に問題は無さそうですね。おっと」


俊和はポケットから硬貨を落とし、硬貨が瞬時に溶けて無くなったことに違和感を感じた。


「この酸性の強さ…………、まさか」


俊和は試しにリトマス試験紙と同じ役割を果たす白い紙を湖に投げ入れ、紙はドス黒い黄色を示した。


「この湖の酸性が強過ぎる。村長は水が出ないと嘆いていたが、この状態では水が出ないままで良かった」


万が一湖の水が蛇口から出ていれば、死者も出ただろう。

無臭というのが、強酸性の厄介なところだ。


一応水道管のチェックをしてみたが、土砂に埋もれて水道管が破損していた。

水道管の修理の必要もあるが、このレベルの酸性だと先に湖の中に入れる巨大な清朝石が必要不可欠である。


「これは、村長と相談する必要がありますね」


俊和は湖の状態と水道管の状態を手帳に記録し、一旦帰宅しようと湖に背を向けた時、殺気を感じて振り向いたが、誰一人いなかった。


「……………?」


俊和は訝しんだが、すぐに村長の家に向かった。




「…………という訳です」


俊和が湖に起きた異変などを村長に説明し終えると、村長は土木工事に詳しい知り合いに電話をかける。


「朝早くすまん。湖を囲う規模の鉄柵の設置にはどれぐらいの時間が必要だ?」


『大体一週間で何とかしてやるよ。費用は前に柳沢さんに助けて貰ったからこれでチャラな』


「分かった。頼むぞ」


村長は電話を終え、俊和に電話の内容を説明した。


「一週間で湖を囲う鉄柵は何とかなるらしい。問題は、湖が浄化されるまでに必要な水だ。今は備蓄の水で対処しているが、それもやがて尽きる。俊和の家から供給は可能か?」


「ええ、出来ますよ。ただ…………」

「ただ?」

「ある程度の質の高い水晶が大量に必要です。村長は水晶の購入をお願いします」

「分かった。儂に任せておけ」


村長に大して能力はないが、やる時は皆が不思議と協力しようと思えるような魅力を醸し出し、必ず成果を出す。

それだから、村長は今の地位を維持できているのだ。




俊和は正義の海賊を謳う男、オクヴィ=ハーメルンに電話をかけた。


「お久しぶりです、オクヴィさん」

『どうした、俊和。まさかウェストフェリスに行きたいとかじゃないよな?』

「そのまさかです」


オクヴィが溜息を吐き、俊和を諭すように言った。


『最近のウェストフェリスは女尊男卑で男性だけの観光客を受け入れない。それに、船乗りを除いた二人以上じゃないとダメらしい。俊和には悪いが、俺は従うしかねぇ。俊和は嫁か協力者でもいんのか?」


「なら、手はあります。二人で行きますので、至急船を出す準備を」


『分かった、俊和と協力者の二人で昼までにレトフンに来てくれ。すぐに出発する』

「分かりました。それではレトフンで」


俊和は電話を切り、寝ているミリアナを起こす。


「ミリアナ、すぐに起きて下さい」

「んん〜! 俊和さん、おはようございます」

「おはようございます、ミリアナ。大事な話がありますので、急いで着替えて下さい」


俊和は退室し、ミリアナはぼうっとして見送る。

寝惚けていていまいち俊和の話を理解できていなかったミリアナが、時間が経ってから至急の用件だと判断した。


「大事な話って、え⁉︎」


ミリアナは俊和に内容を聞こうとしたが、既に俊和は部屋から退室した時だった。


「何の話だろう…………?」

ミリアナはすぐに着替えて、駆け足でリビングに向かった。




ミリアナがリビングで朝食を済ませると、俊和が現在の状況を説明した。


「……………という訳です。ミリアナ、昼頃にレトフンでハーメルンさんの船に乗ってウェストフェリスに行きます。恐らくウェストフェリスで長く滞在することになりますので、準備を怠らないように」

「は、はい……………」


今日までそんなに重大なことが起きていたとは露ほども知らなかったミリアナは、返事をするのが精一杯だった。


「ミリアナ、どうかしましたか?」

「い、いえ!何でもないです」


ミリアナは慌てて首を横に振り、逃げるように自室に戻って外出の支度を始めた。




それから数十分後。

俊和とミリアナはユーグリス村を出て、レトフンに続く道を歩いていた。


「あの、俊和さん。イルフィンザールから帰ってきた時に私が家で待っている意味は分かりましたが、外で何かあったのですか?」


「今は人喰いミミズが一斉に畑を耕す時期なので、ユーグリス村の人は畑の方に行きません。ですが、全く知らないミリアナが万が一畑の方に行ったら、無事に生還できることが奇跡になりますから」

「………………」


ミリアナは本当に自分が外出しなくて良かったと安心し、もし、を想定して身震いした。




正午。

俊和とミリアナはレトフンに到着し、オクヴィが二人を出迎えた。


「おう、俊和。連れは嫁さんか?」

「いえ、同居人です」

「私はミリアナ=エストレジアと申します。オクヴィさんのことは、俊和さんから事前に聞いております」


ミリアナが自己紹介をして頭を下げると、オクヴィは苦笑いを浮かべた。


「悪りぃ、そういうのは俊和だけにしてくれ。俺は女の子と呼べるような女に出会ったことがねぇから」

「ティフィに怒られますよ」

「仕方ないだろ、あんなに暴力を振るう女だとは結婚前に見抜けなかったんだ。諦めはついてる」


オクヴィは盛大に溜息を吐き、船に寄りかかる。

ティフィの話になるとオクヴィはいつもやる気を無くすので、俊和は話を変えた。


「それで、船の準備は出来ていますか?」

「ああ、問題ない。今すぐ出航できるぜ」


オクヴィは自信満々に頷くと、俊和とミリアナの荷物を持って船の中に入っていった。


「あの、俊和さん。オクヴィさんって……………」

「まあ、気にせずに。彼は良い人ですから」


俊和とミリアナは船の中に入り、オクヴィが水晶から清朝石を取り出して天高く放り投げ、爆音が響き渡る。


「よし、これからウェストフェリスに出発するぞ!」

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