博物館に轟く鍔鳴り音
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
博物館や美術館の収蔵品は長い年月を重ねて受け継がれてきた歴史の生き証人であり、その中には常識では計り知れない奇妙な代物が紛れ込んでいたとて何ら不思議ではない。
私こと袖掛町子がそれを改めて実感したのは、受付嬢として勤務している堺県立歴史博物館の夏期特別展に先駆けた内覧会の事だったの。
夏休みシーズンを利用して刀剣女子や歴史ゲームマニアといった若年層をメインターゲットに据えた特別展「中世から近世の堺を彩った名刀の伝説」は、展示品の質も量も当館としては会心の出来栄えであり、私も含めた職員一同もその成功を信じて疑わなかったわ。
だから内覧中の展示室に突如として鋭い金属音が鳴り響いた時には、それはもう驚いたの何のって。
「な…何だ、この音は?」
夏期特別展の発起人である若手学芸員の玉津島さんは、この珍事にただただ狼狽えるばかりだったわ。
「まるで、刀の鍔鳴りみたいに聞こえるけど…あっ!」
展示室にサッと目を走らせた私は、次の瞬間には思わず息を呑んでしまったの。
何と一振りの刀身がショーケースの中でブルブルと震え、その上段で木刀をダミーの刀身に仕立て上げた拵え一式が忙しなく鍔鳴りを響かせていたのだから。
だけど驚愕する私達とは対照的に、副館長は至って冷静だったわ。
「あっ、この刀は…袖掛君、君は確か学芸員資格も持っていたね。悪いがバックヤードに行って、この脇差を持ってきて貰いたいんだ。」
「私がですか…畏まりました!」
ポストに空きがなくて受付嬢としての採用だけど、資格や知識に関しては正規の学芸員さんに遅れを取らないと自負している私だもの。
こういう時は何かと便利に使われるのよね。
「あった…これね!」
そうして副館長さんが写真で見せてくれた通りの脇差を抱えて戻ってくると、あれ程けたたましく轟いていた鍔鳴りもピタッと収まっていたの。
「この脇差を近づけた途端に、急に静かになるなんて…」
「この大小の業物は、安土桃山時代に活躍したさる剣客が生涯に渡り肌見放さず帯刀した名刀でね。そうして長い年月を経るうちに、太刀と脇差にも双子か夫婦みたいな絆が芽生えたのだろう。だから展示する時は同じショーケース内に飾らないといけない。片方だけを展示したり他館に貸し出すなんか以ての外だね。」
そして今回の騒動を引き起こしたのは、何と夏期特別展の発起人である玉津島学芸員だったのよ。
どうやら交渉に交渉を重ねて珍しい名刀を特別展寸前で借りられたのは良かったものの、展示スペースに限界があったので例の脇差だけをバックヤードに戻してしまったみたいね。
「良いかね、玉津島君…君は『単なる眉唾物のフォークロア』と軽く見たのかも知れないけど、私達が取り扱うのは歴史を重ねた収蔵品だからね。理屈では説明のつかない変わった出来事が起きても全く不思議じゃないのだよ…」
玉津島さんに向けた副館長さんのお説教は、私にとっても他人事ではなかったの。
今でこそ受付嬢だけど、私はまだ学芸員の夢を諦めてはいないのだから。
何時の日か正規の学芸員になれたなら、同じ轍を踏まないよう気をつけなくっちゃね。




