図柄揃いと彼女と俺【短編】
「うわー、今のは惜しかったねぇ」
隣でパチンコを打つ彼女が
身を乗り出して画面をのぞき込んでいた。
「いや、惜しいとかないですよ。当たってなかっただけなんで」
「ロマンのない男だなぁ」
そう言い残して自販機の方へ向かった。
上皿にはIQOSと少しのパチンコ玉。
いつからだろう。
あの人と当たり前に喋りながら
パチンコを打つようになったのは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は一人の時間が好きだった。
更に言うと人間関係というのが煩わしくて仕方がなかった。
誰かと会えば気を遣い、
常に顔色を伺って過ごしていた。
そうしようと思っていたわけではなく
これは性格なんだと思う。
人と過ごした後、仕事終わり
家に着くと何もする気になれなくただ携帯を眺めていた。
たどり着くべくして、たどり着いたんだろう。
パチンコと言う趣味に。
会話もなく、台に向きあっていれば
喜怒哀楽が手に入り時間をつぶせる。
インスタントな成功報酬を受動的に受け続けるだけの場所。
自分にはぴったりの場所だった。
そしてその日も、朝1からパチンコへ向かった。
並んだりはせず一般入場で低貸しパチンコへ。
朝一番から低貸しコーナーへ向かう人は少ないが
後をつけられるように隣に座られた。
低貸しコーナーには同じ機種が多くて3台、みたいなのが基本だ。
俺が打つ台はその店の低貸しには2台だけ。
わざわざ隣に来ないでくれよと、
まぁしょうがないよなと言う気持ちが同時に存在していた。
程なくして珍しい演出を引いた。
暇つぶしとは言え、当たりそうって感覚は嬉しいものだ。
「それ、プレミアっすよ!初めて見たぁ」
誰もいないはずなのに知らない声が聞こえてきた。
いや、いた。今日は隣に。
パチンコ屋で話しかけられるのは初めてで
なんて返せばいいか分からなかった。
というか、急に知らない人から声をかけられて言葉が詰まった。
「あ、ありあす」
ありがとうございます、が言えなかった。
ていうかありがとうございますって返しで良かったのかもわからない。
が、彼女としては良かったのだろう。
長く黒い髪を揺らしながら、華奢な肩が震えていた。
「ははは、こちらこそありがとう。いいもの見れたよぉ」
ジャージ姿がやけにパチンコ屋に似合っていたのを覚えている。
それが、彼女との出会いだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「君はコーヒーでいいんだっけか」
そう言いながら戻ってきた彼女の手には缶コーヒーが二本。
無糖と微糖。
「あ、ども。無糖もらっていいすか」
この前は俺が勝ってたから奢った。
そのお返しだろう。
「君は仕事とかしてないのかい?よく会うよね」
「俺はシフト制なんで来れるときは来てるって感じですよ」
失礼な質問に無難に答える。
質問をしてきた方はというと、まっすぐ画面の方をみていた。
彼女はさほど興味のないこともなんとなしに聞いてくる。
目線は画面から動かない。
と思いきや、こちらのアツい演出には食いついてくる。
失礼だと思ったのは最初だけで
居心地は悪くなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女と出会ってから一ヶ月ほど経った頃、
週に2回ほどは隣で打っていた。
「しかし君はこんなに人気のない台をよく打つよねぇ」
「好きな台は打ち込みたいんですよね」
俺は彼女の名前を知らないし、
彼女も俺の名前を知らない。
聞くタイミングを逃したというか、
あっちからも聞いてこないからこっちからも聞いてないだけ。
その日は彼女が三万円ほど勝っていた。
「君、この後時間はあるかい?牛丼くらいならおごってあげるよ」
「お、いいんですか、どもっす」
二つ返事でOKを出してしまったが
名前も、年齢すらわからない女の人と2人でご飯。
何を話せばいいんだろう、と思いながら
ICカードに残った現金を戻してパチンコ屋を出た。
そもそも人付き合いが苦手でパチンコを打っていたはずなのに彼女の横は不思議と居心地が悪くない。
パチンコを打っている2人が並んでるだけだからなのか、他に理由があるのかはわからない。
けどそんな居心地の良さがさっきの返事を作った。
何を話せばいいのかって不安も、
あまりに杞憂だった。
彼女が饒舌にあの演出でさー、だの
版権のアニメはもともとー、だの
決して速いペースではないものの
熱意を感じるスピードで語っているだけだった。
それに俺は、たまに相槌を打ちながら牛丼を口に運んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、きた!」
そういった後、左手のIQOSを口に運ぶ。
いわゆるポップコーンのような香りをまといながら笑っている。
覗き込むと数字が揃っていた。
「やっぱ徳を積むと当たるよねぇ」
嫌に上機嫌な彼女は微糖のコーヒー缶を持ち上げてこちらに見せつけている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女と2週間ほど会わない時期があった。
静かだった。
彼女と出会う以前はこれが当たり前だった。
一人で向き合い、一人で喜び、一人で楽しむ。
それが俺にとってのパチンコだ。
しかし、彼女と出会ってからは
パチンコを打ちに来るだけだったかというと
自分でもわからない。
人と話しながら打つパチンコも悪くないな、なんて思っていたからだ。
一人で喋っていたらただの気持ち悪いやつになってしまう。
そういう意味では、彼女と打つパチンコは一味違って面白かったな。
まあ、来なくなった理由はいくつでもあるだろう。
きっと、多分、彼女は整った顔立ちの部類だと思う。
彼氏だって居るだろう。
もしかしたら彼氏が出来たから、なのか
そういう存在に禁止されたり、だとか。
打つお金がなくなった、だとか。
そもそも飽きた、だとか。
嫌われた、だとか。
そんなことを考えていたら
目の前の画面では数字が揃っていた。
上皿にIQOSと玉を残してトイレへと向かった。
戻ると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「君、IQOSなんて吸ってたっけ?」
「いや、打ちながら吸えるんで買ったんですよね」
久しぶりに見た彼女は
いつもと変わらないジャージ姿に、長い髪と華奢な肩。
やけに似合うIQOSを握りながらハンドルを回していた。
「私がいない間、何してたぁ?」
「パチンコですよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日は惨敗だったねぇ〜」
「低貸しで二万負けって、キツイですよね」
外はすっかり暗くなっていた。
「それじゃね」
帰り道は違う。
彼女は歩きで、俺は電車。
いつもと変わらない。
店前で解散。パチンコを打つことが唯一の共通点。
一緒にパチンコを打つだけの仲。
名前も、年齢も、好きな食べ物も音楽も
何も知らない。
「あの、あのさ」
想定したより大きな声が出た。
「明日は勝とうな」
会うための約束にしてはぶっきらぼうだし
パチンコに勝ちたい奴にしては少し熱がある。
どっちにしろ違和感のある言葉を、
気づいたら発していた。
「買ったほうが夜ご飯、奢りで」
彼女振り返って笑いながら言った。
ニヒルな笑顔が似合いすぎていて
こっちまで笑ってたと思う。
そしてまた、俺とは逆の方向に歩いていった。
俺は、好きな台は打ち込む癖がある。
「明日は勝つぞ」
そう呟いて、俺も帰路についた。
初めて書きました。
読んでいただきありがとうございます。




