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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
二章 封印されし獣
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堕ちた神獣

「堕神獣と言う存在を知っていますか?」

 詳細を尋ねた俺に返ってきた言葉はそんなものだった。

「いいえ」

 俺は素直にそう返した。堕神獣なんて聞いた事がない。

「二人はどうだ?」

 俺を挟んで左右に座っているルルーとエリザにそう尋ねると、ルルーは即答で首を横に振った。

「知っているわ」

 どうやらエリザは知っているらしい。エルフには馴染みのある存在なのだろうか?

「貴方も神獣は知っているでしょう?」

 続けてそう聞き返して来るエリザ。

 神獣ね……その名の示す様な神に近い存在ではなく、特別な力を持った獣の事だ。その中でも神獣と呼ばれる獣は知能が高く、その名の通り神聖視されている固体もいるらしい。

「一応はな」

「堕神獣とは、闇に侵食された神獣の事です。理性を失い、しかし高い知能そのものは残り、にも関わらず本能に従う事しか出来ない哀れな獣……それでいて力は並の魔物とは比べ物にならず、且つ固体によっては特殊な能力も持ち合わせている。厄介な相手です」

「現われたのが、その堕神獣と言う事ですか?」

 実際に見た事がある訳ではないが、神獣と言えばランク的にはドラゴンと並ぶ。ドラゴン以上に個体差があると言われている上に、数が少ない。果たしてどれ程の強さの獣なのか……

「ええ。ですが、正確に言えば現われた訳ではないのですよ」

「どう言う事ですか?」

「おそらくは、まだこの森のどこかにいるであろうその堕神獣の名はバルストラルフ。遥か昔は、この森の守護神と言われていた巨大な狼の神獣でした。しかしバルストラルフはある日突然堕神獣へと変貌し、森を喰らい尽くそうとしました。そこで当時この森に住んでいたエルフが力を合わせ、何とか封印したのです」

「その封印が、最近になって解けていたと?」

「はい」

 俺の言葉に、ルートラスははっきりと頷いて見せた。その封印とやらを自身で確認したのだろう。

「巨大なと言いましたけど、どれ程の大きさなんですか? ここに来るまでの間に、それらしき姿は見ませんでしたけど……」

「通常時は普通の狼とそう大差はありませんが、バルストラルフには自身を巨大化させると言う特殊能力があります。最大で小さな山くらいには巨大化出来ると聞いています」

 エルフは長命で有名だが、その堕神獣とやらが暴れていたのは随分と昔の話の様だ。ルートラスがエルフとしてはまだ若そうに見えるからそのせいもあるかもしれないが、それでも全て本人の記憶ではなく聞いた話として語っている。

「なるほど。しかし、不穏な空気は感じなかったんですよね……もう森から出た可能性はないんですか?」

「ありません。この森の外周には一種の結界が張られており、森への出入りは全てこちらで把握していますので」

 と言う事は、俺達が森に入った時もそれを把握していたって事か。

「それはどの程度分かるものなんですか?」

「生物が出入りした事を判別するだけの結界です。封印が解かれてからは、私が街に行った時以外に森の外に出た生物はいません」

「封印が解かれたと気付くまでに外に出た可能性は?」

「封印は毎日確認してきましたが、解かれていた前日から当日までの間には誰も外に出ていませんでした」

 となると、やっぱり森の中にいるって事になる。結界とやらがどこまで信用出来るのかは分からないが、当面は森の中を捜す事になりそうだ。

「分かりました。それで、見た目の特徴なんかは分かりますか?」

「分かっているのは、銀色の毛並みをしていると言う事くらいですね」

「そうですか……分かりました。依頼を受けるに当たって、しばらくはこの集落を拠点にしたいんですが構いませんか?」

 それ程遠くない距離とは言え、森の中を捜すのならこの場所に留まった方が効率が良い。

「ええ。大きめのテントを用意させましょう」

「ありがとうございます」

 礼を伝えて、俺はゆっくりと立ち上がる。それを見て他の面々も立ち上がった。

「まだ日も高いですし、俺達は早速森の探索を始めます」

「それでしたらその間にテントを用意させるので、戻ったら一度ここに来て下さい。用意させた場所に案内しますので」

「分かりました。お願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 そんな感じでお互いに頭を下げる。

「そうだ。堕神獣を封印していたって場所を見てみたいんですけど、場所を教えて貰えますか?」

「封印の神殿はこの集落から西に向かった所にあります。草木が分かれ、3メートル程の穴が空いているので近付けば直ぐに分かると思いますよ」

 俺の質問に、ルートラスは躊躇なく簡単に答える。封印が解かれた事で秘匿性がなくなったのだろうか。

「その穴の中に入れば良いんですか?」

「そうです。3メートル程で地に着き、そこからは一本道になっています」

「因みに、封印は無理矢理破られていたんですか?」

 正規の手段で封印が解かれていたとなると、それはそれで大問題だろう。俺がどの様な意図でその質問をしたのか悟ったらしく、しかし怒った様子もなくルートラスは淡々と答える。

「当然です。しかし、随分綺麗に解かれていました。周囲に損傷の類いもありませんでしたし……」

 ルートラスにも色々と思う事があるのだろう。しかし封印を施した当人ではない為、封印の仕組みの詳細は知らない様だ。

「その辺りも、可能な限りこちらで調べてみます」

 封印を調べた所で何か分かるとは限らないが、案外周辺にいる可能性もあるしな。

「お力になれず申し訳ありません」

「とんでもないです。それでは、失礼します」

「改めて、宜しくお願いします」

 終始お互いを値踏みする様な感じではあったが、そんな言葉で俺達の会話は終わった。

 ルートラスの家を出た俺達は、教えられた通り西へと向かう。

 集落には外壁や柵等の類いがない為、どこからでも出入りが可能だ。集落と森の具体的な境目と言うのはないのが、エルフにとっては普通なのかもしれない。集落の中も多少拓けた場所ではあるものの森の中みたいな感じだしな。

「一応これからの予定を伝えておく。まずは封印を調べ、その周辺を捜す。見つかれば戦闘になるだろうから、探索時はあまり離れない様に散開する形でいこうと思う。日が落ち始めたら集落へ戻る。そんな感じで行こうと思うんだが、何か意見はあるか?」

「いいえ。真っ当な考えだと思うわ」

「わたしもそれで良いよ」

 二人の賛同へ得ると、集落と思しき空間から森の中へ入った様に感じた。もしかしたら集落との境目として結界が張ってあるのかもしれない。

「まあ、まずは神殿とやらに向かうとするか」

 こうして、エリザをパーティに迎えて最初の依頼が始まった。

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