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AV専門店『希望』  作者: 満腹太
第一章 運命を追え
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第二話 ディスクを追え

長谷川はAV専門店『希望』を開店してから数週間が経過していた。


店の開店資金を作る為に我武者羅に働きカップラーメンの日々を過ごしていた彼にとってコンビニ弁当は御馳走だった。


そんなコンビ二巡りを趣味になっている彼に来る依頼は殺しだけではない。


公に出来ない人探しや取引の代行など様々な依頼を受けていた。




そんなある日――


「こんにちわ、おにいちゃん。」


AV専門店『希望』のドアが勢いよく開くと元気な声が店内に響いた。


声の主は小学校低学年の女の子だった。


「ははは、危ないよ。由美子。」


その子に続いて店内に入る2人の若夫婦。


4階に住む宮本一家が店内に入ってきた。


毎週末の夕方、家族で来店しDVDのパッケージや店内デモ映像を見て幸せそうにしている様子を長谷川は何度も見ていた。


「店長さん。こんにちわ。何か新作ありますか?」


長谷川に話しかけてきたのは宮本の旦那だった。


「そうですね。娘さんの好きな子猫の新作が、10分前に入りましたよ。」


長谷川はレジの後ろの段ボールから1本のパッケージを取りだした。


「あ、可愛いですね。これください。」


「はい、毎度ありがとうございます。」


宮本は会計を済ませた後に


「2週間後、松戸の組長と釣りに行くんで楽しみにしていてください。」


宮本の趣味は釣りで長谷川を通じて松戸の組長と趣味仲間になっていた。


「ええ、期待していますよ。」


宮本が大量に魚を釣ると長谷川に捌いた魚を持ってきていた。


コンビニ弁当しか食べていない長谷川を可哀相に思い宮本は持ってきていた。


「それじゃあ、また。由美子、帰るよ。」


宮本の声でフロアのデモ映像を見ていた由美子が母親の手を引きながら現れた。


「はーい。おにいちゃんばいばい。」


「ばいばい。また来てねー。」


宮本一家が店を後にすると長谷川は椅子に座り読みかけの本の続きを読み始めた。




それから2週間後


平日の夕方、小腹のすいた長谷川がカップラーメンを作ってる時にランドセルを背負ったままの由美子が元気のなく店に来た。


「由美子ちゃん、どうしたの?」


長谷川が気になり声をかけた。


「うん…お父さんが怪我で病院にいるの…」


「病院?」


「うん…お母さんが悪い人に怪我させられたって言ってた。」


「そっか。それで由美子ちゃんはどう思う?」


「どう思う?」


「ああ、お父さんの怪我、お父さんを怪我させた人、それをどう思う?」


「うん、お父さんの怪我は可哀相だと思う、お父さんを怪我させた人は許せないと思うしイケナイ事だと思う。」


「そうだね。それじゃあ、この後どうなれば真由子ちゃんが幸せになれるかな?」


「悪い人がゴメンナサイって言って、お父さんが怪我しなくなればいいと私は幸せになれると思う。」


「そうか。それなら…その依頼特別に承りました。」


長谷川としても知り合いが怪我をしたことは許せなかった。


元気のない由美子が帰ると長谷川はカップラーメンの蓋をあけた。


「ア…、こ、これは…」


由実子と話しが長引いた為、スープを吸いこみ量が増えた麺がそこにあった。



閉店後、近所の一軒家に一人で住む長谷川は情報を集めた。


と、言ってもネットから警察所のサ―バーにアクセスし宮本が怪我をした場所の特定、その場所が映る監視カメラをから当時の様子をチェックした。


夜の暗がりを1人で歩く宮本を背後から3人の覆面をした男がバットで殴り倒していた。


男たちは宮本の鞄を奪い執拗に攻撃を行ってから逃げた。


たまたま通りかかった通行人が救急車と警察を呼んでいた。


長谷川は男たちの行方を追った。


コンビニの監視カメラや駐車所の監視カメラ、商店街の監視カメラを経由し男たちは一軒の男の家に入って行った。


その家を調べると持ち主は宮本の勤務先の研究所の所長だった。


長谷川は研究所のサーバーにアクセスし宮本の研究を所長が手に入れようとしていると知った。


宮本の研究


遺伝子疾患を直す薬の研究だった。


この薬が完成すれば研究所も開発した宮本も富と名声を得られるはずだった。


その富と名声を独り占めしようと所長が宮本を闇に葬ろうとしていたのは簡単に想像できた。


長谷川は宮本が使っていたパソコンを遠隔操作しパスワードを変更した。


暴行を受けた宮本が元の研究所に帰るとは長谷川は思えなかった。



水曜日


長谷川は店のDVDと携帯型液晶付きDVDプレイヤーを持って入院している宮本の元を訪れた。


彼の病室は個室で家族の姿は見えなかった。


「怪我の具合はどう?」


長谷川はベットの脇の椅子に座ると横になっている宮元に話しかけた。


「はい、左足、右腕の骨折と全身に打撲だね。」


「うわ、痛そう。」


「それが薬が効いていて痛くないんだよ。まあ退院までは長引くかな?」


ハハハと宮本が弱弱しく言った。


「そっか、組長が釣りに行けなくて残念だって言ってたよ。」


「それは悪いことしたなぁ。」


「それで、原因は?」


「それは…」


「仕事のトラブルだね。上司に研究を横取りされた結果が入院。合ってるよね?」


「…はい。」


「取られた鞄に、何が入っていた?」


「研究していた遺伝子治療を使ったマウスの実験結果が入ったディスクが…。そのディスクと研究所のパソコンのデータがあれば遺伝子治療の薬の認可が下りるはず。所長はそれを金儲けの集団にしか考えていない。私は苦しんでいる人の為に研究していたのに…」


宮本は涙を流していた。


研究を取られた悔しさや色々な感情が心の中で渦を巻くように彼の涙腺を破壊した。


「パソコンはどうなるか分からないけど、ディスクは取り返してみよう。」


「でも…」


「大丈夫、いざとなったらシュールストレミングの缶を開けるさ。」






長谷川は夜の研究所の門に来ていた。


門は閉められていたが中の駐車場には高級そうな車が止まっていた。


長谷川は門に付けられていた監視カメラ、それから研究所内にある全てのカメラにアクセスし前日の映像に切り替えた。


門を強引に開け堂々と正面から入って行った。


研究所入口はガラス張りの出入口で確りと施錠してあった。


長谷川はポケットから針金と細い金属製の棒を取り出すと鍵穴に差し込んだ。


カチャンと鍵が開く音が研究所のエントランスに響くが長谷川は気にせずに扉を開けた。


コツコツコツ


と歩く音が響く長い廊下を抜け研究所の1階の奥にある所長室の扉にやってきた。


長谷川は呼吸を整え扉を蹴り破った。


「ひゃああ!!!」


中から聞こえた情けない声を出したのが椅子から驚き落ちていた所長だった。


「だ、誰だ!金なら全部やるから帰ってくれ!」


早速、強盗と間違われた長谷川だが、彼の格好は黒い上下と黒いマスクをしていた。


「…アイツカラ奪ッタ『ディスク』ヲ渡セ。」


長谷川は声帯を変えカタコトの日本語で話した。


「!!い、嫌だ!それだけは、それだけはダメだ!」


所長は壁に埋め込まれてある大型の金庫に一瞬視線を向けると長谷川を睨むように彼を拒絶した。


「…ソコカ。」


長谷川は金庫に近づこうとするが、所長に腰を抱きつかれ動けなくなってしまった。


「邪魔ダ。」


長谷川は所長の胸元を掴むと片手で持ち上げ窓ガラスに向かって投げつけた。


所長は窓ガラスを割り数メートル先の暗がりまで転がり意識を失った。


長谷川は金庫の取っ手を掴み動かすがダイヤルが合っていないので全く動かなかった。


そして、長谷川は軽く眼を瞑り胸部にある超伝導ジェネレーターの出力を上げた。


出力を上げたジェネレーターを冷却する為に冷却材を用いて冷やすが、超高温のジェネレーターから発せられた熱と冷却材の影響で長谷川を中心に水蒸気が広がった。


長谷川を中心にバチバチと蒼い光がスパークし、扉を見つめた。


「ヨシ…」


長谷川は金庫の取ってを掴み強引に扉を開いた。


人の限界を超える怪力で合金製の扉は曲がりあっさりと扉が開いた。


中には色々な書類があり、長谷川は不要な書類を金庫から投げ出しながらディスクを探した。


金庫の中には1枚のディスクがあり、これが宮本のディスクと判断し懐のポケットに入れた。


次に長谷川は宮本の研究室に行くと彼が使用していたパソコンを丁寧に取り外し背中のバックに入れ研究所を去った。



翌週水曜日


長谷川は宮本の見舞いに来ていた。


そこに宮本の家族が全員そろっていた。


「元気ですかー!」


「いや、入院中だし。」


長谷川の挨拶に宮本が突っ込みを入れた。


「まあ、いいや。この後、組長と釣りにいくから用件をまとめて言う。」


「ああ。」


「先週言ってたディスクとパソコンだけど、何とか譲って貰う事ができた。今はお店で保管してるから怪我が治ってから取りにきてくれ。」


「え!?譲ってって…。」


宮本は一週間前のニュースを思い出した。


何者かが研究所を襲撃し所長を怪我させ、金庫を荒らした。


金庫の書類から大量の脱税が見つかり研究所のスポンサーが資金提供を止め施設を閉鎖したことを思い出した。


「でも、どうやって?」


「ああ、所長と肉体言語で話し合っただけさ。ちょっとフィーバーしたけどシュールストレミングは使わずにすんだよ。」


実際に長谷川はシュールストレミングを持って行っていた。


「…そうか、ありがとう。怪我が治ったら新しい研究所で研究の続きを始めるよ。」


「そうしてくれ。それじゃあ、俺は行くよ。」


「ああ、ありがとう。」


「ありがとう、おにいちゃん。」


宮本家に見送られ長谷川は病院を後にした。



船の上で空腹な組長がシュールストレミングを開けてしまい逃げ場のない船上で地獄になるとは知らず、釣りに出かける長谷川だった。









誤字脱字の指摘、良い感想をお待ちしてしています。


悪い感想は勘弁して下さい。ガラスのハートを修理するのに一か月は掛かります。




シュールストレミング = 世界一臭い缶詰


             自分は遊び心で購入し、近所の公園で開けたが異臭騒ぎで消防と警察が出動した事がある




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