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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
25/36

生命への冒涜

更新時間が予定よりも遅れました。申し訳ないです。

 地下5階へと足を踏み入れた瞬間、俺はつい先日の戦闘風景を思い出した。忘れていた訳ではないが、脳内にあの時のイメージが湧き上がってきたのだ。

 知らず知らずに、俺は両の拳を握り締めていた。遅れを取ったとは思わないが、相手にダメージを負わす事なく悠々と逃げられた結果そのものに憤りを感じていると自覚出来る。

「そう言えば……」

 そんなレイズの声で我に返り、俺はレイズへと向き直る。

「どうしたんだ?」

「地下迷宮に入ってから、生粋のモンスターと殆ど遭遇していないと思わないかい?」

 今更と思えるその言葉を、今このタイミングで口にしたのには意味があるのだろうか……

 レイズの言う通り、俺達がエンカウントしたのは殆どが不死者だ。生きたモンスターとも遭遇しなかった訳じゃないが、比率で言えば一割にも満たない。

「そんなの今更じゃない?」

 メリアも俺と似た様な事を考えたのか、レイズに対して軽い口調でそう答えた。

「確かに、地下に潜るに連れて瘴気は濃くなってるから、不死者が多く生まれるのは分かるよ。でも、だからと言って生きたモンスターがいなくなる道理はないんじゃないかな。不死者は生気を求めるなんて言われているけど、不死者がモンスターを襲っている所なんて見た事がない」

「俺も見た事はないけどな……こうも生きたモンスターがいないって事は、やっぱり不死者がモンスターを襲って、その結果更なる不死者が生まれているんじゃないのか?」

「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない」

 俺の言葉に、何かを考える様な仕種をしながら言葉を返すレイズ。

「僕が懸念しているのは、傷の少ない不死者が多いって事なんだ」

「そう言えば……五体満足とは言わなくても、結構身体的には無事と言える様な奴が多かったわね。特に小型のモンスターなんかは」

 レイズとメリアの言葉を聞き今までの戦闘を思い返すと、確かにメリアの言う通り小型のモンスターは無傷と言っても良い様な奴さえいた程だ。

 そう理解し、レイズが危惧している事にも思い至った。

「まさか、そんなハズはないだろう……」

 それは、とてもじゃないが信じられない事だ。推論だと言っても、そんな事があって良いハズがないと頭が拒否する。

「そうよ。貴方、とんでもない事を考えるわね……」

 メリアも同様に、レイズの考えを否定する。

「どう言う事?」

 単純に俺達の話に着いて来れなかったのか、ルルーが何の恐れも抱かずに純粋に疑問をぶつけてくる。それが、口に出す事も憚れる様な内容であるにも関わらず。

「僕が説明するよ。言い出したのは僕だしね」

 と、苦笑を浮かべながらルルーへと向き直るレイズ。ルルーもレイズから聞く事に反対する意思はないらしく真っ直ぐにレイズへと視線を向けた。

「瘴気を操り、生ある者を不死者へと変える。もしかしたら、そんな実験が行なわれているんじゃないか……現状から、僕はそんな風に考えたんだよ」

「それは、普通に不死者が生まれるのとは違うの?」

「ああ。不死者は死んだ者から生まれる。今僕が言ったのは、生ある者を生きたまま不死者に変えると言う事。本能のままに動く生きた死体ではなく、理性ある生きた死体を生み出す。これは、生命そのものへの冒涜としか思えない。それこそ、理性ある人間の所業とは思えないね」

 そんなレイズの言葉を聞いて、ルルーは何を思ったのだろうか。無言のままレイズから視線を外し、何やら考え始めた様だが……

 ルルーはドラゴンだ。人間とは違った感性をしていてもおかしくはない。だが、彼女の仲間はあの黒き龍に殺されている。その事に悲しみを覚えているのは確かだ。ならば、生命の尊さは人間と同じ様に感じているはずだ。

「ルルー、大丈夫か?」

 俺はルルーに近寄り、出来るだけ優しくそう問いかけた。

「……うん」

 いつもの様な元気は一切なく、それでもしっかりと頷いた。

「そろそろ行こう。この階は殆ど踏破出来ていないしな」

 俺のそんな言葉に各々が頷き、俺達は先に進み始めた。

 最初の部屋から先に進む道は一本しかない。その為真っ直ぐにその道を進む。決して広くはない通路を進んで行くと、見覚えのある小部屋に辿り着いた。

 小部屋と言っても扉がある訳ではなく、部屋の先に同じ様に通路があるだけのスペースで、先日メリアが結界を張った部屋だ。

「マッピングはどうなってるんだ?」

 俺とルルーは転移させられた大部屋からの道順をメリアに伝え、俺達よりはこの階層を探索したであろうメリアに分かる範囲で地図を作成して貰った。メリアにマッピングを任せているのはそう言った経緯もある。

「この辺りはまだはっきりしてるわ。この先で四方に道が分かれてる少し広い部屋があって、一本は前回バナッシュ達が転移させられた大部屋。一本があたし達がサンドワームと遭遇した大部屋に繋がってるわ。他の二本の道はあたしも進んでないから、直接確かめるしかないわね」

「なるほどな。俺としてはサンドワームを先に片付けておいた方が良いと思うんだが、皆はどう思う?」

「正直、あいつとは関わらない方が良いと思うけど……」

 俺の問いかけに、メリアが渋い表情を浮かべる。

「とは言え、あいつを放置すれば不死者が増える可能性も高くなるのよね」

 と言葉を続ける。

 サンドワームはモンスターさえも餌にする。特別凶暴な性質をしている訳ではないが、雑食であり食に関してはかなり貪欲だ。つまりサンドワームが生きている以上、餌場に迷い込んだ小型のモンスターの食べ残し何かが不死者化する可能性が高い。しかしそれ以上に厄介なのが――

「サンドワーム自体が不死者化してなければ良いんだけどな」

「それは最悪だね」

 俺のぼやきに一番早く頷いたのはレイズだった。サンドワームはマッドウルフ同様生命力が高いモンスターだが、厄介なのは再生能力よりも分裂する事だ。分裂する条件の詳細は判明していないが、ある程度の体積があれば分裂の条件を満たすと言われている。倒す時には色々と注意が必要なモンスターだ。不死者になればおそらくその特性は失われるだろうが、基本的に身体の一部が残っていれば動き続ける様なモンスターだ。それが不死者ともなればを完全に倒すのは浄化魔法があっても苦労するだろう。

「じゃあ、不死者化する前にやっつけないとね!」

「そうだね……まだ不死者化していない事を願って、先に倒しに行くべきかもしれないね」

 ルルーの言葉にレイズがそう続いた。

「サンドワームとの戦闘中にあいつが現れない事も、ね」

「……それは本当に最悪だな」

 メリアの言った状況は、本当に最悪の状況だ。

「メリア、サンドワームの餌場はどっちだ?」

 気が付けばメリアと出会った部屋に辿り着いていた。

「右よ」

 まだ渋々と言った感じではあったが一応は納得したのだろう。メリアは大人しく俺の質問に答えた。

 メリアの示した通り、俺達は右の道へと進んだ。

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