第52話 トールステイン大王伝記 燎原の章
トールステイン大王の偉大の業績は、中世のみにとどまらず現代社会にあっても、その片鱗は社会の至るところに記されている。
アイスランド地方の首都レイキャビク国立博物館に展示されている、ユニコーンの角10本と引き換えに授けられたとされるトールステイン大王サーガ初期の黄金の写本の一つには、以下のように記されている。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
聞け、再び北風と炎が吠えている
トールステイン大王の治世は、北の地を祝福で塗り潰した
王徳は山を震わせ、海を揺らし、万象はその足元に跪いた
海の銀は怒涛のごとく押し寄せ、鯨や鮭は自ら浜に打ち上がり
大王の糧となることを至上の誉れとしてその身を捧げた
村々の倉庫は重みに耐えかねて底が抜け、魚を吊るす梁は折れ、屋根は豊穣という名の重圧に屈して崩れ落ちる」ほどであった
蜂が捧げる黄金の雫は、あらゆる病を吹き払い、戦士たちの傷を瞬時に塞いだ
三神将軍の一人、剛勇なるグリムルは大王の前に進み出で、盾を打って奏上した
「大王よ。今こそあなたの偉大さを、九つの世界、天地の隅々にまで知らしめる時なり」
大王は深く頷き、その瞳に雷光を宿して応えた
「グリムルよ、その志、殊勝なり。この我が剣を授けよう。我が名を世界の果てまで刻み込め。」
将軍は精鋭を駆り、氷の海を裂く艦隊を率いて旅立った
北方の大陸を巡り、島々を平らげ、大王の威光を地図に書き加えてゆく
道中、悪神ロキの囁きに狂わされた蛮族どもが、牙を剥いて襲いかかった
だがグリムル将軍が王より賜りし聖剣を抜くや、その閃光は闇を焼き、盾を塵へと変えた
威を打たれた蛮族は震え、己が過ちを悔いて大王の臣下となることを誓った
将軍はさらに、航路を塞ぐ邪悪なる海竜の首を落とし
民を貪る貪欲な貴族を地の底に引き摺り下ろし、大王の法を説いた
やがて、船底を財宝で沈ませ、数多の勲を掲げて帰還した戦士たちを、トールステイン大王は大いなる凱歌をもって讃えた。
広大な領土と人民を得た大王に、村人は畏れながらも訴えた
「王よ、新しき民、遠き地の民は、あなたの御言葉に飢えております。迷える魂を導く灯火を授けたまえ。」
大王は静かに立ち上がり、ただ一言、告げた
「これこそが、我が意志である。」
その刹那、王の言霊はルーン文字へと姿を変え、羊皮紙を焼き、一冊の法典となった
法典からは大王の雷が迸り、悪心を抱く者、叛逆を企てる者の魂を無慈悲に叩き伏せた
清き心を持つ民は法を愛して踊り、邪なる賊はその重みに絶望して平伏した
さらに村人は、交易の混乱を嘆いた
「王よ、村ごとに秤が異なり、銀も羊毛も正しく行き交いませぬ。」
大王は自らの手で正しき「尺」を大地に示した
全ての理は統一され、交易は川の流れのごとく円滑になり、富は溢れ、民の心はますます大王の元へと集った
かくして、トールステインの王国は果てしなく広がり、 その名は神々の住まう高みまで、永遠に響き渡ることとなったのである
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「…グリムル将軍が授けられたという聖剣ブリン・ソル(燃える太陽)は、北欧神殿の総本山であるスウェーデン地方のウブサラに今でも聖遺物として納められています。残念ながら、宗教的戒律により学術調査の手は入っていませんが、4年に1度公開される実物を目にした神官達によれば、まことに見事な鋼鉄と黄金造りの炎や太陽を連想させる大剣である、と伝えられています…」
三神将の1人、グリムル将軍は古くから演劇の題材として取り上げられ、最近では映画やアニメ、ゲームの登場人物として幅広い層に人気がある。
「えっ!グリムル将軍の聖剣ブリン・ソルってマジで存在するの!?」
「アニメとか映画の話だけかと思ってたよ!」
普段は授業が終わる男子学生も、歴史の先生たちの話を夢中になって聞いている。
女子学生は別の観点からも気になるようだ。
「はー。やっぱりグリムル様って、ほんとイケメン。教科書の絵姿だけでもこんなにイケメンなんだから、本物はものすごいイケメンだったんでしょうねえ」
「わたしは、断然エリン将軍様推し。人間の背丈よりも巨大な斧を振り回し戦う武勇を誇りながらそのお姿は美しく、戦場でも耳目を集めた…と書いてあるもの」
「それ、スマホアプリの解説文そのままじゃない?」
「あなたも神剣伝説、やらない?みんな格好いいんだから!」
授業中に、がやがやと騒ぎ出した生徒たちを、歴史の教師は諦めたように眺め続け、やがて授業の終了を告げるチャイムが鳴ると「…今日はこれまで」と告げ肩をすくめて教室から出ていった。
教室の窓の外には灰色の雲が垂れ込め、雪がチラつき始めていた。
4章 終わり
作者です。皆様の支えにより、ついに十万字に到達し、さらに書き続けています。。
完結まで書き抜く力を蓄えるため、物語を気に入りましたら
「★」やレビュー、フォローといったった形で作品を支えていただけますと幸いです。
引き続き、サーガへの同行をよろしくお願いいたします。




