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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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36/54

36話~毎日じゃ、ないんですか?~

 汚泥タンクのスクリューに、何が起きているのか。それを知る為に、俺は早速所長さんからヒアリングをしようと思った。

 のだが、俺が話しかけようとすると、彼女は顔をクシャクシャに歪めて、首を振りながら部屋から出て行ってしまった。

 なんだ?俺と喋りたくなかったのか?

 分からなかったので、取り敢えず彼女の背中に付いて行く。

 すると、


「あぁ~、汚らしい!」


 そこには、必死になって体中を摩る彼女が。まるで、ハムスターが毛づくろいしているみたいだ。

 滑稽な姿に、しかし、俺は心配になる。工場の長ともあろう人が、現場を軽んじるような発言をするなんてと。これが所員にも伝わったら、誰もこの部屋に近付かないんじゃないかと。

 …いや、今は置いておこう。


「所長。幾つかお聞きしたいことがあります」

「うん?なんだね。私個人の事は教えないよ」


 いや、聞かないよ。

 俺はツッコミたい衝動を抑えて、質問する。スクリューの故障以外、何か気になったことはないか。ここ最近で変わったことが起きなかったかや、操業条件を変えなかったかなど。

 しかし、


「そんなことは無い。我々は昔から変わらず、ここを操業してきたんだ」


 (かんば)しい答えは返ってこなかった。

 所長は頭を抱える。


「変わらずやっている筈なのに、急にスクリューが壊れ始めて…とんだ大赤字だ。スクリュー一本が幾らするか知っているか?1000万は下らないんだぞ?それが毎年壊れるようになったら、修繕費が大幅に膨れ上がって区長からも怒られてしまう。この前の地元連絡会でも、住人達からやり玉に挙げられてしまった。きっと、スクリューの質が下がっているんだ。お前達男がサボっているから、私が(はずかし)めを受けているんだ」


 ブツブツ呟く所長。

 なんでも、スクリューは特区の外から搬入しているらしい。だから俺達男のせいだと、所長は思っていると。

 その可能性はある。素材を変えたとか、製法を変えたとかね。けれど、真っ先に生産者を疑う姿勢はどうかと思う。

 何か、理由があるのか。そう聞いてみると、


「他にも、タンク周りは劣化が激しいんだ。配管も漏れるし、タンクの亀裂も大きくなる一方。スクリューもタンクも、外に発注している物だ。だから、男達が手を抜いているとしか考えられない」


 そう言って、俺まで睨みつけて来る所長。

 だが、俺は気にしていられなかった。所長が言ったその損傷も、大切なヒントに思えたから。

 何だろうな。スクリューを摩耗させて、配管やタンク本体にもダメージを与える物。入って来る汚泥に変化があるのか?それとも、漏れによる機器の劣化?

 

 現場だけでは分からない。 

 なので、俺は中制に戻ってきた。ここで、操業のデータを見せて貰おうとしたのだ。

 だけど…。


「はぁ?操業データが見たい?男のあんたが?」


 席に戻ってきていたオペレーターに話しかけると、呆れた顔をされた。そして、次の瞬間には大笑い。その女性が笑うと、中制にいた他の人達もみんな笑い出した。

 四面楚歌。

 誰も彼女もが、俺を見て笑う。男なんかに出来る訳ないと、一方的に決めつけてくる。

 

 どうするべきか、俺は迷う。信頼が0どころかマイナスの俺では、何を言ってもやっても裏目に出る。何か手はないか。そう考えていた時、

 

「お願いします!」


 鈴木さんの声が響く。

 彼女は真剣な眼差しで、笑い続ける女性達に頼み込んでいた。

 それを見て、笑っていた人達も動きを止める。どうする?と顔を見合わせ、やがて制御パソコンの1つを明け渡した。


「ありがとうございます!」


 鈴木さんが頭を下げるも、女性達は小さな嘲笑を浮かべるだけ。コソコソ話し合って、こちらを見ながら笑ている。

 それを見て、流石の鈴木さんも顔を顰める。

 彼女が何か言う前に、俺は声を掛けた。


「ありがとう、鈴木さん。さぁ、早速調べようか」


 だから、あんな人達を貴女が構う必要ないですよ。


「黒川さん。操作方法分かりますか?」


 椅子に座ってデスクトップ画面の前に座った俺に、鈴木さんが心配そうに聞いてくる。

 俺は頷き、画面横のロゴを指さす。


「ああ。このメーカーのDCS(一括監視するための専用システム)画面は何度も触ったことがあるから、大体の操作方法は分かるよ」


 そう言いながら、俺はトレンド画面に移動し、汚水処理関係の折れ線を呼び出す。時間軸とレンジを微調整して、表示し直して…。


「う〜ん。特に目立つ物はないなぁ…」


 そうして画面を出すことには成功したが、俺は首を捻る。

 水質が変わったかと思ったけど、水温も水量も大きな変化はない。水質を示すpHは高くなっているけど、過去を遡って見てみると時期的なものだと分かる。

 これを見る限りでは、特に変わった変化は見られなかった。


「ほらね」

「やっぱ男じゃ」


 俺が唸ると、周りの声が大きくなる。それに鈴木さんが反応しそうになっていたので、俺は首を振ってそれを止めた。

 でも、


「うっせぇな。今、調べてるとこだろうがよ」


 佐川さんまで止められなかった。

 彼女が腕組みしながら睨みつけると、女性達は一斉に押し黙った。そして、そそそっと、俺達から距離を取るようになった。

 静かになったのは有難いが…質問し辛い雰囲気になってしまったな。


「佐川さん。俺達は大丈夫だから、ちょっと休憩して下さい」


 俺が椅子を進めると、彼女は「うぃ」と鳴いて、椅子に勢い良く座る。

 …素直な人ではあるんだよな。


「黒川さん。もっと昔のデータを探しましょうか?変化があった去年より前から見れば、もしかしたら…」

「それも有り得るね。ちょっと探して貰える?」

「お任せ下さい」


 鈴木さんが駆け出す。俺は彼女を見送ったあと、また画面に視線を戻した。彼女が頑張っている間に、他のトレンドも見ておこうと思って。

 すると、


「うん?」


 1つ、異様な動きをしている折れ線を見つけた。汚泥タンクのレベル計だ。普段はなだらかに推移しているのに、時折ピョン、ピョンと跳ねている。

 これは…なんだ?


「あの〜…済みませ〜ん」

「……」


 声を掛けても、誰もこちらを見ない。ふいっと中制を出ていく人もいた。

 無視だ。完全無視を決め込んでいやがる。やっぱ、さっきのでヘソを曲げちまったのかも。佐川さんも俺達を思って声を上げてくれたんだろうけど…ちょっと強過ぎたか。

 俺はつい、佐川さんの方を見てしまう。すると彼女は何を勘違いしたのか「よっこいしょ」と立ち上がった。

 そして、


「おーい。聞こえないのかぁ?呼んでんだけどぉ?」


 のっしのっしと、無視を決め込んでいたオペレーターに近付く。それを見て、その娘の肩がビクッと跳ねた。


「はっ、はい!」

「質問あんだから、答えてくれよ」

「なっ、なんでしょう?」


 めっちゃビビらせてるじゃん。佐川さん。助かるけど、貴女はただでさえ威圧感があるんだから、ちょっと手加減してくれ。

 俺は佐川さんに再び椅子を勧め、ビビるオペレーターにヒアリングする。画面を指さし、こんな事が今までも起きていたか聞いてみる。


「どうでしょう?」

「分かんないけど、レベル計なんてそんなもんじゃない?他のところもハンチングしてるし」


 オペレーターはそう言って、他のトレンドを表示する。

 確かに、他のレベル計を見たらハンチングしているが…それは流れがある水路のレベルだからだろ?常に大きく変動しているそこと、変動が少ないタンクとでは違うんだ。


「そうですね。ありがとうございます」


 でも、俺はそんな事は言わず、ただ頭を下げた。するとオペレーターは何も言わず、また壁際まで逃げ帰って、同僚達とコソコソし始めた。

 また俺の陰口か?嫌な雰囲気だが…嘲笑が無くなったのは救いだ。


 俺は無理やり視線を画面に戻し、調査を継続する。すると、スクリューの電流値も異常な事に気がつく。特定の時間だけ、電流値も上がっているのだ。

 俺はトレンドを編集して、電流値のトレンド画面にタンクレベルを追加した。すると…。


「ピッタリだ」


 水位が跳ねる時間と、電流値が上がる時間が合わさった。やはり、タンクの中で何かが起きているんだ。


「済みませ〜ん」

「……」


 俺の問いかけに、無言を返す彼女達。でも今回は、ゆっくりと近付いてきた。遠目で、俺を見下ろす。


「…なに?」

「これを見て欲しいんですけど」


 俺が画面を見せると、3人は「えっ?」と驚く。


「この画面、どうやって作ったの?」

「トレンドの追加?こんなの、知らないんだけど…」


 そっちに驚いていたのか。

 まぁ確かに、DCSってクセがあるから、やり方知らないと編集なんて出来ないよな。俺はメーカーから教えて貰ったから出来るけど。

 っと、優越感に浸っている場合じゃない。


「この水位と電流値、一緒に跳ねているじゃないですか。点検の時とかに、何かお気づきになった事はありませんか?」

「さぁ?」

「私らそこの点検に行くの、年に数回だし」


 えっ!?


「毎日じゃ、ないんですか?」

「毎日なんてやってられないわよ。私達も忙しいのに」

「それ以外の場所は、ちゃんと週1で回ってるわ。汚水室みたいな汚いところだって、本当は行きたくもないんだから」

「そうよ。ここで座ってるのが、私達の仕事なのよ」


 ちょっとキツイ口調になって、彼女達は中制から出て行ってしまった。

 完全にヘソを曲げてしまった様子。


「黒川さん!」


 入れ替わりで入ってきた鈴木さんが、心配そうに俺へと駆け寄る。そして、出ていった3人の背中を睨みつける。


「何かありました?あの3人に、何か言われたとか」

「いやいや。少し質問をしただけなんだ。でも、あまり現場を知らなくてね。毎日点検しないのかと聞いたら、怒って出て行ってしまった」

「毎日、点検ですか?」


 鈴木さんまで驚いている。

 おいおい。そんなんで工場が回るのか?そもそも、客先との契約はどうなっているんだ?

 気になった俺は、鈴木さんに頼んで要求水準書(お客様と取り決めた約束事をまとめた本)を持ってきて貰った。

 それを読むと…。


「点検が…週1回以上になってる…」


 他の工場では、毎日1回以上ってなっていたのに。まさか、彼女達が正しいとは。

 カルチャーショックを受けていると、鈴木さんが解説してくれる。


「特区で使われる品は最高級品だから、メンテナンスが要らないって聞いた事があります」

「なるほど。そう言う事か」


 女性しか居ない場所だから、点検もメンテナンスも極力減らすように設計されているんだ。だから、彼女達は知らない。現場で何が起こっているのかを理解していない。

 これが特区。これが、女性だけの世界。

 俺はまた、特区の異常な常識に直面したみたいだ。

メンテナンス要らず。

女性の負担にならない為の配慮なんでしょうね。


「だが0は不味いぞ?」

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― 新着の感想 ―
>「ほらね」 >「やっぱ男じゃ」 自分たちも原因分からず外部に丸投げしてんだから、↑は 「私たちバカでーす^^」って自己紹介じゃないのかな…
 >追記  ”特区”の中にも若干ながら”男”がいるし、女性たちは”男”を”卑下するべき者”に見ているのだから、ああいった場所の管理をしたくないのなら、そこでの作業限定に”男”を入れればいいんですよ。…
日常点検レベルの月次点検をして、日常点検(ここでは週次点検)は遠くから軽く目視確認して終了とかなんだろうな……。 なんか大失敗した「女性だけのリゾートアイランド」を思い出しましたよ……
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