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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ


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第5話 話し合い(物理) 5歳 冬

 朝方に出かけた父ちゃんは、暗くなっても帰って来なかった。


「父さん、遅いねえ」

「そうだね」

「もう先に食べちゃおうよ」


 5歳の小さな身体には空腹がことのほか堪える。

 父ちゃん、なにやってんのかな。蜂蜜酒ミード飲んで宴会してるのかな。

 せっかく今日の晩飯は母ちゃんが奮発して父ちゃんの好きなタラの石焼きにしてくれたのになあ。


 タラの石焼っていうのは、このあたりでの鉄板ステーキの魚バージョンのことで、土間の石炉で専用の石板を真っ赤になるまで焼いておいて、新鮮なタラの切り身を皮の方から載せてじゅうじゅうと染み出る脂で焼く料理なんだけど、これが暴力的なまでに美味いんだ。


 サーモンやニシンでも同じ料理はあるんだけど、やっぱりタラだよ。

 元の大きさが大きいから切り身の可食部も大きさが違うし、身から染み出る脂の量も凄いから石板で焼いたときの旨味と香りが違うんだ。


 石炉では父ちゃんも含めて4人分の石板が真っ赤に焼けている。

 石板の遠赤外線効果ってやつで、切り身の中までしっかり火が通るらしい。

 焼けた石板に載せてじゅうじゅうと焼けるタラの切り身を、輪切りにした冷たい玉ねぎと一緒に食べる、というのが、この地域のご馳走の定番なんだ。


「うー…」


 ダメだ。エリン姉の目が石板から離れなくなってる。

 放っておいたら、素手で石板を掴んでタラを強奪しそうな勢いだ。


 そのとき、ガタン、と音がして玄関の方から冷たい風が吹き込んできた。


「父ちゃん、遅い!」


 と、文句を言おうとして舌が固まった。

 父ちゃんの服が雪と泥だらけで、おまけに左腕が血だらけだったからだ。


「あなた!」

「父さん!」


 母ちゃんとエリン姉が悲鳴を上げて駆け寄る。

 いったい何があったんだ?帰りに熊か狼にでも襲われたのだろうか。


「と、とにかく早く治療しないと」

「この程度、放っておけば治る」

「そんなわけないでしょ!」


 なんとか泥だらけの毛皮と服を脱がせてみると、体中に痣や細かい擦り傷もあるし、左腕の前腕部はザックリと傷が開いていた。


「ええと、とりあえずお湯!お湯沸かして!」


 まずは傷を全て煮沸した清潔な水で洗い流さないと。

 変な糞とかを塗り込める中世迷信医療は我が家に入りこませるわけにはいかん。

 家族の健康のためなら現代知識も自重しないぞ。


「それから、針!刺繍用の青銅の針!あとトナカイの腱も!割いた布も一緒にお湯で煮て!エリンは食料庫から蜂蜜の瓶を持ってきて!あと乾燥ヤロウ《セイヨウノコギリソウ》も」

「大げさだなあ」

「あなたは黙ってなさい!」


 父ちゃんが母ちゃんに叱り飛ばされた。

 そうそう。こうなったときの母ちゃんに逆らったらダメなんです。


 石炉に薪を足して炎がひときわ強められた。

 除けられたタラ焼き用石板の代わりに、鉄鍋にはお湯が張られて青銅の針、トナカイの割いた腱、包帯用の布が煮込まれる。


「うわあ…けっこう切れてるなあ」


 傷口を丁寧にお湯で洗うと、何をやったか知らないけれど目測で20cmばかり切れていた。切り傷だ。狼や熊に噛まれた獣傷ではない。

 とりあえず狂犬病の心配はなさそうだから、焼かなくてもいいだろう。


 幸いなことに深さもそれほどでもない。

 この状態でスキーで家まで帰ってきたのか。

 父ちゃんが言う通り、戦士にとってはよくある傷なのだろうが。


 しかし怖いのは外傷より感染症だ。

 家畜も同居している冬の家は、お世辞にも衛生面で清潔とは言えない。

 母ちゃんが怖い顔をして、木皿の上で短い棒で蜂蜜と乾燥ヤロウを捏ねている。


「塗るわよ」

「染みるから苦手なんだよなあ…いてて」


 母ちゃんに腕を抑えられながら傷口に特性の化膿止めが塗られた。

 父ちゃん、痛いのはこれからだよ。


「じゃあ、縫うからね」

「ちょっと待て!トールが縫うのか!?」

「はい。僕が家族でいちばん縫うのが上手いので」


 さて。僕が以前、旅の魔術師ヴォルヴァに「運命の糸の子」と予言されたことがあるのを憶えているだろうか?

 そのせいなのかどうかわからないけれど、僕は生まれつき、やたらと縫いものが得意なのだ。

 これが転生チートというやつなら、あまりにも細やかすぎるチートだけれど、釣り糸を結んだり、漁網のほつれを直したり、服を縫ったり刺繍をしたりと日常生活では大いに役立っている。そして人間の外皮を縫い合わせるのも大の得意だったりする。

 お前が娘だったら嫁の貰い手に困らないのだが、と何度も言われたっけ。


「じゃあ父ちゃん、覚悟を決めて動かないで」

「あっ…ちょっ…いじじじ」

「だらしない!動かないの!」

「父さんかっこわるい」


 ちくちくちくちくっとね。

 実際の音はぐさぐさ鳴ってたけど、まあ軽いもんですわ。

 針も糸も太いから痛むかもしれないけど、10針ばかり縫ってやった。

 大人の戦士なんだから我慢できるでしょ。


 最後に、縫った上からもう一度特製の蜂蜜薬草化膿止めを塗って、煮てから乾かした包帯を巻いて終わり!

 ちゃんと施術の前後に手をお湯で洗ったし、感染症の危険は最小限で済むだろう。

 あとは熱がでないように、柳の樹皮の内側を削って煮出した熱冷ましでも飲ませればいいだろうか。

 熱が出て父ちゃんが労働できなくなると、途端に家の薪が寂しくなるからね。

 北方の冬に労働力を休ませる余裕などないのだ。


 とにかくも治療が一段落したことで、殺気立っていた母ちゃんからもホッとした空気が流れてくる。

 そうなれば、聞きたいことは山ほどある。


 父ちゃん、いったい何があったのさ?

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