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後々、物語の内容に差し障りなく、文章を推敲していこうと思います。

 トラックに跳ね飛ばされて気が付けば謎の白い空間にいた。


 悲しいことに常日頃の妄想トレーニングは生かされなかった。トラックのフロントウィンドウを駆け上がり、驚く運転手を尻目に後ろに二回転して着地、などという事は出来なかった。おそらく体育館で伝説のライブとか、教室にテロ組織が乗り込んできて華麗に撃退とか、そんなことは想像の中でしか存在しないのだ。


 現実には、成す術も無くトラックと僕は接触し、いとも容易く僕を空中に舞い上がらせた。 


 仮に、トラックが十メートル離れた先から不審な挙動を取っていれば、僕は何らかの対処を取れていたのかもしれない。あるいは空中二回転着地を決める準備を取るコトだって出来たのかもしれない。


 しかし、トラックは僕を狙ったかのように、急にハンドルを切ってぶつかってきた。おそらく、覚醒フラグがあったとしても発動することもできないまま、痛みも、死ぬという自覚も沸く前に意識は途絶えてしまった。


 最後の一瞬に捉えた間近に迫ったトラックの、誰もいない運転席がやけに鮮明に瞳に写った。


 とはいえ、そんな事故直前のことを思い出せるのは、この謎の白い空間にいるからなのだが、実際にはトラックにぶつかる前に心臓発作で死んでいるとか、全て夢だとか色々考えられるが、それは考えてもどうしようもないことだ。


 現在重要なのは、『おそらくトラックによって自分は死んだ』こと、『謎の白い空間にいる現状』の二つだけだ。『トラックの運転席に誰もいなかった』は、突然運転手がアクセルとブレーキに頬を擦り付ける病気を持ってきた可能性があるので、考慮しない。『トラックが故意にぶつかってきた可能性がある』というのも、結局そこまで考慮に値することではない。


 僕はおそらく死んだ。ただそれだけのこと。

 

 今更、それはどうしようもないことなのだ

 

(いや、少しはどうかしようよ)


「このパターンは神様ですね、こんにちわ神様」


 突然聞こえてきた謎の美声に適当に中りをつけて挨拶してみると、(お、おう。こんにちわ)と少し戸惑っている様子が伺える。


(コホン、あー、随分と冷静みたいだが、先ほどから君が考えているように、君はもう既に死んでいます)


「はい」


(はいって、そこは普通戸惑ったり悲しんだり、色々考えるところなんじゃないのか?)


「神様は随分古臭い考え方をお持ちのようで、現代はエンターテイメントの氾濫した時代、しかもその最先端の日本人ですよ? 様々な物語が形付けられ、フォアグラ製造の様に拒否することもできないまま、様々な情報を摂取させられる、そんな時代です。今時、死んで白い謎の空間で神様と出会うなんて、在り来たりすぎて、戸惑うに値しないですね」


(き、君はよく喋りますね。でも悲しさや悔しさで思考が散り散りになるものなのですよ、たとえわかっていても)


「いやいや、閉塞化した今の世の中、夢も希望もなく、自分で楽しむことに専念するしかない時代です。その反動として、外界からの感情に対する刺激は制御しているんです。つまり、美しい景色→感動、ではなく、美しい景色→自己解釈→感動、という抑制が働いているのです。だから何が起ころうと、仮に身体が過剰に反応しても、意識は冷静なのです」


(あ~、確かに最近、幽霊達が「上っ面でしか怖がってくれなくて、なかなか憑りつけないんですよねぇ」とかなんとか言っていたような気がするけど)


「それに、親とか友人とか、大切な人がいますけど、今更どうしようもないっていうか。遅いか早いか、突然か突然じゃないかくらいの差というか。まぁ、その内こちらからも偲ばせてもらいますし」


(醒めてるなぁ~)


「醒めているのではなく、ありのままをありのままに受け取る素養がある、と言ってください」


(しかも可愛くない。外見はこんなに可愛いのに)


「オンナオトコ、と馬鹿にするのはむしろ僕にとって褒め言葉です。どれも一級品の髪質肌艶可愛らしさ、女子の嫉妬で今日も飯が旨い」


(むむむ、誰だこんな嫌なヤツ作ったのは)


 あなただろう、おそらく、と言おうと思ったが、そろそろ話が進まないので、やめておく。


「さて、話が進まないので、そろそろこの状況に見合った説明をお願いしたいのですが」


(マイペースだなぁ。まぁ、いいです。現代人の意識構造に関する面白い話を聞けた気がしますし)


 コホン、と一つ咳払いをして、神様が説明してくださる。


 要約すると、理由はわからないがあなたの死は予定外のもので、こちらで死を上手く処理できない。下手に色々弄くると何が起こるかもわからない。大神様に報告するのも面倒くさい。このまま適当に異世界にでもぶん投げた方がいろいろ楽。けどそれじゃあんまりだから何か特殊な力もあげちゃうよ、とのこと。


「あんたも人のこと言えないくらいイイ性格してますね」


(神様に向かってあんたって言わないの。結構大変なのよ。神様ってのも)


「まぁ、別にいいですけど。ところで異世界というのは、所謂、剣と魔法の世界で、特殊な力は何でもいいの? 何個まで?」


(異世界は適合の問題もあるけど、結局、都合がいいのが剣と魔法の世界だから、そうなると思うわ。特殊な力は、よっぽどじゃない限りなんでも。数は、まぁ三つくらいにしますか。あんまりいっぱいあっても、付加するの大変だし)


「では、攻撃用の珠、防御用の珠、身体精神用の珠、という三つで」


(なにそれ)


「それぞれ、オート化、マニュアル化できる。大気からその動力源を取り込める。などなど、後は、ちょっと言葉で説明するの面倒だから、なんか適当に頭の中覗いて上手いこと設定していただければ幸いです」


(君ちょっとイタイな)


「若い頃に考えた黒歴史ってヤツです。授業中に書いた設定ノートは灰にしました」


(まぁ、適当に楽しく作らせてもらうよ。それじゃあ、そろそろかな)


 白い空間の端から、ボロボロと崩れていく。それと同時に意識も深く沈んでいく。


(なかなかの演出だろう。この空間と自意識の連動する様子。最初はもう一度トラックに跳ね飛ばしてもらって異世界に行くっていうアバンギャルドな方法にしようと思ったんだけど、やっぱりここは格好つけら方がいいかなって思ってね。ちなみに崩れた先にあるのは宇宙空間で、自意識の外は無限に広がっているっていうメタファ-が込められていて・・・・)


 神様の自慰的講釈をまともに聞けなくて良かった。薄れ行く意識に感謝し、僕は異世界へと旅立つのだ。

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