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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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11/14

11話~静かにしろ!~

毎度ご愛読下さり、誠にありがとうございます。

沢山のBMとご評価も、感謝しきれません。

この場を借りまして、御礼申し上げます。

 その日の夕刻。いざ行かんと気合十分で会場へ乗り込んだ俺達だったが、その目の前には会場を埋め尽くさんばかりの人が居た。

 今回は公園というよりも、芝生が敷き詰められた広大な広場。そこに特別ステージが設けられていて、野外ライブのような雰囲気を醸し出していた。

 そして、そのステージの周りには、芝生が全く見えなくなるほどの人、人、人が押し寄せていた。


「なんて、数だ…」


 岩本係長が絶句する。

 それに、みんなも答えられない。決起会でポジション確認などもやったが、これではそもそも前に進めない。

 仕方なく、俺達は会場の後ろも後ろ、ステージが辛うじて見えるくらい遠い位置で固まった。


「そうか。俺達と同じで、こいつらもオトハ様の声を聞きに来たのか」


 悔しそうに呟く係長。

 彼の言う通りだ。我々が決起会まで開こうとするくらいだから、他の人も惹き付けられるのは当然。最前列の奴なんて、テントを背中に担いでいる。きっと、泊まり込みで場所取りをしたのだろう。

 前回の慰問会が、そんなに良かったって事なのか?オトハ様、終始不機嫌そうにしてたけど?


 疑問に思うが、現状が彼女の人気っぷりを表している。俺達が来た後も観客は増え続け、俺達の周りも大勢の人で埋め尽くされる。

 暑苦しい。息苦しい。これが夏だったら、まさに地獄。

 早く始まってくれ。


 そんな祈りが通じたのか、すぐに大型トラックが到着し、スタッフらしき人達が忙しそうに設営を開始した。今回は警官に加えて、白い制服を着た集団も居る。

 海軍っぽいけど、ちょっとデザインが違うな。一体彼らは、何処の組織だ?


「あれが管理局員ですよ、先輩」


 松本君がこっそり教えてくれる。

 そうか、あれが…俺の電話を問答無用で切りやがった奴らか。

 俺が苦手意識を向けるそいつらが、ステージの下に立つ。偉そうに胸を張り、マイクを構えた。


『それではこれより!蘇芳乙葉様による慰問会を開始する!』


 局員が宣言すると同時、ステージ上のスクリーンにオトハ様の上半身が映し出される。その途端、集まった男達から「「「おおぉ…」」」と多くの唸り声が漏れ、空気を震わせた。

 その空気を、局員の怒号がつんざく。


『静かにしろ!』

  

 厳しい視線を向ける局員。場が静まり返ると、漸く満足そうに頷いた。


『良いか、貴様ら。この会は蘇芳様のご厚意で成り立っている。女性の皆様が温情を掛けて下さっているからこそ、貴様らが皆様方のお声を拝聴出来るのだ。そのことを弁え、十分に感謝を込め、ご質問させて頂くのだ』


 随分な物言い。俺達を罪人か物乞いとでも思っているかのようだ。そして、オトハ様達女性を、まるで女神の様に敬っている。

 これが、管理局か。


『それでは最初の…』

『ねぇ』


 局員が指を振り上げようとした時、オトハ様が小さく呟く。それだけで、局員達は全員その場にひれ伏し、マイクを持った奴は『ははっ!』と頭を地面に擦り付けた。

 参勤交代ですか?


『黒川ケイゴって男は、来ているかしら?』

 

 ええっ!?出席確認するの?


『直ぐに確認致しますっ!おい、黒川!黒川と言う名の者は居るか!?居たら直ちに挙手せよ!』


 これはぁ…仕方ない。

 

「はい。ここです」


 代返を頼まなくて良かったと、俺は安堵しながら手を上げる。

 すると、周囲の男達から「なんだ?こいつ」と訝しい気な視線が飛んでくる。そして、局員の鋭い視線も同時に突き刺さる。


『貴様、何故そんな遠くにいる!蘇芳様がお呼びなのだぞ?すぐに前へ来い!』


 そんな理不尽な。

 そうは思うが、俺は大人しく彼の言う事に従おうとする。前の観客達の間をすり抜けて、前に進…うん?あれ、なんで隙間を閉ざしたの?


「ちょっと、済みません。通して貰えませんかね?」

「「……」」


 無視なんだけど?

 前の奴ら。こっちを見向きもしないんだけど?


『何をやっている!貴様!蘇芳様をお待たせするなど、言語道断だぞ!』


 俺に言うな。この目の前の男達に言ってくれよ。


「済みません!呼ばれているんで、通してください!」


 俺が声を上げると、前の男達は少しだけ振り返り、歪んだ笑みを浮かべてまた前に向き直った。

 ああ、なるほど。こいつら、俺に嫉妬しているな?俺だけ呼ばれたからか、それとも順番を抜かされるのを嫌ってか、俺を通さないつもりだ。

 俺はそいつの肩をグイッと押しやり、無理やり道を作る。だが、その前に並んでいた奴も俺に迷惑そうな目を向けて来る。

 これは、通れない。

 こりゃ、不味いぞ…。 

 

 どうするべきか、俺は迷う。男達を掻き分けていた手が、自然と下がる。

 だが落ちる前に、その手は誰かに掴まれた。


「先輩!」


 松本君だ。


「諦めちゃダメです!僕達が道を作りますよ。ですよね?皆さん!」

「「「おうっ!」」」


 松本君の合図で、岩本係長達が男の壁に突っ込む。まるでラグビーのスクラムみたいに、肉の壁を掻き分けていく。

 

「押せ押せ!」

「黒川を送り出せ!」


 みんなの鬼気迫る勢いに、意地悪していた男達も怯む。巻き込まれては大変と、そそくさと体を外へ逃がす。そうして出来た道を通り、俺は最前列へと到着した。


「ありがとうございます、皆さん!」

「気にしないでください、先輩」

「そうだ、黒川。お前のお陰で、俺達も合法的にここまでこれたからな」


 …流石は係長。抜け目ねぇな。

 俺はみんなに手を上げて、マイクを持つ局員の前に出る。


「遅くなりました」

「遅いっ。とっととしろ!」


 局員は押し付ける様に、マイクを差し出してくる。

 遅いって…そう言うなら、あんたらも傍観してないで助けてくれたら良かっただろ?

 そうは思うが、俺は何も言わずにマイクを受け取る。オトハ様が映る、ステージ上のスクリーンを見上げる。


『黒川です。お待たせしてしまい、申し訳ございません』

『遅いわ。何をしていたの?』

『それは…会場内が酷く混んでいて』


 俺が答えると、後ろで「「おぉ…」」とか「うっ」と言う声が聞こえる。

 みんな、オトハ様の声に反応しているみたいだ。

 

『混む?…そんなに人が居るの?』


 そのオトハ様は、ちょっと不安げな顔。

 おや?オトハ様からは、こちらの様子が見えないのか。


『大盛況ですよ。蘇枋様の声を聞きたいと、前回の3倍くらいの人数が詰めかけています』

『チッ』


 ええっ?舌打ち?人気になって嬉しいんじゃないの?


『なら、早く終わらせるわよ、黒川。ほら、質問を言いなさい』


 ええっ!?質問までする流れなの?

 これは完全に、会場を敵にしたな。

 俺はそう思い、恐る恐る後ろを振り返った。だが、そこにあったのは、


「「うぅ…」」

「「はぁ、はぁ」」


 阿鼻叫喚。殆どの者が前かがみで、座り込んでいる者も少なくない。彼女とちょっと会話を交わしただけで、こんなになってしまうとは。

 これでは最初から、俺しか喋れなかったかも。


『分かりました。では…』


 俺はもう一度後ろを振り返る。俺をここまで送り出してくれた仲間達が、そこに座り込んでいた。

 でも、ここまで送ってくれた彼らの熱意は、本物だった。

 その思いに、俺は答える。


『オトハ様は犬を飼われているとお聞きしました』

『ええ。飼っているわ』


 彼女が答えると、局員がこちらへ歩いてくる。俺の質問が終わったと思い、マイクを回収しに来たみたいだ。

 だが、


『それで?』


 オトハ様から逆質問が来た。すると、局員も慌てて引き下がった。

 そう、そう。今のは質問じゃない。事実確認だ。だから、早とちりしないでくれ。

 先輩達の想いは、まだ果たされていないのだから。


『犬を飼っているから何?』

『優しい方だと思いました。動物を愛でられるオトハ様は、とても心が暖かい方なのだと』

『ふっ。そんな訳ないでしょ』 


 嘲笑とも取れる笑みを浮かべ、長い黒髪を手で梳くオトハ様。でも、彼女の目元は少しだけ、鋭さを失ったように見えた。 

 少しだけ、雰囲気が柔らかくなったように感じる。

 質問をするなら…今だ!


『オトハ様。その子のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

『ハティよ』


 おお。答えてくれた。

 係長。やりましたよ。

 心の中で係長に報告し、答えてくれたオトハ様に相槌を打つ。

 

『ハティ…美しい名前ですね。オトハ様の愛とセンスを感じます』

『止して。センスなんて無いわ。だって、見た目で付けたはいいけれど、やること成すこと全部おバカさんなんだから』


 うん?北欧神話の狼の見た目で、おバカさん?それって…。


『もしかして犬種は、シベリアンハスキーですか?』


 おっと。つい、2つ目の質問をしてしまった。これは流石に怒られるか?

 そう思ったが、局員達は胸を押さえるだけで、近寄って来ない。オトハ様も口元には笑みが浮かんでおり、気分を害した様子ではなかった。

 寧ろ、ちょっと楽しそう?

 

『あら?良く分かったわね』

『ええ。偶に動画とか見ますので』


 あの子達の動画は、いつも心を温めてくれる。見た目が美しいのに、見た目に反して抜けたことをしてくれるからホッコリするのだ。


『うちの子は動画以上のおバカさんよ。散歩中はリードに絡まるし、エサ皿をひっくり返して落ち込むし』

『そいつは大変だ』

『ホント大変よ。毎日、毎日ね』


 そうは言うが、語っている彼女の口元は緩みっぱなしだ。冷たかった声にも、人らしい温かみが伝わって来る。 余程、その子を溺愛しているのが分かる。

 ただの傲慢な女性なのかと思っていたが、そんなことはなかった。彼女の人間らしいところが見られて、俺も嬉しく思った。

 もう少し質問したい。そう思ってマイクを持ち上げようとした。でもその手は、誰かに掴まれた。


「もっ、もう、止めろぉ…」


 局員だ。

 マイクを渡した時は尊大な態度だったのに、今は息も絶え絶えだ。俺に震える手を差し出して、マイクを寄越せと必死に訴えてくる。


 ああ、そうだな。俺ばかり質問する訳にはいかない。

 俺は反省し、局員にマイクを返す。

 しかし、彼はマイクをしまって、松葉杖を突きながら撤収の準備をし始めてしまった。

 えっ?もう終わるつもりなのか?


「ちょっと、他の人の質問はどうするんですか?」

「他の、人?」


 局員が、恨めしそうに俺を睨み上げる。そして、俺の後ろを指さす。


「お前以外…誰が、残ってると、言うのだ?」


 えっ?

 驚いて、後ろを見る。すると、


「「「……」」」


 死屍累々。

 みんな、地面にキスをしていた。

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