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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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砂漠の下の地下迷宮2

 偽りの砂漠、地下迷宮地下4階。

 そこは今までと変わらない石造りの迷宮ではあるが、地下3階までとは明らかに異質な雰囲気を醸し出していた。

「これは……瘴気か?」

 全身を覆う空気がどことなく重苦しく、気分が悪くなって来る。そもそも瘴気とは、特定のモンスターや魔族が持つ魔性の気配だ。しかし稀にこうして空気中に充満する事もある。

 瘴気は普通の生物にとっては害でしかない。それ程強い瘴気ではないが、これだけ満ちているのなら不死者が生まれてもおかしくはない。稀に自然発生する事もあるが、さてこの先に何がいるのやら……

「バナッシュ、ここ気持ち悪いね」

 どうやら、ドラゴンにとっても瘴気は害のあるものらしい。

「我慢出来るか?」

「……うん」

 今までの快活さが感じられない、弱々しい返事だった。まあ、少なくとも気分が悪くなる以上の害はないだろう。もっと瘴気が濃くなると話は別だが……

「慎重に進むぞ」

「うん」

 周囲の気配を探りながら、ゆっくりと歩を進める。とりあえずモンスターの気配は感じられない。瘴気が邪魔して上手く気配を探れないが……多分大丈夫だろう。

 階段を降りた場所は小部屋になっており、出口は一つだけだった、通路に進むとしばらくは一本道だったが、天井や床、壁にも注意を払う。罠の類がある可能性もあるしな。

 とりあえず視覚的にはモンスターや罠の類は見当たらない光景が続く。しばらく進むと十字路へと差し掛かる。安全を確認してから、普段から持ち歩いているマッピング用の用紙を取り出す。

 冒険者たる者、マッピング用紙を持ち歩くのは当然だ。既に踏破されたダンジョンに行く場合は持って行かなくても問題はないが、もしかしたら未発見の部屋等が見つかる可能性もゼロではない。地図が作られていても自身の知りたい情報が足りていない事もある。その場合は既存の地図に書き足すと言う手もあるが、大半の冒険者は分かりやすい様に自分で再マッピングを行なう。俺の場合は最低限の情報しか書き込まない為、自分で作ろうが他人の使った地図に追記しようが大差はない。が、やはり未踏破のダンジョンに潜る事をメインにしている俺にとってこの用紙は必需品だ。

 マッピングにおいて最も難しいのは距離を把握する事だ。用紙にも色々種類はあるが、俺の持っている物は完全なる白紙だ。感覚的な部分に頼る事もあるが、基本的に照明魔法具は等間隔に設置されている為それを目安に距離を測っている。照明魔法具の数を記入し、分かれ道ではその印を付ける。そしてどの道を通ったか等、俺が行なうマッピングはその程度だ。

 地下迷宮の厄介な所は広さが分からない所だ。地上から上に登る塔等はその広さを予想する事が出来るが、地下だと断定出来る要因がない限り予想する事すら難しい。一応、この場所で言えば偽りの砂漠そのものの広さ程度だと判断するのが妥当な線だろう。が、それにしても根拠はない。とにかく自分の目で確かめるしかない。

「どっちに行くの?」

 しばらく黙っていた俺に、ルルーがそう尋ねてきた。単純にどこに進むのか迷っていると思ったのだろう。まあそんな様なものだが。

「とりあえず右に進もう」

 判断材料が全くない場合、俺は分かれ道を右から進む事にしている。特に理由はない。

 俺は答えて直ぐに歩き出したが、ルルーがきちんと着いて来ているのを確認はしておく。

 よし。問題なく着いて来てるな。

 周囲に意識を巡らせながら、やや右曲がりになった通路を進む。やはり罠は見当たらず、モンスターとも遭遇しない。数分歩くと、曲がっていた通路は再び直線の道へと戻る。おそらく階段のあった部屋の後ろを通過した様な形になっていると思われる。そのまま進むと、木製の扉が目に入ってきた。

 手振りでルルーに止まる様に示し、それが伝わったのを確認すると足音を立てない様に、又気配を出来る限り絶ちながら扉へと近付いた。

 どうやら鍵はない様だが、扉を開けた途端に罠が発動すると言う可能性もある。

 罠の有無を確認出来る様な道具もなければ、あったとしてもそれを解除する知識も道具もない。俺にとって罠は勘で回避するモノで、発動させてしまったとしても力付くで解決するのが常だ。しかしそれは一人だったから出来た芸当で、連れがいる場合にはなかなか難しい手だ。

 一度ルルーのいる場所まで戻り、俺の考えを伝える事にする。

「ルルー」

「どうしたの? 進まないの?」

 話しかけた俺に対し、次の言葉があると思わないのかそんな風に聞いてきた。

「進むけどな……もしかしたらあの扉に罠があるかもしれないから、用心して欲しいって言おうと思ったんだが……大丈夫か?」

「うん。でも、あの扉には罠なんてないよ?」

 どこかで聞いた事のある様な言い回しだ……ああ、ついさっき不死者に遭遇した時か……

「分かるのか?」

「うん。あの扉からは悪意が感じられないもん」

 悪意、ね……

 確かに、罠を設置する以上はそれなりに意志を込めるだろうが、それが悪意とは限らない。と言うか、ドラゴンにそんな能力があったとは知らなかったな。

「悪意以外の何かが理由で罠があったりはしないのか?」

「絶対とは言えないけど……でも、どんな理由であれ誰かを罠にかけようって言う思惑は、たとえ小さなものでも悪意につながるはずだよ。その扉からは、そう言った感情がまったく感じられないの。だから、多分何もないはず」

 なるほどな。一応納得は出来る。後はルルーの能力を信じられるかどうかか……

「分かった。でも、万が一って事もあるからな。一応この場所で警戒はしておいてくれ。問題なければ手招きするから」

「うん」

 そんな会話を経て、再び扉へと近付く。

 ドアノブに手をかけ、そっと奥へ開いた――

 何も起こらない。隙間から奥を窺い見るが、特に危険はなさそうだ。俺は離れているルルーを手招きで呼び、改めて扉を開き切り、追い着いたルルーと共に扉の奥にあった部屋へと足を踏み入れた。

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