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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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黒炎の魔法使い

「――灼熱の怒り(フレイムベル)!」

 詠唱を終えたメリアが炎の魔法を階段付近に向けて放った。俺の雷撃だと階段を破壊してしまう可能性があった為、メリアの魔法は有り難い。

「ルルー、今どこだ?」

「動いてないよ。あいつ、魔法をかき消した」

 どうやら一筋縄ではいかない相手らしい。が、存在しているのなら戦える。

「ルルー、敵が移動したらその動きを教えてくれ」

「わかった!」

 ルルーが頷くよりも早く、俺は階段の手前に向けて雷撃を放った。メリアの魔法が効かない以上、おそらく魔法剣の雷撃も効かないだろう。しかしルルーの言葉通り魔法を()()()()()のなら、実際に効果がない訳ではないはずだ。だとすれば魔法による攻撃は牽制にはなる。

 雷撃を放った俺はすぐさま駆け出し、気配を読む事に集中する。

 眼前で雷撃が霧散したが、何かが移動した様な気配はないし、ルルーの声もかからない。なら、奴は動いていない!

 走りながら剣に魔力を込める。裁きの雷(ジャッジメント)喰らい付く雷(サンダーバイト)よりも多くの魔力を必要とするが、現状では一番効果的な魔法剣第三の能力――

轟く雷鳴(エレメントスパーク)!」

 俺がキーワードを発した刹那、俺の周囲を回転する雷の筋が現れる。その動きが止まれば、俺が雷の檻に閉じ込められた様になるだろう。十数本の雷の筋が周囲を回転する事で隙間をなくし、攻防一体の雷壁と化す。おおまかな位置は分かっても、剣で攻撃した所で当てる事は出来ないだろう。だからこそ、攻撃される事を見越しての轟く雷鳴(エレメントスパーク)だ。

「動いたよ!」

 ルルーがそう叫ぶのと、相手の姿がぼんやりと浮かび上がってきたのは同時だった。

 轟く雷鳴(エレメントスパーク)は掻き消す事が出来ないと判断したのか、敵は階段付近から俺の左側を通りメリアへと接近する。完全に視覚では捉える事の出来なかったその姿が、移動すると同時に薄い影の様な姿が見える様になった。その存在に当然気付いたであろうメリアが魔法で迎撃しようとした時には、その姿が完全に見える様になっていた。

 黒いローブ姿で、頭にはフードを被っている為顔までは見えない。体格から察するに先程男だと判断したのは間違ってなさそうだ。とは言えどちらかと言えば華奢な身体つきをしている。姿を隠す術を持っていた事や、方法は分からないが不死者を作ると言う術を行なっていた事を考えれば魔法使いタイプなのだろう。だが、攻撃魔法を使う事なくメリアとの距離を詰める。直接攻撃の手段も持っているのかもしれない。

灼熱の怒り(フレイムベル)!」

 メリアの炎の魔法が男を襲うが、走りながらも腕を前に出したかと思うと炎を掻き消した。魔法を使った様子がない為、何か魔法具を持っているのかもしれない。

 男は腰からナイフを取り出し、そのままメリアへと振るう。が、魔法使いと言えどメリアだって冒険者だ。それなりに身体も動かせなければ冒険者稼業は勤まらない。その一閃を難なくかわし、再び魔法を放とうとする。

飽くなき探求(スパイラル)

 男のそんな言葉と共に放たれた魔法。それは周囲の魔力へと干渉し、空気中に魔力の渦を作り出す魔法だ。その効果範囲内では魔法を使っても渦に飲み込まれてしまう為、余程の力量差がなければ魔法を無効化されたも同然となる。

 魔法を放つ事を諦め、メリアは距離を取ろうと後ろへ跳んだ。男はそれを追撃しようと再び駆け出す。

 魔法同士のぶつかり合いにならないのなら、俺が手を出す事も可能だ。そう判断し、俺も二人に向かって駆け出す。

「ルルーは少し離れてろ!」

「分かった!」

 俺の言葉に応え、ルルーは俺達から距離を取る様に離れて行く。

まどろみの苦痛(アンヘヴン・ペイン)

 近付く俺に向かって男が魔法を放つ。例え術者本人でも飽くなき探求(スパイラル)の効果は受けるはずだ。だが――

 黒い靄の様なモノが俺に向かって進んで来る。その魔法の効果は分からないが、それに触れる事を俺の直感が危険だと訴えかけてくる。

 俺は直感に従い左方へと跳んだ。黒い靄が追って来る事はなかったが、その場に留まり続けている。残留型の魔法の様だ。

聖光の炎(ホーリーフレア)

 距離を取った事で効果範囲から離れたのだろう。メリアが放った浄化の炎が、黒い靄を掻き消した。

灼熱の怒り(フレイムベル)

 その隙に距離を詰めようとした俺に向かって、男がメリアと同じ炎の魔法を放ってきた。慌てて魔法の盾でそれ防ぐ。

慈悲深き炎槌(フレイムハンマー)!」

 メリアが魔法で作り出した炎の槌を振り下ろすが、男は悠々と跳び退きそれをかわす。そのまま階段付近まで戻り、不適な笑みを浮かべた。

「少しは出来る様ですが、お遊びはここまでにしましょう」

 そう言うと男は、聞いた事のない言葉を紡ぎ始めた。

古代魔法語(エンシェントルーン)!?」

 驚きを隠せないメリアの言葉に、俺も同じ様に驚いた。

 古代魔法語(エンシェントルーン)――遥か昔に使われていた強大な魔法を操る為の言語。今ではその言葉を紡げる者は殆どいないと言われている。男の紡ぐ理解不能の言葉がそれだと言うのなら、魔法を発動する前に止めた方が良さそうだ。とは言え、今から駆け寄った所で間に合わないだろう。俺は魔法剣に魔力を込め、直ぐに雷撃を放つ。が、左手を翳しただけで雷撃は掻き消されてしまった。

 魔法具の事を忘れていた……

「待って!」

 仕方なく直ぐに駆け出そうとしたが、ルルーの声で留まる。その次の瞬間には、男の詠唱は完了していた。

地獄の業火(ヘルフレイム)

 男が言葉と同時に手を翳すと、凄まじい勢いで黒い炎が現れた。

「逃げるわよ!」

 そう言ってメリアは踵を返し通路を戻ろうとする。俺もそれに倣って駆け出す。

「バナッシュ!」

「ルルーも逃げるぞ!」

 俺に駆け寄って来るルルーにそう言うが、ルルーは首を横に振った。

「無駄ですよ。では、巻き込まれない内に私は失礼します」

 そんな声を最後に、男の気配が消えた。転移の魔法でも使ったのだろう。

「ルルー?」

「あいつの言う通り、逃げてもアレはしばらく消えないし、ずっと追ってくるから……」

 そんなルルーの言葉で、何を求めているのかが分かった。

「――仕方ない。頼む。力を貸してくれ」

「うん!」

 ルルーは俺の言葉に頷き、紅い光を放ち始める。既に黒い炎は近くまで迫って来ていたが、不思議と恐怖は感じなかった。

 精神体(アストラル)化したルルーが俺の中へと入り込むのは一瞬の事で、炎の申し子である彼の龍の力を持ってすれば、古の魔法ですら超越し、その存在を楽々と掻き消した……

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