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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
2・商業都市イルフィンザール
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イルフィンザールの伝説

マーキュリーとミリアナが交代し、終了時間に差し掛かった頃に俊和がベアにまた来店した。


「すみません、スコーンが八とバケット十五で」


「分かりました、少々お待ち下さい」


ミリアナはすぐにスコーンとバケットをベアの袋に詰めて俊和に手渡し、代金を受け取る。


「ミリアナにとって、ここの仕事はどうですか?」


「初めてばかりで緊張しましたが、凄く楽しかったです。

正直、今は凄くお腹空いてます」


ミリアナの答えに、マーキュリーと俊和は口を抑えて笑い出した。


「それなら言えば良かったのに〜!」


「相変わらず、空腹に悩んでいましたか」


自分が大食いなのがはしたないと感じたのか、ミリアナは俯いて顔を赤くし手で顔を覆った。


「ミリアナ、食べ放題の店に行きますか?」


「た、食べ放題!?」

「ちょっと、俊和さん!

それは無理があるって………!!」


マーキュリーが押し留めようとするのも無理はない。

イルフィンザールでの食べ放題は、一時間の間に店が指定した量を完食すれば賞金と食事代の免除を受けられるが、失敗すれば料金の十倍を支払う。

いくら大食い自慢でもイルフィンザールの食べ放題はリスクが高いので敬遠する者が多い。


「どれだけ食べても問題はないんですよね!?

私、昔から食べ放題にチャレンジしてみたかったんです!」


ミリアナは興奮したように俊和に尋ね、俊和が了承すると嬉しそうにはしゃいでいた。

ミリアナが王女だった頃は王妃が大食いなどは不名誉と考えていたようで、あまり食事で満足できなかったとミリアナから聞いた。


(ミリアナは食事で機嫌をとることが可能、と……)


まさかこんなに喜ぶとは思わなかった俊和は、手帳にメモしてから上着のポケットに仕舞い、ミリアナとマーキュリーを連れて食べ放題の店に向かった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「いらっしゃいませ!

何名様でしょうか?」


「三名です」


「空いている席にお座り下さい」


店員に案内され、俊和達は椅子に座ってメニューを見る。


「私はジャスミンティーだけで充分ですが、マーキュリーさんは?」


「あたしは……、ナポリタンで良いかな」


「私はスコーン食べ放題で!」


「構いませんよ。

さて、オーダーしますか」


俊和が店員を呼び、注文を伝える。


「ジャスミンティーにナポリタンを一つずつ、スコーン食べ放題を一人分お願いします」


「スコーン食べ放題はどなたがチャレンジされますか?」


店員は俊和かマーキュリーだと思っていたらしいが、ミリアナが手を挙げて店員が腰を抜かす。


「ほ、本当に大丈夫ですか?

料金は五十万リフスですが」


「では、先に五百万リフスを預けておきます。

これなら問題ありませんよね?」


俊和に五百万リフスのコインを渡し、店員は頷いた。


「りょ、了解しました。

制限時間は三十分、量は五十キログラムのスコーンです。

それでは、開始します」


ミリアナは待ちきれなくてうずうずし、俊和は優雅にジャスミンティーを飲み、マーキュリーはナポリタンを待ちながら不安そうな表情で俊和を見た。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



厨房では、少女が食べ放題にチャレンジすると聞いて店長はガッツポーズを決める。

あの少女がスコーンを完食出来るとは到底思えない。

違約金を払わずに逃げる客も少なくない為、先払いは本当に店側としては助かっている。

後は少女のギブアップを見守るだけだ。


「よし、五百万リフスで宴会だ!!」


「「「「「おう!」」」」」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「お待たせしました。スコーン五十キロです」


店員が運んできたスコーン五十キロを見て、マーキュリーが俊和の肩を掴み、激しく揺らす。


「ミリアナちゃんじゃ、この量は無理だって!」


「大丈夫です。

ミリアナ、余裕ですよね?」


「はい、いただきます!」


ミリアナがスコーンを食べ始め、店員が内心でほくそ笑む。


(この子がスコーン五十キロを三十分で食べきれる訳がない……………!

店長の奢りで今日は宴会だ!)


この時のことを、店員達は語る。


『あの時、自分達は浮かれていたんだと思います。

二度と、人を見た目で判断してはいけないんだと教訓になりました』



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「腹二分目ですね。

ごちそうさまでした!」


「十分ジャスト………!?

ま、まだ余裕なんですか?」


「はい、後五回ぐらいは余裕でチャレンジできると思います」


ミリアナの自信に満ちた表情と、スコーンを食べている時の表情に店員は恐怖していた。


(化け物だ……!)


五十キロのスコーンを食べ、まだ腹二分目というチャレンジャーは誰一人いなかった。

まず、三十分以内で完食できないことが多かった。

だが、ミリアナは苦しい表情や休憩をすることなく十分間食べ続けていた。


「それで、賞金の五百万リフスは?」


「───」


俊和は店員が逃げ出さないように店員の腕を掴みながら賞金を聞く。


「お、おめでとうございます。

五百万リフスと預かっていた五百万リフスです」



店員は内心で涙を流し、俊和に合計で一千万を渡してから厨房に戻った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「店長、あの子十分で完食しました!」


「う、嘘だろ!?

そんな訳があるか………!」


店員の話を聞いた店長は激怒し、厨房を飛び出して俊和達が座っているテーブルに向かって走る様子を従業員一同が溜息と共に見送った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「す、すみませんが、本当に完食されたのですか?」


「はあ!?

あたしはミリアナちゃんが完食したところを見ていたし、俊和さんやこの店の店員も見ていたんだから当然でしょ」


マーキュリーの抗議にぐうの音が出ない店長は、ミリアナにある提案した。


「お嬢さん、スコーンを一時間以内に五百キロで、賞金は一千万リフスでどうですか?」


「私は大丈夫ですが、俊和さんは?」


「ええ、それで構いません」


俊和は頷き、店長が嬉々とした表情で厨房に戻り、スコーン五百キロを持ってきた。


「では、始めます」


ミリアナは量を確認し、俊和に目配せする。


(これなら余裕です!)


(ミリアナなら、問題ないでしょう)


(俊和さんもミリアナちゃんも、何でそんなに自信があるの………!?)


余裕の二人と、内心で慌てる一人の気持ちを乗せてスコーン五百キロチャレンジが始まった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「三十分で完食………!?」


「おかわりありますか?」


「……いえ、ありません!!」


ミリアナにおかわりを要求され、店長は脱兎の如く逃げ出した。


「俊和さん、どういうことでしょうか?」


「今日は帰るとしましょう。

忘れ物に注意を」


ミリアナの疑問を切り捨て、俊和は帰り支度を始める。


「ミリアナちゃんって本当に沢山食べられるのね…………」


マーキュリーは嘆息し、自分の食べた量とミリアナの食べた量、互いのスタイルを比べてまた嘆息した。

だが、マーキュリーは今日一日ミリアナの胃袋に驚かされることになる。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



ベアに到着し、マーキュリーが溜息を吐いた。


「ミリアナちゃんが食べ放題の店十店を一日で制覇するとは思わなかった………」


「ふう〜、流石に満腹です」


「十店合計の臨時収入が大体五千万リフスで、ミリアナの胃袋の許容量を考えると…………」


「…………」


俊和が高速で電卓を叩くが、マーキュリーは見なかったことにする。


「さて、今日は宿を予約しておいたので宿に行きましょうか」


「はい!

マーキュリーさん、働かせて頂きありがとうございました!!」


「礼を言うのはあたしの方だよ。

はい、少ないけどごめんね」


マーキュリーがミリアナに茶封筒を手渡し、ミリアナがその場で開封する。


「ありがとうございます!」


ミリアナの給料は一般的な日雇いの仕事の二十パーセント増しで茶封筒の中に入っていた。

それから少し雑談をし、俊和がマーキュリーに頭を下げる。


「マーキュリーさん、私はこれで」


「マーキュリーさん、さようなら!」


「またパンを買いに来て頂戴ね!」


マーキュリーは俊和達を見送り、明日の仕込みを始めた。

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