第70話 大会の名誉と持ち帰るもの 6歳 晩秋
大会2日目からは、試合の形式を変えた。
招待3ヶ村で総当たり戦を行い、優勝チームが我が村に挑戦できるようにしたのだ。
普通に対戦すると、差がありすぎるからね…。
子供は同じぐらいのレベルのチームと試合して切磋琢磨した方が、やる気もレベルも上がると思うんだ。
「トール…そうするとチームの間で最初から上下の差がついてしまわないか?」
「そうなんだけど、戦ったら点差がつきするし…」
クナトルレイクは全ての人々に平等であるべし、という原理主義を掲げる父ちゃんは渋っていたし、1部チームと2部チームという階層構造を誕生させてしまった気がするけれど、大人のクナトルレイク大会でも導入したほうが良い、と僕は思う。
子供は負けたらしょげかえるだけで済むけれど、大人は試合で大敗したら、不名誉を場外乱闘の血で濯ごうとしかねないからね。
負けたけれど良い戦いだった、と勝敗に関わらず試合後は互いを称え合うノーサイドの精神が育つまでは、とにかく穏便に終わらせるようにしたい。
「最初は念の為に警備員も置いたほうがいいんじゃないかなあ」
「…そうだな」
チーム同士の喧嘩の防止だけでなく、熱狂した観客が競技場になだれ込む事案は、うちの村でも最初の頃は頻発したからね。
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ブブゥーーッ、と試合終了を告げる角笛が鳴らされる。
「10−0!赤のフギンの勝利!」
決勝戦。リーグ戦を見事に勝ち上がった灰の腕のスルトの復讐戦は成らなかった。
結果は惨敗。しかし敗北した少年達は下を向くことなく、顔を上げて勝利チームの少年達としっかりと握手を交わした。
「いいぞーっ!両チームともよくやった!」
「灰のスルト、弱くなかったぞ!強くなった!」
「もっと強くなれ!次の試合も見るぞーっ!」
観客席からも、暖かく敢闘を讃える拍手と声援が贈られる。
いい試合だった。
確かに点差こそついたけれど、それはプレー精度の差、言い換えれば練習量と経験の違いだから仕方がない。
灰のスルトの少年達も初戦のように成すすべ無く試合にならずやられた、ということはなく、互いに実力を十分に出し合った上で敗北したからか、敗北の悔しさの中にも達成感と、次はもっとやれるという手応えを感じているようだ。
クナトルレイクの試合が目指すべき姿だと思う。
問題は、大人がこの姿にたどり着くまでの道のりが果てしなく遠いように思えることなのだけれど…。
「まあ、大人のことは大人に任せようね」
僕は子供のクナトルレイク試合の大会責任を立派に果たした。
大人の事情や政治の解決は、大人の仕事なのだ。
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「閉会の議!」
全ての試合日程が終了した。
大会記録には、第1回世界クナトルレイク大会少年部 優勝 赤の羽のフギン と刻まれた。
優勝した子供達には、優勝を示す盾と甘いお菓子が贈られる。
彼らが飛び上がって喜ぶ姿に、僕もようやく肩の荷が降りた気がした。
「…では子供代表の言葉を!」
司会進行の人が、なぜか僕に最後に挨拶をしろ、と言い出した。
そんな予定なかったはずだけど。
「「トール!トール!トール!」」
村の子供達が名前を連呼するので、やむを得ず前に出る。
うーん…何も考えてないぞ。困ったな。
僕が時間稼ぎのために右手を上げると、子供達の声援が止んだ。
「…この栄えある大会の締めくくりに、貴い身分の方々を差し置き、僕のような若輩者に挨拶の機会を与えてくれてありがとうございます。
僕は、この大会は世界で最も新しく、激しく、強いクナトルレイクをアスガルドの神々に示すことが出来た、永遠に語り継がれるべき大会であったと確信しています。
参加した少年達は精一杯戦い、その武威を正義と真実の神、フォルセティの前で十分に示しました。
永遠の時を生きる偉大なる神々の前では、僕達の一時の勝敗など些細な事に違いないでしょう。
しかし!掟に則り、卑怯な技を使わず、嘘により勝利を盗むことなく、アスガルドの神々に恥じることのない戦士として堂々と戦い抜いたことは、永遠に語り継がれるものと信じます!
君たちは新しきクナトルレイクを、フォルセティの下に戦い抜いたんです!
フォルセティの名にかけて!」
右手を上げて、フォルセティを讃えると、子供達だけでなく観客席からも声が上がる。
「「フォルセティの名にかけて!」」
「フォルセティの名にかけて!」
「「フォルセティの名にかけて!」
僕が挨拶を終えたあとも、しばらくの間、歓呼は止まなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
大会日程が終わると、子供達はサウナに入り、食事会をして宿泊所で眠り、翌朝出発という運びになる。
貴い身分の大人達は、最後の夜を長屋敷で村長から接待を受けて酒宴に参加し、僕は初日と同じように、脱走する子供達が出ないよう警備の人と一緒に巡回し、火事が起きないよう火の番の人と話し、宿泊所の隅で毛皮にくるまって仮眠をとった。
翌朝。子供達がぞろぞろと出発のために宿泊所から大荷物を抱えて出てきた。
ここ数日間、美味しいものを食べて、楽しく運動をして、サウナで身体も衣服も寝具も清潔にし、甘い薬草茶とタラ肝油蜂蜜飴を摂っていたおかげで、すっかりと頬がふっくらとして肌も髪も艶々としている。
多くの経験を経たせいか、目つきや物腰も心無しか大人っぽくなったようだ。
やはり旅はいいね。子供を成長させる。
それが健康と安全に配慮された旅なら言う事なしだね。
「また来いよ―!」
「次も試合しようなー!」
男の子たちの分かれの挨拶はさっぱりしている、という。
女の子からすると、ドライで信じられないと見えるようだけれど、そういうものだ。
だけど、今回ばかりは少し様子が違った。
「うう…がえりたくないー…!」
「俺、この村の子になる――!」
「いやだー!!」
などと、一部の子達が、べそべそと泣いたり喚いたりと大騒ぎ。
おいおい。さっきまでの男らしい爽やかさはどこに行ったんだ。
引率の人も困り果てているじゃないか。
「…そうだ!お土産!大会のお土産を持って帰ったらどうかな!なあ皆、どんなお土産が欲しい?」
僕の提案に、泣き喚いていた子供だけでなく、周囲の子たちも視線を体ごと向けた。
「お土産?」
「そう!試合の記念!盾とかどうだろう?試合で使った盾!欲しくないか?」
「欲しい!くれるのか!」
「ああ、記念だからな!ちゃんと大人に礼を言うんだぞ!」
「すげえ!」
「ありがとう!お前、いいやつだな!」
僕は、その場で子供達に試合で使った盾を渡して上げる。
受け取った子供達は、大喜びで盾を掲げ、背負った大荷物に大切にくくりつける。
もちろん、費用は後で村の大人に請求するんだけどね。
銀とか、羊毛とかで。
「トール…お前、ちょっとひどくないか?」
だまらっしゃい。
大会の成功基準のうちには、財政的成功も入っているのだ。
僕は父ちゃんの苦言は綺麗に無視することにした。




