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AV専門店『希望』  作者: 満腹太
第二章 問題を解決しろ
13/18

第十二話 麻薬問題を解決しろ

る日の昼過ぎ、AV専門店希望に来店があった。


「こんにちわ、西川さん。」


現れたのはサングラスを掛け胸のはだけたシャツを着た180センチを超える身長の男だった。


「おう、ハセ。元気か?」


店に入った西川は手を上げて長谷川に答えると店内の棚に向かった。


「キャッ!」


棚の奥で作業をしていた小室が何かに驚き悲鳴を上げた。


その直後、パシンと何かを叩く乾いた音がした。


暫くして商品棚から現われた西川の左頬に赤い紅葉が咲いていた。


「いてて、可愛いお尻があったから触ったらコレだよ。」


西川は苦笑いしながらズレたサングラスを戻した。


「いや、ついうっかりお店間違いちまったよ。すまん、すまん。」


西川は笑いながら長谷川に謝罪した。


「それで、今日は?」


「ああ、これを。」


西川が持ってきたのは白いパッケージだった。


「わかりました。秀美さん、レジお願いしますねー。」


長谷川が小室に向かって言うと奥からはーいと返事が聞こえた。


「それでは此方へ。」


2人は奥の事務所兼休憩室へ向かった。


西川はソファに座るとすぐに本題に入った


「ハセ、また薬だ。うちのシマで売りさばいている奴がいるんだ。また、頼めるか?」


長谷川は冷蔵庫からコーヒーの缶を2つ取り出しそのうちの1つを西川の前に置いた。


「ええ、大丈夫ですよ。」


「あー、それとな、ウチの若い奴で見どころあるモンがいるんだが、そいつも連れて行って貰えんか?」


「判りました。その依頼、確かに承りました。…って、西川さん。先に本題に入らないでくださいよ、『いらっしゃいませ。何でも屋『希望』へ。同人誌作成の手伝いから現金輸送車強奪まで何でもしますよ。』ってセリフ毎回考えてるんですから、言わせて下さいよ~。」


「お、おう、済まなかったな、ハセ…」


長谷川の妙な迫力に西川は驚きを隠せなかった。


「そ、それで、あとで須田って奴ををこちらに寄こすから一緒に連れてやってくれ。」


「わかりました。」


西川は缶コーヒーを持つと部屋を後にした。


「はぁ、力を隠して仕事するのは面倒だな…」


長谷川は1人になった室内で呟いた。



西川が店を出て30分後、新たな来店をベルが知らせた。


「すみません。須田と言います。西川さんから例の件できました。」


身長は170と少し、丸顔の一重だが太く大きい眉毛が印象的だった。


グレーのシャツに黒いズボンと黒いブーツを履き、どこにでもいる普通の若者だった。


「あー、聞いてるよ。それじゃあ、行こうか。」


長谷川はレジの横でパソコンを操作していたが、須田が名乗りを上げると立ち上がり返事をした。


その姿勢のままいくつかクリックすると早足でレジから扉へ歩いて行った。


「もう、行くの?早く帰ってきてね。」


小室はレジで長谷川を手を振って見送った。



「いい奥さんですね。」


歩いて移動している須田が長谷川に言った。


「素敵な女性だというのは認めるよ。でも、奥さんじゃないよ。」


「え!そうなんですか!?」


須田は一重の目を大きく見開いて驚いた。


「そうなの!人のプライベートに首突っ込んじゃロクな事にならないぞ。」


長谷川は少し口調を強めて須田に、これ以上詮索するなと釘を刺した。


「さて、須田さん。相手はこの先、右に曲がるといる。2手に別れて挟み打ちで。」


「…わかりました。俺は向こう側から行きます。」


「ああ、タイミングを見計らって此方側から向かう。」


「わかりました。」


須田は少し早足で手前に戻ると脇道に入った。


長谷川が電柱から顔を覗かせ右の路地を見ると自動販売機の影にいる麻薬の売人と、その遠くに須田の姿が確認できた。


長谷川が電柱から出て売人の方へ歩くと須田が急に駆けだした。


「うおおおおおおお!!!」


隠れている売人に向かって一直線に走り出した。


「!うわっ!」


鬼気迫る表情で迫る須田を見た売人は近くに置いてあるバイクに跨ると長谷川の方へ急発進してきた。


長谷川は迫るバイクに向かって走り出しタイミングを見計らい飛び跳ね、蹴りを放った。


「ぐは!」


長谷川の蹴りは売人の首に当たりバイクから転げ落ちた。


「ナイスです!」


追いついた須田が親指を立てながら爽やかな笑顔で言った。


「須田さん!走ったり大声あげたらバレルだろう!黙って冷静に行動しろ!」


「す、すいません」


須田は肩を狭め頭を下げた。


「まあ、いい。とりあえず彼を松戸組の事務所に運ぶぞ。」


「わ、わかりました。すぐに車を呼びます。」


須田はポケットから携帯を取り出すと車を呼び寄せた。


数分で車が現れ、倒れている売人と長谷川、須田を乗せ松戸組の事務所に向かった。



松戸組の地下室では売人への尋問が行われていた。


コンクリートの壁に松戸組の組員が数人と長谷川が見学していた。


その中で椅子に座らされた売人と、その正面に須田が立ち尋問していた。


「ぐぅぅうう!!」


「はぁ、はぁ、はぁ、まだ言わないか!」


須田が肩で息をしながら拳に着いた血を払い落した。


「っへ、まだまだ、全然痛くないぞ…」


売人は顔に青あざを作りながらも強気に言った。


「ック、口の減らない野郎だな!」


須田は再び拳を振り上げた。


「待って下さい!須田さん、貴方では無理です。」


声を出したのは長谷川だった。


壁に寄り掛かり見ていた長谷川は須田の尋問ではらちが明かないと動き出した。


「須田さん、殴る蹴るでは聞き出せません。もっと冷静になってください。強情な人には分かりやすいモノを使わないと。」


長谷川は隣にいた組員にある物を頼むと、壁に掛けてある鉄パイプを持ち売人に近寄った。


「っへ、そんなもんで俺が言うと思ったか?」


「…いいえ、これで叩いても意味はないでしょう。ならばこれはどうでしょうか?」


長谷川は売人の腿に鉄パイプを突き刺した。


「ッグ!ぐううううう、まだまだ、これじゃあ、たりねえな!」


売人は口を噛みしめながら長谷川に言いきった。


「そうでしょうね。…お、来ましたよ。」


先ほど、長谷川が何かを頼んだ組員がある物を持って現れた。


「そ、それは!」


須田が大きな声を上げた。


「そう、ガスバーナーです。見たことあるでしょう?これで、この後何をするか分かりますよね?」


長谷川は無表情で売人を見た。


「ック!」


売人はこの後の拷問に恐怖し大量の汗を流し始めた。


「言わないのですか?…残念です。」


長谷川は手に持ったガスバーナーのガスを出すとライターで着火した。


ゴウゴウと不気味な音を立ててガスバーナーから青い炎が噴き出した。


「さあ、何時までもつかな?」


長谷川は無表情のまま青い炎で腿に突き刺さっている鉄パイプを温めはじめた。


少しずつ鉄パイプは赤くなり、どこからか肉の焼ける匂いが漂ってきた。


「…ッグうううううあああああああああああああああ!!!!」


我慢の限界を超えた売人は大声で叫んだ!


「お前のバックには誰がいるんですか?」


「言う!言うからやめてくれ!!」


売人は首を振り顔を真っ赤に染めながら泣き叫んだ!


「先に言いなさい!先に言うのです!」


長谷川は男の髪を掴み顔を近付けた。


「や、山下組の!高橋さんだ!」


売人が高橋と言った瞬間、長谷川は赤く熱せられた鉄パイプを掴み売人の腿から引き抜いた。


カランカランと音を立て転がる鉄パイプの片側は売人の肉片が付いていた。


「山下組ですって。」


長谷川は何事もなかったかのように須田に振り返り言った。


「…は、長谷川さん。やり過ぎじゃないですか?」


椅子に座り気を失っている売人を見ながら須田はつぶやいた。


長谷川も売人の状態を見たが、命に別条はなく焼けた腿の再生でも全治3か月程度と予想した。


「彼が売った麻薬は彼の怪我が完治してもその依存からは逃れ慣れないでしょう。これは報いなのです。…だれか、彼を捨ててきてください。一度戻り山下組を調べます。須田さんは明日、店に来て下さい。」


そういうと長谷川は地下室から出て行った。


「…人を人と思わないような拷問…あの人だけは敵に回したくないな…」


須田の声に松戸組の組員は頷いた。



地上に出た長谷川を迎えたのは丸くなった満月だった。


「もう、こんな時間か…」


携帯を取り出すと20時を過ぎていた。


「丁度いい時間かな?」


AV専門店希望はすでに閉店時間を過ぎていて、長谷川は帰宅することを選んだ。


松戸組から家までは歩いて20分ほどで散歩しながら帰った。


その間、歩きながら山下組を調査した。


組長の山下藤次郎は国会議員である山田卓夫と遠縁に当たる人物だった。


山田卓夫の邪魔者を極秘に山下藤次郎が潰し、国会議員になった事が調査でわかった。


また、山田は海外旅行が趣味のようで半年に一度海外旅行に行き、その旅行先では必ずブラジルに立ち寄っていた。


ブラジルではマフィアが仕切るホテルで数日過ごし、観光や要人との会談を一切せずに帰国していた。


そして、帰国後は必ず山下藤次郎と密会していた。


その密会の様子はホテルの廊下に設置してある監視カメラから部屋に入る2人を見ることができた。


さらに調査を調べると山下藤次郎が社長を務める架空会社が山田卓夫に献金していた。


(黒だな。警察にメールして…っとこれは!)


メール作成と同時進行で行っていた調査で、売人が言った『高橋』という男の携帯のメール履歴から明日深夜にブラジルマフィアとの取引がある事がわかった。


(これは使えるな…。メールも明日の夜に証拠と一緒に前と同じ文章で送るか…)


長谷川は山田と山下との密会映像と山下の架空会社の献金の証拠と一緒に一言添えた。


『1日中に逮捕しないと、この男は大変なことになる。』


コレを明日の深夜に自動で警察に送るようにした。


そんな事をしていると自分の家についた。


家からは美味しそうな匂いが漂い、長谷川の食欲を刺激した。


(秀美さんの料理はおいしいから今日も期待できるな)


長谷川、笑顔の帰宅だった。



翌日、昼過ぎに須田が店に現れた。


「こんにちわ。長谷川さん。山下組の調査はどうなりました?」


レジ横でパソコンを集中しながら操作していた長谷川は須田の言葉で来店に気が付いた。


「ああ、ごめんなさい。気がつきませんでした。」


長谷川は頭を下げ謝罪した。


「いえ、良いんです。それで、何か情報はありましたか?」


「ええ、ばっちりです。今日の22時に事務所に迎えに行きます。必要な物はこちらで用意します。詳しくはその時に。」


「はい、わかりました。夜の10時に準備してまってます。」


須田は頭を下げると店を後にした。


「今夜、出掛けるの?」


商品棚を整理していた小室が棚の隙間から出てきた。


「はい、あっち側の用件で。」


「そう、怪我だけはしないでね。」


心配そうな小室は泣きそうな瞳でそう訴えた。


「ははは、大丈夫ですよ。」


長谷川は大きくうなずき答えた。



深夜 埠頭


「この先で取引が行われているんですね。」


須田は埠頭にある倉庫の屋根の上から身を屈めながら先行する長谷川に訪ねた。


「ああ、すでに取引は始まっている。計画通りに事を運べば良い。」


長谷川は冷静に答えた。


「それにしても俺達怪しい格好してますよね。」


長谷川と須田はは黒い覆面をで正体を隠し、目立たない様に黒い服装だった。


「当たり前だ。マフィアと山下組を仲違いさせる為だ。俺達が見つかっては計画が失敗する。」


「計画ですか…」


「おっと、見えてきた。」


長谷川は屋根の上から少しだけ身を乗り出し取引現場を確認した。



「これが、今回の取引分ダ。」


少し訛っている日本語を話すのはブラジル系の人相の男だった。


彼の後ろには2人、似たような人相な男達がいた。


その男は片手に持ったジュラルミンケースを腰ほどの高さの台に置いた。


パチッパチッと2か所のロックを外し隣にいた日本人、山下組の男が中を確認した。


「ああ、いつも通りだな。これが支払だ。おい、持ってこい。」


男が少し離れた場所にいる男に声を掛けると近くに止めてある車からジュラルミンケースを持ってきた。


「アニキ、こちらです。」


男がケースをアニキと呼んだ男に渡した。


「おう、御苦労。」


そのままケースを台の上に置くと先ほどのマフィアと同じようにケースを開けた。


ケースの中には1万円札の束がぎっしり入っていた。


ブラジル系の男が札束の数を数えると大きくうなずいた。


「ああ、確認しタ。今回の取引もいつも通り終っタ。」


それぞれが交換したケースの蓋を閉めた瞬間、ブラジルマフィアの子分2人の心臓をナイフが貫いた。


叫ぶことも出来ず2人は倒れた。


「高橋さん!そいつも!!」


屋根の上から長谷川が叫んだ。


「ック!裏切ったナ!」


ブラジルマフィアの男が高橋を睨んだ。


「ち、違う!俺は何も知らないんだ!」


高橋は両手を大きく振りながら否定した。


その瞬間、ブラジルマフィアの男の頬を掠めるようにナイフが飛んできた。


「ッヒ!」


男は尻もちをつき、お金の入ったケースを抱き這うようにすぐ傍に止めてある車に乗り込むと、急発進して埠頭から逃げて行った。


その様子を高橋と2人の子分が焦りながら見ていた。


「アニキ!これは!」


「知るか!どこのバカが殺ったんだ!」


高橋が悪態を吐きながら振り返った瞬間、子分の1人が高橋にもたれ掛かってきた。


「お、おい!」


子分の後頭部にはナイフが刺さっていた。


もう1人の子分も頭部にナイフが刺さっていて絶命していた。


「クソッ!誰か知らないが舐めたことしやがって!」


高橋が懐から銃を取り出した。


その瞬間、高橋の眉間にナイフが刺さり絶命した。


「…長谷川さん、容赦ないですね…」


須田は長谷川の眉一つ動かさずに殺せる神経に恐怖した。


「仕事だからな。須田さんには冷静に状況を分析して、冷酷に実行する事が出来ないようだな。…まだ、表の世界に戻れるぞ。」


「いえ、西川さんの為なら冷静に、冷酷になれるようにがんばります。」


「そうか。それならもう一仕事だ。殺した3人を車に乗せ海に沈めるんだ。」


「…わかりました。」


屋根から降りた高橋達が乗ってきた車に死体を乗せると車を動かし海に走らせた。


沈む車を長谷川と須田は沈みきるまで見続けていた。




翌朝


現役の国会議員、山田卓夫の逮捕が世間を賑わせていた。


『私は知らないと言っているだろう!』


テレビに映る逮捕直前の山田は深夜にも関わらず高級クラブからの帰りにインタビューを受けていた


『議員!ヤクザとの繋がりはなかったのですか?遠縁に当たる人物がいると言われていていますが?』


『私は知らんし、何も言えん!』


山田はそういうと車に乗り込みどこかに走り去って行った。


『…と、言っていた山田議員ですが、今朝、警察に逮捕されました。警察では…』


長谷川は朝食後のコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。


「国会議員でも悪いことする人いるんだね。」


小室はコーヒーカップを置くと溜息混じりにつぶやいた。


「うん、人間て欲が深いからね。おっと、もうこんな時間か。それじゃあ、行きますか。」


長谷川は立ち上がると玄関に向かって歩き出した。


「あ、まってよ。」


その後ろを小室が追いかけた。玄関を出たあたりで長谷川に追いつき腕を組んでお店まで歩いて行った。



それから1週間後


山下組の組長 山下藤次郎が何者かに撃たれて殺された。


警察は抗争と判断し山下組の周辺での職務質問や警邏の人員を増やした。


そんな時、AV専門店希望に珍しい来客があった。


「ごめんよ。」


「いらっしゃいませ、松戸さん。」


それは松戸組の組長、松戸耕平だった。


「おう、例の件で話がある。」


「わかりました。奥へどうぞ。」


2人は事務所兼休憩室へ行くと向かい合ってソファに座った。


最初に口を開いたのは松戸だった。


「それで、どんな状況なんだ?」


「はい、松戸組のシマで麻薬を打っていた売人から山下組が関与している事が分りました。それで、取引現場を突き止め取引先のマフィアと山下組が争うようにしました。」


長谷川は淡々とだが、はっきりした口調で言った。


「おう、そこまでは西川から聞いた。」


「それで、こちらは動きは一旦止めました。今、マフィアと山下組が争っているのは行方不明になった3億円についてです。」


「さ、三億か?」


松戸は驚いた。松戸組は義理と任侠で活動していたので常に資金繰りには困っていた。


「なるほど、三億か…。」


松戸は三億…三億…と、何度か呟いた。


「松戸さん、話しを続けます。マフィアの一部が暴走し山下藤次郎を殺害。司令塔を潰された山下組は他の幹部で運営しています。しかし、全体的な動きを把握しきれていないようで上手く機能していません。」


長谷川はそこで一旦話を切った。


「それで、山下組から離れたマフィアがウチのシマで薬を売っているのか?」


松戸は長谷川に鋭い眼光で睨んだ。


「はい、次の計画を説明します。松戸組の管轄内で勝手な事をすると痛い目にあうと判れば手を引くでしょう。」


長谷川は飄飄としながら答えた。


「痛い目とは?」


「殺します。」


長谷川は即答した。


「販売員が殺され続ければ早い時期に手を引くはずです。さらに、死体を放置すれば警察からの外国人や挙動不審者への職務質問が増えます。現在、一時的に治安が悪化していますが警察の警邏強化ですぐに治安は改善されるでしょう。」


「…そこまで考えてたのか?」


松戸は驚き眼を開いた。


「それでも、不安要素はあります。…売人の殺害はこちらで行います。松戸組の皆さんは知らぬ存ぜぬで警察からの追及を否定してください。」


「…わかった。後は長谷川に任せる。」


そういうと松戸は立ち上がった。


「わかりました。」


長谷川は松戸の背中に向かってそう答えた。




それから1週間、松戸組の管内で外国人が殺される事件が複数件発生した。


どの外国人もビザの代わりに麻薬を持っていたことから警察はその管内での外国人への職務質問と任意同行の強化を行って行った。


さらに1週間経過すると町から外国人の姿が消えた。


殺人は収まり、麻薬の密売もなくなった。


ほっとしたのもつかの間で山田卓夫が釈放された。


『今回の逮捕は非常に遺憾です。私は違法な事は一切行っていませんし、反社会勢力との関係も一切ございません。』


テレビの記者会見で山田卓夫は無罪を主張し、同席していた弁護士もまた同じように無罪を主張していた。


また、2人そろって検察の陰謀を仄めかすような事を言い世間は関心を高めた。


長谷川はその発言に検察側を調べた。


その結果、検察側で担当している人の1人を除いて全員の銀行口座に怪しい多額の入金があった。


長谷川は記者会見場を行っている建物の近くの公園でベンチに座り監視カメラを通じて記者会見を見ながら調べていた。


静かで平和そうな時間が流れている長谷川の耳に突然バイクの音が聞こえてきた。


何度も空吹かしをし周囲を威嚇しながら走る男がいた。


ヘルメットを着けず蛇行運転を繰り返し記者会見を行っている建物の裏手でバイクは止まった。


長谷川はその男の顔に見覚えがあった。


ネットにアクセスし検索すると男の素性がわかった。


山下雄樹 やましたゆうき


 山下組の組長、藤次郎の子。雄樹は気に入らない者は殴り倒すほど気性が荒く山下組から破門されていた。


山田卓夫は記者会見が終わると弁護士と別れ建物の裏、山下雄樹がいる場所へ歩いて行った。


「よう、オジキ。大変そうだな。」


雄樹はバイクに跨ったまま建物から出てきた山田に向けニヤリとしながら言った。


「ふん、父親に捨てられたお前を拾ってやっているんだ。俺の機嫌を損なわせるな」


山田は少し強い口調で言葉を荒げた。


「へいへい、わかりましたよ。それで、俺は何すればいいんすかー?」


「フン、口の減らない男だ。…此方からの賄賂を受け取らなかった検察のこの男を殺せ。」


山田は雄樹に一枚の写真を見せた。


「ふーん、まぁ、言われればやりますけどー。」


雄樹は何やら不満げに了承した。


「…今回は何が欲しいんだ?」


「へへへ、話のわかる人は違いますね。この前貰った金が無くなったんですよー。」


「…わかった、300万振り込んでおく。」


「へっへっへ。そんじゃあ、サクっと殺して来んよ。」


雄樹は山田の返事を聞かずにそのままバイクで走り去って行った。


「…」


その後ろ姿を見つめる山田だったが、すぐに建物に入って行った。


その2人を少し離れた場所から隠れるように見ていた人物がいた。


長谷川だった。


視界の倍率を上げ聴覚の感度も上げ2人の顔と言葉をすべて拾っていた。


(はぁ、ここで買収されていない検察が殺されたら誰もあいつを裁けなくなるぞ。)


心の中で溜息を吐き、長谷川は検察官を守るべく走り出した。



大槻秋夫は今日も疲れた体を引きずって検察庁を出た。


大物政治家の黒い噂が匿名メールで真実になり検察庁が動いた。


40代の働き盛りの大槻にその大きな仕事が舞い降りた。


他にも数名の仲間と真実を追求すべく日々闘っていたが、徐々に士気が低下していった。


まるでその政治家を逮捕させないように動く仲間たち。


証拠の紛失からメールの削除…


大槻は同僚の事を上長に相談するも事なかれ主義の上長は何も手を打たなかった。


裏切る同僚と何もしない上長に失望しながらも、検察庁から帰宅する為にバス停に向かった。


そんな大槻の目の前でバスが走り去って行ってしまった。


(まあ、いいさ。駅までは歩いていけるしな…)


あと30秒早くバス停に到着していれば乗れたが、仕方なく駅まで歩くことにした。


その大槻の後ろを一組の男女が仲良く腕を組んで歩いていた。


大槻は駅までの近道として人通りの無い道を進んでいた。


車はギリギリですれ違うほどの狭さ500メートルほどの1本道で、この日は珍しく中型のトラックが道の中ほどで止まっていた。


大槻はその道を200メートルほど歩くと100メートルほど先にあるトラックが動き出した。


徐々にスピードを上げるトラックに大槻は不安を感じた。


大槻の不安は当たりトラックは彼を目標にして猛スピードで突進してきた。


「う、うわっ!」


驚きで動くことが出来なかった大槻は何者かに両肩を掴まれギリギリでトラックを回避する事ができた。


「た、たすかった…」


大槻は膝を着き小さく呟くも両肩を掴まれ強引に立たされた。


「逃げてください!。彼をよろしく!」


大槻を立たせた男、長谷川が声をかけた先にいたのは普段と違う化粧をした小室だった。


「こっちです!いそいで!」


小室は大槻の手を引き、大通りにでるまでの残り300メートルを駆けだした。


大槻を轢き損ねたトラックはビルの壁に車体を擦りながら強引にUターンをすると再び速度を上げた。


必死に走る大槻と小室に向かうトラックの前に長谷川が行く手を塞ぐように道の中央で両手を広げ待ち構えた。


その体からは水蒸気が立ち昇り蒼く放電しているかのようなスパークが発生していた。


長谷川は迫りくるトラックを正面から受け止めた。


「な!」


驚く運転している男、山下雄樹と目が合った。


長谷川はまだ余裕があるかのようにニヤリと笑った。


「このっ!」


長谷川の笑みで怒った雄樹がハンドルから手を離し、懐から銃を構え目の前にある無防備な長谷川の頭部に向かって引き金を引いた。


パンパンと数発の発砲音


長谷川の額に幾つかの穴が開くが、出血する気配も彼が死ぬような素振りも見せなかった。


そして、次第にその穴もふさがって行った。


「う、うわああああぁぁぁ!」


目の前で起こった出来事に理解が追いつかずパニックを起こした雄樹はトラックから逃げる様に飛び出した。


その瞬間、長谷川は両手に力をいれトラックを力強く抱きしめた。


トラックはその腕の部分だけがプレス機に掛けられたように異音を上げながら圧壊して爆発した。


雄樹は爆発の衝撃で数メートル飛ばされると気を失った。


長谷川は爆発の瞬間、ビルの真上までジャンプしその場を離れた。


数分もするとパトカーがサイレンを鳴らして接近するのがわかった。


小室と大槻は通りの入口から遠くに燃えているトラックを見ていた。


小室はその隙に大槻のそばから離れようとした。


「待ってくれ、助けてくれた礼を言わせてくれ。」


「ふふふ、気にしないで。あの人からの言葉よ。敵の敵は味方。私たちは貴方の味方じゃないけど独自の正義で動いているわ。」


「それは、どういうことだ?それにあの人とは?彼の事なのか?」


大槻はトラックから轢かれそうになった時に助けてくれた男性を思い出した。


「ふふふ、いずれ判るかもね。そういえば、あの人が言っていたわ。あなたを狙った実行犯は山下雄樹。このまえ殺された山下組の組長の息子よ。」


「山下…、まさか!」


大槻は同僚に消された証拠の中に山田と山下の密会する部屋へ入る映像を思い出した。


「そう、正解ね。山田卓夫の指示よ。今頃、警察とマスコミに今回の貴方を消すように指示している映像が送られる手筈になっているわ。今回は音声付でね。そうすれば、言い訳できないでしょ?」


「…そうだな。そうすれば実刑確実だな。」


「それはあなたの仕事よ。それじゃあ、またいつか…」


小室は群衆に紛れるように姿を消した


「彼女は一体何者なんだ?…」


大槻は警察に全てを話し、警察に小室の行方を捜して貰ったが、見つけることは出来なかった。




『山田議員!今回の殺人幇助についてコメントを!』


『私は知らん!何もやっていない!』


『しかし、こうやって証拠があるんですよ!それについて何か一言!』


『私は知らないと言っているだろう!きっと良く似た男だったのだろう!』


『それにしても、釈放会見時と同じ服装ですよ!場所も記者会見の行ったビルの裏手じゃないですか!』


『えーい!何も言うことはない!失礼する!』


テレビでは現職議員の殺人幇助というスキャンダルで湧いていた。


そんなテレビの画面を2人は家で見ていた。


ソファには小室と長谷川がお互い向き合って座っていた。


「…ねえ、あの時どうやってトラックをこわしたの?」


「…」


長谷川は無言で返した。


「もっと貴方の事が知りたいの…」


「…はぁ、本当の事言っても信じられないかも知れないよ?」


長谷川は溜息をつきながらも普段から色々追及しくる小室に真実を話す決心をした。


「信じるも信じないも話を聞かなくちゃわからないわ。」


「そうだね…」


長谷川は立ち上がりキッチンから包丁を持ってきた


「…」


小室は長谷川の目を見つめ続けた。


「えいっ」


長谷川は小室から視線を外すと自らの左腕に包丁を突き立てた。


「な、何を!」


「いいから見てて!」


包丁は腕を一周すると、一旦腕から離し今度は傷口から手首まで切り裂いた。


小室は眉間にしわを寄せながらその様子を心配そうに見ていた。


長谷川は傷口に右指を入れると皮膚を一気に剥がした。


「ッヒ!」


小室は悲鳴を上げた。


彼女の視線の先には長谷川の骨格のみになった腕がそこにあった。


剥がした皮膚は直ぐに砂になり空気に溶けて行った。


「見ての通り、純粋な人間じゃないんだ。」


骨格の指を動かし、視線は指先を見ていた。


傷口から少しずつ皮膚が再生され30秒もすると傷一つ無い元の腕に戻った。


「…元々20歳までは生きられないって医者から宣告されてたんだ。運よく25歳まで健康に過ごせたんだけどね。やっぱりダメだったんだ。」


「…」


「入院して先がないとわかったころ、ある企業の人が来て言ったんだ。莫大な費用がかかる全身サイボーグ化をその企業が全ての費用を出してくれるって。サイボーグ化するまでのドキュメントを撮影し、退院後はその企業の為に外宇宙の探索に行くと約束したんだ。」


「外宇宙?」


「うん、人が住んでいる木星のコロニーよりもずっと先、はるか何万光年先にある居住可能惑星の探索と発見後の権利、そしてその様子をドキュメント番組にすることで企業は多大な利益を生むはずだったんだ。」


「木星?コロニー?」


「それが、外宇宙を探索に向かう途中、気がついたらブラックホールに吸い込まれてていてね。気がついたら300年ちかくも時間を遡っていたんだ。」


「…」


「信じられないかもしれないけど、全て本当さ。僕は未来から来たサイボーグなんだ。」


「…そうね、そういわれると全てが納得できるわね。私が連れ去られた時も山田組が壊滅したって聞いたし、この前の飛行機事故でも無傷で帰って来たわね。」


「…」


「あはっ、よかったー。今まで悪魔かと思っていたけど、これでなぞは解けたわ。」


小室は笑顔になった。


「あ、悪魔?」


長谷川は驚きの表情を浮かべた。


「ええ、サイボーグくらい何よ。こうやって会話が出来て、あなたの考えに共感できるのよ。それがどうしたって言うの?」


長谷川は驚いた。未来でもサイボーグは忌み嫌われていた存在だったのだ。だから、生存と引き換えに外宇宙の調査を行うようになったのだ。


「はぁ、秀美さんにはかなわないな。」


「ふふふ、さんは要らないわ。」


「ああ、わかったよ、秀美」


2人のわずかな時間だが、幸せな時間が流れていた。




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