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ドラゴン・レイヤー  作者: 夕咲 紅
一章 暗き冒涜の使者
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バッドバロン

 ガルニールには武器を扱う商店が五店舗ある。その中でも一番質が良いと言われているのが、ここバッドバロンだ。

 店構えは至って普通。しかし扱う品は一級品。それが世間様の見解だ。

「オヤジ。飛び切り頑丈な魔法剣はあるか?」

 特別な能力は必要ない。今俺が求めているのはドラゴン(ルルー)の力に耐えられる代物だ。

「剣を鈍器にでもするつもりか?」

「そんな訳ないだろう」

 返ってきた店主の言葉に、俺は即答でツッコミを入れた。

「だろうな。それだけ上等な魔法剣を持っているんだ。だがそうなると、一体どんな剣を求めているんだか分からんな」

 割と恰幅が良く、それでいて無愛想な店主であるが、扱う品同様にその目利きも大したものだ。魔力を感知する力にも長けているのか、俺の持つ魔法剣の存在にもしっかりと気が付いている。

「切れ味は二の次で良い。とにかく強度の高い剣が欲しいんだ。過剰な魔力付与にも耐え得る強度で、硬化や回帰の魔法が強くかかっていると助かるな」

「やはり鈍器として使うんじゃないのか?」

「……言ってて否定出来ない気がしてきたな」

 そうなると別に剣じゃなくても良い気もするが、そこはやはり慣れた武器の方が扱い易い。斬る動作と殴る動作では力の入れ方等も変わってくるが、まあその辺りは慣れるしかないだろう。

「剣に硬化の魔法をかける奴なんてそうは居ないだろうに……」

 まあそれもそうか。しかしそうなると、どんな武器を用意するべきか悩むな。

「だがまあ、強度なら一級品の剣はあるぞ」

 剣を諦めようかと思い始めた時、店主のそんな言葉を聞いて驚きを隠せなかった。

「詳しく聞かせてくれ」

「魔法剣アリエステス。名工ウダンジャの鍛えた真銀の剣、そして一流の魔法使いであるエアロスによって切断と斬魔、回帰の魔法がかけられた超一級品だ」

 ウダンジャもエアロスもこの筋では超が付く有名人だ。その二人の合作な上に名前付きともなればかなりの逸品だろう。しかし、ともなれば代金も跳ね上がるはず……

「名前付きの魔法剣なんて久々に聞いたわ」

 俺が小さく唸り声を上げながら頭を悩ませていると、自分用の武器を見繕っていたメリアがやってきてそう言った。

「是非、実物を見たいんだけど良いかしら?」

 店主を疑っている訳じゃないだろうから、単純にエアロスのかけた魔法が気になるのだろう。メリアは真剣な面持ちで店主に尋ねた。

「構わんよ。ちょっと待っていてくれ」

 そう答え、店主はカウンターの奥にある部屋へと入って行った。

 目玉になりそうな品だから、人目に付く場所に飾るのが普通だと思うんだが……まだ仕入れたばかりなのか、それともそれ程の逸品と言う事なのか……

「これだ」

 戻って来た店主が、シンプルながら黒く統一された秀麗な鞘に納められた剣をメリアへと手渡した。

「抜いてみても良いかしら?」

「ああ。抜けるのならな」

 意味深な返事をした店主だったが、メリアは気にせず剣を抜こうとする。が――

「抜けないわね」

 店主の言葉通り、剣を鞘から抜く事出来なかった。

「その鞘には選定の魔法がかけられていてな。一定条件を満たした者しか抜けない様になっているのさ」

「俺も試して良いか?」

「勿論」

 店主の返事を聞き、俺はメリアから剣を受け取る。両腕を目の前に突き出す形で柄と鞘を持ち、小さく息を呑む。

 選定の魔法は使い手を選ぶ為の魔法。その判断基準は魔法をかける時に設定する為様々だが、多くは魔力等の能力によって選定される。だからと言って魔力を込めたりする必要はなく、触れてさえいれば選定の魔法は自動的に発動される。つまり、力む必要はないし何か特別な行動をする必要も一切ない。それでも、これだけの逸品に試されるともなれば多少は緊張もする。

 左手に持った鞘と、右手に持った柄を同時に動かす。スゥーッと静かな音を立て、その美しい銀の剣身が姿を現した。

「まさか、そいつに認められる奴が現れるとはな……」

 俺が剣を抜いた姿を見て、店主は心底驚いた様子でそんな言葉を漏らした。

「どう言う事だ?」

「本当の事を言えば、妥協点を見つけさせる為にそいつを出したのさ。絶対に誰にも抜けないと思っていたからな」

 良い物を見せ、それが手に入らないのならば違う品を探すしかない。それだけ良い物があるのだから、他の物だって十分に良質の物だろうを思う。そんな心理を利用した商法は良くある話だ。だが、俺が聞きたいのはそう言う事ではない。

「どうして誰にも抜けないと思っていたんだ?」

「ウダンジャとエアロスの二人が決めた選定の内容が、ドラゴンに匹敵する力を持っている事だからさ」

 なっ……

 驚きを隠せなかったが、何とか声を出すのは押さえた。メリアは完全にポーカーフェイスを保っている。

「お前さん、ドラゴンを倒した事があるのか?」

 一瞬ドラゴンの纏いし者である事がバレたのかとも思ったが、どうやらそう言う訳でもないらしい。内心安堵しつつ、俺は店主の言葉に答える。

「まあな。イビルドラゴンなら何度か倒した事があるし、もう少し上位のドラゴンと戦った事もある」

「なるほどな。倒す事で条件を満たす訳じゃないだろうが、少なくとも選定の魔法はお前さんをドラゴンと対等であると判断したんだろう」

 細かい選定の条件は魔法をかけた者にしか分からないし、店主も聞いてはいないんだろう。何にしても、この剣を逃がすのは惜しい。

「この剣、幾らだ?」

「……そいつは持って行って良い」

「は?」

 思いもよらない店主の言葉に、俺は思わず変な声を出してしまった。

「どうせ使えない剣を買う奴なんていないしな。鑑賞用にと大金を出そうとするバカもいるが……剣は、使ってこその剣だ。だから、そいつはくれてやる」

「……本当に良いのか?」

「くどいぞ」

 そう答える店主の目は真剣だ。なら、これ以上の確認は逆に失礼だろう。

「分かった。ありがたく貰って行く」

「ああ。大事に使えよ」

 金をかけずに武器を調達出来たのはラッキーだった。しかも、おそらくドラゴンの力に耐え得る逸品。真銀とはそれだけ強度の高い金属だ。

「俺は外で待ってるぞ」

「分かったわ」

 外でルルーを待たせている為、まだ自分の武器を決めていないメリアにそう声をかけ、俺は先にバッドバロンの外に出た。

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