VS “Ice Slush Princess”
宗次、名織、皐月、イギルの四人は、バトルスタジアムへやってきた。
ドーム型の建物で、ギャラリー席と無骨な電光掲示板が両脇についている。
テニスコートのような緑色の床に、200メートル四方を囲んだエリアラインと、中央を区切るためのラインが引かれている。
区切られた二つの自・敵エリアの真ん中に、初期位置を示す直径2メートル程度の円が示されていた。
円のラインに沿って、三つ、△の形をしたくぼみがある。
宗次と名織はそれぞれ自陣の円の外に立つ。
お互いの円まではきっかり100mだ。
名織の背後には皐月がいて、二人で何か会話しているが聞き取れない。
宗次の背後にはイギルが声をかけてくる。
「逢坂、緊張しているのか。相手がトップクラフトだからこそ気兼ねもなしだ。
お前より遙かに戦闘経験は積んでいるだろうしな」
「ええ」
「シールドを起動させられない時点でお前の負けだが……
やったことはあるのか」
「まあ」
「ところでお前、何か余計なことを鴇弥に言ったな?」
「さあ」
親切からの声掛けも無愛想にかわす。ため息をついたイギルは宗次の背中を叩き、
「施設を稼働させる。準備が出来たら円の中に入っていろ。
あと、これを預ける。降参するなら早めにしておけ」
受け取った白いボタンが付いたアクセサリは“ギブアップスイッチ”だ。
試合において必ず両者は携帯義務を持つ。無論、押せばその時点で負けだ。
イギルはスタジアムのコントロールルームへ入っていった。
同じタイミングで女子二人の会話も終わったようで、名織が宗次へ問いかけた。
「オプションルールはどうします? 逢坂さんが決めて良いですよ」
「――ウェポンOK、準備術式OK」
ウェポンとはその通り武器のこと。
ウェポンは術以外の攻撃方法で、メインウェポンとサブウェポンに分かれ、メインウェポンのみの試合であれば使える武器は一つ。
サブウェポンがOKの試合なら、武器に制限は無くなるということだ。
この試合ではウェポンそのものをOKとしているので、武器は何でも使えることが出来る。
公式では条件が定められているのが通例だが、こういった個人試合では対戦者同士で取り決めを行う。
そして、準備術式。
これはティアンスのみ、S・デバイスに聖術式をストックしておける。
プリセットは試合開始直後に速攻発動する術式で、それを上手く運用できれば勝敗を有利に運べる。
ディバイド側は当然聖力に反応するS・デバイスを使えない=プリセットを使えないため、ディバイド側に取って不利となる。
プリセットをディバイドの宗次が許可することは、明確に「ハンデをくれてやる」と言っているのと同じだ。
だから名織は、また怒る。
それどころか怒りが一周巡って逆に冷静になってすらいるように宗次には見える。
「……本当に良いんですね。後悔しても知りませんから」
――床や壁や天井に聖術バリアが発生し、あたり一面がほのかに青白い光を放ちはじめる。施設が稼働をはじめた。
足下は清掃が行き届いた体育館の床のようにグリップがよく効き、動き回るのに不足はない。
スタジアムの壁にしつらえられたモニターには、戦績情報が表示される。
N.Tokiya
Win 99 Lose 2 Draw 1
Craft Grade:TOP CRAFT
S.Aisaka
Win 0 Lose 0 Draw 0
Craft Grade:UNKNOWN
「……中等部にいた頃の戦績です。これでもまだハンデなんて言えるんですか?」
「さっさとやろう」
名織の善意を払いのける。
迷いなど、とうに無かった。
宗次は円の中に踏み込むと、そこから機械的な女性の声が聞こえる。
『Bコート使用者をディバイドとして認証。シールドの起動を開始してください。
詠唱式 エルギィ・ゾファレービス・エザイア・レヴ……』
簡単な術式の復唱を求められ、宗次は小さくつぶやく。
すると――円に沿う三つの△のくぼみから、三角錐のオブジェクトが飛び出し、宗次を取り囲んでくるくると回っている。
間もなく宗次の周りを取り巻くように、薄い暗闇のオーラが放出されはじめた。
相対する名織は白いオーラを放出している。
――立体シールドの起動。これは安全上、試合では必ず義務となっている手順だ。
あらゆる公式戦での最低参加条件である。
これが出来ずに公式戦に参加できないティアンスは少なくない。
しかし、ディバイドに関しては、それに比すればかなりの割合で立体シールドの起動を行えない者が多い。
魔力は扱いが難しい。それは場所場所における瘴気の濃度、個人練度、魔術教育体系の不確立。要因は様々。
ディバイドが学校でくじける理由は、何も差別ばかりではなく、こういう要所にもある。
立体シールドはライフ代わりとなる。これを全て摩耗させる、もしくは破壊した方が勝ちだ。
相手を倒すには体を覆うように放出されている白い“オーラ”を狙えばいい。それをすべて発散させた瞬間、勝ちは決まる。
――アナウンスが、スタジアム中に響き渡る。
『Take your mark<位置に付け>』
両者は、静かににらみ合う。
『Get...set...GO!!!<用意――はじめ>』
▽ △ △▽ △ △
△ ▽ ▽△ ▽ ▽
『Get...set...GO!!!』
とうとうバトルだ、と名織は冷静な頭で考えていた。
相手の実力は未知数。対してこちらは公式戦の配信などで実力は知られているだろう。
ーーけど、それがどうしたの。
未知数だからこそ手加減は出来ない。したくもない。
……そう思いたいのだが、しかし対戦相手にはとてつもない問題があった。
逢坂宗次は、まさかあぐらをかいて座り込む。
そして一言、
「いつでも来い」
……ナメられている。ふざけられている。完全に。絶対に。確実に。
ゆ、る、さ、な、い!!
ぐつぐつと怒りが湧いた心を必死に押しとどめる。彼がその気なら、こっちも考えがある。
プリセットには“武器呼出”のみをセットしているが、それは使わない。使う必要がない。
聖術だけですぐに終わらせる。
それが精一杯の彼への反抗であり、せめてもの意地だ。
「……1」
突然の数を口にした宗次に、少し動揺する名織。
宗次は誰の目も気にしない。ただ無表情で、
「2」
数を数える。
ーーまさか、本気で30秒数えるつもり?
「3」
あの人なんて自信なの……いや、違う。ただ単に頭がおかしいんだ。
「4」
私に勝とうとするなんて……変だよ、この人、本当におかしい――
「5!」
語気が強くなった。名織はあきれて動けなくなっていた自分を叱咤する。
相手に気圧されていたのは事実。
宗次からさっさとしろ、というプレッシャーが痛いほど伝わってきた。
彼が何を出来るのかはわからない。けれど、30秒は的でいることを是としている。
ならばこの好機、逃してはいけない。
「大けがしても知りませんからね!!」
名織はこの場に最適な術式を諳んじる。
名織の素質である聖力の総受容量は非常に高い。加えて、術の構築スピード(術式の理解とS・デバイスへの転写)が非常に早い。
その能力を駆使して複雑な特性付加のなされた氷の壁を作ることができる――
「8」
上級者といえど、簡単に破れない“氷の鉄壁”を。
ただ二つ名“氷雪の姫君”の由来はまた別のところからなのだが――とにかく。
今目標にすべき人は、目の前の無謀なディバイドではない。自分の後ろで悠々とこの試合を見ているであろう、皐月会長だ。
今は、普段自分が防御において用いる“氷の鉄壁”を今回は“攻撃”に転用する。
「ファレア、フォク・ウェクス・ブロクン・フルオクム、グレア《グレアより産み落とされし氷の神子、ファレア》。
read:file《sp》、stand byーー」
宗次が「11」を数えたところで頭で術式を詠唱。
氷の化身の神託の枕詞と、データファイルをS・デバイスから呼び出すショートカットを詠唱、それはS・デバイスが瞬時に転写、術式の発動構築をし終えた。
名織の足下に、白色に光る術式印が、超高速で描かれはじめる。
まるでプログラムを走らせたみたいに未知の言語が自分の足下に出現する光景は、いつも神秘を感じる。
「模筒堅牢<シリンダープリズン>――!」
……ここにある酸素と水素を結合させ水にし、それを氷らせるのでは間に合わない。
そのためまず、多量の水を召還する。そしてそれをある形にイメージしながら一気に凝結させる術式だ。
座ったまま動かない宗次の周りに、円筒状の氷壁が“発生”したかのようなスピードで超速構築される。
いつも自分が防御するときに使う氷の壁を、相手を閉じこめるのに利用した。
氷の筒の上部は、聖力の特殊な結びつきで鉄より固くなった氷の格子により、宗次の脱出が完全に阻まれる。
「さっさと降参してください、じゃないと――」
最初の攻撃は、確実に強力に痛めつける。
「氷の茨を食らいますよ!」
氷の筒の中に、先端がとがった氷柱を瞬時的に形成させる。筒の中に逃げ場は与えない。
切っ先の鋭い、しかも聖力によって固くなった氷柱による牢獄は、まさに鉄の処女<アイアンメイデン>という中世の拷問具にも等しい。
上に下にど真ん中に、相手をミンチに出来るほどの氷柱を発現させるのだ。
バンッ、バキッパギギギャギッ!!
氷と氷の打ち付け合う乾いた音が場内に響く。筒の上部から砕けた氷の破片がきらきらと舞う。
相手が上手く避けているかはわからないが、痛手を負わせられるのは過去の試合でも学習済みだ。
シールドで身を保護していなければ、身体の保証も出来ないほどに無慈悲な術だ。
しかし、これだけでは済まさない。
――早く降参して。そう思いながら次撃への布石を終える。
名織は新たな聖術を発動、再び白い光と文字が足下に高速描写される。
名織が好きな術は氷術だけではない。
次に視覚的に見栄えのある炎術(と名織は思っている)が彼女の得意分野の一つ。
試合開始と同時に、まず氷で防御壁を構築。そこから炎術でフィールドを蹂躙――それが名織の普段の戦い方だ。
しかしそんな戦法が通じず、交流試合で負けた一人は、生徒会長の皐月である。
そう、紛れもなく“瞬殺”された。
氷の壁で自分の防御を確立する前に、彼女の驚異的なスピード力で敗北を喫した。
それが名織のLose2の一つ目の内訳。
苦い思い出を振り払い、名織は叫んだ。
「炎砕<ファイアクラッシュ>!!」
重力魔法と炎魔法の融合術式を発動する。
ハンマーを模した分厚く青い炎の層がいくつも重なって相手の頭上に殺到する。
ハンマーよろしく柄がついているのは、単なる名織の趣だ。
質量と熱量を相備えた一方的暴力を、無謀な敵へとたたき込んでやる。
維持するのも術式によってなされるため、かなりの集中力が要る。
高温の状態にある氷牢がいささかも溶ける様子が見えないのは、聖力術式による強化にある。
即興の牢獄は、まるで逃げ場のない地獄に等しい。
「さっさと降参して、もうわかったでしょう!!」
だが。
名織はそこで自分は決定的な間違いを犯したことに気が付いた。
相手の様子が見えず――わからない。
ギブアップスイッチは降参のブザーを発せず、氷の中の様子を知るすべもない。
……もしかして、ギブアップスイッチが壊れている?
術式の構築を間違え、筒の中が凍り付けになっている?
あたりどころが悪く、気絶している?
ーーすでに、死んでいる?
逢坂宗次はまさか……自殺でもするために、名織との勝負にこんなハンデを付けて望んだのだろうか。
この降参を促す叫びだって、彼にはすでに聞こえないかもしれない。
聞こえない状態になっているかもしれない――。
不安が、名織の背中にじっとりと変な汗を浮かべさせる。
そもそも牢獄のように分厚い氷で相手を視認できないのはまずかった。
少し痛めつけようとしただけなのに――あの憎たらしいカウントが聞こえないだけで、名織は不安で仕方なくなる。
今まで交流試合名目で無謀にも名織に喧嘩を売る術士はごまんといた。
自分はまだ子供で、だからナメられる。それは理解していた。
けれど、そのほとんどはおそれをなし、すぐに降参した。
だが宗次は今、降参すらできないような状況なのかもしれない。
「早く――早く、降参して……っ!!」
思えば血が上りすぎていた。まだまだ自分は幼かった。
あんな挑発に軽々と乗っかってしまった。彼は戦闘未経験なのに――!!
ぐらり。
ハンマー状の炎が、不安定な燃え上がり方になる。白色に近い炎は青色に、そして赤色に変化していき、小さくしぼんでいく――
やがて、消失した。というより名織が集中を欠いて消してしまったのだ。
残酷になりきれない自分を責めたが、きっと自分は間違っていない。そう言い聞かせる。
だが。
その判断さえ間違いだったことに、名織は――
ピシッ
パ
キッ
パキッパキパキパキパキ
乾いた音が、スタジアム内に走った。乾いた音は連鎖を起こし、
ピシピシメキ・パキピシビシ――――ビシリッ
筒の牢全体に巨大な亀裂がほとばしった。しかしそれにも増した異変が、中から起きている。
氷が内側から黒ずんでいくのだ。
――その正体はおそらく魔力の素となる“瘴気”。
黒い煙はあっという間に凍り全体を蝕み、亀裂からまるで血のようにあふれ、地面に流れていく。
そして――
名織の周りから音が消えた。
それは心理的な要因からだった、と思う。
自分が苦労して編み出した氷の壁が、鉄壁とうたわれたこともある自慢の術が、音を立てて崩れていく。
まさか、ディバイドの手によって。
音を立てて崩れているはずなのに――その音が聞こえない。
自分のやってきたことのすべてを否定されたような感覚だった。
別に名織はディバイドをさげすんでいるわけではない。
……そうだよ、私はディバイドを尊い存在と思っている。
だから私は差別されるディバイドのために参画集社に入ったし、だから私は彼らの立場をよくしようと――。
けれど、今ここにいる自分はどうなのだろう。
意識の根底に根付いていた「ディバイドに負けるわけがない」というあまりに常識的すぎた認識が、彼女の眼前の出来事への理解を拒否している。
…………私は、ディバイドを蔑んでいた?
絶対に彼らディバイドに負けないという自信は、彼らを見下していたから?
「――――――25」
目前の敵のつぶやきが、自分の意識を虚空から引き戻した。
25という言葉が一瞬、何を意図しているのかわからなかった。
そして名織は不意に、瘴気の強さに顔をしかめる。
イリーガルの住む地下街区域に研修に行ったとき、感じたこともない瘴気の濃さに生理的な嫌悪感を覚えたものだが――
これは、その比ではない。
この黒い気体に体の少しも触れたくないという本能からの拒否感が、体をすくませる。
……とてつもなく強い力。
経験したことがないほど強い魔力を、相手は持っている――?
「27」
何かを短いものを手に持っている。
あれは――武器?
「28」
彼はすっくと立つ。傷どころか、服にすら乱れがない。
――私の攻撃がいっさい聞いてない。
うそ。うそだ。
倒さなきゃ。
じゃないと。
やられる。
「29」
「――“武器呼出”!!」
と叫んだとき、宗次は
「30秒」
名織の手中にレイピア(細剣)が光の粒子と共に出現。
その瞬間だった。
視界を覆う男の影。
宗次が自分の鼻先まで肉薄していた。その速さも殺気も、人間のそれとはまるで違う。
「――!」
もはや半分反射的にレイピアを振るう。
ガ、インッッ!!!
激しく重い金属音を打ち鳴らし、手の衝撃が頭に伝わるよりも速くレイピアが吹き飛んだ。
目。
目が合った。
獰猛な肉食獣の野性を帯びた宗次の目が、自分の体を射るのを感じた。
柄の部分しかない――日本刀の、柄――が振られ、名織の立体シールドの手前をかすめていく。
柄はシールドに触れてすらいない。
にも関わらず堅い鈍器で殴られたような衝撃が、名織の体を吹き飛ばした。
「き、ぁっ」
声にならない声が漏れた。
そして……気が付けば鈍重な痛みを覚えたと同時に、立体シールドの放出は止まっていた。
三角錐のオブジェクトはごとん、と鈍い音を立てて地に落ちる。
『立体シールドは一定ダメージを超過。
所定の位置に再設置してください。
立体シールドは一定ダメージを超過――』
名織は腰が抜け、糸が切れた人形のようにへにゃへにゃと力が抜けた。どうしてか起き上がれない。
状況を冷静に分析しようとしても、脳の回転が追いつかない。
何もかもが、ぐちゃぐちゃだった。
電光掲示板には次の文字が表示された。
Winner S.Aisaka
▽ △ △▽ △ △
△ ▽ ▽△ ▽ ▽
電光掲示板で自分の勝利を確認した宗次は、起き上がれないらしい名織へと冷たい言葉をかけた。
「……お前は弱い。もう闘うな。
お前がどこまで成長しようが、俺を越えることは出来ない」
「………………」
名織は答えない。だが、無表情の彼女の瞳から、つうと涙が流れ出す。
止めどなく、幾筋も。
「どうして泣く。どこから出てきたのかもわからないディバイド風情に負けるのが、そんなに悔しいか?
どうせお前も、ディバイドになんて負けるはずがないと高をくくっていたんだろう?
そして術を出し惜しみした。途中でやめた。
しかもお前は本気を出す前に失敗した。だから余計に後悔を募らせる。
だが、お前のそんなやり口に一言いってやる。
ざまあみろ。お前は絶対に、俺には追いつけない」
「あっ……ぎ……ぐ………………ぅううううううっ……!!」
鼻水まで垂らして、整った顔をぐじゃぐじゃにして、ダムを決壊させた。
「逢坂クン! おめでとー!」
そんな風に空気の読めない皐月が横から現れる。
そして宗次に握手しようとした右手を、そのまま顔の高さにまで上げ、思いっきり振りかぶり――
パン、乾いた音がスタジアムに響く。
皐月は宗次を思い切りビンタした手を「いったた」と振りながら、
「……決ーめた。二人は同じ班ね。イギルんと同じ班の三人一組。
そして二人はしばらく、できるだけバディでいること」
「………………い……いやでず」
ひっくひっくと泣きながら名織は皐月の言葉にあらがう。
宗次は殴られた首を前に戻そうともせず、下を向いて押し黙る。
「ご覧のように、逢坂クンには欠落している部分があります。
それを矯正して欲しいの」
「「………………」」
――そう来るか……この娘とだけは、組みたくなかったが。
思いながらもしかし、決定権は皐月が握っている。どう抗っても無意味だろう。
皐月は打って変わって冷たい目を宗次に刺した。
「私、彼女の心の強さは知ってるつもりだけど……
今後彼女を悩ませたり泣かせるようなことがあれば、あなたを私はクビにします。
いくらなんでも、その言動はひどいんじゃないかな」
「………………」
宗次は無言で、名織は無理をして言葉に濁音を交えながら、
「私は……トップクラフトになりたいし……活躍したいから、
だいじょぶです」
と涙ながらに言った。
宗次は一言、
「かまいません」
と言った。
皐月はちょっぴり安堵の表情で、
「ふぅ……ようやくわかってくれた?
仲直りの握手は今やれなんて言わないから、ね。
キミたちはもう仲間なんだから。
また日を改めて二人とも力量を判断すればいいし、ね」
「……必ず……次は…………」
名織は最後までうつむいたまま、その先を口にすることはなかった。