chap1-4
全て世は事もなし。朝日は我々を優しく照らし、早朝の風は涼しく、馬車は変わらず土の道をゆっくりと進み行く。
今日も今日とて、幌の下にはユーリとアンジェが姦しく、御者としてセリカが、そしてその隣で風景を楽しむ僕がいる。
昨日のことに対する詳しい明言は避けた。深く関わると決定したわけでも無いのに、相手の事情に首を突っ込むのは、無責任以前に失礼な行為だ。まして、こちらは身分不確かな異世界人であるわけで。
そして、状況的に考えて、出会いと襲撃の関連性を疑わない人間はいない。事実は違うと言えど、それを現実に証明する手立ては無い。厳しい目つきのセリカに、どうしたものかと僕が考えていると、ユーリが「ルールが、精霊が、シズキさんは関係ないって言ってる」との手助けもあり、こうして四人で進むことができているのである。
森からは鳥の鳴き声、風が吹くことで奏でる森と草原の音、「まだ少し眠いわ」とアンジェがユーリに寄りかかり、「あわ、あわわわ、アンジェ、ちょっとっ」と慌てる声。
「こんなに牧歌的で平和なのに、人ってのは何かしら抱えるものだね」
「……そうですね、我々も、あるいはあなたも」
理由はわからないが、ユーリでもアンジェでもなく、セリカが一番僕は好きである。その佇まいであったり、言い回しであったりが、とても落ち着くのだ。最初こそ風景を見るため、とは思ったものの、実際のところ、セリカの隣にいたいというのが理由で、僕は御者台にいるのかもしれない。
さりげなく、アンジェがユーリにしているのと同様にセリカに身体を預けてみる。女性らしく細身であるが、剣士らしく引き締まった身体に。一瞬ビクッとした動揺は感じられたがそれもすぐに消え、セリカは何も言わずに馬車を進める。
後ろからアンジェの「あらあら」という囃し声と、「あうあう」というユーリの戸惑う声が聞こえる。
こういう時、自分が可愛らしい男の娘でよかったと本気で思う。もし何事も立ち行かなくなれば、セリカに寄生して養ってもらおう。
馬車は進む、目指す物語へと。
検問に際して、街へと続く門から人々が連なっている。
「僕も一緒にいても大丈夫かな?」
「まぁ、一人くらい大丈夫でしょう」
その言葉はそのまま、一瞬訝しんだ検問の兵ではあるが、女性が四人で、新入の学院生らしい。面倒くさいのが嫌いなのか、大して問題はないと判断したのか、案外すんなりと通してくれた。
「ところで、シズキさんはこれからどうするのですか?」
「んー、実は何にも考えてないんだよね」
「でしたら、私達と一緒に行きませんか?」
簡単に言うアンジェの言葉に、大丈夫なの? とセリカとユーリに目を合わせれば、やれやれ、また始まった、といった表情である。おそらくではあるが、犬、猫と同様の扱われ方であると推測する。
「私達は寮なのですが、私とセリカは一緒ですが、ユーリは一人部屋なのです。それはとても寂しいことだと思ってましたが、シズキさんがいらっしゃれば……」
「まぁ、まぁ。いくらなんでも学院生でもない人間が公式に泊まるわけにはいかないでしょう。公式には」
「公式には、ね」
呆れたようにユーリが呟く。
「まぁ、三人の気配を覚えたからね」ぽんぽん、とアルファを撫でる。攻撃対象を定めるのと同じ方法で、アルファには三人の魔力だとかを設定してある。「だらだらおんぶに抱っこも格好悪いし、最悪寝るところがなければ、ご厄介させてもらうよ」
「そう、ですか」
明らかに残念そうなアンジェ。
「では、我々はこれで」
それとは対照的に、去り際も格好良いセリカ。僕は三人の馬車が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
「さて」
大きくノビをする。
「いろいろ、この世界について聞くの忘れちゃったなぁ」
目標である、この世界について知ることは、達成されていない。
それでも、どこか、晴れやかな気持ちである。
視線をあちらこちらへと向ける。政策が良いのか、情勢が安定しているのか、この街はとても活気付いている。露天の逞しき呼び声。子供の楽しげな声。大小さまざまな人々の奏でる街の基本要素。
この世界で聞く、街の雑踏もまた、物語へと入り口であるのだ。




