入学式
宗次は女の子に連行され、学園の校門を管理する生徒兵に身柄を引き渡された。
そこで事の顛末を正直に述べると、やはりというか、こってりと絞られた。
狼男・バロットは保健室に搬送され、そこで事情聴取されているらしい。
それでもカツアゲを阻止したことは評価され、宗次の暴行については生徒兵数人の裁量でお咎めなしとなった。
「……入学早々、やりすぎた」
宗次は憂鬱を胸にしまい込み大講堂へと携帯デバイスのロケーション機能を頼りに急ぐ。入学式には完全に遅刻だ。
「少し、加速……いや駄目だ、術痕が残る」
屋内ではおいそれと術を使うことが出来ないのがネックだ。
大抵の施設の要所ごとに、まるで道路標識のように「術発動禁止」の仮想映像によるマークが浮かんでいる。これもまたクリアブルーの背景に白の文字。
宗次は、仕方なく猛ダッシュで大講堂へと走った。
息を切らして着いた大講堂の前には、上級生であろう男子生徒が立っていた。
耳がとがっており、おそらくエルフの純血か、耳の短さから混血の可能性もある。
右肩には、青地に金色のダイヤを1つ模した肩章を付けている。これは確か、生徒会役員であるしるしだ。
宗次は生徒会役員へ駆け寄ると、
「すみません、諸事情により遅れました」
「あ、えっと、どちらですか。座る席が違うので……」
それはディバイドかティアンスか、という質問だろう。
「ディバイド側です」
と答えると、まるで豹変したようにーー汚い者を見るかのように顔をしかめる生徒会役員。
「左側に座れ。式はもう始まってる。ディバイドは時間も守れないのか?」
これくらいの差別ならもう慣れっこだ。
むしろ侮蔑の目で見られるくらいはまだ良い方だった。
エルフたちはディバイドを汚らわしきものと決めつけているし、エルフの文化が少し浸透した人間の間でも、そういう差別意識はゆるやかにだが根強くなってきている。
宗次は役員に軽く一礼すると、大講堂の扉をゆっくりと開ける。
大講堂の前半分は、ほぼ人で埋め尽くされていた。
一学年の定員は、ティアンス200人、ディバイド20人。
10対1の比率は、席の後ろから見るとディバイドが圧倒されているように見える。
最左列にディバイドとおぼしき人らが一列だけで座り、一列空けて残りの人員が大講堂の前部を独占して座っていた。
宗次はディバイドの最後尾の席に座り、壇上に立っている少女を見る。
その少女はブロンドの長髪で、制服の上からでもわかるプロポーションの良さだった。長身の上に出るべき部分は出ているし、引っ込むべき部分はちゃんと引っ込んでいる。
彼女の肩章は銀色の地にダイヤを3つ直線に並べた肩章を付けている。
それこそが、この学園の生徒会長の証だ。
彼女こそが現在、学園最強の“トップクラフト”――
頂点の冠を戴く術士の称号を持っているのだ。
生徒会長は、ちょうど答辞をするだろうというタイミングだった。
「在校生を代表しましてご挨拶させたいただきます、生徒会長兼生徒会執行部部長、ヴィオン・クローロジャッジュ・皐月です。
本日、皆様の入学式にお祝いの言葉を贈れますこと、大変嬉しく思います。
今日は、西暦2185年の4月1日――世界が統合して150年、そして学園が創立し98年目を迎えます。
日本国立術士学園は、中でも瘴気・魔力に関する研究、ディバイドに関する研究、ディバイドとの共学……
ディバイドの教育に心血を注ぐ、世界中でも異例の教育機関です」
皐月はディバイドの列に視線を定め、
「ディバイドが1学年に20人しかいないため、ティアンスといろいろな差を感じることとは思います。
ですがあなたたちの存在が、これからのディバイドへの印象を変えるきっかけとなるかもしれません。
この学園で是非、やりたいことをやってください」
皐月は視線を戻す。
「もちろんティアンスの皆さんも、これから活躍する場面は星の数ほどあります。
これからの学園の発展はティアンスにかかっていると言っても過言ではありません。
私たちは偶然でここに来たのではありません。
術士の需要はますます増加の傾向を見せています、
どうか一人も欠けることなく、すばらしい術士として羽ばたいてください――
あなた方への祈りを、新入生への挨拶の言葉とさせていただきます」
流麗で爽やかな声に、宗次は聞き惚れた。
どうやら彼女は、ディバイドに理解を得ている人だったようだ。その事実に、少しだけ安堵した。
一礼すると皐月はマイクから下がった。
『――続いて、新入生代表挨拶です。鴇弥さんお願いします』
その司会の言葉に、宗次の胸がドクンと高鳴った。
風の噂では、入学の際の術技試験と筆記試験の総合成績トップの者が新入生代表挨拶を行うという決まりらしかった。
そして宗次は、代表その人を知っている。
壇上に上がった女の子こそ――先ほど不良男・バロットを倒した瞬間に現れた人物だった。
「……鴇弥名織」
自然と、彼女の名前が宗次の口からこぼれ出る。
名織は浅く礼をすると、静かに語り始めた。
「新入生代表、鴇弥名織です。この学園には中等部の頃からいます。
ティアンスも、ディバイドのみなさんも、分け隔てなくお互いを高めあいたいです。
……私は、知っている方もいらっしゃると思いますが、ディバイド参画集社に所属しています」
社団法人ディバイド参画集社――ディバイドの権利・権威の向上を目的として発足した団体だ。
彼女が“知っている方もいる”と言った理由は、彼女のメディア露出の多さと異様とも言える遍歴にある。
彼女は術士活動で世界大会(戦闘の大会ではない)に出場するほどの知名度を誇っているのだ。
そして弱冠13歳にもかかわらず、飛び級で中等部を卒業。
高等部にあたるこの学園に入学を果たした才女のニュースは、日本を騒がせた出来事の一つだ。
彼女はまさに、日本の聖術士のホープなのだった。
名織は続ける。
「私はそういった事情もあり、私を軽蔑するティアンスの皆さんがいたとしてもしょうがないことだと思います。
ですが、私は………………今日壇上に立った聖術士の代表として、これからの学園生活で誰にも負けないような、私が私自身を誇れるような闘いをしていきたいと思います。
皆さんも……誇りを胸に、学校生活を送ってほしいです。
先生方、先輩方……私たちはまだ未熟ですが、未来にふさわしい術士になるため、ご教授よろしくお願いいたします」
その演説内容はやや子供じみていたが、彼女なりに苦心して考えた言葉なのだろう。
硬い表情のまま一礼した名織は、脇へとずれる。
――そろそろだろうか。
『新入生一同、起立。新入生代表と生徒会長の握手』
プログラムの一つである“互いの握手”は、学園入学式での目玉イベントだった。
その一体何が目玉なのかーー実は、この互いの握手と同時にゲリライベントが画策されているのだ。
公式でアナウンスされているわけではない。学園の入学式で毎年恒例となっているため、ネットを漁ると過去の情報が腐るほど出てくる。
前年度はテロリストの襲来を、生徒会役員が演じた。
その前は教師がいきなり豹変し術をぶっ放しまくって大乱闘を繰り広げたらしい。
教育機関としてあり得ないようなバカ騒ぎだが、もはや伝統となっているものをあえて止めようとする者もいないのだろう。
生徒はみな壇上の様子を緊張した様子で見守っている。その握手がまさにイベントのトリガーだからだ。
二人の生徒が歩み寄り、手を伸ばしあい、そして――握手した。
その瞬間、宗次の手元が熱くなる――不意の術反応。発生源は不明。
宗次はそれが拘束系統の聖術であることを瞬時に判断。術式強度は、弱い――!
宗次が腕に力を込めると、腕の中からどす黒く濃密な霧がわき出てくる。
その黒い霧に邪魔されるかのように、聖術の反応がノイズのようにブレていく。ついには光が砕け散るように霧散し、消えてしまった。
おそらく発動されようとした術は、手錠のように手を拘束するモノだ。
聖力の構造を変化させることで拘束具等に変化させる場合、それを自分の中の魔力で打ち消せばいい。
聖力の力が弱かったり、術式自体の構築が甘ければ、宗次のように簡単に無効化することが出来る。
……もっとも、魔力を体外に放出すること自体、並のディバイドには不可能なのだが。
この時点で聖術の拘束によって、七割以上の生徒が突然後ろ手を組んだポーズになって固まってしまう。
その人たちの手には、青白く光るリングが付いている。術を避けきれなかったのだ。
――こんなものなのか……?
宗次はそのサプライズに、やや拍子抜けした表情で居住まいを正す。
はっきり言って少し物足りないくらいだ、と思った。
壇上の名織もどうやらこのトラップを回避できたようで、少し安心したような顔を見せている。
生徒会長の皐月はその様子を見て満足げにうなずき、
「今術を施されている人は座ってくださいね」
皐月は着席した生徒の列をじっくり見渡し、そして最後にディバイドの列を見る。
――皐月と、目があった。
ディバイドは宗次しか席を立っている生徒はいない。
ティアンスも合わせれば、およそ30人程度しか立っていなかった。
「おめでとうございます。あなたたちは幸運にも――」
――いや、まだだ!!
生徒会長の足下が青く光ったのは、そのときだった。
宗次も新たな術反応を肌で感じ取る。さっきよりずっと発動速度が速い。
そして、重い。
「まだ、試されるべき方々です」
皐月が手を振り上げた瞬間。
起立した人ら全員の背後に、青白く姿がぼんやりとした人型の物体が出現する。
聖力で作った人形だ――それが宗次の頭上から形の定まらない巨腕を、思い切り振りかざす。
「――<歪曲>ッ」
一言の詠唱。瞬間、振り下ろされようとした人形の腕があらぬ方向にぐちゃぐちゃねじ曲がり、
「ぶち破けろッ」
がら空きの人形の腹部へと、魔力を込めた拳で一突きする。
人形は腹にトンネルのような穴をぼっかりと開けると、定まらない形はさらに有耶無耶になり、周囲に白い霧となって弾け飛んでしまった。
どうやら、リングによる拘束は罠だったようだ。
安心させ、そこから本命である二の手を使う――戦闘における常套手段の一つと言ってよい。
本当は同時発動させることも出来たのだろうが、イベント仕様ということなのか。
「……さて、組み伏せられた者はそのまま着席してね」
急にくだけたしゃべり方になった皐月が、諭すように生徒に促した。
そうして残った生徒は、宗次を含め八名。
ティアンスの席は、火術や体強化術で派手に暴れた形跡があり、煙をくすぶらせていたり、イスが無惨に破壊されたりしている。
壇上は――名織が発動させたであろう氷術――地面からランスのように鋭く延びる巨大な氷柱が数本たたずんでいる。
対して宗次の足下には赤い術式印を刻んだ術痕が一つ、残っているだけだ。
「あーあ、もうこれしか残ってないか。
もうわかる通り、あなたたちの序列にはかなり差があるわね」
やけにしゃべり方がフレンドリーなのだが、これが彼女の素なのだろう。
「あなた方はこれからの努力で挽回可能だけど……やっぱり今立っている人に追いつくにはね、それ相応の才能ってものが必要なの。
この校風に合わないなぁって感じちゃったら、退学手続きを取ってもらって差し支えありません」
しかし話の内容は突き放すような過激さで、ざわざわと生徒のみならず教員に動揺が及ぶ。
事前の演説リハーサルには含まれていなかったのだろう。
「私たちは過酷な状況を生き抜くために――
言ってしまえば“国の犬”になることを覚悟しなきゃならないの。
それがイヤなら、普通の高校を選んだほうがずっと賢いわよね。
この学園は、死亡リスクのある任務に就くことも可能です。
でも去年はそれで、五年次生が一人、六年次生が二人、外部ミッションに参加してその儚い命を落としました。
一昨年は講義中の事故。15歳で、君たちと同い年ね。
いずれも犯罪者を相手取って、もしくは油断をして、ターゲットに虚を突かれたが故の死です。
今あなたたちがまさに体験していることです。一回術を喰らうことが命取りになるって、わかるよね?
術士の現実を知って『ここへ来たことが間違いだった』ってようやく思ったときには、もう遅いのよ」
先ほど答辞で自分が言った言葉――
“どうか一人も欠けることなく、すばらしい術士として羽ばたいてください”
その言葉をひっくり返すようなことを、皐月は言ってのけている。
「十年前には“七年生事件”がありました。
七学年の戦闘科生徒の約半分――48人が殺されたものです。
あのときは、日本中が震撼しました。
あなたたちがこの学園に大きな戦果をもたらすのか、研究成果をもたらすのか……それはまだ誰にもわかりません。
あなた方は毎年度の始めに遺書や誓約書を書き、生き抜くことが出来なかった場合の未来を描かなくてはならない。
それに、私たちの学園の機能の半分が“自己完結組織”であるために、経理や指導以外――それは学校の警備、研究、外部への戦力供給……
学内活動のほぼ全て、生徒自らが行っていかなければなりません。
だからこそ、私から覚えて欲しいことはただ一つ――
生き抜くために、死と仲良く踊れ。ってことでヨロシクね!」
きっと答辞として語らなかったこれこそ、生徒会長としてではなく皐月としての本音なのだろう。
式典にはそぐわないウインクをした彼女は唐突に、名織の肩に手を置いた。
「はい。それでは私の術をかいくぐった残りのみんなは、この鴇弥さんに触れてください。
先着1名に、生徒会に所属してもらおうと思ってまーす。
新入生の生徒会枠は本来、これから半年以内の成績で決めるんだけど、
私がふさわしいと思った方を採用したいから、ねっ」
それは宗次にとって――いや入学生全員にとって、衝撃的な一言だった。
本学園の生徒会――それは様々な役得がある反面、入会への条件が厳しすぎるのだ。
成績、実技、戦闘、そして人物面の総合評価がなされ、本当にふさわしい人物が生徒会へと入ることを許される。
おそらく人物評価は、家族構成や宗教活動、信条など、生徒本人に課せられるあらゆる障壁を越えなければならない。
もちろん、ディバイドであること自体も宗次の生徒会入りを困難にさせる要因だ。
これは、宗次にとってまたと無い大チャンスなのだ。
「では、はじめっ」
「うおおおおおおおおォオオオオオ!!!」
恥も外聞もなく叫びながら突進する、前列の男子ティアンス。それをさせないとばかりに、
「――らぁあああああああっ!!」
バレーボール大に凝縮された聖力球を、がら空きな男子に浴びせかける女子。男子は吹っ飛び、近くのティアンスたちを道連れに席を激しくなぎ倒す。
「もらった!」
血気盛んなその女子がジャンプした瞬間、彼女の足首に聖力で出来た鞭がからみつく。悲鳴を上げる間もなく、女子は鞭に投げ捨てられ大講堂の後方へ吹き飛んでいった。
残る五人のティアンスが、互いを牽制し、激しくにらみ合う。
関係のない生徒たちは雪崩のように彼らから逃げていく――
七人の生徒は、それぞれにぶつぶつと詠唱し続けている。術の発動にはS・デバイスが必要で、それを起動させているため彼らの足下には常に光の波が現れていた。
彼らは、詠唱をしても発動には至っていない。様々な術式をS・デバイスにセットしているからだ。
聖術にはエレメント系(火・水・雷・氷・風・土等)の術に始まり、身体強化、精神高揚などの基礎術がある。
それを学んだら先ほどのリングや人形、聖力球・鞭などの実体を作り出す実体術。
さらにその先には詠唱の複雑な術(回復術、より強力なエレメント術、皐月が大会でメインに使用する時間術など)
が存在する。
その細分化すれば何百とある術の中で、この場面にふさわしい術を選び、詠唱を重ねることで、速攻で発動できるよう服の中に仕込んだS・デバイスに複数の術式を“チャージ”しているのだ。
S・デバイスは聖術士の要となる武器なのだった。
ある者は、同じ種類の火術を何個もストックし、名織に近づけさせないようにする。
ある者は、違う種類のトリッキーな術式を何通りかストックして、名織にもっとも近づく方法を模索する。
ある者は、嵐のような勢いの風術式を一つだけ組み立て、正念場の賭けに出ようとする。
だが、宗次は――違った。
誰もが牽制しあう聖術士たちの視界にすら入らないような隅っこで。
「――<…………………………>」
ぼそぼそと、声にならない声で詠唱を続ける。足下には詠唱のしすぎで何重にも重なった術式印が、まるであぶり出しのように地面から赤く沸き出てくる。
やがて宗次は、
「<……>、王手だ」
宗次がステージへ向かって手をかざしたそのとき。
大講堂の中の全員が一瞬、原因不明の怖気を感じたようにびくっと震える。
何か得体の知れない霊的な存在を知覚したのだ。
そして全員は、ステージへ向き直り唖然とする。
壇上――女子二人の背後に巨大な髑髏が浮かんでいた。
生徒会長と一年のトップでさえも“それ”が何なのかわからない。
ところどころ赤い血で汚れた髑髏の目や口の中の暗闇は、底がないほどに暗いーーどす黒い。
まるで見た者を呪い殺してしまいそうな禍々しさを秘めたそれは、ステージ下のほぼ全員を魅了した。
「……な、なんだよ、これっ!!」
やがて、ティアンスの誰かがたまらず叫んだ。叫びは連鎖して、講堂が大パニックに陥ろうとする――
その直前だった。突然髑髏が顎から頭蓋から、さらさらと粉のように吹き飛んでいき、本当にあっけなく、何をするでもなく消失した。
気がついたときには日本国の国旗「日の丸」、
異世界アミギミアのギーア帝国の国旗である、群青の背景に海色の青丸を模した国旗「守護を司る衛星ヴィーヴァ」、
マントにも刺繍されている伝説の宝剣をあつらえた校旗が三つ揚々と連なっているだけだった。
「……生徒会長。こちらを」
ふと皐月は壇上にいなかった男の声を聞き、名織の方へ顔を向ける。
面食らったように背後に顔を向けている名織の肩をつかんでいたのは、先ほど彼女が暴力事案により連行した少年――逢坂宗次だ。
「……き、キミ、ディバイドの逢坂クン、だっけ。
やるねぇ、予想外3分の2、のこりは期待通り」
どうやら、生徒会長に名前を覚えられているくらいのことはしていたらしい。
……だが今の言葉はどういう意味だろう。
皐月はマイクに向き直ると、やけにおもしろくてたまらなさそうな口振りで言った。
「これは、学園が開校して、初めての快挙です!
二百名ものティアンスに先んじて、ディバイドの男の子がこの入学式イベントを制覇するなんて……こんなことがあるなんて、私も信じられない。
快挙ね! 骨のある男の子がほしいと思っていたしラッキーだったなぁ」
うんうん、と皐月が明るく感想を述べる、が。
その快挙がどういう結果を生むのか――ギャラリーを見れば一目瞭然だ。
誰一人として宗次を祝福するような態度のティアンスは見られない。
「なぜディバイドごときが」「なんのインチキを使った」「無名のくせにどこの馬の骨?」「信じられない。イカサマだろう」
そんな敵意を目で吐き出しているようなやつらばかりだった。
そんなティアンスたちを宥めるために皐月は場を和ませるような感想を述べたのだが、効果はない。
「……えっと、では逢坂宗次クン、サプライズイベントの感想を述べて」
皐月に促され、宗次はマイクの前へと立った。
ディバイドが入学式にティアンスを下した例がなかったたとしたら、宗次が落とす言葉の爆弾も、過去類を見ないものだろう。
「あなた方ティアンスは聖術と接し、聖術を学ぶ機会も時間も十分にあった。
なぜこんな子供だましもかいくぐれないのか、俺には疑問でなりません」
この言葉が、一学年のティアンスほぼ全員を殺気立たせたのは言うまでもない。