妻との邂逅
疑問文には、末尾に「?」をつけた方がよいのだろうか・・・?
その日、ギルドの受付を開始してすぐ、一人の女性が俺の前に現れた。
「えっと、冒険者の登録はこちらでいいのかな。」
見た目若く見える俺に対し、その女性は年下に話す様なフランクな口調で話しかけてきた。
俺は内心の動揺を隠しながら応対した。
「はい、こちらです。新規登録ですか。」
「そうよ。」
「でしたら、まずこちらの用紙に必要事項を書き込んでください。」
俺は、新規冒険者登録用紙を女性に渡しながら、その女性をしげしげと見た。
その女性は、間違いなく半年前に死んだ俺の妻であった・・・・。
この世界の”それ”は、人間はただその組成を真似るだけでは動物と変わらないことに気がついた。
魂とはいわば人が生きてきた経験値とも言うべきもので、それは脳の記憶を糧として成長していくものである。それは寝ている人間の完璧なコピーを取ると、魂のみこちらの世界に移動し、人として活動を始めたことから判明したらしい。だが元の世界が目覚めると、こちらの世界から魂が抜け、元の人形に戻ってしまう。だから、”それ”は、俺達の元の世界を観察し、死に瀕している人間のコピーをこちらの世界に再現することで、元の世界で死んだ人間の魂をこちらに移動させる事にした。もちろん、病気の要因は消し去ってである。
この世界がゲームの世界に準拠しているのは、最初に移動させた魂を持つ人間が、中二病のゲーム廃人であったためである。彼は、まだ疑うことや、人との交渉に慣れていない”それ”に対し、世界の改変を求めた。要するに彼の好きなゲームの世界の再現を願ったのである。
”それ”は、彼の願いの大部分を聞き届けた。”それ”にとっても彼の願いは魅力的に見えたのである。
だが、死からの復活は無理であった。それを再現するためには、誰かが死んだ瞬間に”それ”がその人間の完全なコピーを作る必要があるためでだが、さすがにそれは不可能であった。人が増えてくれば、”それ”は全員に張り付いてるわけにもいかないためである。
また、永遠に変わらない姿も不可能であった。そもそも成長しなければ大人になることさえ無理なのだから。しかし、ある程度の細胞の老化を遅らせることは可能であった。そこでこちらの人間は、15歳から元の世界に比べ老化が1/3になった。42歳だった妻が20代前半で俺の前に現れたのは、そういった背景があったからである。
俺がゲームのアバターで存在できるのは、俺の魂が偶然再現されたこのゲームに似た世界の経験値を持つ魂であるからである。因みにその経験値は、ゲームの中のアバターが持つものなので、ゲーム・キャラでないと、魔法を使うことすらできない。もし、俺が元の世界の現実の姿(年齢は若返るが)でこちらに転生したら、初心者としてはじめることになるだろう。
「ちょっと・・・」
妻の言葉に意識を戻す。
「良かった。あっちの世界にでもいってるのかとおもったわ。書き終わったんだけどこれでいいのかな。」
俺は妻から申し込み用紙を受け取り、内容に目を通す。大方書かれている様であるが、若干気になる部分が。。。・
「はい、いいですよ。あの~、名前は西村由紀江さんでいいんですよね。」
「ええ。間違いないわ。」
妻はためらうことなく答える。
どうして、旧姓を書くんだ。こいつは・・・。