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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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巨大サンドワーム戦

 結論から言えば、サンドワームは不死者化していなかった。しかし、以前メリアが言っていた通りそのサンドワームは確かに()()だった。

 情報として伝わっている中で最も巨大なサンドワームは、全長5メートル程で、幅は2メートル程と言われている。しかし目の前に現れたそいつは、おそらく10メートルは超えているであろう全長に、ほぼ口だけで構成される頭部の幅は4メートル以上ありそうだ。記録上の最大値と比べざっと倍の大きさを誇るサンドワームを前に、意味合いは違えど俺達は全員言葉を失った。

 しかし呆けている暇など当然ありはしない。周囲の温度で獲物を察知すると言われているサンドワームには目がないが、確実に俺達を認識していた。

「来るぞ!」

 一ヶ所に固まっている俺達に向かって突進して来る姿を見て、俺は瞬時にそう叫んでいた。

 各々にサンドワームの突進を避け、結果俺達はばらばらに位置取る形になった。しかしこれは都合が良い状況だ。

「メリアは周囲の食べ残しを浄化して回ってくれ! ルルーはその手伝いだ!」

「分かったわ!」

「うん!」

 咄嗟の俺の指示に二人が頷く。

「レイズ! 俺達はとりあえず足止めだ!」

「了解」

 俺が剣を抜くよりも早くレイズは弓を構え、矢を射る体勢に入っていた。その早業に一瞬驚いたが、上の階で見せて貰った腕を考えれば当然のスピードかもしれない。

 レイズが連続で放った矢は炎を纏いサンドワームに迫る。サンドワームの皮膚は決して堅い訳ではなく、炎の矢を受ければそれなりにダメージは負うはずだ。にも関わらずサンドワームは一切矢を避けようとはせず、先に武器を構えていたレイズへと突進した。三本しか矢を射る事が出来ず、レイズは接近するサンドワームから距離を取る様に跳躍した。俺がいる方向とは反対方向だが、奴に的を絞らせ難くしたい俺の意図には気付いてくれている様だ。

「これでも食らいな!」

 再びレイズを矢を射る時間を稼ぐ為、そしてメリア達を標的にさせない為に俺は魔法剣に魔力を流し込み雷撃を放つ。

 どうやら標的をレイズに定めたサンドワームの背面に雷撃が直撃したが、その熱量で多少の火傷を負わす程度しかダメージを与えられなかった。それでもその注意を俺に向ける事が出来、頭部をこちらに向けた事でレイズに余裕が生まれた。瞬時に放たれる五本の矢には全て風の魔法が付加されたらしく、凄まじい勢いでサンドワームに突き刺さる。貫通はしなかったが、矢が半分程身体に埋まる程深く突き刺さった為、先程の様にそのダメージを無視する事が出来なかった様だ。痛みを感じ身をうねらせるサンドワームに追撃をかけるべく、俺は再び魔法剣に魔力を流し込む。

裁きの雷(ジャッジメント)!」

 魔法剣が中空に生み出した雷球は、本来ならば対象に落とす事でダメージを与える。しかし殆ど天井近くに頭があるサンドワームの上から落とすのは至難の業と言える。そこでキーワードを必要としない通常の雷撃同様に、魔力を用いる事で対象に向けて飛ばす様調整する。その動きは緩慢とも言えるものだったが、そもそも距離が近かった事もありサンドワームが避ける暇はなかった。

 直撃。その身を消炭にすると言う事はなかったが、皮膚には大きな火傷を負わせ、かなりのダメージを与えたのは間違いない。その証拠に、痛みを感じているサンドワームは先程よりも盛大に暴れ回っている。

「もう一発……! 裁きの雷(ジャッジメント)!」

 再びキーワードを紡ぎ、巨大な雷球を発生させる。その間にレイズが反対側で矢を放った様だが、今度はその詳細を見ている余裕はなかった。それでもサンドワームにダメージを与えているのは確かで、より一層暴れる。そこに追い打ちをかけるべく、雷球を出来る限り先程と同じ位置に向け放つ。

 刹那、サンドワームが人間では認識出来ない雄叫びを上げた。痛みを感じながらも、再度自身に向かってくる雷球――高熱源を危険だと判断したのだろう。雄叫びは気合を入れる為のものだったのかもしれない。

 雷とは反対方向――レイズに向かって突進するサンドワーム。飛んで来る矢等気にも留めない。と言うよりは認知出来ていないのだろう。むしろ正面を向いた事で自身を傷付けるはずの矢さえも巨大な口で呑み込んでしまう。レイズは既に回避行動へと移っており、何とか側面を狙おうと移動している。しかしサンドワームもその熱源を追い頭の位置を変え移動する。

 多少の痛みを我慢し攻勢に出たサンドワームを、速度の襲い裁きの雷(ジャジメント)で捉えるのはほぼ不可能だろう。俺の持つ雷の魔法剣には欠点があり、それは能力の同時発現が出来ない事だ。つまり、ゆっくりと壁へと向かう雷球が消滅するまで他の能力を行使する事が出来ない。一応、魔力を使って無理矢理消す事も出来るが……

 雷球の存在はサンドワームに対して牽制にも罠にもなり得る。ならば、このまま残しておくのも手だろう。

「レイズ! 向こうに気が向かない程度で良いから、出来るだけ雷球の周囲で戦うぞ!」

 レイズに向かって叫ぶ様に伝え、俺は俺でサンドワームとの距離を詰める。サンドワームの攻撃方法は少ない。基本は体当たりか丸呑みの二択しかない。サンドワームの体内――胃には強力な酸があり、稀にその酸を逆流させ飛ばしてくる事もあるらしいが、どうやら胃酸を逆流させると言う行為がサンドワームの食道を傷付ける恐れがあるらしく滅多にない攻撃方法だと言われている。とは言え、命の危険に晒されれば胃酸攻撃をしてくる可能性も十分にある。サンドワームの正面には出来るだけ立たない様に位置取り、何度か剣撃を与える。しかし、マッドウルフ程ではないが再生能力の高いサンドワームには多少の傷を与えた程度では殆ど意味がない。上手く切断出来たとしても分裂しては意味がない。

 現状だけを見れば優勢なのは間違いないが、決定打を与える事が出来ず消耗はしていく。最初の雷撃で与えた火傷がすっかり再生している事も考えれば、このままではいつ劣勢になってもおかしくはない。

 仕方ないな。やはり雷球は消そう。もうしばらくすれば壁に到達して消滅するだろうが、悠長に待っている暇もなさそうだ。

魔法解除(イレイズ)

 魔法剣に魔力を込め、発現させている魔法剣の能力を強制的に解除する為のキーワードを紡いだ。魔法剣が一瞬光を帯び、直ぐに収まると同時に雷球も消失した。

 その間にレイズが矢を放ちサンドワームの注意を引き付けてくれていた為、俺は新たに魔法剣に魔力を流し込む。

喰らい付く雷(サンダーバイト)!」

 キーワードに応え魔法剣から発現した雷の蛇が、サンドワームの腹部へと迫りその名の通り喰らい付く。基本的に俺の魔法剣は固定の能力を発揮する事しか出来ないが、喰らい付く雷(サンダーバイト)は発動時に多少だが動きを変化させる事が出来る。それは発現する能力の定義さえ当てはまっていれば、その能力を発現させる事が出来る為だ。裁きの雷(ジャッジメント)を落とす動作から飛ばす動作に変えたのも同じ理屈だ。

 いつもの様に相手に巻きつかせる訳ではなく、ただその身へと喰らい付く。それだけでもダメージは与えられるし、電撃も同時に与えられる為痺れさせる事も出来るだろう。サンドワームにどの程度効果があるかは分からないが……

 喰らい付く雷(サンダーバイト)が消える前には魔法剣に魔力を通しておき、効果が消えるタイミングを見計らって今度は通常の雷撃を連続で三発放つ。その全てがサンドワームを捉えダメージを与えてる。反対側からはレイズの矢が何本も放たれ、最早サンドワームは攻撃に転じる余裕がないのかただ暴れ回っているだけの様に見える。どうやらその巨体故なのか、胃酸を飛ばす機能が低下している様だ。

 痛みに堪えられなくなったのか、サンドワームの巨体が下がる。人間で言えば蹲った様なものだろうか。何にしてもチャンスだ!

裁きの雷(ジャッジメント)!」

 魔法剣へと魔力を込めキーワードを紡ぐ。魔力が変換され現れた雷球が、落下させると言う発現能力の流れと重力の影響を受け、それでも決して速くはないスピードだがサンドワームへと向かって落ちる。

 雷球が胴体部分へと直撃し、熱量と電撃で直撃部位を死滅させた。人間では決して聞き取れない異音の断末魔を上げ、そのまま完全に倒れ込むサンドワーム。

 断末魔と言ったが、実際にはまだ完全に死んだ訳じゃない。電撃による痺れもあるのかもしれないが、ダメージとショックそのもので気絶したのだろう。まだ身体が痙攣しているかの様に動いている。

「メリア! そっちは終わったか?」

 遠くの方にいるメリアに向かって大声で呼びかけると、同じ様に大きな声で言葉を返して来る。

「もう少しよ。たまに不死者化する奴もいて、ちょっと手を焼いてるわ」

 それもそうか。地下1階に比べ大分瘴気も濃くなっている。緊張感や使命感もあり何とか耐えているが、気持ち悪さは拭えていない。これだけの瘴気なら不死者が生まれるのは当然だろう。

「レイズ、メリアと代わって来てくれ。こいつを不死者化しない様に片付けるには、メリアの魔法が必要だ」

「分かった」

 レイズは俺の言葉に頷き、メリアの方へと駆けて行った。直ぐにメリアがこちらに来て、未だに活動を再開しないサンドワームへと視線を向ける。

「って言うか、これだけの大物を良くこんな短時間で倒したわね」

「まだ倒した訳じゃない。それに多分、こいつも瘴気の影響を受けてるんだろうよ」

 モンスターと言えど生物である事に変わりはない。瘴気によって悪影響を受けるモンスターの方が多いと言われている。このサンドワームも、おそらく何かしらの悪影響を受けていたはずだ。

「そうかもしれないけど……まあいいわ。それで、こいつを浄化すれば良いわけね」

「話が早くて助かるよ」

「どう致しまして」

 そう答えて、メリアは呪文の詠唱へと入る。

「滅するは闇、不浄を祓う聖なる炎――聖光の炎(ホーリーフレア)!」

 メリアの放つ浄化の炎に焼かれ、その身が灰へと変わっていくサンドワーム。このサンドワームはやはり瘴気に()てられていたのだろう。通常以上に浄化作用に弱くなっている様だ。それでも小さな不死者を滅するよりも長くその炎を操り、しばしの時間をかけて巨大なサンドワームは完全に消滅した。

 その時にはレイズが残った死体を全て浄化し終えた為、この大部屋――いや、この階層での大きな戦いはこれで幕を閉じたと言っても良いだろう。

 大したダメージを受けた訳じゃないが、魔力や精神力の消耗は激しい。俺達はそれを持ってきたアイテムで補い、少しの間休憩する事にした……

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