バロット、再襲来
入学式を終えティアンスとディバイドは別れ、それぞれがオリエンテーションを受けることになった。
その途中、宗次はティアンスから様々なお言葉をちょうだいした。
「なんだよあいつ、気持ち悪い」
「インチキナルシストが……」
「ディバイドって最低のクズだな――」
そんな心ない暴言を、宗次は涼しい顔で受け流した。
それよりも、望外にも生徒会への切符を得られたことが嬉しかった。
大講堂から出る際に生徒会長・皐月が言った言葉を思い返す。
「あなたきっと、並の人たちよりたくさん苦労するでしょうね。
でも、私は期待してるからね。無名のディバイドクン♪」
苦労なんか、とっくの前に死ぬほどしてきたさ。
その言葉を飲み込んで、宗次は皐月に一礼し、大講堂を後にしたのだった。
これから向かう先は一年生棟一階の講義室――なのだが。
「おい、ちょっと待てよそこのディバイド」
廊下の途中で呼び止められた。相手は三人おり、全員耳は尖っている。
そのうちのリーダーらしいエルフ男が、宗次に侮蔑の視線を向けた。
「お前いったいどういうつもりだ? あんな喧嘩をオレたちにふっかけるなんてな。
さも自分が優れているような言いぐさだったな、ええ?」
取り巻きの二人がリーダーのその言葉に、ぶっと吹き出す。
ディバイドに、ティアンス様を超えられたのに、納得がいかない――
そう言いたいんだろう、彼らは。
宗次は事務的に取り合ってやろうと決めて、
「俺は率直な意見を述べただけだ。どこに問題はない。
それに、あなたたちに喧嘩を売った訳じゃない」
あの言葉は宗次が本心から思っていることだが、それが穏便でない言葉選びだったことも十分承知している。
こんな風に明らかな敵が増えることも理解している。
しかしそれでも宗次には、ああ言わなければならない理由があったのだ。
リーダー格の男はふふんと笑い、
「じゃあオレと勝負してみるか? ただの力比べなら優劣の差ははっきりするだろうよ」
リーダー格の男は有無をいわさずS・デバイスを展開。
クリアブルーの波動が彼の足下を囲うと、余裕の表情で右手を差し出す。
どうやら握力対決をしたいらしい。
そういえばさっき入学式にいなかった狼男のことを思い出しながら、宗次はゆっくりと手を伸ばしそれに応えてやろうとする。
と、
宗次の背後から毛むくじゃらの、獰猛な獣の前足としか思えない手がぬっと出てきた。
「――へへっ、その仕事はオレに任せてもらおっかな!」
毛むくじゃらの男はそう軽快に言いながら、宗次の役目を進んで引き継いだ。
通常の聖術による身体強化を施したとして、この獣足にまともに勝てるかどうか。
毛むくじゃらの男に面食らったリーダー格の男は、右手を引っ込め狼狽した。
「な、なんだ貴様は! 誰も呼んでいないぞ!
オレたちが用件があるのはこっちの男で――」
「このお方への用件はこのバロット様の用件なんだヨ。
しかし遠くから見てたけど、そもそもこのお方を廊下なんぞにお引き留めしていたのは誰かなァ? んん?」
バロットは、このお方に近づくとどうなるかわかってんだろ?とばかりに、爪をちらつかせる。
ティアンスの男たち三人は「汚い動物どもが!」などといった雑言を浴びせながら、そそくさと帰って行った。
「ったく、しょうもないやつらで群れやがって……ねえお師匠さま?
――あ、あれっ?」
手助けに興じたバロットに無視を決め込んで、ずんずん廊下を進む宗次。
「おっ師匠っサマァァアアアアアアアアうげぶらァっ!!」
抱きつきそうなほどに勢いよく走り寄ってきたバロットの腹へ、容赦ない蹴りをかます。
それでも、バロットは折れなかった。
「ぐ、へ……へへ、どうですか師匠? オレってあんな風に使い勝手もいいんデスよ!
しかも打たれ強い! これってすごい使えると思うんです! そうでしょ?
ところでこの腕、いつになったら戻んの?」
宗次がしでかしたバロットの左腕は、いつまでも雄々しい獣のままだ。
宗次は無視した。
まるで犬のようなバロットにべたべたとひっつかれる宗次は、近くのトイレへと直行する。
当然、バロットも同行する。
必然、宗次はトイレの壁でバロットの首元を絞める。
「ごべはっ!!」
「なんのつもりか知らないが、金輪際俺に関わるな。
お前のように同類(不良)になりたいわけじゃないんだ」
喉元をつかまれたバロットは、
「いぎぎぎぐるじい……まどもにばなぜなびがらゆるめでぐで!」
「……」
力を弱めてあげた。
バロットは「ゲホッ」「ガハッ」とむせたあと、訴えるような目つきになる。
「と、とにかく聞いてくれ、師匠。オレはどうしても強くなりたいんだ。
入学式のアレ、師匠の魔術だろ? 扉のところから見てたんだ。すごいよ、師匠は!」
「俺はお前の師匠じゃない。その呼び方をやめろ」
「じゃあ逢坂宗次様!!」
「それはもっとやめろ……」
これ以上バロットの相手をしているとさらに疲れるので、直球をぶつけた。
「強くなってどうする。金をゆするのが目的か」
「違う! もっとまっとうに金を稼いで、家族を楽させてやりたいんだ」
「汚い金で金を得てきたヤツがいきなり変われると思うな。虫ずが走る」
「……だって、ディバイドなんて汚い金でしか生きていけねぇじゃねえか!!」
そのバロットの慟哭は、宗次の心を少し揺らした。
伸ばした髪からちらりと見えるバロットの金色の瞳が、吸い込まれそうなほどきれいな輝きを放っている。
鼻筋がスッと通っている美形顔。体の線は細いが、ある程度の筋肉の付きはある。
そのうえ困ったことにこの男は、融通の利かなさそうな強い意志を持っている。
汚い生き方しか“できなかった”境遇ならば、更生する可能性は十分だ。
「……お前、地下街区域出身か」
宗次は、そう口にした。
地下街区域……学園敷地内に位置する、ディバイドたちの「スラム」である。
「そうだ。でも師匠がいるなら、オレは汚いやり方から足を洗う。絶対にだ」
たしかに治安の悪い場所で落ちぶれているより、優秀なファイターとしてなら軍属、警察などそれなりに求人は見込めるだろう。
だがあいにく宗次は、バロットの先生になった覚えがない。
「強くなりたいなら、自分で強くなればいいだろう。俺を巻き込むな」
「腕を獣化させるなんてワザを使えるの、師匠がはじめてなんだ。
師匠には可能性があるんだ!
こんなちっぽけな半獣化なんかじゃなく“全獣化”だって、もしかしたらできるようになるかもしれない。
頼む、何でもするから……雑用でも小間使いでも奴隷でもいい!!
大事な家族のためなんだ!」
自分が見た最後の家族を思い出し――
「…………だったら、どうした」
バロットから手を離し、背を向けて……逃げるように当初の目的地へと向かい直す。
「ちょ、ま、待ってよ師匠!」
そんな宗次を、バロットはあわてて追いかけた。
二人は50人ほど収容できる小さめな講義室に到着した。
ディバイドのオリエンテーションはここで行われる。
やがてこの講義室に、入学した20人のディバイドがぞろぞろと集まった。
終始むすっとしている宗次は近づくバロットに「すり寄るな、気持ち悪い」とののしった――が、バロットには全く効いていない。
「~~♪」
鼻歌なんぞを歌いながら、入学前に配られた、時間割や授業内容の冊子をめくっている。
さっき宗次が助けたディバイド二人はびくびくとこっちを見ているが、バロットは気づいてすらいないようだった。
こいつは心臓も毛むくじゃららしい。
そんな中「ふぁ~」と大あくびをしながら入ってきたのは、ジャージ姿の猫と、黒いロングヘアの女性だ。
ジャージ姿の猫……に関してはそのまま、としか言えない容姿をしている。
体毛は茶色がかっており、その猫背の上に赤ジャージを羽織っている。自分で加工したのだろうか、ジャージのズボンのお尻付近からしっぽが生えるように伸びている。極めつけに足下はサンダル。
もう一人の女性は、修道服のようにスリットがついた青い生地の服を着こなしている。これはこの学園の女教師の正装だ。
余談だが、他のほとんどの女教師はおろか、生徒すら学園規定の制服の規定をあまり守っていない。
ジャケットの下にはワイシャツとネクタイだとか、リボンだとか、そんな生徒はごまんといる。
教師には白衣やジャージなどは当たり前だ。
眼前の猫も、ここが教育の場であるという自覚を持っていないような格好である。
上級生とすれ違うとわかるが、正装(ジャケット、マント、インナーは黒のタートルネックシャツ)をしている者は圧倒的に少ないのだった。
校風と言えば、校風なのだろうが。
ジャージの猫は女性に黒板へ文字を書かせる指示を出し、
「あー。本日よりおまえらディバイド一年の担任だ。
先生のことは気軽に猫先生と呼べ。見てわかるとおり虎猫種だ。
横文字はかったるいから名乗らねぇ。以上だ」
腰を下ろし、中年の風情でため息を付いた猫先生は「さて何をするんだったか」とバロットが見ていた冊子と同じものをめくっている。
そこで、バロットが宗次に耳打ちするように声をかけてきた。
「なあ師匠、あの猫先生って“全獣化”なのか?」
「そうだ、全獣化だ」
と答えたのは、なんと猫先生だった。獣になって聴力が発達しているのかもしれない。
「この学園で唯一全獣化できるんだわ。おかげで結構浮いてるんだけどな」
おぉ……と周囲から声が上がるが、宗次一人は冷めた目で彼を見ていた。
ーーあれは確かに全獣化だ。だが――体内の魔力が弱い。弱すぎる。
バロットのように体の一部を獣化することを半獣化、猫先生のような全身の獣化を全獣化という。
虎猫種と言えば、宗次は人生で動物園の虎やライオンの成獣よりもっと大きく獰猛な個体しか見たことがない。
猫先生のような小人サイズは、瘴気――魔力の素となる空気中の物質をそう呼ぶ――が少ない地球でしか見られないだろう。
「今じゃ半獣化ができるやつもずいぶん減ったな。
お前らみんな人間みたいなナリしてるのがその証拠だな。
……ところでお前、いったいどんなトリックを使った?
えー逢坂宗次。立て」
いきなりの猫先生の指名に驚く様子も見せず、宗次は立ち上がる。
「ディバイドの序列で言えば1位、学年でも10位だ。
お前はかつてないディバイドのエースっつってもいい……
獣化もせずに生徒会長を下すなんて、考えられん。
だがいったいどうしたらあんな芸当が出来るんだよ」
「……」
宗次、沈黙。
たしかに、ディバイドが強くなる前提条件として“獣化”が必要だ。
魔力も筋力も、獣化をすることで獣化前より明らかに差がある。瘴気を取り入れる力、魔力を効率的に使う力が人間の姿と獣の姿では段違いなのだ。
その上獣化すると、その種族にしかない戦闘上の特徴が露わにもなる。
だが、この地球にいるディバイドで全獣化ができるのは、わずかしかいない。
魔力のもととなる瘴気がほとんどないからだ。
猫先生は宗次を追い立てるように訊いた。
「お前の種族は何なんだ?
巨鬼種、大狼種、虎猫種、賢鳥種……
基本この4つしかいねぇんだ、どれだ」
「俺は、ヒューマンです」
そう答えた瞬間、困惑の波が講義室をざわざわと揺るがした。
この講義室の誰もが抱いた謎を猫先生が代弁する。
「……お前、じゃあディバイドじゃなくティアンスだろ。
どうしてここにいるんだ?」
「いいえ、ディバイドです」
宗次は生物学的に言えば間違いなく人間で、使用できる力の区分で言えば間違いなくディバイドだ。
「なんでだよ!
俺は今年317歳になるが、ヒューマンでディバイドなんて聞いたことがねえ。
それにあんな、見たこともねえ幻術を使いやがる……。
いったいお前さんに何があった?」
「それは教えられません」
「なぁにをォ?」
ムッとする猫先生。
そこに今まで黒板にカリカリと字を書いていた黒髪の女性が和やかな声で、
「はいはいそこまでー」
と手を叩いて、割り入ってきた。宗次は無言で席につく。
「みんな和やかに、ねっ?
じゃあ私も猫先生にならって自己紹介しまーす。
名前はルス・クルガーラジ。ルスって呼んでね。
オーガだけど、体重は……んー、秘密です♪ まあ250キロは超えてるかな?」
オーガの成人女性の標準体重は、150キロと呼ばれている。
ルスの体の輪郭はモデルのようにしなやかで細いが、オーガの筋繊維をはじめとした肉体を構成する物質の比重は、人間と比べケタ違いに重い。
オーガがディバイドの中で一番比率が多いのも、そこに理由がある。
ティアンスとも争いがあった歴史の中で、もっとも抵抗できたのが、格闘喧嘩に秀でた彼らだった。
したがってルスの平均をずば抜けた体重は、イコール強さとも言える。
ルスはさわやかな笑顔を放出しながら、
「ティアンスには担任制度はないんだけれど、私たちディバイドは特別です。
サポートをしっかりしないと――いやしていてもだけど――結構すぐやめちゃうから。
私たちが手をさしのべないといけないのです。
さてさて、それでは猫先生に地球とアミギミアの歴史についてちょっと解説してもらいます。
君たちの歳になっても、知らない人って多いのよね実は」
黒板に書かれた「地球とアミギミアの歴史について」という表題を、ルスはうやうやしく見せる。
「おう、じゃあ地球とアミギミアの歴史についてざっくり話してやる。
地球の西暦2035年。
アミギミアは、ティアンスやディバイドが元いた世界のことだ。
アミギミア最大国家のギーア帝国は、その当時、国内や他周辺国に術による優位性の再認識・資源の確保等の理由を掲げ、祭事の名目のもと、異世界“門”召還の儀を“グレア教”誕生祭にて行った。
優秀な術士の大勢の命を犠牲にして、ついに一つの天空に突き刺さるほどの威容を持つ新たなゲートを召還することに成功。
その門は日本の真東・太平洋の中心付近、海上数十メートルの位置に出現した。
これがアミギミアと地球が世界統合を果たした瞬間だ。
歴史上の“世界統合前”と“世界統合後”はこの西暦2035年を軸としている。
世界統合をし、アミギミア最大国家のギーア帝国はもちろん、辺境国家の地球流入の流れが大きくなった。
その辺境国家の住民ってのは、主に魔物の子孫だ。
アミギミアにはもう一つ、魔界へつながる“門”がある。
そこからアミギミアにやってきていつしか聖力に染まりきってしまい、魔界にすら戻れなくなった種は当然のようにアミギミア人類からも迫害され、行き場を失っていた。
そんな折に降ってわいた地球とアミギミアの“世界統合”は、まさしく天の恵みだった。
地球は統合直後は多大な混乱を見せたものの、各国首脳の外渉によって円滑な同盟体制を確立。
魔なる物の子孫たちの身分も、地球人類は保証した。泣けるね。
やがて聖なる術を使う、純粋なアミギミア人そして地球人を「ティアンス」、
魔なる穢れた術を使える魔物の子孫を「ディバイド」と呼ぶようになった。
そっから、150年の今年。
アミギミア人類の大半を占めるエルフは術体系を計算科学の応用でさらに高め、ヒューマンはそのエルフの術を受け継いで、ともに進化を果たした。
その陰でアミギミアに根ざしていた少勢力の魔界種――ディバイドもまた、その術士栄華の軌道に乗ろうとしていた。
そんな期待されるべき魔界種がてめーらだ。わかったか」
どこか沈鬱な話は、講義室をーー
「?」「??」「???」「????」「?????」「??????」「???????????」
生徒たちの無数のクエスチョンで埋め尽くされた。
猫先生はにゃいにゃいにゃい!と変な嘆きの声を上げたかと思うと、
「にゃっぱりか! ディバイドはなぁ、一番の欠点がある!
バカなんだよ! 知能指数は20歳から上昇するらしいが、それまでは小学生以下なんだわ! こうなったら覚悟しとけよ、みっちり授業したるからな!」
授業、の単語が出てきただけでディバイド全員怨嗟の声を上げた。
バロットはうつらうつらと眠りかけていたので宗次が耳を引っ張って起こす。
猫先生は頭を抱えながら、
「あと……ちゃんとアナウンスはしたはずだが、もう一度言っておく。地下街区域には絶対に行くな。
任務以外の用務で行って、もしバレたら即刻退学だからな」
「……はぁ!? そんなの聞いてねーぞ!」
と声を上げて立ち上がったのはバロットだ。猫先生はしっぽをびたん!と教卓に打ち付け、
「じゃあお前の耳が腐ってたんじゃねえか。入学要項とかにも書いてあったろ。
地下街区域は全体が“魔術犯罪人”であふれかえってる。
そのイリーガルは、あろうことか俺たちのお仲間、ディバイドだ。
あそこはとにかく治安がひでえ。
重大犯罪に関わらないように、あそこへは近づくな。たとえ家族が暮らしていてもだ」
被害者になること、加害者になること。
その両方を封じるには、近づかないのが一番なのだろう。
バロットは消沈したように着席した。
「さて!」
またもルスがぱんと手を叩き、
「ティアンスが天使でないように、ディバイドは例え体が悪魔でも、心は人間です。
私たちはみな人類みな兄弟! わぉ素敵!
なのでもしティアンスの人たちに差別されたとか、悩みなり相談事があればすぐ言ってください。
私たちは動物の延長線の存在だと思われて、疎まれてます。
頭大丈夫?ってくらいトンチキなことを言うティアンスがいたら、すぐ教師を呼んでね。
それと、誰かが脅されたとか、何かあればすぐわかるようになってるから。
たとえ学校の外でもね? バロットくん」
ルスの声はだんだんと冷たくなってきて、最後に射殺すような目でバロットを見た。
バロットが固まったところでルスはすかさず目線を戻し、
「あっ、言い忘れていた――私のこと野蛮な動物扱いしたら、隣の棟までぶん殴って吹っ飛んでいってもらいまーす。こんな感じのパンチで」
ルスは虚空めがけ拳を握り、
「破っ♪」
何でもないように正拳突きをした瞬間、
ゴォオオ――――――!!
瞬間的な風が拳から遅れて発生し、窓やドアのガラスをびりびりと揺らす。
「冗談ではないので、あしからず♪」
ルスは全員を沈黙させた後「あっ」と思い出したように宗次へ顔を向ける。
「ところで、逢坂宗次くん。生徒会の召集命令がかかってます。
このオリエンテーションが終わり次第、生徒会室へ向かってくれるかな?
一年生のディバイドが生徒会役員を務めるなんてこと、今の今まであり得ないことでした。
期待していますからね、逢坂くん」
「……」
「む、なーんか反抗的な目」
「……別に」
宗次はルスから顔を逸らした。
オリエンテーションは寮での暮らし方や授業の履修方法、携帯デバイスの操作方法などの説明があり、つつがなく終了する。
生徒会室へ急ごうと講義室を後にする宗次に、
「ししょおーーまーた後でねぇーーーっ!」
誰に言われるでもなく忠犬に成り果ててしまったバロットが、ぶんぶんと手を振っていた。