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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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偽りの砂漠1

 自由貿易都市ガルニール西方に、偽りの砂漠と呼ばれるダンジョンがある。ガルニールの街と同じ位の広さを持つこの場所は、かつては街があったと言われている場所で、遺跡タイプのダンジョンとして認知されている。外周には石の壁があり、出入り口は南部に一つあるだけ。ガルニールからこの場所までは草原地帯だと言うにも関わらず、遺跡の内部へ足を踏み入れればそこは砂に覆われた地面。本当の砂漠ではなく、遺跡の中だけが砂漠地帯になっている。その為、ここは偽りの砂漠と呼ばれている訳だ。

「さて。俺達がここに来た理由は分かってるな?」

 そんな偽りの砂漠の入口で、艶やかな真紅色の髪、天真爛漫さが伺える金色の瞳、そして何よりも見る者を惹きつける可愛くも美しくもある容貌の少女――ルルーセリア=エルド=ガーネットに向かって、俺――バナッシュ=ラウズコートはそんな言葉を投げかけた。

「うん! ごはんのため!」

 元気良く頷くルルーセリアを見て、一抹の不安を抱きつつもとりあえずは理解しているのだから良いかと自分を納得させる。

 ルルーセリアは見た目に反してかなりの大食いだった。今は人間の姿をしているが、本来はドラゴンである事を考えればおかしくはいのかもしれない。しかし問題はある。一言で言えば金だ。食べ物はタダじゃない。当然金が必要だ。どうやって手に入れたのかは分からないが、出会った時から着ていた服が上質な物で、衣服に関しては急ぐ必要はなさそうなのが救いだろう。

 上質と言ったが、それは素材だけの話ではない。冒険者ならば大概は愛用するが、回帰の魔法がかけられた服を着ていたのだ。回帰の魔法がかけれた衣服は、多少の汚れや消耗をなかった事にしてくれる効果がある。多少時間はかかるが、魔法をかけた状態に自動的に戻るのだ。冒険者にとっては必需品と言え、当然衣服だけでなく装備品も回帰の魔法がかかった物を用意する事が多い。多少値は張るが、それでも回帰の魔法がかかっているかどうかで随分と懐具合が変わってくるからだ。

 と言う訳で、当面は服の事は気にしないとして、問題は食費になる。俺一人ならしばらくは暮らせるだけの貯えはあるが、宿泊費も増え、食費も増え――となると余裕はなくなってくる。つまる所、俺達は金稼ぎの為にダンジョンへとやってきた訳だ。

「そう言えば、お前その姿で戦えるのか?」

 着いて来るなと言っても勝手に着いて来る事は分かりきっていたからここまで連れて来たが、戦う術があるのかどうかはかなり重要だ。

「お前じゃない。わたしはルルーセリアだ」

 そう言いながら頬を膨らませるルルーセリア。こうやって頭の中で呼ぶ分には楽だが、正直少し言い難いんだよな。

「――それじゃあ、ルルーでどうだ?」

「ルルー? わたし?」

「ああ。その方が呼びやすいしな」

「……分かった!」

 俺の言葉の後に少し考えると、にぱっと笑顔を浮かべルルーセリア――改めルルーは頷いた。

「それで、ルルーは戦えるのか?」 

「戦えるよ!」

 何故だか嬉しそうに笑顔を浮かべながらぶんぶんと右腕を回すルルー。はっきり言って戦える様には見えない。けど、こいつドラゴンだしなぁ……

 まあ、最悪精神体(アストラル)化して貰えば良いか。

「分かった。けど、基本的には俺が戦うから、ルルーは自分の身を守っていれば良いからな」

「うん」

 俺の言葉にルルーは素直に頷く。聞き分けが良くて助かる。

「さて、一応この場所について確認しておくぞ。ここは偽りの砂漠と呼ばれる遺跡タイプのダンジョンだ。当然モンスターが徘徊しているが、地上部分はそれ程危険な相手はいない。一部厄介な相手はいるが……それでも地上部分は全て探索されているし、金目の物はないだろうな」

 モンスターの部位を持ち帰って金に換える事は出来るが、それだけじゃあ大した稼ぎにはならない。ならどうするのか……

「俺達が目指すのは地下だ。数年前に、遺跡のほぼ中心地点にある建物から地下迷宮へと繋がる入口が見つかった。現在は地下3階辺りで探索が止まっているらしい。どこまで続くかは分からないが、まだ下層があるのは確かだ。おそらく今も他の冒険者が探索しているだろうが……そいつらを追い越してでも先に進み、お宝を手に入れる。まあそんな所か。何か質問はあるか?」

「大丈夫! わたしはバナッシュに着いて行けば良いんだよね!」

「ああ。それじゃあ行くぞ」

「うん!」

 ルルーの元気全開な返事を合図に、俺達は偽りの砂漠へと足を踏み入れた。



 常に周囲を警戒しながら歩く俺は、モンスターの接近に逸早く気が付いた。

 独特な羽音を鳴らしながら接近してきたのは、イージーフライと呼ばれるトンボの様なモンスターだ。ただし大きさは人間の赤ん坊程はある。大体は数匹で群れを作って飛んでいるのだが、近付いてきたのは二匹だけだ。近くに群れの仲間がいるかもしれないが、合流される前に倒せば問題ないだろう。そう判断し、俺は剣を抜く。

 イージーフライの攻撃方法は単調だ。石の様に固い頭部を利用して高速飛行で突進してくるだけ。突進中は殆ど方向転換も出来ない為、タイミングさえ掴めば避けるのは簡単だ。既に俺を標的として見做しているのだろう。羽音に微妙な変化があった。通常飛行から、攻撃の為の突進飛行へ変わった音だ。

 二匹が連携する様に時間差を置いて突進するつもりなのだろう。やや距離を開けて飛んでいるのがここからでも見える。なら――

 一匹目をかわし、二匹も当然かわす。が、二匹目はかわすと同時に剣を振るう。イージーフライは頭以外は脆い。高速飛行と言っても捉えきれない程でもない為、回避と攻撃のタイミングを合わせる事も難しくない。

 難なく一匹のイージーフライを仕留め、一度通過したもう一匹へと視線を向ける。既に旋回し、再び俺へと標的を定めている様だ。なら次に俺が取る行動も決まった。一匹目と同じ様に、突進を避けつつ胴体を斬って終わりだ。

 結局二匹しかいなかったイージーフライを倒した事で、偽りの砂漠に入って最初の戦闘は難なく終わりを告げた。

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