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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ


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第24話 トールステイン大王伝記:隆盛の章

 デンマーク地方で訪れておくべき場所はどこか?と問われれば多くの人はコペンハーゲンにある国立博物館を挙げるだろう。


 国立博物館には、ヴァイキング時代の様々な遺物が展示されており、連日訪れる大勢の観光客の目を楽しませている。


 なかでも人気の展示品は、太陽の戦車と並び、3メートルはある巨大なアザラシの皮を鞣した獣皮紙に上級ルーン文字で刻まれた古代クナトルレイクの掟だ。


 北欧には「我こそがクナトルレイク発祥の地である」と主張する土地が何十箇所もあるが、中でもコペンハーゲンは、いわゆるトールステイン大王の掟と呼ばれるアザラシの皮について、7歳の娘が落とした人形を探していた父親が沼沢地から発見し、驚異的な保存状態で出土したという劇的な背景ストーリーもあって、クナトルレイク起源説の根拠として広い層から支持を集めている。


 しかし、反対の強い論拠もある。ここでは、オスロをはじめ各地に伝えられているクナトルレイク創始者とされるトールステイン大王サーガの写本を見てみることにしよう。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 聞け、北の民よ、その胸に刻め

 偉大なるトールステイン大王の治世は、氷の刃と炎の抱擁によってさらに輝きを増したり


 民は雪に額を擦り、声を震わせて懇願した

「王よ、女と幼子にも慈悲を。かれらは寒さに震え、飢えに萎れている」


 トールステイン大王は北風よりも静かに、雷よりも深く答え給うた

「村の礎とは女と子である。かれらなくば、我が王国は砂上の楼閣にすぎぬ」


 王は指を大地に翳し、無限の薪を呼び寄せた

 その薪は自ら燃え、石の床を白き炎で満たし、冬の冷気を追い払った


 幼子らは裸のままその上に横たわり、頬に春の息吹のような紅を宿した さらに王は命じ、温かな石の長きベンチを幾重にも造らしめた


 女たちはその座に集い、糸を紡ぎ、歌を交わし、昼の冷え切った家に独り残されることはもはやなかった


 石のベンチは笑いと語らいの聖域となり、村に新たな光をもたらした


 王はさらに手を伸ばし、夫を失いし女と子らのための互助の輪を結ばせた

 かくして、寡婦と孤児の嘆きは雪とともに溶け、死はもはや彼らを容易に奪うことはできなくなった


 されど民は再び膝を折り、恐れと飢えの声で訴えた

「王よ、豊かさは訪れたれど、保存に干した魚は固く、老いた牙も幼き歯も耐えかねております」


 トールステイン大王は空を見上げ、冷たくも優しき声で告げた

「冷たき煙こそ、全ての民に食を分け与える神の贈り物なり」


 王は自らの手で冷たい煙の道を切り開き、燻製の秘術を村に授けた

 さらに女たちに命じ、新たな蒸し料理の伝を創らせた


 かくして固く頑なだった古の保存食は柔らかく、香り高く生まれ変わり、老いも幼子も共に味わうことが叶った


 されど民はなおも恐れを抱き、地に伏して叫んだ

「王よ、豊かさは我らを標的にする。奪う者どもが迫る。戦士が足りぬのです!」


 トールステイン大王は静かに立ち上がり、角笛を天に掲げた

「全ての真の戦士は北風と大地の胎内より生まれ出づるものなり」


 王が角笛を吹き鳴らすや、大地は震え、雪原は裂け、精鋭の戦士たちが氷の鎧と炎の瞳を纏い、次々と顕れた


 王は定めを石に刻み、クナトルレイクの厳かな掟を村に授けた

 その掟のもと、民は熱狂し、子らは幼き頃より剣と盾を手にし、やがて立派なる戦士と成り上がった


 かくして強き戦士を育て上げた村は、遠き地にまでその名を轟かせ、畏怖と尊敬の的となりぬ

 偉大なるトールステイン大王はかくして、北方に不屈の氷と燃ゆる豊穣の王国を築き上げたり


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 読まれたようにトールステイン大王のサーガには「石に刻まれた掟」と明確に記されており、皮に刻まれた掟は写本に過ぎない、という学説も根強い。

 ただしクナトルレイクは創設からあまりに素早く北欧全域へと広まったために、炭素年代測定による遺物の時代判定は意味をなさず、これからも起源主張の論争は続くだろう。


 トールステイン大王のものとされる偉業には様々なものがあるが、中でも現代福祉の基礎となる女性と子供の保護。また現代の巨大スポーツコンテンツである世界クナトルレイク杯の創始者として足跡を残している。


 17世紀のフランスの室公式歴史家であるスキピオン・デュプレクスは、王国の民衆があまりにクナトルレイクに熱中し街を破壊し農地を耕すことを放棄するため、王家から再三に渡り「北方の野蛮な競技」の開催を禁ずる勅令が出されていたことを記している。


 ◯ ◯ ◯ ◯


「…つまり再三にわたり禁止されていた、ということは禁止には効果が薄かったとも言うことができますね。…今日の授業はここまで」


 教師が広げていた北欧市の教科書を閉じると同時に終業を告げるチャイムが鳴った。

 生徒たちは、がやがやと私語をしながら立ち上がる。


「ルーカス、今日はどうする?」

「ああ。週末は試合があるんでね。クラスの女子にいいとこ見せたいから、少しは練習しとかないと」

 リアムは、グラスファイバー製の丸盾とスティックを持ち上げて見せた。

「おっ。いいなあ。フギン・レッドフェザーズの新モデルじゃん」

「へへっ。父さんがチームユニと一緒に買ってくれたんだ。熱心なサポーターだからね」

 

 下校する生徒たちの中には、リアムのようにスティックと丸盾とスポーツバッグを持った者も多い。

 冬こそはクナトルレイクのシーズンなのだ。

 駆けていく少年たちへ、灰色の空からは、ちらちらと静かに雪が降り始めていた。


 2章 了


 次回から、またトールステインの物語に戻ります。


 作者です。本作は「文化勝利」というゴールを目指しています。

 積み上げたものがだんだんと形になって来ていますね。


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― 新着の感想 ―
JKローリングみたいな、(他作品を出して申し訳ありません、誰にでもわかりやすくしたかった) シリーズ通してみるのもよし、別々のはなしと見るもヨシ!みたいな、そういう世界観で素敵ですね。 コッチの良い所…
以前のこういう現代史の章で、キリスト教においてイスラム教に比肩する脅威という旨の文章があった様に思いますが、当時のイスラム教って現代人から見ても文明‼︎と感嘆せざるを得ない。それに匹敵するって…主人公…
限られたリソースをどれだけ軍事につぎ込みそして戦争に勝利するか、文化勝利を目指す上で最もシビアな舵取りが求められるポイントですよね 大王と呼ばれるからには負け知らずだったのかなあ
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