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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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38話〜えっ!止まってる!?〜

 汚泥タンクの中に可燃性ガスが満ちている事を発見した俺達は、一旦中制まで戻って来た。

 オペレーターの皆さんは「どうしよう。死にたくない」とか「だからこんな仕事嫌だったんだ」とかパニック状態に陥っている。なので、何とか宥めようとした。

 可燃性ガスは出ているが、火を近付けなければ大丈夫だとか、爆発してもタンクが破裂するくらいだと説明する。

 しかし、


「確証は無いんでしょ!?」

「タンクの破裂だって嫌よ!結局、掃除するのは私達なんだし」


 ヒステリック気味に叫ぶ女性達。

 感情的になっているな。仕方ない。

 俺は立ち上がり、彼女達に宣言する。


「大丈夫です。俺が調査して、爆発を未然に防ぎます」


 そう言うと、オペレーター達は少しだけ表情を和らげる。


「ダメです」

 

 でも、それとは反対に、鈴木さんの目が険しくなる。


「また戻るつもりですか?黒川さん。あんな危険な場所に」

「いや、鈴木さん。装備をしっかりしたら大丈夫だから」

「それでも、酸欠の恐れがあるんですよね?」

「それも、対策があるから」


 俺がそう言うと、漸く(ほこ)を収めてくれる鈴木さん。

 これは、是が非でもアレを用意しなければ。


 

 そう思って動き出した俺だが、


「えっ?そんな物は無い?」


 アレの所在を所長に聞いてみると、そんな装備は知らないと言われてしまった。

 そんな筈はない。ああいう物は、こう言う施設には必ず備える約束になっている物だから。


「本当に、心当たりありませんか?」

「知らないよ。電気室か倉庫を探してみたらどう?」

「分かりました」


 他人事みたいに言う所長に表面だけの礼を返し、俺は事務所から出る。するとすぐ、鈴木さんが心配そうに聞いてくる。


「有るか分かりませんが、本社に戻って探しましょうか?もしくは、他社からレンタルするとか」

「いや、ある筈だ。じゃないと、安衛法違反だからね」


 労働安全衛生法。それは、仕事をする人の安全を守る法律だ。労働者が危険な場所で仕事をするなら、その人達を守る様にマニュアルや装備なんかを整備する責任が、所長や社長にはあるのだ。

 今回の様にね。


「だから、装備がここに無いってのは、オペレーターさん達にとっても危険な事なんだ。もしもそんな状態で放置されているのなら、それも今回で是正しないと不味い。また同じ様な事が起きた時、人命に関わってくるから」

「なるほど。そう言う事だったんですね」


 鈴木さんも納得して「でしたら勿論、私もお手伝いします」と協力を申し出てくれた。

 有難い。


「あたしも手伝ってやるよ。力仕事は得意だからな」


 元気になった佐川さんが、両腕に力こぶを作る(ダブルバイセップス)で笑う。

 正直、助かる。高い所の探索は彼女に任せよう。


「ありがとう、2人とも。とても心強いよ」

「おう。開かねぇ箱もこじ開けてやっから、安心しろ」


 …一気に不安になったんだが?



 そうして、俺達3人は所内を探し回る。倉庫の箱を片っ端から開けて、棚の上を覗き見て、目的の物を探す。

 そして…。


「あっ、あった」


 地下室の奥の棚に、それはあった。一度も使われていないみたいで、重厚なプラスチックの箱は薄らとホコリを被っていた。

 なので、かなり心配だった。一度もメンテナンスをしていないから、マトモに使えないかもと思ったんだ。

 だけど、


「シュコー…シュコー…」


 使ってみると、特に問題なかった。ちゃんと、酸素が供給されていた。


「うん。問題ない。残圧もあるし」

「黒川さん…それはなんですか?」


 鈴木さんが、心配そうな顔で俺を見詰める。それに、俺は分厚いフルフェイス越しに笑みを浮かべる。


「こいつは、エアラインマスクさ」


 エアラインマスク。それは、外部から新鮮な酸素を密閉されたマスクの中に送る装備だ。よく見るのが飛行機の天井からびろーんと出てくる物だと思うが、俺が今、装備しているのは、背中にボンベを背負う独立式。この装備を着るだけで、猛毒ガスが漂う室内も平気で活動することが出来る。

 ボンベが少々重いので、鈴木さんには厳しいかもしれないけど。

 重いボンベの位置調整をしていると、佐川さんがニヤリと笑う。

 なんだい?


「なんかアレだな。SF映画に出てきた敵の親玉みたいだな。フォースを感じる…とか言ってたあの黒い奴」

「まぁ、似たようなもんだ。シュコー…」


 俺はまだ、暗黒面(ダークサイド)に堕ちてないけどな。


 そうして、万全の装備を整えた俺は、早速現場に舞い戻った。あれだけ怖がっていたオペレーターさん達も、俺の格好を見て「面白そう」「ベーダーだ」と付いて来る。

 …人気だな。主人公の父。


「それでは皆さん。部屋には入らないで下さい。酸欠の恐れがありますので」

「黒川さん。私は…」

「鈴木さんもですよ。今回は本当、お願いします」


 俺が念を押すと、鈴木さんは渋々「分かりました」と頷く。


「でも、部屋の外からは見ていますので」

「…分かりました。では、ガス検知器で常に計測して下さい」


 俺は彼女達を開け放った入口に残し、タンクに近付く。そのままタラップを登り…って、重っ!ボンベ重っ!めっちゃ登り辛い…。

 何とか点検口まで登り、開ける。曇り始めたフルフェイスのガラス越しでも、タンクの中がボコボコ言っているのが分かる。このボコボコが、水素やメタン等の可燃性ガスだ。

 これが出ること自体は、問題ない。有機物の汚泥だから、微生物の分解で発生するだろう。問題は、それが溜まる事。

 なんで溜まるのかと、俺は点検口から顔を入れて、タンクの上辺を見上げる。すると、換気扇らしき物が見えた。見えたのだが…。


「えっ!止まってる!?」

「どうしました!?黒川さん!」


 つい声を上げてしまい、鈴木さんが心配そうに問いかけて来た。

 俺は何でもないとジェスチャーして、ポケットから社用スマホを取り出す。タンク内の写真を何枚か取り、急いで彼女達の元に戻った。


「換気扇が止まっています。一体何時から?」

「えっ?換気扇なんてあったの?」


 オペレーターさん達は困惑し、互いに顔を見合せる。

 図面を見ていないのか?ああ、いや。換気扇は設備図面じゃなくて建築の方に書かれているのかもしれん。それじゃ、実際に顔を突っ込まないと分からないか。近付く事すら嫌悪する彼女達に、それは酷というもの。

 いや、それよりも。


「分かりましたよ、鈴木さん。今回のトラブル」


 俺はその場の人間に、組み立てた推理を披露する。


「発端は恐らく、換気扇の故障です。こいつが止まって、タンク内の可燃性ガスを排出しなくなった」


 本来なら、大気放散されて無害化するガスも、タンク内に留まった事で濃度を濃くし、やがてそれがスクリューの摩擦で発生した電気や熱に反応し、局所的な爆発を起こした。


「爆発ってのは、3つの条件が揃った時に起こります。ガス濃度、密閉された空間。そして、火種となる熱です」


 それらの条件が偶然揃ってしまったタンクの中で、小さな爆発が何度も起こっていたのだろう。それ故に、爆発源のスクリューは破損し、その余波で配管やタンク本体にもダメージが及んだのだ。

 俺が説明すると、しかし、オペレーターさん達の表情は青いままだ。心配そうに、俺を見上げる。


「だったら、早く換気扇を直してくれよ」

「そうよ。小さくても、ウンコが爆発してるなんて気持ち悪いわ」

「あんたなら出来るんだろ?」


 訴える様に見てくる彼女達。

 期待してくれるのは有難いけど…済まん。俺は電気屋じゃないんだ。電験三種も持ってないから、下手な事は出来ない。


「先ずは所長に相談しよう」


 逃げるみたいになってしまったが、仕方ないだろう。何事も、専門分野ってのがある。

 不満そうに見上げてくる女性達に背を向け、俺達は事務所へと戻った。



「いやぁ。ありがとう、鈴木さん。本当に助かったよ」


 事務所に戻った俺達は、所長に事の次第を説明した。俺の仮説を鈴木さんの口から伝えて貰うと、所長は直ぐに動き出し、新しい換気扇の購入と取り付ける業者を手配した。

 そして、改めてお礼を口にし、鈴木さんの両手を掴んで上下に振る。

 でも、それを受け取る鈴木さんは不満気だ。


「所長。これは私ではなく、黒川さんが突き止めてくれた事です。ですから、その言葉は彼に…」

「何を言っているんだい。男にそんな事を考える力は無いよ。君が指示して、この男にやらせたんだろ?それは間違いなく、君の手柄だよ」

「いえ、ですから!」


 強く反論しようとする鈴木さん。その彼女の肩を叩き、俺は首を振る。

 良いんだ、鈴木さん。俺は別に、認められたい訳じゃない。


「本当に素晴らしい仕事だったよ、鈴木さん。君を勧めてくれた川咲区長にもお礼を言わないと。勿論、君の活躍もしっかりと報告しておくからね」

「…はい。ありがとうございます」


 全く嬉しそうじゃないな、鈴木さん。本当に俺の事は気にしなくて良いのに。

 気になったので、事務所を出た俺は、2人に向き直る。


「助かったよ、2人とも。君達が居なかったら、今回のトラブルは解決出来なかった。だから鈴木さん、そんな顔しないで欲しい」

「ですが…黒川さん…」


 納得出来ないかな?

 確かに、俺もちょっと残念だ。男への偏見を、全く覆す事が出来なかったから。

 でも、トラブルは未然に防ぐ事が出来た。下手したら人命に関わる大事を、被害ゼロで解決出来たのだ。

 それで十分だろうと、俺は胸を張る。そのまま中制の近くを通ると、既に業者が来ており、新しい換気扇を持って現場に向かう所だった。

 流石は特区。手厚い対応だな。


「おい。あんた達」


 安心して立ち去ろうとしたら、後ろから声を掛けられた。振り返ると、オペレーターさん達がゾロゾロと中制から出て来て、俺達に向かって腕組みをした。

 何か言われるかと覚悟したが、彼女達の顔には小さな笑みが。


「助かったよ、正直さ。爆発しなかったのはあんた達の…そこの兄さんのお陰だ」

「タンクに頭突っ込んだ時は、マジでイカれてるって思っちゃったけどね。そのお陰で、私達は無事だったんだし」

「ありがと。また頼むよ、兄さん達」


 彼女達は軽く手を上げて、俺達を見送ってくれた。所長とは違い、俺達を平等に見てくれていた。

 俺を、1人の人間として見てくれていた。


「良かったですね、黒川さん」


 俺の隣で、鈴木さんが微笑む。本当にうれしそうな顔で、祝福してくれる。

 それに、俺も一つ頷く。見送ってくれる彼女達に、手を上げる。


「出来れば、俺達を呼ぶ前に見つけて下さい。貴女達ならきっと、出来ると思います!」

「考えとくよ」


 そう言って、彼女達は中制に戻っていく。

 その背中が少しだけ大きく見えたのは、きっと俺の気のせいではないと思う。

これにて、下水処理案件は一件落着ですかね。


「だが、まだまだあるだろう。この様な案件は」


これは、黒川さんの力が試されますね。

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― 新着の感想 ―
いまさらではありますがよくあとがき欄でイノセスさんと会話されているのはどなたですか>
現場レベルではまだ話が通じるけど、上層はもうダメだなこれ
働いてる現場は意外とマトモ。 数字を追ってるだけの人間と、現場を見ている人間の差でしょうね。 正直、外で色々と作っている男たちをバカにしすぎとは思いますが、特区の女性は何かしら発明とか研究とかやってる…
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