地下迷宮攻略への第一歩
翌朝ギルドに集まった俺達は、ギルド長仕切りの元パーティー分けをされた。と言っても、元々パーティを組んでいた俺達が分散される事はなかった。チームワークが要求されるダンジョンに潜るのだから当然と言えば当然だ。まあ、昨日初めて会ったメンバーもいるが……
それはさておき、ギルド長の思惑通りには事が運ばず、俺達を含めメンバーは九人にしかならなかった。ルルーの存在を公にしたくない俺にとっては都合が良く、俺達のパーティと、集まった五人のパーティで探索に向かう事になった。
ギルド長からすれば心許ない様だが、烏合の衆が集まるよりは現状の方がマシなのは事実。ギルド長もそれを理解しているからこそ、それを言葉には出さない。
「頼んだぞ」
自己紹介と、一通り俺達の持つ情報を伝えた後、ギルド長のそんな言葉で俺達は偽りの砂漠へと向かい街を出た。
道中は九人全員の旅路だ。ギルド長の選りすぐりだけあって、全員かなりの腕を持っていた。道中に現れる雑魚モンスター等物ともせず、かなりのハイペースで進み昼前には偽りの砂漠へと辿り着いた。
「さて、今回の作戦を確認しておこうと思うんだが良いか?」
今回の報告者と言う事もあり、一応は俺がまとめ役と言う事になった。既にガルニールで作戦内容は話し合われたが、ダンジョンに入る前に再確認を行なっておきたい。全員無言で頷き、俺の言葉を待つ。
「まずは、偽りの砂漠唯一の出入り口であるここに浄化魔法を施した結界を張る。地上にまでは瘴気が漏れ出ていない様だから、地上の探索はせずに九人で地下迷宮を目指す。途中で不死者を発見した場合、必ず浄化を行なう」
不死者は瘴気によって生まれた存在と言っても過言ではなく、その身には瘴気を孕んでいる。放っておけば周囲に影響を与えかねない為、必ず浄化しながら進んで欲しいと言うのがギルドからのお達しだ。
「地下迷宮の入り口にも結界を張った上で、二手に分かれる。迷宮内部にいる不死者を浄化するチームと、ダンジョンの踏破を目指しつつ今回の黒幕を探し出すチームだ。敵と戦った事のある俺達が後者を担当する」
「一応確認しておくが、勝算はあるんだろうな? 一度負けているんだろう?」
そんな言葉を挟んできたのは、俺達とは別パーティの一人であるクロースと言う男だ。大柄で逆立てた赤髪が特徴的な男で、武器は斧を使う。
「逃げられたのは事実だが、負けた訳じゃない。十分に勝算はある。これで満足か?」
言葉を幾ら取り繕おうが、戦いにおいて絶対など存在しない。俺達が勝つ等と証明する事が出来ないのだ。それでもクロースがそれを尋ねてきたのは、気持ちの上で負けていないかを確認したかったのだろう。
「ま、せいぜい負けない事を祈っておくぜ」
「済まない。続けてくれ」
肩を竦めて呟いたクロースの言葉に続けて、別パーティのリーダーである青年、フレンツがそう言った。見た目も言動も好青年風ではあるが、冒険者の間ではその実力と共に性格の悪さも評判だ。
「俺達は階段に結界を張りながら進み、フレンツのパーティは各階を探索し不死者を浄化して回る。と言うのが、地下3階までの基本的な行動になる。地下4階からはまだ未踏破な為、俺達はまず地下4階の踏破を目指す。フレンツ達が追い着いた場合、その階の踏破を任せ先に進む。その繰り返しで事件の解決を目指す。大まかな流れはこんな感じだ。何か質問はあるか?」
細かな部分も含め一度は話し合っている為、俺の言葉に質問を投げかけてくる者はいなかった。
「それじゃあ、まずは地下迷宮への入り口を目指そう」
俺の言葉に、その場にいる全員が頷いた。
フレンツのパーティにいる初老の魔法使いカートンとメリアが協力して、それなりの効力を持つ結界を張ってから俺達は先に進んだ。
瘴気の存在は未だに解明されている訳ではなく、むしろ分からない事の方が多い。地上に瘴気が漏れていないのは性質によるものなのか、それとも奴が何らかの手を打っているのか……
地上では不死者には一切遭遇せず、しかし普通のモンスターとの戦闘は多少なりにはあった。とは言っても偽りの砂漠までの道中同様、このメンバーで苦戦する様な相手はおらず、地下迷宮の入り口まですんなりとやって来れた。偽りの砂漠の入り口同様カートンとメリアが地下迷宮の入り口にも結界を張り、俺達は作戦通り二手に分かれ地下迷宮を進む。
既に一度は通った道程。しかも最近通ったと言う事もあり俺達のパーティは簡単に地下へ進む階段まで辿り着く。
調査隊の報告通り瘴気が充満しているが、地下1階はそこまでの濃度ではなかった。俺達は不死者とも遭遇せず、メリアが階段に結界を張ってから下に降りる。
真っ直ぐに階段まで進んだとは言え、モンスターとも不死者とも遭遇しなかったのは運が良かったのだろう。が、それは同時にフレンツ達が大変な思いをすると言う事でもある。調査隊がほぼ全滅する様な状況だったのだ。かなりの数の不死者が地下1階にもいるはずだ。
しかし俺達のパーティの目的は不死者の殲滅ではない。当然見つければ浄化するべく戦闘するが、主だった目的は先に進む事だ。地下1階の事はフレンツ達に任せれば良い。
緊張と瘴気による嫌悪感や気持ち悪さを抑えているせいか会話もない。俺達は無言のまま、地下3階へ続く階段を真っ直ぐに目指した。