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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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瘴気を内包せし者

 十数分の休憩後に探索を再開した結果、地下5階にはこれ以上の大物がいなければ特別な仕掛け等もなかった。隠し部屋の類も見つからず、数回不死者との戦闘はあったが問題なく地下5階の踏破を終えた形となる。

 地下6階へと続く階段のある小部屋へと足を運び、メリアに結界を張って貰う。その行為自体はこれまで何度か繰り返してきたものだが、知られている限りまだ誰も足を踏み入れていない地下6階へ足を踏み入れるかと思うと、多少は胸が躍ると言うものだ。尤も、今回の黒幕と言う存在を考えれば前人未到ではないだろうが。

 お宝が眠っているのではないかと言う僅かな期待を持ちつつ、強大な敵が待ち受けている事を考えれば緊張もする。そんな相反する感情を抱きながら、俺達は地下6階へと進んだ。

 地下6階に降りてた瞬間――否、降りている最中から既に、俺達はその異様な光景に圧倒されていた。

 地下6階は、かなり広大な一つの部屋だった。一応端までは見渡せるが、サンドワームがいた部屋や俺とルルーが転移させられた部屋とは比べ物にならない程の大部屋。階段は部屋の端にあった為、否応もなしに俺達の目に巨大な魔方陣が入ってきていた。

 描かれている紋様は良く分からないが、とりあえず不気味さだけは伝わってくる。そしてその異様さを際立たせているのが、魔方陣の中心へと向かって渦巻いている大量の瘴気だ。はっきりと目に見える程濃厚な瘴気が集まっているその様子は、見ているだけでも気持ち悪くなってくる。

「一人増えている様ですが……」

 突然聞こえてきたその声に、俺達は瞬時に武器を抜き構えた。

「ようこそ。我が研究所へ。そうですね、まずは偽りの砂漠にある地下迷宮の最下層への到達をお祝いしておきましょう。おめでとうございます」

 聞き覚えのある男の声が、とても本心とは思えない祝福の言葉を紡ぐ。

「まあ、研究所と言ってもこの大部屋を利用して特別な魔方陣を用意しただけの場所ですが」

 その言葉から、この場所にお宝の類がない事が窺えた。と言うより、もしかしたら元々何かの実験場だったのかもしれない。

「ルルー、場所はどこだ?」

 小声で横に立つルルーに奴の場所を聞くと、その答えが返って来る前に男の声が発せられた。

「ああ、その子供は私の姿が見えるんでしたね。この乱射の光(アンノウン・ミラー)の性能は本物なんですがね……余程特別な瞳を持っている様だ」

 そう言いながら、ルルー以外には見えていなかったであろうその男が姿を現した。

 その姿は以前と変わらない黒いローブ姿で、頭にはフードを被っている。

「一応聞いておくが、大人しく捕まるつもりはないよな?」

「当然です。まあ、こうして被検体(モルモット)がたくさん手に入るのですから、ギルドには感謝しても良いかもしれませんね」

 その言葉を聞いて、嫌な予感がした。ギルドが手を回したと理解しているって事は、おそらくフレンツ達と会ったと言う事だ。その上でこいつがここにいると言う事は、フレンツ達がやられたと言う事だ。

「では、せっかくなので私の実検の成果を見て頂きましょう」

 男のそんな言葉に応える様に、その背後――魔方陣の中心に大きな黒色の四角い塊が現れた。中空に浮いているその底辺から、一人の男が落下して床に落ちた。

「人間の場合はモンスターよりも個人差があるらしく、私の思う様な結果に至ったのはこの男一人ですが……まあ、他も時間の問題でしょう。とりあえずは、彼の性能テストにお付き合い下さい」

 男がそう言うと、黒い塊から落ちてきた男がゆっくりと立ち上がった。その男には、見覚えがあった……

「クロース……」

 その男は間違いなくクロースだ。しかしその目には生気が感じられない。ゆったりとした動きで、背中に留め具で括られた斧を抜き構える。

聖光の炎(ホーリーフレア)!」

 クロースが向かってくるよりも速く、メリアが浄化の炎を放った。が、クロースは炎に焼かれつつも一切気にした様子がなく駆け出した。さっきまでの緩慢な動きとは違う、生粋の戦士の動きとまではいかないがそれでも十分に素早い動き。

「ああああああ!」

 意味を成さない雄叫びを上げながら斧を振りかぶり、一番近くにいた俺に向かってきた。

 クロースが斧を振り下ろそうとしたその瞬間に、俺はクロースの背後へと回る。振り下ろす動きを止める事が出来ずに隙だらけになったクロースに向かって、背後に回ると同時に左手で抜いた浄化のナイフを振るった。筋肉への負荷など気にも留めない動きで回避行動を取ったが、ナイフでの一撃がクロースの左腕に当たった。浅い一撃ではあったが、その肌に傷を付けるくらいの効果はあった。しかしその一撃は思った以上の効果があった。傷口から瘴気が漏れ出したのだ。

「なるほど。モンスターとは違い瘴気を完全に内包は出来たものの、多少の傷でも漏れてしまうと……まだまだ改善の余地はありますね」

 なんて男が呟くが、今はそれよりもクロースだ。

 否、待てよ。奴はさっき何て言った? 他も時間の問題? と言う事は、あの黒い塊の中にはフレンツ達が入っているって事じゃないのか? だとすれば、早急に助け出す必要がある。とは言え、対処法が分からない上に悩んでいる暇はない。となると、奴を倒すのが先か……

「皆は奴を倒してくれ! クロースは俺一人で何とかする!」

 一番クロースと相性が良いのはレイズかもしれないが、奴の対魔法能力へ対抗する為にレイズを連れて来たんだ。ルルーがどれだけ連携に加われるかは分からないが、三人がかりならある程度は戦えるだろう。速く助太刀に入る為に、出来る限り速くクロースを何とかしないとならない。

 俺は覚悟を決めて、再びこちらに向かって来るクロースへと意識を集中する事にした。

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