七日の夕暮れ
彼女とは毎日のように会おうとしていた。スマホで連絡を密にして、彼女を思い出さないときなど殆ど無かった時期もある。そうして他愛無い会話を繰り返しているうちに相手の手札を覚え、最近では予定調和なやり取りをずっと続けている。近頃はどうしてか、彼女のことを忘れる機会が増えはじめた。例えばスマホで会話をしているとき、彼女の表情や仕草は思い浮かぶが、肝心の顔が浮かばない。笑顔やふくれっつらは霞がかって思い浮かぶが、どんな顔の構造をしていたかが思い出せない。例えばスマホの通知が来たとき、彼女から連絡が来たとは思わない。彼女以外に具体的な誰かが思い当たることもないが、強いて彼女のことが思い浮かぶこともない。挙句の果ては彼女と居るとき、久々に彼女の顔を見て、こんな顔をしていたかと不思議に思うことさえあった。
化粧でこんなに変わるものなんだなぁ、と、気まぐれに独り言をいってみて、言葉の意味に愕然とした。温厚な化粧の仮面を剥がした後の、全く別の彼女の表情を初めて見たときも、その力の抜けたようなアホ面に酷く驚いたものだ。しかし独りごちた今、自分の中の彼女に対する印象が大きく覆っていることの方が、途方に暮れそうなくらいに衝撃的な出来事だった。今の今まで彼女の容姿を気にしているつもりは一切無かった。はたと見て、整っているとか、魅力的だとか、不揃いだとかを感じることはあっても、そういう一時的な印象と、相手へ注ぐ愛情とは切り離して考えていた。しかし気が付けば、あんなのに甘い言葉を吐いていたのかと、ため息が出そうなくらいに気落ちしていた。
携帯が鳴った。見てみると、彼女からの連絡だった。こんな日くらい会いたい、そんなことが書いてあった。どんな日かと返事を返そうとして、逆鱗に触れそうな気がして止める。逡巡してから、今日は会えそうだと返した。空を見やると夕暮れで、水っぽい紺色と焼けるようなオレンジとの境目が、遠くの空で揺れていた。一体、どんな日だというんだろう。
願い事が叶って良かった。彼女と会ってその一言を聞いたとき、ロマンチックな流星の数々が一斉に胸の内から溢れ、全身に突き刺さった。ちくちく痛い心を隠して、へらへら笑って彼女を見ると、今までに見たこともないくらい酷い顔で、彼女が泣いた。