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AV専門店『希望』  作者: 満腹太
第二章 問題を解決しろ
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第十五話 義姉のトラブルを解決しろ

小室の姉『小室雪絵』が再び日本に帰って来たのは前回の帰国から半年後だった。


「やっと到着したわ。長かったわ。」


小室雪絵はフランスで日本語の教師として働いていた。


身長は150センチを下回り、童顔なので年相応に見られる事はなかった。


髪の毛は染めることをせず、黒いままで肩のあたりで切りそろえられていた。


彼女の勤める学校では彼女の実年齢が7不思議の一つとして数えられるほどに有名だった。


そんな彼女が日本に帰国したのは妹の『秀美』の同棲相手を見極める為だった。


彼女は空港を出ると電車を乗り継ぎ妹の住む町の最寄り駅に着いた。


駅から大荷物を持ちながら出てくると駅前のロータリーで妹に電話した。


「…あ、もしもし?今駅に着いた。…うん…うん…わかった。」


携帯をポケットに入れタクシーに乗り行く先を告げた。


その途中、日本のコンビニを懐かしく思った彼女はコンビニに行こうとタクシーを止めた。


タクシーはコンビニから少し離れた場所にハザードを付け止まった。


彼女はコンビニ内で一回りすると飲み物とつまみを買い外に出た。


「…!!…!…!」


コンビニからタクシーまでの歩いていると細い路地の裏から何かが聞こえた。


彼女は気になり細い路地を進んだ。


角を曲がると2人の男が争っていた。


雪絵はその2人の様子を角から見ていると、若い男がナイフを取り出した。


「!!」


雪絵が驚いていると、その男は戸惑うこと無く相手の男の胸にナイフを突き刺した。


(に、逃げないと!)


雪絵が逃げようとした時、足もとにあった缶を蹴ってしまった。


「誰だ!!」


ナイフを刺した男が雪絵の方に振りかえった。


雪絵はその男が振り返った瞬間には走り出していた。


「ック!」


男は走り去る足音を聞き追いかけようとした。


「グ…ゥ…」


ナイフを刺された男は追い掛けようとする男を掴んだ。


「離せ!!」


顔面を数発殴ると男はぐったりして地面に倒れた。


「畜生!邪魔しやがって!」


倒れた男の腹部を何度か蹴りを入れると逃げた足音の方へ歩いて行った。


男は角を曲がると何かを蹴っ飛ばした。


「ん?これは…」


男が拾ったのはパスポートだった。



雪絵は表通りに出ると走ってタクシーに乗り込んだ。


タクシーは直ぐに走り雪絵は安堵した。


荒い呼吸を整えていると、先程の事を思い出した。


ナイフで人が刺される瞬間


平和に生きていた雪絵の中で唯一の非現実的な出来事だった。


「お客さん、着きましたよ。」


運転手に言われ外を見るとそこには一軒の建物が立っていた。


料金を支払いタクシーを降りると先ほどの非現実的なことなどすでに忘れていた。


門を開け玄関に行き呼び鈴を鳴らすと直ぐに玄関が開いた。


「お姉ちゃん!」


現れたのは彼女の妹『小室秀美』だった。


秀美は雪絵に抱きつき力一杯抱きしめた。


「もう、甘えん坊なんだから。」


雪絵は秀美の頭を数回撫ると秀美は抱きつくのを止めた。


「疲れたでしょう。さあ、入って。」


秀美は姉の荷物を持つと家の中へ入って行った。


雪絵は幸せそうな妹の背を見ながら家に入って行った。


2人はリビングに入るとお茶を飲みながら雑談をしていた。


話しに夢中になり1時間ほど過ぎたあたりで雪絵は唐突に話題を変えた。


「そういえば、一緒に暮らしている人はどんな人なの?」


「え!?えっと…私が困っていた時に助けてくれた人なの。…そうね、私にとって白馬の王子さまかな…」


小室は顔を赤くしながら話し始めた。その表情は優しげで姉から見ても惚気ていた。


「あら、惚気かしら。」


「え!違うわ!そんなんじゃないって!」


雪絵は笑顔で秀美をからかった。


「それで、彼は何所に?」


「えっと…、今お仕事で…」


小室は言いにくそうに答えた。


「あら?ビデオ屋の店長でしょ?今日、お店お休みよね?」


小室は壁に掛かる日めくりカレンダーを見ると確かに水曜日だった


「うん…お店はお休みだけど…」


「何か言いにくい事でもあるの?」


「そ、そんなんじゃないわ。」


「へー、そう、2人だけの秘密ね。」


「うん、ごめんね、お姉ちゃん。」


小室は姉に頭を下げた。


それから2人は近所のスーパーに買い物に行き2人で夕食の支度をしていると長谷川が帰宅した。


長谷川は今日、『なんでも屋』の仕事を無事に完遂し少しパートナーの姉に会う為少し緊張しながらの帰宅だった。


「ただいまー」


「おかえりなさい。」


小室と姉が玄関まで迎えに来た。


「あ、はじめまして、長谷川典宏です。」


「姉の小室雪絵です。」


2人はお互い同じタイミングで頭を下げた。


その様子がおかしく小室は笑いを堪えていた。


その後、姉妹で作った夕食を取り長谷川と雪絵は緊張も取れ普通に話しあえる仲になった。


その日見た非現実的な出来事など忘れるほど楽しい一時を過ごした。




翌日、パスポートを紛失した事に気が付いた雪絵は紛失届と再発行手続きを行いに区役所へむかった。


手続きは1時間ほどで終わり、昼前には家に着き秀美と一緒に食事が出来ると喜んでいた雪絵だった。


タクシーに乗り家に向かう途中、彼女が乗るタクシーの右側からトラックが突っ込んできた。


この時、雪絵は後部座席左側で運転手に勧められシートベルトをしていた。


雪絵と運転手は直ぐに救急車に運ばれ最寄りの病院に担ぎ込まれた。


中々帰宅しない姉を心配していた秀美の携帯に知らない電話番号から着信があった。


相手は警察で姉が事故にあったをと聞いた秀美は直ぐに病院に向かった。


秀美からの知らせを受け、長谷川も店を臨時閉店とし病院に向かった。


長谷川と秀美はほぼ同時に病院に到着し雪絵がいる病室へ駆け込んだ。


「やっほー、来たんだね。」


笑顔で手を振る雪絵を見た秀美は腰から崩れる様に床に座り込んだ。


「お、お姉ちゃん…」


姉の無事な姿を確認した秀美は放心状態になった。


「私は無事よ。怪我も無いわ。今日は一晩泊まるらしいわ。これから精密検査だから、病気で悪いところを見つけてもらおうかしら?」


雪絵は笑顔で言うと看護婦に連れられ病室を後にした。


その時、警察管が病室を訪れた。


「あ、小室雪絵さんは?」


「姉なら精密検査を受けに行きましたけど?」


何時の間にか放心状態から復活した秀美が答えた。


「そうですか、あとでお姉さんにも聞きますが、あ姉さんが何か事件に巻き込まれたような様子はありましたか?」


「?いえ?特には聞いてませんが?」


「そうですか…」


警察官と小室の会話を聞いた長谷川が疑問に思ったことを聞いてみた。


「何かあったんですか?」


「うーん、実は追突したトラックから運転手が逃げたんだ。それに、そのトラックは数時間前に盗まれていたんだ。今、緊急手術している運転手さんか、乗客のお姉さんのどちらかへの怨恨の可能性があるんだ。」


「運転手が逃げたんですか…」


長谷川は腕を組み考える素振りをした。


「それじゃ、私はこれで。」


警察官は病室を後にした。


秀美は頭を下げ見送るが、長谷川は腕を組んだままだった。


この時、長谷川は街に設置してある監視カメラにアクセスし、タクシーに追突したトラックから逃げる男の姿を探していた。


そして、事故現場から逃亡する男を捉えたカメラを発見した。


黒い上着を着た男はトラックから降りると直ぐにその場を離れた。


男は細い路地に入るとその路地の反対側からバイクに乗って男が走り去って行った。


バイクのナンバーを映すカメラがあり、そこから所有者を探し当てることができた。


飯田久志 いいだひさし


彼は始末屋いわゆる殺し屋でナイフでの刺殺を好んでいた。


返り血を浴びた彼を見た者が言うには、


『返り血を浴び、恍惚とした彼はまさに赤鬼だった。』


それから彼は裏の世界では赤鬼と呼ばれるようになった。


そして赤鬼と雪絵の接点を探す為、雪絵の日本に来てからの行動を調べた。


すると、すぐに飯田が人を刺殺した瞬間を目撃したのが雪絵と調べが付いた。


刺殺した瞬間を目撃したのに平然としていられる一般人の雪絵は肝が据わっていると関心した。


「ちょっと行ってくるよ。」


「あ、うん。」


長谷川は時計を見るとまだ14時頃だった。


小室に出て行くことを伝えると赤鬼に会うべくタクシーに乗り込んだ。


長谷川はとある繁華街でタクシーを止めると多くの人々で賑わう繁華街に入って行った。


そのメインストリートの途中にある1本の細い路地に入り暫く進むと行き止まりになった。


実は行き止まりに見えるが、少し手前の右側にドアがあった。


近くまで来ないと気がつかないそのドアに躊躇いも無く入ると板で封鎖された扉と階段があった。


階段を上がるとまた封鎖された扉とさらに上に昇る階段があった。


長谷川は3階に進むと荷物で通れない通路と小さな電灯で浮かびあがった扉があった。


呼び鈴を鳴らし暫く待つとガチャリと扉が少しだけ開いた。


少しだけ開いた扉から視線を感じた。


「何か?」


若い女の声だった。


「赤鬼に会いたい。」


「…」


長谷川が言うと女は長谷川を足元から頭まで視線を送ると扉が閉じた。


扉は直ぐに開くとそこには下着姿の女が立っていた。


「入んな。」


女はそういうと奥へ歩いて行った。


長谷川も女の後に続き奥へと歩いた。


幾つかの扉を超えた先にその男がいた。


「ん?客か?」


ソファに座りテレビを見ていた上半身が裸の男は来客と判るとテレビを消した。


「座ってくれ。話を聞こう。」


長谷川は男の向いにあるソファに座るった。


すぐに女が長谷川の前にコーヒーを持ってきた。


女はお盆を持ったまま無言で奥へ歩いて行った。


長谷川は男を見た。


オールバックの髪に顎髭を生やした30代で、胸から背中まで刺青が彫られ筋肉で引き締まった体をしていた


「ん?どうした?俺に依頼をするんだろう?」


「いや、そうじゃなくて…」


「同業者か!」


長谷川の言葉を遮るように赤鬼は叫んだ。


赤鬼はソファと足の間に隠していた銃を取り出し長谷川の頭部に狙いをつけた。


「どこの回し者だ?」


「そう警戒するな。今日、あんたが起こした事故について話合いに来たんだ。」


「事故だと?」


「ああ、トラックとタクシーの事故だ。知らないなんて言わせないぞ。」


「…」


赤鬼は長谷川を改めて観察した。


黒く少し長い髪の毛を後ろに流し首の付け根に赤ゴムで止めている。


服装は動きやすそうなズボンと普通のシャツ。


眼つきもしっかりしていて薬を使っているようには見えなかった。


「…なぜ俺が事故を起こしたと知っている?」


「それは教えられない。」


長谷川はニヤリと笑うと赤鬼は動揺した。


銃を突き付けられて笑う。まともな神経ではないとわかった。


長谷川は赤鬼の視線が左右に動き動揺を悟ると話を続けた。


「今日、あんたが起こした事故に知り合いの女性が乗っていたんだ。これ以上は手出しを辞めてもらいたい。」


「…仕事現場を見られたんだ、始末するのは当然だろう?」


「大変だ!奥に!」


下着姿の女が奥から慌てて飛び出して来た。


女は近くにあった上着を掴むとそのまま玄関へ飛び出して行った。


その瞬間、奥から黒いマスクをした男が現れた。


その男は赤鬼と長谷川を見ると持っていたアサルトライフルを2人に向けると躊躇いもなく引き金を引いた。


赤鬼は間一髪で柱の陰に飛び込んだ。


しかし、長谷川はソファに座ったままアサルトライフルの銃弾を体中で受け止めてしまった。


数十発の銃弾撃ちきった覆面の男は柱の陰に隠れた赤鬼を始末する為に弾倉を換えようと視線を自分のズボンに向けた。


その瞬間、ソファで体中に穴が開いていた長谷川の体が一瞬で治ると勢いよく飛びあがり男の頭を両手で掴むとそのまま床に打ちつけ、追撃のように膝を頭部に叩きこんだ。


男の頭部は半壊し何度か体が痙攣すると動かなくなった。


「お前…」


柱の蔭から赤鬼が出てきた。


その時、奥から赤鬼を狙った銃弾が飛んできた。


銃弾は飯田の頬を傷付け赤い血が頬を流れた。


「ック!まだいたか!」


赤鬼は持っていた拳銃で奥へ向かって数発撃つと奥から複数の叫び声が聞こえた。。


その直後、奥から幾つかの足音が聞こえ少しずつ遠ざかって行くように聞こえた。


「アイツらは?」


長谷川は倒れた男を調べている赤鬼に訪ねた。


「ああ、ロシアンマフィアだ。」


「ロシア?」


「依頼である男を始末したが代金未納なんだよ。まぁ、俺を殺せば代金払わなくていいし、何よりも証拠が消えるってさ。」


「そうか」


「それよりも、あんた体中蜂の巣にされなかったか?」


「あんな豆鉄砲当たっても大したことはない。」


「豆鉄砲って…」


赤鬼は長谷川が防弾チョッキでも着ているのだろうと考えこれ以上は質問しなかった。


「それよりも、俺の知り合いに手を出さないと誓えるならロシアンマフィアの壊滅に手を貸そう。」


「壊滅って、大きくでたな。」


「頭と指示系統を壊せば組織は崩壊する。簡単に言うとアジトを再建できないくらい破壊すれば簡単だ。」


長谷川は無表情で答えた。


「クックック、いいぜ。あんたの提案に乗った。」


「ああ、契約成立だ。」


長谷川と飯田は握手をして頷きあった。


「んで、そのアジトどこなんだ?」


「こいつを調べよう。」


長谷川は息絶えた男の所持品を調べた。


ポケットには煙草とライター、幾つかのマガジンはあったものの、他には何もなかった。


男を調べながらも長谷川は逃げて行った男の行方を追っていた。


幾つかの監視カメラを経由しながら彼らが逃げ込んだのはロシア企業が立てた日本の支部だった。


「…場所はわかった。」


「これでわかったのかよ!煙草とライターで判るのかよ!」


「コレ以外にも探る方法はある。武器はあるか?」


「ああ、もちろんだ。へへへ、一度これ使ってみたかったんだよな。」


赤鬼は縦長のロッカーを開け大きく長い兵器を取り出した。


パンツァーファウスト


そこには携帯対戦車砲が入っていた。


「ほう、弾はあるのか?」


「ああ、5発ある。それに、まだ他のも持って行くさ。」


飯田はそれ以外にもショットガンやアサルトライフル、接近用のナイフ、手榴弾をベストを着てそれに付けた。


さながら戦場に向かう兵隊のようなに重装備になっていた。


「んで、あんたはどうするんだ?何か使うか?」


「いや、必要無い。それよりも向かおう。」


「要らないのか?!」


赤鬼は驚き声を上げた。マフィアを壊滅するのに素手で行っては壊滅は不可能と考えていたからだ。


「ああ、銃は加減が出来ないからな。素手なら気絶させる事も殺害もできるからな。」


「そ、そうか。お前がそういうならいいが…」


「さあ、行こうか。」


2人は赤鬼の車に乗るとロシアンマフィアが逃げ込んだ建物に向かった。



ロシアンマフィアが逃げ込んだ建物は門が閉じられ守衛が辺りを警戒していた。


赤鬼はアクセルを踏み込み速度を上げた。


「と、止まれー!うわっ!」


守衛の直ぐ横を通り過ぎ、門を破壊して敷地内に入って行った。


門からビルまではおよそ300メートルあり車が半分を過ぎた所で目の前のビルの最上階から銃撃があった。


「うおっ!」


赤鬼は慌ててハンドルを切るが銃弾は車のボンネットを直撃し火花を放ち始めた。


「ック!飛べ!」


赤鬼はそう叫ぶと長谷川を振り返ることなく車から飛び降りた。


車はそのまま数十メートル進むと爆発した。


「ちくしょう!まだローンが残ってるんだぞ!」


赤鬼は起き上がりながら叫ぶとビルの入口から現われた男たちに向かってアサルトライフルを構えた。


1人につき3発ずつ素早く正確に当て、十人ほど撃ち倒すとそれ以降は現れることは無かった。


「…そういえば!」


赤鬼は思い出したように同乗者の安否を確認する為に当たりを見渡すと、10メートル後ろで門から追いかけてきた守衛と対峙していた。


長谷川の周りには3人倒れていて、最後に残った守衛は長谷川に向かって警棒で殴りつけた。


しかし、長谷川は警棒を手で掴み一瞬動けなくなった守衛の服を掴むと強引に上空に投げ飛ばした。


守衛が飛んだ高さは3メートルを越え、長谷川の数メートル先に背中から落ちた。


「…す、凄いな…」


赤鬼は長谷川の怪力に驚嘆の声を上げた。


「こっちは終わった。さっさと行こう。」


「あ、ああ。」


2人は並んでビルの入口に入った。


ビルのフロアは静まり返っていた。


「…誰も居ないな。」


「ああ…」


長谷川はビルの監視カメラにアクセスしながら答えた。


「…最上階だな。」


「最上階?!」


長谷川の言葉に赤鬼が聞き返した。


「ああ、最上階から車に銃撃された。それにこういう時のボスは最上階にいるもんだろ?」


長谷川は監視カメラで相手の居場所はわかっていたが、赤鬼に説明するのを面倒と考え適当な理由を付けた。


「っはっはっは!確かに、映画なんかじゃそうだな!それじゃあ、行ってみるか!」


赤鬼は長谷川の理由が可笑しく、笑いながらエレベーターに向かった。


エレベーターに乗った2人は最上階へのボタンを押すと階を示す表示を無言で見ていた。


半分ほど昇ったエレベータ内にどこからか銃声が聞こえた。


「「!!」」


エレベーターが少し揺れ、長谷川と赤鬼はお互いの視線を合わせた。


その瞬間、エレベーターは落下した。


「うおおおおおお!!」


床に座り込む赤鬼に対して長谷川は冷静な表情で体内にある超電導ジェネレーターを高速で回転させた。


出力が安定するまで少し時間が掛かるが、落下するエレベーターから無事2人で脱出するにはそんな猶予はなかった。


長谷川は出力が安定しないまま両腕をエレベーターの壁から突き刺すとその先にあるコンクリートの壁を掴んだ。


爪は直ぐに剥がれ指先の肉が抉れアダマンチウム複合素材の骨格が火花を散らしながらエレベーターの落下速度を弛めていった。


そして、エレベーターの落下が完全に止まった。


「お、おい…それ、なんだよ…」


赤鬼が見たのは歯を食いしばり耐えている長谷川だった。


「赤鬼!直ぐにここから脱出するんだ!」


「だが…」


「早く!もう、もう持たない!」


長谷川の叫びに赤鬼は頷くとエレベーターの上部ハッチをあけ天井に昇った。


そこから近くにある梯子に手を掛けた瞬間、エレベーターは暗闇の中に落下していった。


ズズンと大きな音を立てエレベーターは砕け散った。


「クソッ!」


赤鬼は落ちた長谷川の思いを無駄にしないため梯子を登って行った。


「ここが、最上階のフロアか…」


赤鬼はエレベーターのドアの隙間は10センチほど開いていた。


ゆっくりとフロアを覗くと10数人の人影が見えた。


恐らくはここからエレベーターのワイヤーを切り落下させたのだろうと赤鬼は考えた。


ナイフと銃を持ち皆殺しにしようかと一瞬考えたが、多勢に無勢。


直ぐに冷静になると右の胸にある手榴弾を取り出すとピンを抜き中に投げ込んだ。


赤鬼はすぐに頭を伏せ、その頭上を爆発した衝撃が通り抜けて行った。


警戒しながら再び扉の隙間から覗くと電灯は破壊され、壁には多くの赤いシミができていた。


苦しそうな呻き声が小さくは聞こえたが、すぐに言葉を発する者はいなくなった。


赤鬼はエレベーターの扉を抉じ開け最上階のフロアに昇った。


「…」


周囲を警戒しながら死体を抜けると大きな扉があった。


そこには支社長室と書かれていた。


赤鬼はアサルトライフルの残弾が十分入っている事を確認すると扉を蹴り開けた。


「ほう、いい面構えだ。」


扉の向こうにいた男、支社長は銃を突き付けられながらも余裕の表情を崩さなかった。


「よくも、やってくれたな!」


赤鬼は鬼気迫る表情で銃を構えた。


その時、赤鬼の後方にある隣の部屋への扉が開くと銃を構えた男たちが現れた。


「ック!」


赤鬼は急いで正面の男のいる机の反対側に飛び込んだ。


支社長は赤鬼と入れ替わるようにその場を離れた。


「ククク、あとは任せるぞ。」


支社長はそういうと男たちが入ってきた扉から部屋を出て行った。


「さて、あんたに恨みはないが仕事なんでな。悪いが死んでもらう。」


右端にいた男、リーダーが手を上げると他の4人が銃を構えた。




専用エレベーターに乗った支社長は発砲音を聞きながら笑っていた。


地下に到着したエレベーターから降りた支社長は自分の車に乗ると地下駐車場を後にした。



室内に響く銃声は赤鬼のいる机を削りながら楯としての役目を終えようとしていた。


「クソッ!これまでか…」


赤鬼が諦めかけたその時、銃を放つ男たちの後ろの壁が爆発するように砕け散った。


「なんだ!?」


赤鬼よりも壁を壊した者を警戒した男たちは銃口の向きを変えた。


立ち昇る土煙の向こう側にいたのは体の周りに蒼く光る放電を放つ長谷川だった。


「う、撃て!」


リーダーの言葉で5人全員が長谷川に向かって銃を放った。


長谷川が一瞬で消えると中央の男の胸に腕を突き刺していた。


心臓を破壊された男はぐったりしながら長谷川にもたれかかった。


長谷川は左側、リーダーがいる方向に死んだ男を投げつけると残りの男2人に駆け寄った。


1人目は力を込め右手で頭部を殴ると水風船を割るように頭部が破裂した。


そのまま流れるよう回転しながら左手の裏拳で男の側頭部を叩くと頭部が半壊しピンクの脳髄が宙を舞った。


長谷川は踏み込んだ足に力を入れ反対側にいる男に飛びかかった。


長谷川は3メートルほど宙を飛び男の胸を押すように蹴ると男はゴムボールのように壁に激突し壁の染みになった。


長谷川は両足で着地する少しバランスを崩ししゃがみ込んだ。


長谷川はしゃがみながらも最後に残った男、リーダーを見た。


「残念だったな。」


いつの間にか体制を立て直したリーダーはショットガンを長谷川の目の前で構えていた。


長谷川の言葉を聞く前にリーダーは長谷川の顔面に向けて引き金を引いた。


「へへへ…!!」


長谷川は崩れた顔面で立ち上がるとリーダーを両手で突き放した。


男は床と並行に宙を飛ぶと背後のガラスを突き破りそのまま、暗闇に消えて行った



支社長が運転する車のフロントガラスにリーダーが落ちた。


「う、うわわああ!!」


パニックになる支社長と蛇行運転する車。


最上階のリーダーが落ちた窓から車をパンツァーファウストで狙う赤鬼がいた。


照準があった瞬間、引き金を引くと弾頭は白い煙を上げながら車に向かって飛んで行った。


「う、うわああああ!!!」


バックミラーから迫る弾頭に恐怖しながら支社長は悲鳴を上げるが、無情にも弾頭はリアガラスを突き破り室内で爆発した。


「終ったな。」


赤鬼はポケットから煙草を取り出しながら言った。


「ああ、これでこちらの約束を守ってもらおう」


「ああ、もう、彼女は狙わない。あと、これを返そう。」


赤鬼のポケットから雪絵のパスポートを渡された。


「それにしても、あんた凄い殺し方するな。あんなの見たことないぞ。」


「…」


「水曜殺人ぐらいしか聞いた…事…ないな…。もしかして、あんたが?」


「さて、想像するのは自由だ。俺は帰るぞ。」


「あ、待てよ~。教えてくれてもいいだろう?」


2人は死体で埋まるビルから軽口を言い合いながらビルを後にした。





「それで、こんな時間まで何してたの!?」


家に帰った長谷川の目の前には腰に手を当て起こっている秀美の姿があった。


「いや、雪絵さんを狙った奴と話してたんだ…」


時刻はすでに朝7時を回り、いわゆる朝がえりの状態だった。


「もう、私の事なんてどうでもいいのね。」


涙目で訴える小室とそれを見てうろたえる長谷川。


「いや、そんな事はない。君は大切な人だ。」


「…それならここで証明して」


「…わかった」


目を閉じる秀美に長谷川はゆっくりと近づいた。


長谷川は秀美の肩を掴むと少しずつ顔を近付けた。


そして触れる唇と唇。


暫くして長谷川は離れようとするが小室がしっかりと抱きつき離れられなかった。


「ちょ、まって、これ以上は止まらなくなる!」


「いいの、最後までしましょう。」


2人はリビングに向かうと生まれたままの姿でお互いを愛しあった


秀美は自室に携帯電話を置いてきた事に気が付くことは最後まで無かった。




雪絵は病院を退院すると秀美の家に向かおうと彼女に電話をした。


「あれ?出ないな?しかたないか、タクシーで行こうかな」


何度か電話したが呼び出し音が鳴り暫くすると留守電になった。


気がついたら電話がかかってくるかな?と考えタクシーに乗り込み長谷川の家に向かった。


玄関が少し開いていたので不用心だなと思いながらも玄関に入りリビングに向かった。


リビングの扉を開いて直ぐに目に入ったのはソファで抱き合うように合体している2人だった。


「あ」


「え」


「ん?」


雪絵と目があったのは秀美で丁度扉がソファの間後ろにあった長谷川は何も見えていなかった。


「…ごゆっくり~」


雪絵はドアをゆっくり閉めた。


「お、お姉ちゃん!?」


裸で立ちあがった秀美はそのまま扉まで駆け寄った。


「待って何か着ないと!」


直ぐに状況を把握した長谷川は秀美の脱いだ服を持って秀美の後ろから付いて行った。






空高く雪絵が乗った飛行機がフランスへと飛んで行っていた。


長谷川と小室は空港のロビーからその飛行機を見つめていた。


2人の中にはいろいろな想いがあった…


退院直後に姉の雪絵に痴態を見られ、結局姉が帰るまでニヤニヤしながらいじられていた事、最後には祝福してくれたやさしい姉


(ありがとうお姉ちゃん…)


秀美は隣にいた長谷川の手を握った。




長谷川は雪絵に冷やかされながらも幸せそうな秀美を見ていた。


赤くなりながらも姉と仲の良い姉妹を見ていると母とその妹の叔母を思い出した。


雪絵が飛行機に乗る際、『妹を泣かせたらチ○コを切り取るぞ』と脅された長谷川は姉の目を見た。


その目は本気で長谷川は頷く事しか出来なかった。



飛び立つ飛行機を眺めながら雪絵の本気の目を思い出した長谷川は恐怖で硬直していた。


(ナノマシンで再生できても、痛いものは痛い。出来れば体験したくないな…)


そう思っていた長谷川は小室に手を握られた。


自分は絶対悲しませないと心に誓う長谷川だった。




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