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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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フレンツ達の戦い

「おらぁ!」

 大柄で赤い髪を逆立てた男が、叫び声を上げながら両手斧を振るう。上から下に振る事で重力を味方にしたその一撃は、人型の不死者の右腕を簡単に両断した。

「切断の魔法が付加されているとは言え、とても人間技には見えないな」

 きめ細やかな青髪を綺麗に揃えた好青年が、やれやれと言った風に肩を竦めながらそんな言葉を漏らした。

 しかし青年は立ち止まっている訳ではなく、細身の剣を振るいながら人型の不死者と戦っている。

「クロースの斧は特別製ですからね。成り立てならともかく、腐敗が進行した不死者の骨くらいなら簡単に切断出来るでしょう」

 青年の言葉に答えたのは、肩口まで伸ばした黒髪の青年。髪同様に黒いローブを纏い、木の杖を構えている事から魔法使いである事が窺える。

「違いない」

 魔法使いの青年の言葉に苦笑を漏らしながらも、青髪の青年は舞う様に動き不死者を圧倒する。致命傷を与える様な重い一撃は放てないが、その剣技が素晴らしいモノだと言うのは剣を使わない魔法使いの青年にも理解出来た。

「そろそろ浄化出来るだろう? エリック、頼む」

「分かりました。大気に住まう清らかなる風よ、邪悪なるモノを清め賜え――浄化の風(セイントウィンド)

 浄化の風(セイントウィンド)はその名の示す通り風属性の浄化魔法だ。魔法を定義付ける詠唱の通りこの魔法は大気中に存在する風を利用する為、瘴気に満ちた場所では効果が落ちる。しかしエリックと呼ばれた青年は己の中にある魔力を用いて、その効果を無理矢理高めて発動させる。

 決して吹き荒れる様な強い風ではなく、そよ風と呼べる程度の風が吹き不死者を包み込む。それは決して魔法の効果が弱いからではなく、この魔法が起こす風は元からそよ風程度の勢いしかない。その代わり対象を逃す事なく、ほぼ確実に包み込む。

 浄化の風に包まれた不死者はその動力源である瘴気を失い、やがて動きを止める。

「オレは次の不死者と戦うから、エリックはクロースが散らかした不死者の浄化を頼む」

「分かりました。心配ないとは思いますが、フレンツも気をつけて下さい」

「ああ」

 そんな言葉を交わし、青髪の青年――フレンツとエリックは互いに笑みを浮かべ合って散開した。



「大地の精霊よ、その力を我が前に示せ――土精霊の豪腕(ノームドアーム)!」

 肩より少し先まで伸ばした金色の髪に、やや細く釣り上がった碧い瞳の少女がそう叫ぶと、地面から大きく野太い茶褐色の腕が現れ少女の眼前に迫る人型の不死者を殴り飛ばした。

 少女の両耳の先端は尖っており、人間の平均よりも十分に整った顔立ちは少女がエルフと呼ばれる種族である事を示している。更に言えば、今少女が使った精霊魔法と呼ばれる術もエルフが使う術として有名である。エルフだけが使える訳ではないので、それが証となる事はないが。

「我が前に立ち塞がりし敵を穿て――尖岩の剣(ロックソード)

 精霊魔法は周囲の地形を壊して発動する類の術ではないが、黒いローブ姿の初老の男――カートンの魔法は周囲の地形を利用して発現する。魔力を用いて無理矢理岩を生成する事も可能だが、周囲を利用すればその分魔力を浪費せずに魔法を発現出来るのだ。

 迷宮の床や壁は石によって舗装されているが、所々に崩れており元来の土や岩と言った物が露出している部分もある。それに加えて石と言う素材自体がカートンの魔法の素材にも成り得る物であり、その一部を利用して生成された岩が尖った様な形をした塊が、先程殴り飛ばされた不死者目掛けて飛ぶ。岩の先端が不死者の胸に突き刺さり、残っていた血液が飛び散る。

「滅するは闇、不浄を祓う聖なる炎――聖光の炎(ホーリーフレア)

 追撃をかける様にカートンは浄化の炎を生み出し、大きなダメージを負った不死者に放つ。最早抗うだけの体力のない不死者は、炎に焼かれ浄化されて行った。

「やるじゃない」

「お主もな」

 種類は違えど同じ魔法を扱う者として、互いの実力を認め合う二人。

「エリザと言ったかの。出来ればこれからも仲間としてやっていきたいものだ」

 カートンはまだ年老いたと言うには早い年齢であるが、その口調は既に老人に近い。それは彼が持つ魔法使いのイメージから作られたものであるが、そう言った年齢に近付いているのも事実であり誰もおかしいとは思っていないのが現状だ。尤も、もっと若い頃から今の様な口調だった為良くからかわれたのも事実だが。

「そうね……まあ、考えておくわ」

 エリザと呼ばれたエルフの少女は、苦笑とも呼べる笑みを浮かべてそう答えた。

 エリザ以外の四人は元々フレンツの率いるパーティのメンバーで、一人だけ急増のメンバーであるエリザはどこか居心地の悪い思いをしていた。どちらのパーティに入っても似た思いはしていただろうと思い特に気にしていなかったエリザだが、仲間として認めて貰える事自体は悪い気がしない。異種族である事もそう言った思いに拍車をかけているのかもしれない。

「今クロースが戦っている奴を浄化すれば、下の階に行けるな」

 一通りの不死者を浄化し終わり、エリザとカートンの会話に入って来る様にフレンツが声を発した。その後ろにはエリックの姿もある。

「そうみたいね」

「うむ。ではワシが浄化しに行こう」

 エリックが動こうとするよりも早くそう言い出て、カートンが少し離れた所で戦っているクロースの元に向かう。

 戦闘を行なっているクロースを除いた全員が、その瞬間は気を抜いていた。

「生きて逃げた鼠が、仲間を連れてやってきた様ですね」

 その言葉は、どこからともなく聞こえてきた。クロースとその場を離れたカートンの耳には届かなかった様だが、その場に残った全員が一斉に気を引き締め各々の武器を構える。

 声のした方向へと全員が視線を向けたが、そこには誰もいない。ただ地下迷宮の景色が広がっているだけだ。しかし、全員楽観等する訳がない。この場にいる者達は相手が姿を隠す魔法或いは魔法具を持っていると知っているからだ。

「少しは私の事を聞いている様ですが……あなた達では、少々役不足ですね」

「言ってくれるじゃないか。二人共、援護は頼んだ!」

 一見冷静そうなフレンツではあったが、実の所短気と言える性格をしている。それでも普段はリーダーとして冷静さを保とうとしているが、思いも寄らない所での黒幕との接触に高揚を隠せず、そこに追い打ちの如く浴びせられた嘲笑を含んだ声に冷静さを保つ事が出来なかった。例え不死者との戦闘中であっても、クロースとカートンを直ぐに呼び戻すべきだったのだ。

 フレンツは声と気配を頼りに細身の剣を構えたまま移動を始めた。その読みは正しく目指す先には確かに声を発した張本人は立っている。しかし――

「閉ざすは数多の光、暗き闇の抱擁――漆黒の牢獄(ダークネスプリズン)

 その言葉が紡がれた刹那、フレンツの周囲に幾つもの黒い柱が現れ牢を形成する。柱が全て繋がるとその内部を暗闇が覆う。

 それぞれ魔法を放とうとしていたエリックとエリザだったが、一瞬の目配せを合図に攻撃と救援の役割分担を決める。

 いざ魔法を放つ為に呪文を紡ごうとした刹那、二人の周囲にも黒い柱が出現する。

「な!?」

「いつの間に!?」

 エリックとエリザが驚愕の声を上げるが、結果は変わらない。そのまま魔法を放ち対抗しようとするも、二人が使った魔法は風に連なる魔法。そのどちらも闇を司る魔法を打ち破る事は出来ず、フレンツ同様に黒い檻に閉じ込められてしまった。

 そこで漸く異変に気付いたカートンとクロースだったが、殆ど抵抗する事も出来ずに黒い檻に捕らえられてしまった。

「このまま処分しても良いですが……そろそろ、実験を次の段階に移しても良い頃合かもしれませんね」

 そんな呟きを残し、未だに姿を見せないその男は五つの黒い檻と共に姿を消した……

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