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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第6章:トールステイン大王伝記黄金編

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第80話 トールステインは今日もやり過ぎた 6歳 冬

 牛の角の杯に詰めた傷薬を村のご婦人たちに褒められて良い気分になったのか、母ちゃんは、最近はますます薬作りにハマっている。

 僕は母ちゃんの傍らで補助係。


「トール、ちょっと羊皮紙読んでくれる?」

「はーい。今度はどんな薬?」


 作っている薬も、単純な傷薬の軟膏だけでなく、胸や背中に塗る風邪の抗炎症軟膏や、痛み止めと関節炎の軟膏、風邪の初期症状を抑える飲み蜜酒など、多岐に渡る。


「アンジェリカの根を1本、ヤロウの花を一房、木苺の果実を幾つか。タマネギを少し…」

「アンジェリカの根が1本、ヤロウの花を一房、と…。木苺は乾燥させてあるものでもいいのかい?」

「…書いてないね」

「仕方ないねえ…冬だし乾燥した木苺でも良いことにしましょ。他の草花だって乾燥させたものを使うんだし」


 母ちゃんは割り切ったように言うと、細かく刻んだ材料をバラバラと石鹸石の鍋に入れる。


「石鍋で煮出すんだね?」

「鉄鍋だと味や色が変わることがあるからねえ」


 鉄鍋でも作ってみたけれど、石鍋の方が作りやすいのだとか。

 薬草を煎じる過程は、だいたい低温で長時間煮出す作業がある。

 その際に鉄分が染み出ると成分に変化が出てしまうのかもしれない。


「石鍋で低温で煮出すこと、って羊皮紙に注意書きがあった方がいいかも」


 たぶん薬作りを生業にしている人には自明のことなのだろうなあ。


「少し冷ましたら薬の量の4分の1量の蜂蜜を加えてかき混ぜてから数日間、冷たく暗い場所に置いておく」

「4分の1も入れるの?薬を煮詰めたり煎じたりもしないで?」

「うん…そう書いてあるね」


 母ちゃんは少し眉をしかめ、父ちゃんに聞こえないよう声を潜めた。


「これって、薬草を入れた蜂蜜酒じゃない?」

「たしかに…」


 薬用成分を煮出した水に適量の蜂蜜を混ぜて軽く発酵させると、薬用成分が溶け込んだ蜂蜜酒が出来上がる。要するに、薬用蜂蜜酒だ。


「…この薬は父ちゃんとか、大人の男衆に人気出そうだねえ」

「そうねえ」


 航海中に体が冷えた時に飲むと、風邪を予防できそうだ。

 冷えてないときにも隠れて飲まれちゃいそうだけど…。

 一般的に言えば、栄養ドリンクって、すごく高価だものね。


 しかも人気のお酒味。ヒットしない理由がない。

 とても売れ線の高額商品を作ってしまった気がする。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「ねえトール、私もルーン文字読めるようになりたい」


 そうして僕が母ちゃんの傍らで毎日レシピを読み上げていたら、エリン姉もルーン文字を習いたいと言い出した。

 以前、軽く勧めたときは断られたのに!


 すごく良いことだとは思うんだけど、一応、以前は断ったのに、どうして読めるようになりたいのか理由を聞いてみたら。


「だって、前はルーン文字を習ったらトールの変な仕事手伝わされると思ったから…」


 僕の変な仕事ではなく、母ちゃんの薬作りに役立つなら学びたいらしい。

 変な仕事…。へんな…。


 僕の小さく繊細な心は大いに傷ついたのだけれど、とにかくその夜から、エリン姉には専用の小さな黒板と貝殻棒を使ってルーン文字教室を始めることになったのだった。


「まずは薬草の名前からね。タイムはこう書くから…」


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 美人は怒ると怖いと言う。

 整った顔には感情を強く表現する力があるんだよね。

 また、普段は笑顔を欠かさない人が怒るとギャップで怖い、とも言うよね。


 じゃあもし、美人で普段は笑顔を欠かさない人が怒ったらどうなると思う?

 …その答えは、僕の眼の前にあります。


「トールステイン?これは何でしょうね?」

「牛の角の杯の薬入れですね…」


 僕は椅子の上で縮こまり、卓に置かれた牛の角を見つめながら答えた。

 うわあ…フルネームで呼ばれてる…。

 うちの母ちゃんと同じだ。


「そうですね。薬を入れるための器ですよね?このルーン文字を書いたのは誰?」

「僕です…」

「どうして牛の角の杯にルーン文字を刻んだりしたの?」

「その方が母ちゃ、母の薬が高く売れると思いついたので…」

「思いついた…」

「はい」

「そう…素晴らしい思いつきね?」


 ぜんぜん素晴らしいと思っていないであろう声音で褒められた。

 いや褒めてないね。それぐらいは分かる。

 だけど、僕だってこんな大事になるとは思っていなかったわけで。


「…わざとじゃないのよね?」

「まさか!事業を邪魔する気なんて全然ありません!製薬業とか要りませんから!」


 ふぅぅぅ―――――っ、ともの凄く長い溜息をついた後、眉間に寄ってしまった皺を人差し指で解すようにする村長婦人。

 なんとか気分を落ち着かせることに成功したみたい。

 すごいストレス管理能力だ。


「…トール?もう少し考えていることがあるんでしょう?聞かせてくれる?」

「ええと…はい。村で作る薬を、交易品として高い値段で売りたい、と思ったんです。村の人のために作る薬は安くないと困りますけど、村の外なら高く売れた方がいいかなって。せっかく頑張って作った薬ですから」

「続けて?」

「それで、父ちゃ…父に聞いたら、交易品としての薬は高い方が売れる、って。高くない信用できない薬は買えないって。


 だから、高い器に入れて、薬の効果をちゃんと書いて、誰がいつ作ったのかまで書いて、蜜蝋と封印で混ぜ物ができないようにすれば、高くて信用できる薬になるんじゃないかなって考えたんです。


 高い薬でも、海の向こうにたくさんいる貴族なら買うでしょうし、薬なら風乾鱈よりもずっと軽いから交易の航海も安全になると思うし、村の名前が知られるようになったら高い薬を買うために交易商人の方から村に来てくれるようになるかもしれないし」


 そうしたら、父ちゃんたちも危険を冒して遠方の海まで冒険的交易に行かなくても済むかも知れないし、水平線を毎日見つめて家族で父ちゃんの無事を祈らなくて良くなるのだから。


「なるほど…それで牛の角の器にルーン文字…。貴族に売るのであれば、もう少し牛の角に金属の装飾をしても良いかも知れませんね?」


 たしかに。異教徒は金色が大好きだ。青銅にするか金にするかはわかならいけど、牛の角を金色で飾り立てれば、もっと高く売れる気がする。


 冷静さを取り戻した村長婦人と僕で、その後もいろいろと薬の高価格販売を実現する包装や、販売戦略について話し合った。

 後者については、貴族の好みや関係性などを熟知している村長婦人の方が遥かに優れた知見を持っていたので、任せてしまっても問題なさそう。


「それで、薬用蜂蜜酒、という薬になる蜂蜜酒を母がレシピから作りまして、村の男衆に知られたらどうしようかなと…。すっごく売れそうな薬だと思うんですけど…」

「トールステイン!あなたという子はっっ!!!」


 ちゃんと相談したのに、こめかみをグリグリされた。

 マジな力が籠められてて痛かった。


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― 新着の感想 ―
まあ昔の薬なんてプラシーボ効果が薬効の大半だったと言うし、毒にならないのであれば後は「これは効く‼️」と思わせれば大概は何とかなりそう。そう考えるとパッケージやブランディング、値段それらが良い方に働く…
石鹸石の鍋って、どんな鍋ですか?
婦人が段々気安くなってるような。 大王伝説上で婦人のポジションが気になりますね。
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