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chap1-2

 ところで、類は友を呼ぶとまではいかないが、わかる人にはわかるというか、同族は同族を知るというのだろうか。

 

「はじめまして、シズキと呼んでください」


「はじめましてシズキさん。アンジェ、と申します」


 世界に華が咲き乱れるかのような笑顔を見せるのが、豪奢とはいわないが質素とは口が避けても言えない、淡い若草色の華麗なドレスを身にまとい、栗色のフワフワヘアーのお姫様、アンジェ。


「は、はじめまして。私はユーリといいます」


「はじめまして、ユーリ---さん」


 決して誠実とはいえない笑顔で返答すると、ユーリ「さん」はビクッと身体を震わせた。お互いの視線が絡み合う。その平らな胸と、股間へと彷徨いながら。


 ユーリは素朴ながら評判の街娘、といった風情がある。中古らしく少し野暮ったく感じるが、それでも十分に良い仕立ての服。そしてボブショートの、特徴的な白い髪。平凡な美しさの中に特異な美しさを兼ね備えている。そんな人物である。


 もう一度言おう。そんな人物である。


「ねぇ、ユーリさん。ユーリさんはユーリさんで、ユーリさんでいいのよね? 決してユーリくんでは---」


「あわわわわっ、ちょ、まっ」


 セリカとアンジェに視線を彷徨わせ、慌てて僕の発言を遮ろうとするユーリ。とても可愛らしい。

 

 外の景色が見たい、という理由で幌付きの荷台を断り、御者であるセリカさんの隣にいる私へ、荷台から身を乗り出さんばかりのユーリ。とても可愛らしい。


 あえて言わなければなるまい。私はSにもMにもなれるし、バイセクシャルでもある--と。


「と、ところで、そのフワフワ浮いているのは、何かの魔法具ですか、それともアーティファクトだったりするのですか、どうですかっ?」


「まぁ、シズキさんはアーティファクト使いなのですか?」


 一人慌てているユーリさんを尻目に、アンジェは目を輝かせて僕を見てくる。違う話題で自分の性別の禁忌を流せたことに、ユーリは少しホッとしている。


 しかし、アーティファクト、である。


 神様のお陰で言葉の壁はどうにかなっているみたいなのだが、こういった単語を出されると困りものである。普通に考えれば工芸品、あるいは研究技術であると考えられるが、この場合はなんだかよくわからない凄い魔法具、と考えていいのだろうか。古代のアーティファクト、ともなれば世界を破壊するかもしれない、とかそういう類のものである。


 一応、ざっとイメージした概念では、魔法具は現在の魔法に即した、現代の人間の作ったもの。あるいは、既知の知識によるもの。アーティファクトは、既知外の技術知識によるもの、と考えてもいいと思う。もしかしたら、正確には違うかもしれないが。


「--まぁ、これはアーティファクト、というよりは、家族、みたいなものですかね」


 こういう、明言を避ける言い方をすれば、何も問題ないだろう。


「家族、ですか?」


 自分の隣でフワフワ漂う赤、黒、緑を見て、セリカさんが言う。


「ええ、幼い頃からずっと一緒でしたから」


「大切なものなのですね?」と、なんだか感動しているっぽいアンジェ。


「そう、ですね」


 そこに、感情が付与されていると思えるくらいには。


 わざとらしく、手をアンジェに差し向けて、珠達を漂わせる。セリカが小さく腰を浮かせたが、アンジェが自身の周りを点滅しながら漂う珠達を見て目を輝やかせているのを見て、すぐに腰を落とす。


「こ、これ触っても大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です」


 アンジェが緑、ベータを人差し指でツン、とつつく。どことなく、恥ずかしがっているようなベータ。赤のアルファはどこか不機嫌そうに乱雑に飛び、黒のデルタはあららうふふ、といった感じか。


 そして、僕は気付かないふりをしているが、ユーリが真剣な目で珠達を見ている。そして、どこか違う空間をちらちら見て、ジッと黙っている。


 何か、あるのだろう。けれど、それを聞くのはユーリの性別を聞くくらい野暮ってものである。


 そんなこんなで、女四人、正確にはそんな姦しいものではない四人の旅は順調に進むのである。


 三人は僕の素性も聞かず、変な人ではあるが、悪い人ではない。くらいの評価でいてくれている。ユーリは少し思うところがあるっぽいが。


 ついで、セリカと、ユーリ、そしてアンジェにも事情というものがある。


 アンジェは所謂没落貴族である。人は好いが騙され易い父が多額の負債をその身に負い、なんとか返済はできたが貴族としての優雅な暮らしは一切できず、幼い頃に母をなくさせてしまった娘に苦労をかけたくないが故に、がむしゃらに働いた結果身体を壊してしまう。そして死の床につく。


 その際、昔の伝を頼りに、学院に入学できるよう手配。魔法の才のあるアンジェ、未だ古き約定を護り、仕えてくれる剣の腕が確かなセリカ、そして二人の幼馴染であり、希少な精霊魔法を扱えるユーリ。三人は現在、学院のある街へと馬車を進めているのである。


 そんなことを、焚き火を囲んでお話しているのである。


 途中、日も暮れて着た頃、ユーリがこちらに洞窟があるっぽい、とセリカに伝え、そちらに行くと野宿をするには丁度よさそうな穴がポッカリと口を開けていたのだ。アンジェが「うふふ、ユーリはすごいんですよ」と自分のことのように褒めると、ユーリは顔を真っ赤にしていた。


 どうやら、所謂希少な精霊魔法の恩恵によるものらしい。どんなに魔法を上手く使えたとしても、精霊魔法は精霊に気に入られる素質がなければ扱えないものらしい。魔法使いが千人に対して、精霊魔法を使えるのは一人。という狭き門だとか。


 こちらも負けていられぬ、とアルファに頼んで食べられそうな動物を狩ってもらう。アルファから二発ほど小さな炎の槍が森に向けて発射される。そちらに行けば、兎っぽいものが二匹、焼け死んでいた。


 「すごいですっ」とアンジェが胸の前で手を組んでキラキラと目を輝かせる。若干、警戒心を見せたセリカとユーリだが、「こうでもなければ道の真ん中に突っ立っていないですよ」と言うと、それもまぁそうか、というような顔をしていた。


 なんにせよ、アーティファクト、という隠れ蓑はかなり便利である、と認識する。


 セリカによる兎の解体ショーの後、そのまま兎と野草の炒め物、ユーリがどこからともなくジャガイモっぽいものを採取。おそらく精霊の恩恵か。それを蒸かしたもの。アンジェによる水の魔法での飲料水が今日のディナーである。


 お喋りをしながらの外でのお食事はとてもおいしかった。山の稜線の向こうで茜色から紫、そして青にかわる様子は美しく、暗くなるにつれ風は少し強くなるが、温かいまま。風に運ばれる匂いは少し昼の香を消すが、食事のおいしさはどの世界であろうと変わらない。


 まだ出合って数時間しか経っていない三人との空間は、まるで旧友かの様に居心地が良い。心のどこかで、自身のことを正確に話せない事が少しもどかしく感じ、さらに罪悪感もわくが、何事も話せばよい、というわけでもないだろう。自分にとっても、相手にとっても。そんな言い訳を考えながら、それでも楽しい野宿である。アンジェが「シズキさんと出会えてよかったわ」と、素直に言っているときは、その父にしてこの娘あり、と考えてしまった。もし僕に悪意があったらどうするのだろうか? と。


 そして、アンジェが眠りにつき、セリカが焚き火番をしている時、洞窟から少し離れたところに、ユーリに呼ばれたのである。

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