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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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実力の見せ合い

 地下3階へと続く階段が見えて来ると同時に、隣りの通路から不死者が現れた。殆ど元の形を残しているマッドウルフの不死者が三匹、顔の半分が崩れ落ちた人型の不死者が一人、右上半身を失った人型の不死者が一人。

 俺達の存在に気がついていないらしく、緩慢な動きで移動している。階段を下る訳じゃないとしたら、通路的にこちらに向かってくる可能性が高い。なら、気付かれる前に攻撃するべきだ。

「レイズ、頼む」

 レイズの持つルナティックの性能を見る良い機会だ。今までは前衛がモンスターを蹴散らしてきた為、まだどれ程の効果があるのか知らない。

「了解」

 俺が何を求めているのか理解しているのだろう。特に質問してくるでもなく、レイズはルナティックを構え矢を射る。数本の矢を片手で器用に持ち、連続で矢を放つその腕はかなりのものだろう。

 最初に放たれた矢は炎を纏い、マッドウルフに刺さった。その刹那刺さった部分から炎が広がりマッドウルフを包み込む。周囲の不死者がこちらの存在に気がつくが、レイズの放った矢は全部で五本。二本目は炎に包まれたマッドウルフに刺さり、浄化の魔法が付加されていたらしくマッドウルフが光に包まれたかと思うと動きを止める。とは言っても、まだ完全に浄化仕切れた訳ではない様だ。

 三本目がもう一匹目のマッドウルフに刺さり、一本目と同じくマッドウルフが炎に包まれる。四本目は同じマッドウルフに刺さり浄化。五本目は一早くこちらに向かおうとしていた三匹目のマッドウルフに向かっていたが避けられてしまった。否、最初から牽制に使うつもりだったのだろう。その矢には何の魔法も付加されていない様だった。

 俺達が動く間もなく、レイズは既に新たな矢を左手に掴みルナティックを構えていた。素早く再度連続で放たれる五本の矢。一本目には風の魔法が付加されたらしく、通常では考えられないスピードで人型の不死者へと至り武器を持つ腕を貫通した。当たったのは右上半身のない不死者で、左手に持っていた手斧を落とした。

 二本目はもう一人の不死者に迫ったが、左手に持った盾に防がれてしまった。これもどうやらレイズは読んでいたらしく、何の魔法も付加されていない様だった。おそらく足止めの為だろう。

 三本目は先の一撃で一歩下がったマッドウルフに向かっていた。これにも風の魔法が付加されていたらしく、二本目と同じくらいのタイミングでマッドウルフに迫っていた。完全にこちらに向かって掛け始めていた為今度は避けられず、前右足を貫く。これも機動力を奪う為に狙った様だ。

 四本目と五本目はそれぞれ一度浄化の矢を当てたマッドウルフに刺さった。殆ど動けなくなっていたこの二匹には簡単に矢が刺さり、命の代わりに動力源となっていた瘴気が祓われた事でその活動を完全に停止させた。

「ここらで下がっても良いかい?」

「そうだな。ここからは俺が行こう」

 おそらくもう一度レイズが矢を放つ余裕はあるだろうが、そうすると俺が前に出るのがギリギリになってしまいそうだ。レイズにきちんと俺の動きも見て貰った方が良いだろうと、メリアに手を出さない様に言っておく。

 前に出ると同時に雷の魔法剣を抜き、まずは牽制にと小さな雷撃を放つ。不死者となった事で超再生能力を失ったマッドウルフは足を引き摺りながら雷撃を避けようとするが叶わず、雷撃を受けた熱量によって直撃した顔面が焦げる。が、それでは止めにはならない。まあ、足の傷もあるし少なくとも機敏な動きは出来ない。

 俺は迫り来る人型の不死者に向き直り、魔法剣に魔力を流し込む。

喰らい付く雷(サンダーバイト)!」

 俺の紡いだキーワードに応じて、魔法剣から蛇を模した雷が伸び顔半分がない不死者を縛り上げる。雷の化身とも言える蛇に縛り上げられている為、それだけで不死者はダメージを負っていく。左腕に装着されている盾はともかく、右手に持っていた剣を落とし、それでも何とか抜け出そうと身を捩る不死者。ダメージはあっても痛みは感じないからこそ出来る動きだろう。俺は不死者へと接近しながら腰に提げた浄化の短剣を左手で抜き、喰らい付く雷(サンダーバイト)最後の工程である頭上からの一撃に合わせ逆手に持った浄化の短剣で喉元を切り裂いた。瘴気に感染した血を浴びない様にと瞬時に後方へ跳び、最早体当たりをするか左腕を無理矢理振り回す事しか出来なさそうなもう一人の不死者へと視線を送る。どうやら落とした武器を拾おうとしていたらしいが、レイズが貫通させた矢は上手く筋を傷付けているらしく手斧の柄を握る事が出来ない様だ。武器を持った方が有利だと言うくらいの知能は残っている様だが、状況を判断する知能は残っていない様だ。典型的な質の悪い不死者と言える。

 俺が視線を残ったマッドウルフに向けると、ダメージが抜けたのかノロノロと動きを再開していた。本来の機動力を失い、足の傷で更に機動力を失ったマッドウルフからは何の脅威も感じられない。左手の浄化の短剣を持ち直し、マッドウルフの脳天目がけて投げる。避ける動作する見せないマッドウルフに短剣が突き刺さり、浄化の効果を発揮しマッドウルフが光に包まれたかと思うとその動きを止めた。

 喉元を裂いた人型の不死者に視線を向ければ、やはり浄化の効果を受け既にその活動を停止していた。危険を感じなかった為きちんと確認していなかったが問題なかった様で良かった。

 残るは未だに武器を拾おうと躍起になっているバカな不死者のみ。俺は魔法剣を鞘にしまい、もう一本の浄化の短剣を右手で抜く。どちらの手でも抜ける様に腰の左右に一本ずつ提げておいたのだ。

 こちらに注意を向ける暇を与えない様に一気に接近し、こちらに顔を向けた不死者の顔に短剣を突き刺した。刹那に浄化の魔法が発動し、最後の不死者もその活動を停止させた。

「メリア、こいつらの浄化を頼む」

 一度浄化したものの、まだ身体が残っている以上再び不死者になる可能性がある。俺やレイズでは灰にするだけの火力を持っていない為、浄化の炎と言う不死者に対して最も有効な手立てを持っているメリアに最後の止めを任せる。

「任せて。滅するは闇、不浄を祓う聖なる炎――聖光の炎(ホーリーフレア)!」

 僅かに残った瘴気を祓うと同時に、聖なる炎が闇に落ちた身体を灰に帰す。相手の体力や魔法に対する抵抗力によって与える効果に差が出るが、唯の死体である今ならばその身を燃やすのはメリアにとって簡単な事だろう。滞りなく、俺達の前に現われた不死者の一団は全て浄化し終わった。

「よし。それじゃあ階段に結界を張ってくれ」

「言われなくてもちゃんと張るわよ」

 そう言って階段に近付き、出会った時と同じ様に札を利用して結界を張るメリア。その間にレイズが地面に落ちている矢を拾う。回帰の魔法がかかったそれらの矢は、当然再利用する事が可能だ。

「早い所先に進もう」

 俺の言葉に全員が頷き、俺達は地下3階へと降りた……

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