封印の神殿2
神殿の中は簡素な造りだった。横に伸びる通路もありはしたが、基本は真っ直ぐに一本の通路が伸びているだけ。直進するだけで奥まで辿り着く。
広さも大した事はない。封印の段階で堕神獣は小さくなっていたのだろう。でなければこんな空間に封印出来る訳がない。
そして相変わらず俺には結界の存在が感じられない。
「どうだ? 何か分かるか?」
俺が二人にそう問いかけると、エリザが先に口を開いた。
「エルフ特有の結界みたいね。かなり古い術式だから、再現出来る人がいるかは怪しいけれど……」
「森の結界も、エルフ特有の結界って奴なのか?」
「ええ」
だから俺には分からなかったのか。魔法に長けた者なら気付いたのかもしれないが……
「ルルーは?」
「魔力の残り香みたいなのは感じるよ。でも、良くは分からないかな」
エルフ特有のモノなら、ドラゴンであるルルーに詳細が分からないのは当然だ。存在すら認識出来ない俺よりはマシだろう。
「そうね……結界の形跡はあるけど、もうその効力は殆ど失われているわ。時間が経てばその形跡すらも消えてしまうでしょうね」
「今ここで分かる以上の事は分からない、か……」
「ええ。それに、アルウッドの長が言っていた通り不自然に破られた訳ではなさそうよ。結界もそうだけど、周囲に何の被害も出ていないし」
「となると、結局は堕神獣を探すしかない訳だな」
「そうね」
結界の様子から何か分かるかもしれないと思っていたが、当てが外れてしまった。
人海戦術に走れる様な人数じゃないし、地道に探す他なさそうだ。
「とりあえず外に出るとするか」
俺はそう言って踵を返し、まずは神殿の外へと向かう。
ルルーとエリザもその後に続いて来る。
「そう言えば、エリザも結界とか使えるのか?」
ふと気にかかり、後ろを歩くエリザに前を向いたまま尋ねた。
「大掛かりなものじゃなければ使えない事もないわ。とは言っても、精霊の力を借りて結界と同じ様な効果を生み出すくらいしか出来ないけどね」
「俺にはイマイチ違いが分からないんだが……」
「結界と言うのは、そもそもその効果を継続的に発現する魔法の一種。魔力だけで発現すれば使用した魔力が尽きれば効果を失ってしまうから、何かしらの魔法具を利用する事が多いわね。私の場合は、防御系の精霊魔法を精霊自身の力を借りてある程度効果を維持して貰う事で結界の様にするの。だから厳密に言えば結界とは呼べないんだけど……」
俺の言葉に説明をしてくれるエリザだったが、それを聞いてもまだ良く分からなかった。
エリザが使う結界が、結界魔法の類いではなく防御魔法の延長だと言うのは分かった。が、結界魔法の根本的な仕様は分からないままだ。
魔法の才能がないと分かった瞬間から、魔法については最低限の事しか学ばなかったからな。今更覚えても仕方ないか……
「何となく分かったよ。ありがとう」
と言って話を締めくくる。
大した距離がない為、そんな会話をしている内に通路の入り口部分に辿り着いた。
ごつごつとした岩肌を利用して穴の外に登り、身体の筋を伸ばす。
「さて……これから堕神獣を探す訳だが、何か案があったりするか?」
俺のそんな問いかけに、エリザもルルーを首を横に振る。まあ当然か。
「情報が少なすぎるんだよな……仕方ない。とにかくこの周辺から探そう」
俺の言葉に二人が頷き、当初の予定通りなるべく離れずに散開し神殿周辺を捜索する事になった。
ルルーはどことなく楽しげに「バルストラルフー」と呼びかけながら探している。
俺とエリザは周囲の気配を探りながら、黙々と堕神獣を探す。
集落から神殿までの道程にそれらしき気配はなかった為、神殿から更に森の外へと向かって捜索の範囲を広げたが、日が傾くまでに堕神獣が見つかる事はなかった。
「仕方ない。今日の所は集落に戻ろう」
相手だって移動しているだろうから、もしかしたら戻る途中でばったり遭遇なんて可能性もあるんじゃないか。と希望的観測で考えたりもするが、それはないなと勝手に諦める。しかし可能性がゼロではないのは確かな為、注意を払う事だけは怠らない様にしなければならない。
「そうね……」
俺の言葉に頷くエリザも、どことなく疲れた様子だ。エルフであるエリザは森に慣れているはずだが、無尽蔵に近い体力を誇るドラゴンのルルーや、その纏いし者として体力が底上げされている俺よりも疲労を感じている様だ。
「大丈夫か?」
「平気よ」
強がりにも見えるが、歩けないと言う訳ではないだろうし問題はないだろう。
「それじゃあ、戻るとしよう」
「ええ」
「うん」
俺の言葉にエリザとルルーが答え、俺達はアルウッドの集落へと向かい歩き始めた。
エリザも周囲に注意は払っている様だったが、結局堕神獣が見つかる事はなく、俺達はアルウッドの集落へと辿り着いた。