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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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砂漠の下の地下迷宮1

 偽りの砂漠の地下に広がる迷宮。その最初の階層へと降りた俺とルルーは、真っ直ぐに下の階層へと続く階段を目指した。

 この場所に来る前に、以前この迷宮を探索した冒険者達が作った地図を入手しておいたのだ。それなりの額を使ったが、それなりに信用の利く店で買ったので問題ないだろう。困った事に、こういった品は偽物が出回るのだ。

 この地図に記されているは地下3階まで。一応地下3階は全てマッピングされている様だが、更なる階下に潜る事なく撤退しているのだから、地下3階に関してだけは不備がある可能性がある。その辺りは気を付けないとな。

 歩を進めながら改めて地下迷宮内を観察する。どうやらこの迷宮は石造りが基本らしい。外にある建物も石造りだった事から、そもそも石造りが主流の街だったのだろう。薄暗い通路ではあるが、所々に明かりを灯す魔法具が設置されている。灯せる明かりは極端に弱いが、空気中にある周囲の魔力を吸収する事で半永久的に明かりを灯し続ける魔法具だ。これは珍しくない代物で、こういったダンジョンには必ずと言って良い程設置されている。むしろ現在も人々の生活にはなくてはならない魔法具である。

 道中モンスターと遭遇する事もなく、難なく地下2階へと降りる階段へと到着する。階段を下ろうとした所でモンスターとエンカウント――なんて事は今度はなく、俺達は無事に地下2階へと到達。今度も真っ直ぐに階段へと向かう。

 ――それにしても、モンスターがいなさ過ぎる。モンスターと言えど生物である事に変わりはない。そこらから自然発生する訳ではないが、地上にも地下にもモンスターは存在している。根城にしている場所はあるのだろうが、迷宮内をうろついていてもおかしくはないはずだ。いくら最短で階段を目指しているとは言え、もう少しその姿を見かけても良いものだ。

「少し急いだ方が良いかもしれないな」

「どうして?」

 ふと俺が漏らした言葉にルルーが食いついてきた。

「モンスターがいなさ過ぎる。予想はしていたが、おそらく他の冒険者が俺達よりも先に進んでいるんだ」

 その腕前までは分からないが、せっかくここまで来たのにお宝を奪われたくはない。まあ、それは向こうも同じだろうが。

 ただ気がかりなのが、モンスターの死体さえ見当たらない事だ。道中で先を進む冒険者が倒したのなら、当然その死体が転がっているはずなのだ。

 まあ、とりあえずは警戒しながら進むしかないか。

 不安を消し去る様に思考を切り替え、少しだけ歩調を速めて先へと進む事にした。



 俺が危惧した通り、地下3階の地図には不備があった。否、少なくとも階段までの通路は間違っていなかったが、行き止まりだと記されていた道に奥があったのだ。何故その事に気が付いたのかと言えば、地下4階へと下る階段に差し掛かった時に見つけたモンスターに原因がある。

 不死者(アンデッド)――死んだ生物に闇の精霊が憑依する事で死する事のないモンスターへと変化した存在。闇の精霊と言っても自然界に存在する精霊とは違い、瘴気や悪意の塊と言える意志なき存在が闇の精霊だ。不死者と化したモンスターに生前の記憶等当然なく、ただ生気を求めて生物を襲う存在となる。普通の人間ではほぼ滅する事の出来ない存在だ。

 倒せない訳ではない。が、戦うだけ不毛な相手だ。特に今回遭遇した相手は人間の形をしている。おそらく死んでからまだそれ程日が経っていないのだろう。血肉があり、困った事に所々壊れているものの鎧を着て武器まで持っている。冒険者の成れの果てと言う奴か……

「不死者が出るなんて情報はなかったんだけどな……」

 なんて呟いてみても意味がない。俺には不死者を浄化する手立てがない。戦うより逃げた方が確実な為見つからない様に移動した所、丁度良く隠れられそうな隠し部屋を見つけたのだ。地図でその位置を確認しようとした所、行き止まりになっていた訳だ。

 今の所こちらに向かって来る様子はないが、ここにいれば見つからないと言う保証はない。しかし奴の位置が分からない以上は迂闊に動けない。さて、どうしたものか……

 とりあえず何か役に立ちそうな物はないかと部屋の中を見回すが、見事に何もない。この部屋が何の為に存在しているのか分からない程だ。まあ、もしかしたら何かがあったのかもしれないが。

 難点はこの部屋が狭いと言う事だろうか。大の男が五人入れるか入れないかと言った程度の広さだ。戦闘を行なうのなら、通路の方がまだマシだろう。となると、覚悟の上で階段に向かった方が得策かもしれない。運が良ければそのまま階下に降りられるかもしれないしな。

「ルルー」

「なに?」

 俺の考えを伝える為に、小さめの声でルルーに呼びかけた。予め俺の声量に合わせて喋る様に言ってあった為、ルルーも小さな声で聞き返してきた。

「これからまた階段に向かうが、出来ればさっきの不死者とは戦いたくない。可能なら奴に見つかっても一気に階段を降りる。最悪戦闘になっても、相手の攻撃を防ぎながら下に向かう。良いな?」

「わかった。でも、あんなの燃やしちゃえば良いのに」

 何て、聞き捨てならない言葉を放つルルー。

「どう言う事だ?」

「わたしの炎なら、あんなの簡単に燃やせるよ?」

 そう言えばこいつはドラゴン――それも炎を得意とする火龍だった。

 総じて不死者は炎に弱い。生半可な炎では意味はないが、身体がなくなってしまえば最早モンスターとしては成立しないのだから当然だ。身体を消滅させる事が、不死者を滅する方法の一つだ。但し、それこそ再生不能なまでに細切れにしない限りは切断しても無駄だ。マッドウルフの様に無くなった部位が再生する事はないが、ただ切れただけなら元の様にくっつく。最悪腕がなくても痛みを感じない為そのまま襲いかかってくる。足がなければ腕や反動を使って飛び掛ってくる。とまあ何とも気持ち悪い光景を見る事になるだけだ。俺の魔法剣では一撃で消し炭になんて出来ないが、確かにドラゴンの吐く炎なら可能だろう。

「いや待て。その姿でブレス吐けるのか?」

「うぅん。バナッシュがわたしの力を使えば良いじゃない」

 なるほど。纏いし者の力を使えば良いと言う訳か。けど、それならやっぱり出来れば使いたくない手だな。俺は俺自身の実力で、冒険者として行ける所まで行きたいのだ。とは言え、死にたい訳じゃないからな……

「それは最後の手段に取っておこう」

「そう?」

「ああ。よし、それじゃあ行くぞ」

 不思議そうに首を傾げるルルーを促し、俺達は隠し部屋を出た。

 とりあえず、直ぐ近くに奴はいない様だ。生き物ではない不死者の気配は希薄だ。そして奴らには殺意と言うものがない。足音なんかはするから、近くにいれば普通に気付く事が出来るはずだ。

 無言で着いて来る様にルルーを促し、そのまま来た道を戻る。

 幸い、階段付近にも奴の姿はなかった。不死者との戦闘を避け、俺達は地下4階へと進む事が出来た訳だが……

 奴が下に降りた訳じゃないと、今は信じていたい所だな……

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