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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
2・商業都市イルフィンザール
14/44

事後処理は内密に

俊和が軍に通報した時、軍から商会ギルドに連絡が入った。


『申し訳ありません。フューリ=イルフィンザール様はいらっしゃいますか?』

「彼は行方不明でね。儂等も困っているところだ」


シーヤ=エンゲストゥが溜息を吐き、相手が察して電話を切った。


「君の指示通りにやったが、感想は?」

「完璧です。申し分ありません」


フューリは恭しく一礼し、シーヤに三百万リグスを支払う。


「君から大金を貰うとは思わなかったが、以前の君とは違うようだ」

「人も川も、流れるだけではなく変化も付き物ですから」


フューリが笑い、釣られてシーヤも笑いながらフューリにある物を手渡す。


「これは?」

「会長が君にボーナスを渡したいと常日頃から言っていてね。中身は、儂には分からないが」

「ここで開封しても構いませんか?」

「ああ、いいとも」


フューリはシーヤに許可を得て、箱を開封した。

中身は、二百万リグスとルミステリへの転勤を通達する一枚の紙が入っていた。


「なるほど、ルミステリか。フューリ、お前は相当期待されているな」

「………………」


シーヤが友の転勤を喜ぶが、フューリの表情は硬かった。

ルミステリ(・・・・・)は、過去の住み易い国(・・・・・・・・)トップ(・・・)

現在のルミステリは転勤先としては、最悪の国だ。


「どうした、フューリ? 何か不都合でもあったか?」

「いえ、特にはありません。それよりも、天使の家(エンジェルハウス)の爆破テロはどうなりました?」


(私の左遷がそこまで嬉しいのか、このクズが!)


シーヤはわざとらしく首を傾げ、フューリは内心で毒づく。


天使の家(エンジェルハウス)の爆破テロはもう解決したそうだ。軍の管理体制の甘さが表面化したような事件だ。軍には、商会ギルドからの寄付額を減らすとしよう。そうすれば、奴等も面倒なことは起こすまい」


余談だが、軍と商会ギルドには太いパイプが繋がっており、商会ギルドの意見を軍は無視できない。

無視すれば、商会ギルドの会長が軍の総司令官との

壮絶な揉めあいが発生して収拾がつかなくなるからだ。


その時に解決したのがフューリであり、それ以降からフューリは何かと優遇されていた。

シーヤはそれを面白くないと感じ、フューリの息子が商会ギルドの権威を振りかざして決闘を仕掛けて敗北し、フューリが連帯責任として処罰された時は小踊りまでしたという。


(結局、あの仕事も私の部下にやらせてシーヤは何もせずに名声を得たと聞いた。これ以上、こいつの好きにはさせない)


フューリは決意を固め、シーヤにお茶を注いだ。


「わざわざすまない。なに、君は優秀だからどこでも活躍できる。イルフィンザールを離れるからといっても、君はすぐにイルフィンザールに戻るだろう。少しの辛抱じゃないか」


「私の能力を評価して頂き、ありがとうございます。ですが、今回は厳しいかもしれません」

「何か問題でもあったのかい?」


シーヤはフューリから不祥事のネタを聞き出そうと親切なふりをしてフューリに聞いた。


「いえ、最近の自分の実力が他人よりも劣っていると思いまして。正直、不安です」


フューリは弱音を零し、シーヤが愉悦の表情を浮かべる。


「そうか。まあ、君が転勤するのは久しいからね。慣れない職場に移動するのは誰だって厳しい。だが、君なら問題ないと会長が判断したんだ。君は会長の期待に応えるべきではないかと儂は思うが」


シーヤはニヤリと笑い、フューリは申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません、弱音を吐いてしまって。シーヤさんの言う通りです。会長の期待に応えられるよう、ルミステリでも頑張ります」


フューリがシーヤに一礼し、立ち去ろうとした時にシーヤが嫌味を言った。


「うむ。儂は君の活躍に期待しているよ」


(こいつの人生が続いていれば、首肯しただろうな)


フューリはシーヤを内心で嘲笑し、商会ギルドを後にした。




シーヤはその後、会計帳簿の改竄を始めた。

いつものように支出の項目を追加し、自分に怪しまれない程度の金を必要経費に水増しして引き出す。

一日ですぐに大金を得られないことが欠点だが、会計を担当するフューリが本部から転勤すれば、やる気の欠片すらない名ばかりの人間がやることになるだろう。


「さて、これぐらいにしておくか」


「忘れ物がありました、すみません。シーヤさん、まさか帳簿の改竄ですか?」


わざとらしく慌てた様子でフューリがペンを回収し、シーヤの手元を録画用の水晶を右手で隠しながら見た。


「貴様、計ったな! まず、何故そんなに手際よく出来る⁉︎」

「だそうですよ、副会長」

「なッ…………! ふ、副会長⁉︎」


シーヤの目の前で青筋を浮かべてシーヤが改竄した帳簿を破り捨てた坊主頭の男は、シーヤの襟首を掴んで壁に叩きつける。


「俺が久しぶりに帳簿を確認したら、ところどころで改竄の跡があったからな。面倒な確認作業を進めていく内にお前が疑わしいという噂を聞いたんだが、張っといて良かったぜ」

副会長は煙草を取り出したが、社内禁煙を思い出して舌打ちして煙草を仕舞う。


「まっ、待って下さい副会長! これには深い訳が…………」

「悪りぃな、シーヤ。会長と違って異端者に優しく接することが出来なくてよ‼︎」


シーヤの命乞いを無視し、副会長は一撃でシーヤの頭蓋骨を粉砕する。

頭蓋骨を粉砕されたシーヤは言葉を発することはなく、壁を血で汚しながら床に落ちた。


「ふ〜! 久々に頭蓋骨を粉砕した。フューリの演技、実に見事だったぜ」

「光栄です、副会長」


ふざけて役職で呼ぶフューリに煙草を投げ渡し、副会長は笑った。

「副会長はやめてくれ。プライベートの時までお前に役職で呼ばれたくはない」

「分かったよ。スゼルフは大丈夫なのか?」


副会長、スゼルフ=メディスラーム。

弱冠二十四歳という若さで副会長に就任した人物で、フューリの同期に当たる。

フューリはスゼルフの副会長としての激務を心配したが、スゼルフの様子を見ると心配する必要は皆無だった。


「ああ。暇過ぎて帳簿が改竄されていないかチェック出来るぐらい暇だ」


スゼルフは欠伸をして、フューリにコインを投げる。


「これは?」

「爆破テロの影響でイルフィンザールの治安面が叩かれていてな。そのコインをあいつに見せれば何とかしてくれる」

「あいつって…………、なるほど」


フューリの頭に一人のコイン商が浮かび、フューリは

頷いた。


「ま、頑張ってくれよ。お前しか俺を理解してくれる奴はいないからさ」

「友達が多いお前が何を言ってるんだよ。息子が失敗した件も含めて、これからも頑張るよ」


フューリとスゼルフは笑い、スゼルフはシーヤの死体処理の為に商会ギルドを後にした。

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